ポイント

  • 特性が異なる二つの波長帯の光信号を19コア一括処理する光増幅器を開発
  • 高密度345波長、毎秒715テラビット信号を増幅、周回伝送2,000km超の長距離達成
  • 大容量と長距離伝送を両立、ネットワークの消費電力低減、コストや設置スペースの削減に期待
NICTネットワークシステム研究所と古河電気工業株式会社(古河、代表取締役社長: 小林 敬一)は、二つの波長帯に対応した19コア一括光増幅器を開発し、これを用いた毎秒715テラビットの高密度波長多重信号の2,009kmにわたる伝送実験に成功しました。
これまでのマルチコア伝送の研究では、距離が数10kmで中継増幅なしの大容量伝送、又は、中継増幅を行い1,000km超の長距離であるが伝送容量が比較的小さい試みのみでした。
今回、特性が異なる二つの通信波長帯(C帯及びL帯)全域345波長にわたって、16QAM信号(総容量毎秒715テラビット)を19コア一括で中継増幅し、周回伝送系による総延長2,009km伝送に成功しました。本成果により、大容量と長距離が要求されるネットワークでも、一括光増幅器を用いたマルチコア伝送システムが実現可能であることを実証しました。さらに、一括光増幅器を利用することで、ネットワークの消費電力低減、コストや設置スペースの削減が期待できます。
なお、本論文は、第42回光ファイバ通信国際会議(OFC2019)にて非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択されました。

背景

増大し続ける通信トラヒックに対応するため、従来の光ファイバの限界を超える新型光ファイバと、それを用いた光伝送システムの研究が世界中で盛んに行われています。これまで、大容量を目指した研究では、数10km程度の距離で光増幅器は利用されず、長距離を目指した1,000kmを超える中継増幅伝送では、波長帯域が限られ伝送容量が比較的小さい試みでした。大容量を実現するためには、コア数と波長数を増やすことが有効です。波長数を増やすためには、波長間隔を狭くし密度を上げ、加えて特性が異なるC帯及びL帯を使用するため、多くのコアの光信号の一括増幅は難しく、実現していませんでした。また、マルチコア一括光増幅器は、光増幅器の数を削減し、消費電力低減、コストや設置スペースの削減が期待できるため、コア数が多いマルチコアファイバに対応し、複数波長帯の光信号を一括増幅する光増幅器が待たれていました(図4参照)。

今回の成果

図1 伝送実験システム(一部)の写真
図1 伝送実験システム(一部)の写真
今回、古河が開発した19コアC+L帯光増幅器を用いて、NICTが19マルチコア伝送ファイバと共に周回伝送システムを構築し、毎秒715テラビットの大容量光信号の2,009km伝送に成功しました(図1参照)。これは、伝送能力の一般的な指標である容量距離積に換算して従来の約1.4倍である1.4エクサビット×kmとなり、世界記録となります。
本伝送システムは、以下の要素技術から構成されます。
・ 19コアC+L帯一括光増幅器
・ 19コア伝送ファイバ
・ 345波長一括光コム光源
・ 1パルス4ビット相当の16QAM多値変調技術
本光増幅器は、C帯とL帯の光信号それぞれに対して異なる増幅特性を持つ19コア増幅ブロックを作成し、波長多重カプラを用いて合分波することにより、C帯とL帯の増幅を同時に行えるようにしたものです。19コアという多数のコアを収容して高効率に増幅特性を得るため、既存の光増幅器(EDFA: Erbium Doped Fiber Amplifier) と異なり、ダブルクラッド構造を持つ利得ファイバ(EDF)の内側クラッドに励起用のレーザ光を導入し、19コアを一括して励起し、増幅動作をさせる点に特色があります。
なお、本実験の結果は、米国サンディエゴで開催された光ファイバ通信関係最大の国際会議の一つである第42回光ファイバ通信国際会議(OFC2019、3月3日(日)~7日(木))で非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択され、現地時間3月7日(木)に発表しました。

今後の展望

ビッグデータや5Gサービスなど、今後ますます増加していくトラヒックをスムーズに収容可能な次世代の光通信インフラ基盤技術の確立に向けて、実用化加速の要となる革新的技術の研究開発や、産学官連携による国際標準化への取組を強化していきます。

採択論文

国際会議:第42回光ファイバ通信国際会議(OFC2019)最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)
論文名:0.715 Pbit/s Transmission over 2,009 km in 19-core cladding pumped EDFA amplified MCF link
著者名:Ben Puttnam, Georg Rademacher, Ruben Luis, Tobias Eriksson, Werner Klaus, Yoshinari Awaji, Naoya Wada, Koichi Maeda, Shigehiro Takasaka and Ryuichi Sugizaki

