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世界最高精度の生細胞内タンパク質位置情報ライブラリー

~「染色体挿入型GFPライブラリー」webで無償公開を開始 ~

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2009年2月27日

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)は、生物が持つ「自律性」や「適応性」と いった優れた特徴を情報通信技術に応用し、既存のネットワーク環境下で機能を自律的に最適化する柔軟な情報通信システムを実現すべく、生物の細胞内で行われる情報処理メカニズムの解析を行っています。

このために必要とされていた、細胞内のタンパク質の所在と量を示すライブラリーを開発し、webに無償公開し、誰でもアクセスできるデータ検索を可能としました。

背景

未来の情報通信技術には「自律性」・「適応性」・「低消費エネルギー性」などの特徴が必要とされています。現在の情報通信技術が求めているこれらの特徴は、生物が、細胞の持つ優れた情報処理伝達メカニズムによって有しているものです。この細胞の情報処理伝達メカニズムは未来の情報通信技術のお手本として現在の情報通信技術に応用すべきものですが、このためには、細胞の情報処理をリアルタイムに観察することが必要であり、また観察することによって得た知見をライブラリーとして体系的にまとめ、広く利用できるようにすることが必要とされていました。

今回の成果

今回、開発した染色体挿入型GFPライブラリーは、生物(分裂酵母)の細胞内における情報素子であるタンパク質の位置と量を示す画像に加え、栄養源を枯渇させたときに遺伝子から転写されるmRNAの量の経時変化を示す独自のデータを掲載したもので、従来のライブラリーに比べて生理的な条件に極めて近い状況でタンパク質を観察した高精度のライブラリーです。また、各データには英国サンガーセンター(Wellcome Trust Sanger Institute)の遺伝子データベースにリンクを貼り、簡便にアクセスすることができます。

NICTは、下記ホームページにて、このライブラリーの無償公開を開始し、世界中の情報科学や生命科学の研究者が利用できるようにしました。

今後の展望

今後、NICTはこのライブラリーをさらに充実させていくとともに、生物の情報処理メカニズムの解析を進め、細胞が持つ自律性や適応性などのメカニズムを応用した、外的な変化に柔軟かつダイナミックに適応する自律性と適応力の高い情報通信技術の開発を行います。これらの研究開発は、新たな情報処理アルゴリズム開発や情報通信パラダイムの創出に繋がるものです。

なお、染色体挿入型GFPライブラリーに掲載されている酵母は、文部科学省のナショナルバイオリソースプロジェクトにおける酵母遺伝資源センター(YGRC)に寄託しており、希望者はYGRCから提供を受けることができます。



補足資料

図1 染色体挿入型GFPライブラリー(第3世代)の局在パターンの例

表1 GEF融合ライブラリー(第3世代)の局在の分類

図2 公開予定の染色体挿入型GFPライブラリー検索サイト
( http://www2.nict.go.jp/w/w131/w131103/DATA/GFP-lib-New/indexGFP.html )

用語解説

自律性

生物の細胞が持つ、あらかじめ決められた処理を行うのではなく、自ら状況を判断して最適な行動(細胞の分裂や修復など)をする能力。

適応性

生物の細胞が持つ、環境の変化に対応して、自らを柔軟に変化させてうまく生存することを可能とする能力。

自律性と適応性を既存の情報通信技術に応用すれば、例えば、以下のようなネットワークの構築が可能となることが期待されている。

例:細胞システムの性質を持った情報通信ネットワークイメージ
例:細胞システムの性質を持った情報通信ネットワークイメージ

サブシステムA、B、Cからできているネットワークを例にとってみる。
1)A、B、Cは、それぞれ自分の状態と他者の状態を常時モニターしている。
2)Bの調子が悪くなると、A、CはB を切り離して働く。
3)Bは自分を直して、再びネットワークに参加する。
4)Bが自分で直せないほど壊れたときには、Cが変化して、Bになる。あるいは、
5)Cが自分のコピーを作って、それをB に変える。このような自律性と可塑性の高い、より柔軟で安定したネットワークを作ることができる。

細胞の持つ独自の情報通信システムが正しく機能するメカニズムを明らかにすることによって、変化し続ける情報通信システムに必要な構造基盤を知ることができるはずである。

GFPライブラリー

GFPとは、オワンクラゲから単離された緑色の蛍光を発する緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein)のことである。そして、観察対象のタンパク質に目印としてGFPを付けて、そのタンパク質の位置と量を示すデータを集めて体系的に整理したデータベースが、GFPライブラリーである。

なお、このGFPに関しては、下村 脩 博士が2008年ノーベル化学賞として受賞されたものである。

細胞内における情報素子であるタンパク質

細胞の基本情報は、遺伝子が持っている。遺伝子の本体であるDNAに書き込まれた情報はmRNA(細胞中でタンパク質合成部位であるリボソームにDNAの情報を伝える役割をするリボ核酸)に渡され、それを元に機能素子としてのタンパク質が作られる。

タンパク質がいつ、どこに、どのように出現するかを解析することは、細胞の中の情報処理の流れを示すことになる。

栄養源枯渇

細胞を取りまく環境に栄養源が枯渇すると、細胞内ではいくつかのシグナル伝達系が活性化され、枯渇に適応するよう働く。

タンパク質を観察した高精度のライブラリー

従来のライブラリーは、本来の遺伝子とは別に、目印となるGFP融合タンパク質(オワンクラゲから単離された緑色の蛍光を発するタンパク質)が、常時、発現するように設計されていた(強制発現法)ため、タンパク質本来の量や位置情報が正確に反映されていない可能性が指摘されていた。

この問題点を改善すべく、今回は、細胞ゲノム導入法を用いて、本来の遺伝子が、このGFP融合遺伝子に完全に置き換えられているものを作製した。これは、この融合遺伝子が、本来の遺伝子の代わりに細胞内で発現することを意味しており、その発現量は、生理的な条件に極めて近いと考えられている。このため、この染色体挿入型GFPライブラリーは、これまでのものと比較して、より生理的な条件下で細胞内のタンパク質の挙動を解析することができる。

※詳細については、2009年2月発行のGenes to Cells誌に掲載
Title: Localization of gene products using a chromosomally-tagged GFP-fusion library in the fission yeast Schizosaccharomyces pombe
Authors: Aki Hayashi, Ding Da-Qiao, Chihiro Tsutsumi, Yuji Chikashige, Hirohisa Masuda, Tokuko Haraguchi, and Yasushi Hiraoka

酵母遺伝資源センター(YGRC)

文部科学省の、イオリソースプロジェクト(ライフサイエンス研究の基礎・基盤となるバイオリソースについて収集・保存・提供を行うとともに、バイオリソースの質の向上を目指し、保存技術等の開発、ゲノム等解析によるバイオリソースの付加価値向上により時代の要請に応えたバイオリソースの整備を行う)の下、酵母遺伝資源の収集、保存、提供を行う事業主体として、大阪市立大学及び大阪大学の研究室が連携して構築されたセンター。

プロジェクト推進母体と研究コミュニティとの連携を強め、適正な運営と協力体制を築くため、全国の酵母研究室を網羅した運営委員会が組織されている。

本件に関する 問い合わせ先

 

未来ICT研究センター
バイオICTグループ
担当:丁 大橋(Da-Qiao Ding)
Tel:078-969-2243
Fax:078-969-2249
E-mail:

広報 問い合わせ先

  

総合企画部 広報室
報道担当 廣田 幸子
Tel:042-327-6923
Fax:042-327-7587
E-mail: