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10Gbps高速インターネットでも遅延・パケットロスに強い通信プロトコルの開発に成功

~インターネットのイライラ解消に向けた新しいデータ通信技術~

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2015年11月5日

国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

    • 10Gbpsインターネットでも遅延・パケットロスに強い通信プロトコル開発に成功
    • 100ミリ秒の遅延と1%のパケットロスという悪条件でも約10Gbpsの通信速度を達成
    • 10Gbpsの広帯域インターネットを活用した8K映像伝送などのアプリケーションを実現

NICT 統合データシステム研究開発室は、株式会社クレアリンクテクノロジー(以下「クレアリンク」、代表取締役: 水原 隆道)の協力の下、10Gbps(以下「10G」)を超える長距離広帯域伝送網(LFN)でも遅延パケットロスに強い通信プロトコルHpFP(High-performance and Flexible Protocol)の開発に成功しました。今回開発したプロトコルにより、10Gインターネットでも、大容量ファイル転送や高速Web閲覧、低ノイズ4K/8K映像伝送などの広帯域ネットワークを十分に活用できるアプリケーションが可能になります。

背景
図1 1G通信環境から10G通信環境へ
図1 1G通信環境から10G通信環境へ

インターネット環境は、バックボーンとなる10G以上のWAN(広域ネットワーク)の普及とネットワーク機器の低価格化に伴い、現在の1Gから10Gへのデータ通信環境の高速化が進んでいます(図1参照)。それに伴い、Webやファイル伝送など様々なインターネットアプリケーションの高速化(10G化)の需要が高まっています。
インターネットアプリケーションの多くは、データ伝送の基盤となる通信プロトコルにTCPを用いています。TCPは、遅延やパケットロス環境においてデータ通信速度が大きく損なわれることが問題でした。図2に示すように、10G環境に備えて、ハードウェアによる高速化やTCPの改良などが試みられていますが、利用環境が限定されることや一定以上の条件下(例えば、遅延100ミリ秒・パケットロス1%)での大幅な通信性能劣化が課題となっています。

今回の成果
図2 10G環境における高速伝送プロトコルの取組
図2 10G環境における高速伝送プロトコルの取組
[画像クリックで拡大表示]

図3 今回開発したHpFPとTCPの比較(10Gの通信実験結果)
図3 今回開発したHpFPとTCPの比較(10Gの通信実験結果)
[図6(後掲)の測定結果を整理して表したもの]

NICTは、クレアリンクの協力の下、10Gの高速通信環境において、遅延やパケットロスに強い独自設計のデータ通信プロトコル(HpFP)の開発に成功しました(図2参照)。また、それに伴い、試験実装版(α版)の公開を開始しました
http://hpfp.nict.go.jp)。HpFPは、NICTがこれまでにJGN-Xテストベッド環境で行ってきた10Gを超える長距離広帯域伝送網(LFN)におけるデータ通信実験成果を基に、クレアリンクが開発したTCP高速化パケット伝送制御技術「xTCP」を用いて、独自のアルゴリズム設計により実装したトランスポート層のTCP互換(プログラムレベルで置き換え可能な)通信プロトコルです。
図3は、HpFPの性能評価実験結果の例です。10Gネットワークで様々な遅延・パケットロスを与えた結果を、TCPと比較しています。遅延やパケットロスがない環境では、TCPもHpFPも、ほぼ利用できる最大通信速度(ワイヤーレート)を達成しています。
一方、遅延やパケットロスが大きくなると、TCPは通信速度が大きく低下するのに対し、HpFPは通信速度に変化がないことが分かります。例えば、パケットロス0.1%で遅延10ミリ秒の場合(図3一番右参照)、HpFPとTCPの速度比は約145倍になります。
なお、HpFPは、パケットロス1%で遅延100ミリ秒の場合でも、ほぼ同じ結果を得ています。

今後の展望
図4 10G環境における通信プロトコルの利用イメージ
図4 10G環境における通信プロトコルの利用イメージ

HpFPは、TCP互換設計となっており、TCPのソケットライブラリをHpFPライブラリに置き換えるだけで、既存の通信アプリケーションを高速化できます(図4参照)。HpFPの通信ソケットライブラリは、標準的なC言語により記述しており、OSに依存しないことが特徴です。
現在は、Linux版のみを実装・公開していますが、今後は、その他の主要なOS(Windows, Mac OS X、iOS、Android)で動作するソケットライブラリの開発を進めます。
 
また、下記のような「HpFPを利用した10G対応のインターネットアプリケーション」を開発するパートナーを求めていますので、HpFPの開発事務局までご連絡ください。
 
(例1)遠隔地からクラウドストレージに高速にアクセスできるネットワークファイルシステム
(例2)遠隔地からのノイズレス4K/8K映像伝送
(例3)1KB程度の小サイズファイルの大量ファイル高速伝送
(例4)高速なインターネット向けWebアプリケーション及びWebブラウザ

・Linuxは、Linus Torvalds氏の日本及びその他の国における登録商標又は商標です。
・Windowsは、米国Microsoft Corporationの米国及びその他の国における登録商標です。
・Mac OS、OS Xは、米国及び他の国々で登録されたApple Inc.の商標です。  
・Androidは、Google Inc.の商標です。
・その他記載されている会社名、製品名は、各社の商標又は登録商標です。