過去のNICTの報道発表

補足資料

1. マルチコア伝送システムと既存のシングルコア伝送システムの比較

図4光増幅器数の違いイメージ
図4 光増幅器数の違いイメージ
図4の下図は、シングルコアファイバを複数本用いて、既存のネットワークで大容量を実現し長距離伝送した場合のイメージ図であり、上図は、マルチコアファイバと一括光増幅器を用いた伝送システムで、大容量かつ長距離伝送した場合のイメージ図である。マルチコア伝送システムでは、(コア数-1)の光増幅器の削減が可能で、消費電力低減、システムのコストや設置スペースの削減が期待できる。

2. これまでの記録との比較

図5 これまでの記録と今回の成果との比較
図5 これまでの記録と今回の成果との比較
図5は、マルチコア一括光増幅器を使ったこれまでの伝送実験の結果と今回の成果の比較である。7コアでは大容量が難しく、19や32コアでは長距離と大容量の両立が実現しなかったが、今回は、19コア光増幅器を使い、2,009km、715テラbps、1.4エクサbps×kmを達成した。

3. 19コア一括光増幅器

図6 19コア一括光増幅器の内部
図6 19コア一括光増幅器の内部
図6は、今回開発した19コア一括光増幅器の内部構造を示す。C帯用とL帯用の19コアEDF(利得ファイバ)は、それぞれ2つのクラッドを持つダブルクラッド構造が導入され、励起レーザは、内側クラッドに注入され、19コア全てを一括で励起する。励起に用いられなかった残存のエネルギーは、19コアEDF直後の励起光除去素子にて熱に変換される。19コアEDFの両端には、19コア伝送用ファイバ及びアイソレータが配置されている。C帯とL帯の混在した光信号は、それぞれの波長帯に対応したEDFに導入され、増幅された後に再度、合波される。

4. 実験結果

図7 実験結果
図7 実験結果
図7は、波長当たりのデータレートである。多少のばらつきはあるものの、C+L帯345波長において、ほぼ均等で安定したデータレートが得られ、合計で毎秒715テラビットを実現した。

用語解説

C帯
国際標準規格ITU-Tで規定される光通信で使用される波長帯域の一つで、1,530nm~1,565nm波長帯域
L帯
国際標準規格ITU-Tで規定される光通信で使用される波長帯域の一つで、1,565nm~1,625nm波長帯域
16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)
図2 16QAMイメージ図
図2 16QAMイメージ図
QAMとは、光の位相と振幅を併用し複数のビットを表現する方式(多値変調)の一種である。16QAMは1シンボルが取り得る位相空間上の点が16個で、1シンボルで4ビットの情報(24=16通り)が伝送でき、同じ時間でOOK(On-Off keying)の4倍の情報が伝送できる。
OOKの5倍(32QAM)、6倍(64QAM)の情報が伝送できる変調方式も利用されているが、32QAM、64QAMは、伝送後の光信号のゆがみが大きく長距離伝送には適していない。16QAMは、1シンボル当たりの情報密度を高めつつ、中・長距離へ十分到達可能であることから、最も実用性の高い多値変調方式の一つと考えられている。
 
エクサビット
1エクサビットは100京ビット、1ペタビットは1,000兆ビット、1テラビットは1兆ビット
EDFA(Erbium Doped Fiber Amplifier)
希土類エルビウムを光ファイバに添加し、励起光を照射することによって、信号光を増幅することができる、光通信用の汎用的な光増幅器の総称。設計によって、C帯に利得を持つもの、L帯に利得を持つものなど特性を変化させられる。
ダブルクラッド構造
通常の光ファイバでは、光はコアのみを伝播する設計であるため、コアを包むクラッドは一層である。本実験で用いた利得ファイバ(EDF)では、信号光がコアを伝播し、励起光がコアの周囲のクラッドを伝播する構造であるため、通常のクラッドの外側に別のクラッド層を追加し、励起光が内側のクラッド層に閉じ込められるようにしたダブルクラッド構造を採用した。
図3 ダブルクラッド構造図
図3 ダブルクラッド構造図

本件に関する問い合わせ先

国立研究開発法人情報通信研究機構
ネットワークシステム研究所
フォトニックネットワークシステム研究室

淡路 祥成

Tel: 042-327-6337

E-mail: PNS.webアットマークml.nict.go.jp

広報

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廣田 幸子

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E-mail: publicityアットマークnict.go.jp

古河電気工業株式会社
IR・広報部

能宗 良幸

Tel: 03-3286-3049 Fax: 03-3286-3694