国立研究開発法人情報通信研究機構(東京都小金井市、理事長:徳田英幸、以下「NICT」)は、気象庁の協力により、モバイル通信網(LTE/4G)を活用した高品質な火山監視映像伝送実験(以下、「本実験」)に成功しましたので、お知らせいたします。

本技術開発の概要

NICTは、株式会社クレアリンクテクノロジー(京都府精華町、代表取締役:水原隆道、以下「クレアリンクテクノロジー」)が開発した新しい映像伝送プロトコルhpvt*(high-performance video transfer)(以下、「hpvtプロトコル」)を用いて、物流、交通、観光、福祉、医療、教育、防災など様々な分野で活用できる映像伝送システム開発と実用化研究を進めてきました。気象庁との覚書に基づいたモバイル通信網(LTE/4G)を活用した高品質な火山監視映像伝送システム開発はその一つです。111の活火山のうち常時観測火山である50火山について、気象庁による火山監視カメラではこれまで最大3fps*での映像伝送を行っていますが、より高品質な映像のリアルタイム伝送による火山活動モニタリングが期待されています。
本実験では、hpvtプロトコルを用いて高感度火山監視カメラ映像を従来の10倍以上高いフレームレート(30fps)でリアルタイム伝送するシステム(以下、「リアルタイム火山監視映像伝送システム」)を開発し、同システムを浅間山に設置しました。また、株式会社エコノミカル(東京都千代田区、代表取締役:金野太一、以下「エコノミカル」)の協力により格安SIMを用いた火山監視カメラ映像伝送を行い、1か月間以上の昼夜にわたり低コストで高品質の火山監視映像の伝送を達成しました(図1)。格安SIMを用いることで、これまでよりも安価に映像伝送ができることも、本実験の特長の一つです。
今後は、実用化への課題を解決し、産官学機関との協力により様々な耐災害監視カメラへの導入を検討するとともに、モバイル通信の利点を生かした機動観測での利活用も検討する予定です。

(a) 2017年12月9日9時16分ごろの浅間山映像(昼間)
(a) 2017年12月9日9時16分ごろの浅間山映像(昼間)
画像クリックで動画を再生します。(再生時間:1分34秒)
(b) 2017年12月5日0時6分ごろの浅間山映像(夜間)
(b) 2017年12月5日0時6分ごろの浅間山映像(夜間)
画像クリックで動画を再生します。(再生時間:1分20秒)
(c) 2017年12月14日0時6分ごろの浅間山映像(流星撮像)
(c) 2017年12月14日0時6分ごろの浅間山映像(流星撮像)
画像クリックで動画を再生します。(再生時間:34秒)
図1 浅間山火山監視カメラ映像の例

図2 本映像伝送プロトコルの概要(*は用語解説あり)
図2 本映像伝送プロトコルの概要(*は用語解説あり)

本技術開発の背景

本実験で用いたリアルタイム火山監視映像伝送システム(図2)では、高感度火山監視カメラから出力されるアナログ信号をADコンバータによりSDI信号に変換し、クレアリンクテクノロジーによるSDIをMIPI/CSI-2に変換するコンバータを使うことでRaspberry Piの上のH.264エンコーダにより圧縮した後、独自開発した通信手順にて遠隔伝送します。本映像伝送プロトコルの革新性は、通信帯域や遅延量が不安定で大きく変動するWiFiやモバイル通信などの無線ネットワーク環境においても高いリアルタイム性と映像伝送品質を保証する点にあります。

技術解説

近年のIoT*技術の広がりを受けて、映像伝送の世界でもIoT化が進んでいます。多くのセンサーIoTが低帯域の低電力広域通信技術(LPWA*)をベースにするのに対し、データ量が多い映像IoTでは格安SIM(MVNO*)の利活用が有効となります。リアルタイム火山監視映像伝送システムでは、MVNOを想定した設計を行いました。本映像伝送プロトコルの概要を図2に示します。本映像伝送プロトコルの特長は以下の通りです。

  1. LTE/4Gなどのモバイル通信網でも高品質の映像伝送を実現。
  2. 動画像伝送に加えて、定常的な静止画像伝送を実現。目的やネットワーク帯域に合わせて伝送データを選択。
  3. 送信映像をエッジ側およびクラウド側で画像処理するためのプログラミング環境を提供。画像処理による抽出パラメータ(例えば火山監視では噴煙検出や流速情報抽出)のみを伝送することが可能。

30fpsで映像伝送を行うことにより、これまでの低フレームレートでは見ることができなかった映像を得ることができます。例えば図1(c)では、2017年12月14日のふたご座流星群の流星が記録されています。

用語解説(アルファベット順)

  • fps(frame per second):フレームレートの単位。1秒間に表示される映像のコマ数で、一般的なビデオやテレビなどでは24~30fpsとなっている。
  • HDMI(High-Definition Multimedia Interface): 映像と音声をデジタル信号で伝送するための通信インターフェースの標準規格。近年、多くのコンピュータやデジタル家電で採用されている。
  • hpvt(high-performance video transfer)プロトコル:クレアリンクテクノロジーによる安価な汎用マイコンRaspberry Pi(ラズベリーパイ)をベースにした映像伝送プロトコル
  • H.264:MPEG-4 AVCとも呼ばれる動画圧縮規格。現在、多くのインターネット動画共有サービスがH.264を採用している。
  • IoT(Internet of Things=モノのインターネット):様々なモノ(物)がインターネットに接続されモノどうしやモノと人が情報交換することにより相互に制御する仕組み。それによる社会の実現も指す。
  • LPWA:低電力広域通信技術(LPWA:Low Power Wide Area)。なるべく消費電力を抑えて遠距離通信を実現する通信方式。IoTで有効・有用な通信方式として着目されている。
  • MIPI/CSI-2:Raspberry Piで用いられている映像伝送規格。
  • MVNO:仮想移動体通信事業者(Mobile Virtual Network Operator)。MVNOが発売するSIMは格安SIMとも呼ばれており、格安SIMを契約することで安価にモバイル通信網を利用できる。
  • Raspberry Pi(ラズベリーパイ):ARMプロセッサを搭載した安価なシングルボードコンピュータ。イギリスのラズベリーパイ財団によって開発されている。
 

研究内容に関するお問合せ

国立研究開発法人情報通信研究機構

オープンイノベーション推進本部 村田

TEL:042-327-7931

E-mail: osn-systemアットマークml.nict.go.jp