補足資料

今回開発したHpFPの概要と実験結果

今回開発した新しいトランスポート層プロトコルHpFPは、再送制御、輻輳制御、送出制御、フロー制御をTCPとは異なる独自のアルゴリズムで設計しました。図5は、これらの独自制御に基づいたHpFPプロトコルの仕組みです。HpFPでは、受信パケットを使って、受信サーバがパケットロスや遅延などの通信パラメータを計測し、さらに、予測します。通信パラメータは、確認応答(ACK)を使って送信側に伝えられます。これにより、送信サーバは、最適なサイズ及びタイミングでパケット送出を行います。
図6は、HpFPとTCPによる10Gの室内実験結果です(前掲の図3は、図6の結果を整理したものです。)。TCPについては、基本性能測定ツールiperfを用いています。遅延(RTT: Round Trip Time)0ミリ秒かつパケットロス0%の場合から、遅延(RTT)10ミリ秒かつパケットロス0.1%の場合までの基本的な通信性能(スループット)を評価しました。
パケットロス0.01%かつ遅延(RTT)0.3ミリ秒程度までは、HpFPとTCPは、ほぼワイヤーレートを達成しています。一方、パケットロス0.01%かつ遅延(RTT)10ミリ秒又はパケットロス0.1%かつ遅延(RTT)1ミリ秒などの環境では、TCPは通信性能が10分の1以下になるのに対して、HpFPは性能劣化がほとんど見られないことが分かります。
なお、HpFPは、パケットロス1%で遅延100ミリ秒の場合でも、同様の性能を確認しました。

図5 HpFPプロトコルの基本的な設計概念
図5 HpFPプロトコルの基本的な設計概念

図6 HpFPとTCP(iperf)のスループットの比較:最大遅延(RTT)10ミリ秒(ms)と最大パケットロス0.1%での室内実験結果
図6 HpFPとTCP(iperf)のスループットの比較:最大遅延(RTT)10ミリ秒(ms)と最大パケットロス0.1%での室内実験結果
[図3(前掲)は、当図6の測定結果を整理して表したもの]



用語解説

長距離広帯域伝送網LFN(Long Fat Network)

一般に、長距離データ伝送網のうち、10G以上の高速伝送網をLFN又はLFP(Long Fat Pipe)という。多くの場合には、遅延やパケットロスが伴うために、ワイヤーレート(10Gの帯域を一杯まで使う)高速データ伝送が容易ではなかった。

遅延(Delay)

インターネット通信において、送信側から受信側までパケットが届く時間のこと。一般には、送受信間に距離がある場合に遅延は大きくなるが、ネットワークの経路によっては逆転することもある。ある調査によると、国内インターネット環境では遅延最大値は50ミリ秒程度、一般には20~30ミリ秒程度の遅延が発生することが多い。なお、送信側のパケットが受信側に到達してから送信側に戻るまでの時間をRTT(Round Trip Time)という。

パケットロス(Packet Loss)

インターネット通信において、送信側から送られたパケットが受信側に届くまでに欠落することをパケットロスといい、全送信パケットに対して欠落する率をパケットロス率という。パケットロスは、主に、ルータやスイッチのバッファあふれにより発生するが、バッファサイズが小さい場合にはパケットロスが発生しやすい。パケットロスが発生するかどうかはネットワーク環境に依存するため、一般的なパケットロス率は評価しにくいが、0.5%程度のパケットロスが最も発生しやすいという調査結果もある。

HpFP(High-performance and Flexible Protocol)

NICTとクレアリンクが協力して独自に開発したTCP互換の高信頼型データ通信プロトコル。TCPと同様のトランスポート層プロトコルであり、UDPをベースとして実装している。

TCP(Transmission Control Protocol)

TCPとは、インターネットなどのネットワークでトランスポート層のプロトコル(通信規約)として標準的に使われるものの一つ。IP(ネットワーク層)とHTTPなどの上位プロトコル(アプリケーション層)との橋渡しをする。ポート番号という識別番号を用いて、各IPデータグラムが運んでいるデータがどの上位プロトコルのものであるかを識別し、担当のソフトウェアに振り分けたりすることができる。
TCPは、コネクション型のプロトコルで、通信相手の状況を確認して接続を確立し、データの伝送が終わると切断する。相手が確実にデータを受け取ったかを確認したり、データの欠落や破損を検知して再送したり、届いたデータを送信順に並べ直したりといった制御を行う。信頼性は高いが転送効率は低く、通信経路の品質が低いとデータの到着に遅延が生じたり、通信不能になったりしやすい。そのため、TCPは、転送効率より、確実性・信頼性が重視される用途でよく利用される。

JGN-X

NICTが新世代ネットワーク技術の実現とその展開のため、2011年4月から運用を行っている新世代通信網テストベッド環境 『JGN-X』(JGN eXtreme)。

xTCP

クレアリンクが独自に開発したWANパフォーマンスの改善を実現するTCPの高効率最適化・高速化パケット伝送制御開発技術。TCPパケットのプロトコル変換を行わず、回線の安定性を担保しながらパケット単位の取扱い手法を変更することで、通信特性を大幅に向上させるアルゴリズムが組み込まれている。

ソケットライブラリ(Socket Library)

ソケットとは、アプリケーション開発でのプロセス間通信である。特に、コンピュータネットワークに関する目的に応じた「出入口」であり、通信アプリケーションは、ソケットを通じてクライアント・サーバ間で通信を実現する。ソケットライブラリとは、アプリケーションがソケットを使った通信を実装するときに用いるライブラリのこと。



本件に関する問い合わせ先

統合データシステム研究開発室

村田 健史、長屋 嘉明
Tel: 042-327-7931, 042-327-7295
E-mail:

広報

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
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