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世界初、NICTが衛星を用いた量子鍵配送の可能性を検証

〜 宇宙における光通信及び量子鍵配送の実現性に目処 〜

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2009年11月23日

独立行政法人情報通信研究機構(以下、「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)宇宙通信ネットワークグループは、低軌道地球周回衛星を利用して、世界で初めて高精度なレーザ光による衛星~地上間の偏光特性の測定に成功しました。これまで、高精度な光源を用いて衛星-地上間で偏光特性を実際に測定した例はまだなく、宇宙光通信に役立つとともに、将来の宇宙量子鍵配送のシステム設計を高い精度で行うことが初めて可能になりました。この成果は、米国オンラインジャーナル『Optics Express』(Vol. 17, Iss. 25)に掲載されました。

米国オンラインジャーナル『Optics Express』のURL
http://www.opticsinfobase.org/oe/Issue.cfm

•英文論文タイトル:
「Polarization measurements through space-to-ground atmospheric propagation paths by using a highly polarized laser source in space」
• Abstract:http://www.opticsinfobase.org/oe/abstract.cfm?uri=oe-17-25-22333
• PDF:http://www.opticsinfobase.org/DirectPDFAccess/23221380-BDB9-137E-CE3EA24BB3405A31_190651.pdf?da=1&id=190651&seq=0

背景

現在広く普及している暗号は、コンピュータの能力が飛躍的に向上すると、解読される危険性を有していますが、量子鍵配送では将来どんなに科学技術が進歩しても、絶対に盗み見られないのが特徴です。量子鍵配送技術は、光ファイバー伝送では減衰や雑音のため300kmが伝送限界といわれていますが、人工衛星を用いるとさらに遠方に伝送が可能で、地球全体へのグローバルな量子鍵配送が可能となります。これまで、高精度な光源を用いて衛星—地上間で偏光測定された例はありませんでした。なお、本衛星実験の実施は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究契約に基づき行われたもので、NICT独自に解析を行いました。  

今回の成果

NICTでは、宇宙光通信や量子鍵配送の研究開発を行っています。今回、NICTの光地上局 (図1)において、JAXAが2005年8月に打ち上げた低軌道地球周回衛星である「OICETS(きらり)」(図2)を用いて、衛星—地上間での偏光の劣化が、2.8%以下という結果を、世界で始めて観測に成功しました(図3図4)。空間での量子鍵配送には、そのシステムの簡便性と安定性が得られる点から、光子の偏光を用いた鍵配送が一般的に用いられますが、もし偏光の度合いが劣化してしまうと安全な鍵の共有を行うことはできません。本結果から、上層大気を含む大気の影響は、量子鍵配送に問題ないレベルに抑えられていることが確認されました。  

宇宙光通信や量子暗号の研究開発  
NICTでは、宇宙光通信や量子暗号の研究開発を実施している。以下に過去に実施された参考リンクを示す。
光衛星間通信実験衛星「きらり」(OICETS)と情報通信研究機構光地上局による光通信実験の成功について (2006年4月7日)
ドイツの衛星と双方向レーザ伝送に成功 (2009年3月24日)
小型空間量子暗号ターミナルの開発(2008年9月15日)   

今後の展開

衛星—地上間の偏光特性が実測できたことにより、量子鍵配送の回線計算が可能になり、人工衛星を用いた地球規模での量子鍵配送の実現への大きな手がかりを得たことになります。また、実際に宇宙光通信の実用化を目指した実験衛星の設計を進めることが可能となります。

補足説明

図1: NICT小金井本部の光地上局の様子。口径1.5mの光学望遠鏡を用いて宇宙光通信の地上局が構成されている。
図1: NICT小金井本部の光地上局の様子。口径1.5mの光学望遠鏡を用いて宇宙光通信の地上局が構成されている。

