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ロンドン市街地でホワイトスペースを用いた40Mbps高速ブロードバンド通信に成功!

~NICTの開発した周波数管理データベースが英国の電波規制当局Ofcomに認定~

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2014年7月23日
ポイント

    • 電波干渉等が多いロンドン市街地で、40Mbpsの移動体高速ブロードバンド通信と3.7kmの固定地点間通信に成功
    • テレビ放送等の運用情報から最大送信電力等を計算する周波数管理データベースが英国政府機関から認定
    • 英国をはじめとする欧州やその他世界各国のホワイトスペースの制度化に貢献することを期待

独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長: 坂内 正夫)は、英国情報通信庁(Ofcom)が主催するテレビホワイトスペースの通信試験において、ロンドン市街地で40Mbps以上の移動体高速ブロードバンド通信と3.7kmの固定地点間通信に成功しました。特に市街地においては、刻々と変化するテレビ放送やラジオマイク等の様々な情報を考慮して、ホワイトスペースを利用する必要があり、周波数管理データベース(以下「データベース」)を用いることにより、テレビ放送に影響を与えずに通信することを可能にしました。ホワイトスペースを用いて移動体高速通信と固定地点間の通信を市街地で実施したことは、世界でも初めてです。今回の試験においてNICTが開発したデータベースは、Ofcomの審査を経て認定を受けました。この結果は、英国をはじめとする世界各国のホワイトスペースの制度化に貢献することが期待されます。

背景

急増する大容量の無線通信の需要に対応する方策の一つとして、テレビ放送に使用される周波数帯のうち、場所や時間に応じてテレビ放送に影響を与えずに利用することができる周波数(ホワイトスペース)を二次利用して通信することが有効と考えられています。こうした中、英国の電波規制当局であるOfcomは、ホワイトスペースの本格的な制度化を視野に入れた通信試験(パイロット)を主催し、パイロットに参加する無線機とデータベースについて、それぞれ参加機関を公募しました。無線機には、テレビ放送に影響を与えないよう、不要電波の発射について厳しい“電波の質”が求められました。また、データベースには、刻々と変化するテレビ放送やラジオマイク等の利用情報を自動的に取り込み、無線機の位置に応じた利用可能周波数と送信電力の提供などが求められました。NICTは、無線機とデータベースの両方の公募に参加し、求められた機能を満足するよう研究開発を進めてきました。無線通信の需要が多い市街地では、特に周波数の利用が複雑であり、ホワイトスペースの利用には電波の質に関する基準を満たす無線機を利用することが必要なだけではなく、データベースに基づく無線機の運用も不可欠です。

今回の成果
固定地点間通信のために設置したアンテナ
固定地点間通信のために設置したアンテナ

今回NICTは、英国ロンドンの市街地において、テレビ放送帯のホワイトスペースを利用して40Mbpsを超える移動体高速ブロードバンド通信と3.7kmの固定地点間通信に成功しました。干渉回避の課題が多いロンドンのような大都市でホワイトスペースを利用した、このような移動体高速ブロードバンド通信と固定地点間通信に成功した例は世界で初めてです。

  • NICTが規格策定に携わったIEEE 802.11afを使用し、NICT独自開発で欧州ETSIの基準に従い、不要電波を厳しく抑制した小型無線機と、周波数管理データベースを使用することで、電波干渉の多い市街地における3.7kmの固定地点間通信に成功
  • NICT独自開発のホワイトスペース帯LTE通信システムを使用することで、既存の携帯電話システムとの共通制御が可能な移動体高速ブロードバンド通信に成功
  • NICTが開発してきたデータベースの計算方式や通信方式をOfcomの機能要求に対応させ、半年以上にわたる審査を経て、Ofcomからこのパイロットにおける正式なデータベース提供者としての認定を受けました。このデータベースは、テレビ放送の情報だけではなく、頻繁に変更される優先度が高いラジオマイク利用の位置や期間の情報も自動的に取り込み、無線機の送信に許容できる周波数と送信電力を計算することができます。

今後の展望

NICTは、今回のパイロットの結果を踏まえ、一層の無線機の小型化や省電力化、データベースの高精度化に向けて研究開発を推進していきます。また、今回のパイロットで得られた結果は、ホワイトスペースの制度化を検討している世界各国にも条件を合わせることで展開が可能であると考えており、NICTが研究開発を進めているホワイトスペース利用技術が世界各国で利用されるよう努めていきます。



補足資料

今回のパイロット(通信試験)では、テレビ放送帯の周波数を利用して、移動体高速ブロードバンド通信と固定地点間通信の動作を確認しました。
移動体高速ブロードバンド通信では、1チャネル(英国では1チャネルは8MHz幅)のみを利用してLTE通信(TDD)の動作を確認したほか、離れた2チャネルを利用してLTE通信(FDD)が可能であることも確認しました。また、連続した3チャネル内の20MHz幅の周波数帯を2組利用し、FDDで40Mbps(ダウンリンク)以上の通信速度を達成できることも実証しました。固定地点間通信では、図1に示すようにロンドン市街地の中心部を一方の拠点とする3.7kmの地点間において、データベースの計算により指示された最大送信電力36dBm(EIRP)を用いて、2Mbps以上の通信が可能なことを実証しました。
ロンドンでは、送信電力が非常に大きいテレビ放送塔が近隣に設置されています。無線通信にとってこのような過酷な環境下でも、テレビ放送に影響を与えない周波数を選択し、上記のような通信が可能であることを実証することができました。その一方で、強力なテレビ放送の影響や高頻度で運用情報が更新されるラジオマイク等のように、市街地に特有の問題があることや、実用化に向け無線機に求められる性能がより明確になるなど、今回の試験結果が、今後のホワイトスペース対応無線機の研究開発やテレビ放送帯におけるホワイトスペース利用の制度化の検討に役立つことが期待されます。

