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ホワイトスペースに対応した小型軽量なLTEフェムトセル基地局を開発

~必要な場所に簡単設置!スポット的な配置で通信トラヒックの集中を効率的に解消~

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2015年5月26日

国立研究開発法人 情報通信研究機構

ポイント

    • 限定エリアで効果的な運用を実現!ホワイトスペース対応のLTEフェムトセル基地局を開発
    • 基地局間のシームレスなハンドオーバも可能、最低限の電力できめ細かなエリア構築
    • 必要な場所に簡単設置!小型で軽量、室内での壁掛け設置

NICTワイヤレスネットワーク研究所は、テレビホワイトスペース等での利用を想定したLTE(Long Term Evolution)技術対応のフェムトセル基地局の開発に成功しました。今回開発したフェムトセル基地局は、小型で軽量なため、必要な場所に容易に設置できます。また、端末がシームレスに接続先の基地局を切り替えて通信を継続できるハンドオーバ機能を持つため、必要最低限の送信電力で、用途に応じたきめ細かなエリア構成ができます。そのため、より安全な干渉保護が実現でき、トラヒックが集中するエリアで、より効率良くトラヒックを収容することが可能です。

※今回開発したシステムは、平成26年度に総務省から受託した「複数周波数帯の動的利用による周波数有効利用技術の研究開発」の成果を利用して実現したものです。なお、LTEフェムトセル基地局を用いた試験は、実験試験局免許を取得して実施する予定です。

背景

昨今の不足する周波数を補うための技術の一つとして、ホワイトスペースを活用する技術が検討されています。NICTでは、このホワイトスペースを利用するLTE対応の基地局及び端末を世界に先駆け開発してきました。一方で、ネットワークシステムのトラヒック収容力を拡大するため、基地局がサービスを提供するセルを小型化し、高密度に配置する技術も検討されています。ホワイトスペースを更に有効に利用するためには、利用者のトラヒックが集中するエリアにおいて複数の基地局を設置し、より多くのトラヒックを収容できるネットワークを構成する必要があります。そのためには、端末が基地局への接続をシームレスに切り替えて通信を継続(ハンドオーバ)するための機能に加え、設置をより容易に実現するための基地局の小型化や軽量化が必要でした。

今回の成果
今回開発したホワイトスペース対応LTEフェムトセル基地局
今回開発したホワイトスペース対応LTEフェムトセル基地局

今回NICTは、LTE技術(Release 9)を活用し、テレビ放送帯のホワイトスペースに対応したフェムトセル基地局を開発しました。この基地局は、インターネット用のイーサネットケーブルを接続して、電源を入れるだけで容易に設置できます。さらに、小型軽量のため、壁掛け等での柔軟なレイアウトが可能です。例えば、地下街やイベントホール、屋内の会議室など、多くの人が集まりトラヒックが集中するエリアに限定して基地局を高密度に設置することで、効率よくトラヒックを収容することができます。また、このフェムトセル基地局は、端末が接続を切り替えて利用するハンドオーバにも対応しています。ハンドオーバ機能を持つことにより、以下の利点が得られます。
(1) 個々のフェムトセル基地局の送信電力を必要最小限にでき、ホワイトスペース利用において、より安全な混信保護を実現
(2) きめ細かなエリアを構成でき、利用者の利便性が向上するとともに、電波資源を有効利用

今後の展望

NICTでは、今回開発したフェムトセル基地局と既に開発したホワイトスペース対応スマートフォンや端末とを組み合わせ、国内外で、様々な利用シナリオに基づく実証試験を行う予定です。ホワイトスペースにおける移動通信の利用には、テレビ放送などへの干渉を確実に回避することができるホワイトスペース判定技術の確立が必要です。今後、技術基準及び制度設計に資する情報として試験結果を提供していく予定です。
本システムについては、5月27日(水)から29日(金)まで東京ビッグサイトで開催される『ワイヤレス・テクノロジー・パーク2015(WTP2015)』 に出展します。



補足資料

今回開発したフェムトセル基地局
図1:今回開発したホワイトスペース対応LTEフェムトセル基地局
図1:今回開発したホワイトスペース対応LTEフェムトセル基地局[画像クリックで拡大表示]

項  目 仕  様
通信システム 3GPP Release 9
対応周波数 UHF : 470 ~ 710 MHz (TVWS)
Band 38 : 2,570 ~ 2,620 MHz
帯域幅 5, 10, 20 MHz
送信パワー Up to 20 dBm
受信範囲 -92.8 ~ -20 dBm
変調方式 BPSK / QPSK / 16QAM / 64QAM
BPSK  : 制御チャネル
64QAM : ダウンリンクデータチャネル
複信方式 TDD
多重方式 OFDMA (downlink)
SC-FDMA (uplink)
サイズ 228mm (W) × 283mm (H) × 57mm (D)
重量 約2.5 kg
表1: 今回開発したフェムトセル基地局の仕様
 

今回開発したフェムトセル基地局を図1に示します。この基地局は、LTE技術 (Release 9) を活用しており、テレビ放送帯(470MHz~710MHz)のホワイトスペースに対応しています。小型化、軽量化を実現し、奥行き57mmの薄型化を達成しました。約2.5 kgと軽量で壁掛けにも対応しており、イーサネットケーブルでインターネット回線に接続し、電源を入れるだけで簡単に設置できます。そのため、例えば、多くの入場者が見込める商業施設やイベントホール、屋内の会議室など、目的に応じたエリアへのサービス提供も簡単に実現できます。また、基地局間のシームレスなハンドオーバに対応しており、複数の基地局を設置することで、例えば、地下街などの広範囲にわたる移動通信のトラヒックをホワイトスペースに収容することも可能です。
LTEフェムトセル基地局の仕様を表1に示します。なお、このLTEフェムトセル基地局は、LTE規格において規定されている周波数である2.6 GHz帯にも対応しています。
この基地局は、LTEシステムの管理装置(EPC: Evolved Packet Core)に接続して運用します。複数の基地局を同時にEPCに接続し、ハンドオーバの制御等も可能です。また、運用周波数や送信出力、通信帯域幅などのパラメータも基地局ごとに個別に設定できるため、各基地局のサービス提供エリアを限定することで送信出力を必要最小限に抑え、他の基地局や異なる方式のシステムへの干渉の抑制や、消費電力の低減などの効果も期待できます。

図2: 評価システムの概要
図2: 評価システムの概要 [画像クリックで拡大表示]

※ EPCはLTEシステムにおける管理装置の一つであり、端末の位置管理や認証、基地局のハンドオーバを制御する機能を担う。

この基地局には、NICTが以前に開発したホワイトスペース対応のLTE端末やスマートフォンを接続でき、それらを組み合わせることにより、ホワイトスペースのフェムトセル利用環境における移動通信トラヒックの負荷分散評価などが可能です。
評価システムの構成例を図2に示します。今回開発した基地局は、インターネットを介してEPC、ホワイトスペースデータベース、無線リソース制御サーバに接続されます。これらの装置は、すべて横須賀リサーチパークにあるNICTワイヤレスネットワーク研究所に設置されており、複数の基地局のトラヒック監視、無線リソース制御などを同時に行います。ホワイトスペース対応のLTE端末やスマートフォンは、これらの基地局に接続され、設置された複数の基地局間をシームレスにハンドオーバできます。
この評価システムを用いて、①基地局ごとのトラヒック使用量や使用率の監視、②トラヒック使用状況に応じた通信帯域の変更による、トラヒックの収容力や通信速度の調整、③送信出力の増減による、サービス提供可能範囲の調整などの試験を実施します。さらに、ホワイトスペースの利用効率を向上させる方式についての評価も行っていきます。



用語解説

テレビホワイトスペース

ホワイトスペースは、放送等の目的で割当てが行われている周波数帯のうち、その周波数の利用がない場合や本来のシステムに与える影響が十分に小さい場合に、他のシステムが放送や通信の目的で二次的に使用することを対象とした周波数帯(470MHz~710MHz)を示す。

LTE(Long Term Evolution)

標準化団体である3GPPにおいて策定されているブロードバンド移動通信用の規格。国内でも携帯電話への普及が進んでおり、商用サービスでは800MHz帯や2GHz帯をはじめとする周波数帯で運用されている。今後、700MHz帯や900MHz帯での運用も予定されている。

フェムトセル基地局

フェムトセルとは、高層ビル、住宅屋内、地下街等の限定された環境において使うために設計された通信エリアを指し、その通信を提供する装置がフェムトセル基地局である。フェムトセル基地局は、商用モバイル通信サービスにおける不感エリアの補填をするために活用されるケースが多い。

本件に関する問い合わせ先

ワイヤレスネットワーク研究所 
スマートワイヤレス研究室

石津 健太郎、松村 武、伊深 和雄、児島 史秀
Tel: 046-847-5076 
E-mail:

広報

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
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