図2: 望遠鏡に設置したカメラで取得した衛星方向の画像。明るい点がOICETS衛星からのレーザを 示しており、雲があっても宇宙光通信が持続可能であった時の実験の様子を示している。
図2: 望遠鏡に設置したカメラで取得した衛星方向の画像。明るい点がOICETS衛星からのレーザを 示しており、雲があっても宇宙光通信が持続可能であった時の実験の様子を示している。

図3: NICT光地上局で取得された偏光度(上)と受光電力(下)。実験データは晴天時のもので、実験中盤で衛星の仰角が高くなり受信電力が増加している。
図3: NICT光地上局で取得された偏光度(上)と受光電力(下)。実験データは晴天時のもので、実験中盤で衛星の仰角が高くなり受信電力が増加している。

図4: ポアンカレ球上(球上に偏光の状態を表すことができる方法)にプロットした偏光特性。 上部に近いほど右旋偏光、下部に近いほど左旋偏光を 示している。測定した結果は右旋偏光 で、偏光度の劣化は2.8%以下と測定された。
図4: ポアンカレ球上(球上に偏光の状態を表すことができる方法)にプロットした偏光特性。 上部に近いほど右旋偏光、下部に近いほど左旋偏光を 示している。測定した結果は右旋偏光 で、偏光度の劣化は2.8%以下と測定された。

用語解説

量子鍵配送

微弱な光が持つ粒子(光子)の物理的性質である、一つ一つの量子状態(偏光など)を利用して送受信者間で暗号用の鍵を共有する通信方式。盗聴者が観測(盗聴)を行うと量子状態がゆがむため盗聴を見破ることが可能となる。量子鍵配送と、一度しか暗号を使わないワンタイムパッドと呼ばれる方法を用いることで、完全秘匿通信が可能になる。

暗号

送り手と受け手の間で、情報を第3者に盗み見られないようにする手段。

量子鍵配信技術の特徴

クラウドコンピューティングによるネットワーク社会の到来や電子的行政サービス (電子政府)の拡充に向けて、情報通信における安全性確保の重要性が急速に高まっている。現在広く普及している暗号は、コンピュータの能力が飛躍的に向上すると、解読される危険性を常に有している。ところが、量子鍵配送は将来どんなに科学技術が進歩しても、絶対に盗み見られないのが特徴。量子鍵配送技術は、現在200kmを超える光ファイバー伝送が実証されているが、不可避な減衰のため300kmが伝送限界といわれている。今後の都市間リンクや将来の大陸間リンクには、量子中継技術が必要とされているが、依然挑戦的未踏技術にとどまっている。比較的近未来の方法として期待されているのが地球を周回する人工衛星を用いることで、地球全体への量子鍵配送が可能となり、よりセキュリティを高めることが可能となる。

NICT光地上局

NICTに設置されている1.5mの光学望遠鏡を持つ施設。1994年に技術試験衛星Ⅵ型「きく6号(ETS-Ⅵ)」を用いた静止衛星—地上間の距離における世界初の光通信実験を成功裏に実施。2006年には、低軌道衛星—地上間の距離における光地上局との光通信実験を成功させている。定常的に、衛星との距離を高精度に測定するレーザ測距の実験を実施している。

光衛星間通信実験衛星「きらり(OICETS)」

数万キロメートルを隔てた衛星と衛星の間で、レーザ光を使った光通信(光衛星間通信)実験を行うために開発されたJAXAの技術試験衛星。「きらり(OICETS)」は2005年8月に打ち上げられ、同年12月に、欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げた先端型データ中継技術衛星「AR ARTEMIS」との間で、衛星-衛星間光通信実験に成功している。また、2006年にはNICTの衛星-地上局の間での光通信実験にも成功し、2008年からは、NICTから提案した偏波特性の検証など新たな研究課題の実証のため、追加実験として実施された。



本件に関する 問い合わせ先

新世代ワイヤレス研究センター
宇宙通信ネットワークグループ

豊嶋 守生
Tel:042-327-5825
Fax:042-317-6825
E-mail:

取材依頼及び広報 問い合わせ先

総合企画部 広報室

報道担当 廣田 幸子
Tel.042-327-6923
Fax.042-327-7587
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