図1  固定地点間通信の位置と実験の様子
図1 固定地点間通信の位置と実験の様子[画像をクリックで拡大表示]
図2  NICTが開発したOfcomパイロット向け周波数管理データベースの操作画面イメージ
図2 NICTが開発したOfcomパイロット向け周波数管理データベースの操作画面イメージ[画像をクリックで拡大表示]

図2に周波数管理データベース(ホワイトスペースデータベース)の操作画面を示します。これは、NICTが従来から開発していたものを、Ofcomのパイロットに求められる機能に対応させ動作するようにしたものです。この操作画面では、地図上に無線機を運用する地点をピンでセットし、アンテナ高や無線機の種類を指定することで、各チャネルの許容最大送信電力(EIRP)を計算して表示することが可能です。無線機は、運用時にはこのデータベースにアクセスし、指定された許容最大送信電力を自動的に順守して運用することが求められています。また、データベースには地域や時間を指定して特定の無線機の運用を強制的に停止させる機能(Kill Switch)も組み込まれており、万一、テレビ放送やラジオマイク等に影響があった場合には、Ofcomからの指示に基づいてデータベース提供者が操作を行い、無線機を停止させる体制になっています。データベースには、時間とともに運用する場所や時間が変化するラジオマイク等の情報がOfcomから送信され、その情報を規定時間内に反映させることが求められています。そのため、無線機に許容される最大送信電力は時間とともに送信電力が変化し、実際に実験中にも電力が抑制されたり、利用できないチャネルが発生するなどの状況が確認できました。

※本試験で使用したLTE技術を用いた無線通信装置の一部は、総務省委託「複数周波数帯の動的利用による周波数有効利用技術の研究開発」の成果です。



用語解説

Ofcom

Ofcom(Office of Communications)は英国の情報通信庁であり、英国における電気通信・放送等の規制、監督を行う行政機関

ホワイトスペース

放送等の目的で割当てされた周波数帯のうち、本来のシステムの利用がない場合や本来のシステムに与える影響が十分に小さい場合に、他のシステムが放送や通信の目的で二次的に使用することが認められた周波数帯

ラジオマイク

番組製作や演劇等に使用される無線を使ったマイク。ホワイトスペースにおいてラジオマイクを利用することが世界的にも検討されており、日本をはじめとして多くの国で制度化されている。一般的に、ホワイトスペースにおけるラジオマイクの利用は、他の二次利用システムよりも優先度が高く設定される。したがって、ホワイトスペースを通信に利用する場合、放送だけではなくラジオマイクにも影響を与えないことが求められる。ラジオマイクは、期間を限定して利用され、場所や周波数もその都度異なるため、データベースにより統合的な利用情報の管理が必要であると考えられている。

Ofcomによるホワイトスペースパイロット

ホワイトスペースの制度化を検討しているOfcomが、ホワイトスペースの課題を明確化するために参加機関を公募して試験的にホワイトスペースを運用する試験。このパイロットでは、無線機に関しては、スペクトラムマスクと呼ばれる不要電波に関する厳しい基準を満たすことが求められ、データベースに関しては、逐次通知されるラジオマイク等(Programme Making and Special Events, PMSE)の情報に基づき電波伝搬を規定時間内に計算し、無線機の位置に応じた利用可能周波数と送信電力を提供することが求められている。このパイロットの結果は、年内に報告書にまとめられ、英国における制度化に向けて検討を進められる予定になっている。
TV White Spaces Pilot (実験プログラムの情報):
 http://stakeholders.ofcom.org.uk/spectrum/tv-white-spaces/white-spaces-pilot/
Qualifying White Space Databases(認定されたホワイトスペースデータベース事業者の一覧):
 https://tvws-databases.ofcom.org.uk/

ホワイトスペース帯LTE通信システム

NICTでは、これまで、ホワイトスペースを利用したLTE通信システムの開発に成功している(詳細は、過去の報道発表を参照)。LTEは、ブロードバンド移動体通信用の規格であり、既存の携帯電話システムと管理装置を共通にしたり相互接続したりすることにより、既存の携帯電話システムとホワイトスペース帯LTE通信システムとの間のハンドオーバを容易にし、きめ細かな管理も可能になる。

ホワイトスペースの研究開発に関する過去の報道発表



本件に関する 問い合わせ先

ワイヤレスネットワーク研究所
スマートワイヤレス研究室

石津 健太郎
Tel: 046-847-5076 
E-mail:

広報

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
E-mail: