世界記録更新、4コア光ファイバで毎秒319テラビット・3,001 km伝送達成

〜広帯域波長多重技術・光増幅方式を駆使した伝送システムを構築〜
2021年6月21日


国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

  • 4コア光ファイバで、広帯域の552波長多重により、毎秒319テラビットの大容量を実現
  • 2種類の光増幅方式を駆使した伝送システムを構築し、3,001 kmの長距離伝送に成功
  • 製造が容易な標準外径光ファイバによる、大容量長距離伝送システムの早期実現に期待
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)ネットワーク研究所のベンジャミン パットナム主任研究員らのグループは、研究開発用の標準外径(0.125 mm)4コア光ファイバを用い、波長多重技術と2種類の光増幅方式を駆使した伝送システムを構築し、毎秒319テラビット、3,001 km伝送実験に成功しました。この結果は、伝送能力の一般的な指標である伝送容量と距離の積に換算すると、毎秒957ペタビット×kmとなり、標準外径光ファイバの世界記録です。
今回は、これまで利用されている波長帯域(C帯、L帯)に加え、利用が難しく一般的に商用化されていないS帯も用いて広帯域化し、552波長多重により大容量化を図りました。さらに、希土類添加ファイバを使った増幅器ラマン増幅の増幅方式を駆使し、3,001 kmの長距離伝送に成功しました。標準外径光ファイバは、既存設備でケーブル化が可能で、大容量長距離伝送の早期実用化が期待でき、Beyond 5G以降の新しい通信サービスの普及に必要な基幹系通信システムの実現に貢献します。
なお、本実験結果の論文は、光ファイバ通信国際会議(OFC2021)にて非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択され、現地時間2021年6月11日(金)に発表しました。

背景

増大し続ける通信量に対応するための新型光ファイバ研究が進み、近年は研究開発用の標準外径の新型光ファイバが市販されています。今後は、光ファイバの特長を生かした伝送システムの研究開発が重要になると考えられ、NICTは新型光ファイバを用い、波長多重技術や変調技術等を駆使した多様な伝送システムを構築して、多くの世界記録を達成してきました。
これまでの波長多重技術では、C帯とL帯の波長を使用するのが一般的であり、帯域を広げS帯も使用した場合は、大容量は実現しても光増幅技術が伴わず、数10km程度しか伝送できませんでした。

今回の成果

図1
図1 今回の成果及びこれまでに報告された標準外径光ファイバの伝送容量距離積
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NICTは、研究開発用に市販されている標準外径の4コア光ファイバを用い、波長多重技術と光増幅方式を駆使した伝送システムを構築し、毎秒319テラビット、3,001 km伝送実験に成功しました。この結果は、伝送能力の一般的な指標である伝送容量と距離の積に換算すると、毎秒957ペタビット×kmとなり、これまでの標準外径光ファイバ世界記録(NICTによる)の約2.7倍になります。
今回は、C帯、L帯に加え、利用が難しいS帯も用いて広帯域化し、552波長多重と16QAM変調方式により、毎秒319テラビットの大容量を実現しました。さらに、希土類添加ファイバを使った増幅器とラマン増幅を組み合わせた周回ループ実験系を構築し、3,001kmの長距離伝送に成功しました。
標準外径光ファイバは、実際に敷設するケーブル化の際に、既存の設備を流用することが可能で、大容量長距離基幹系通信システムの早期実用化が期待できます。Beyond 5G以降では、新しいサービスにより爆発的に通信量が増加することが予想されます。本成果は、Beyond 5G以降における多くの新しいサービスの普及を支える基幹系通信システムの実現に貢献するものです。

今後の展望

図2
図2 今回の伝送システムの一部(ラマン増幅部)
今後は、伝送距離やネットワーク構成が異なる光通信システムにおいて、早期実用化が期待できる標準外径新型光ファイバを利用した様々な実装形態を可能とするため、更なる伝送能力の向上を目指し、将来の大容量光伝送技術の基盤を確立していきたいと考えています。
なお、本実験の結果の論文は、新型コロナウイルス感染症対応のためバーチャル開催された光ファイバ通信関係最大の国際会議の一つである光ファイバ通信国際会議(OFC2021、6月6日(日)〜6月11日(金))で非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択され、現地時間6月11日(金)に発表しました。

採択論文

国際会議: 光ファイバ通信国際会議(OFC2021) 最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)
論文名: 319 Tb/s Transmission over 3001 km with S, C and L band signals over >120nm bandwidth in 125 μm wide 4-core fiber
著者名: Benjamin J. Puttnam, Ruben S. Luís, Georg Rademacher, Yoshinari Awaji, and Hideaki Furukawa

過去のNICTの報道発表

補足資料

1. 今回開発した伝送システム

図7
図7 伝送システムの概略図
図7は、今回開発した伝送システムの概略図を表している。
① 552波の異なる波長を持つレーザ光を一括して生成する。
② 光コム光源の出力光に偏波多重16QAM変調を行い、遅延差を付けて擬似的に異なる信号系列とする。
③ 各信号系列は4コア光ファイバの各コアに入射する。
④ 69.8 km長の4コア光ファイバを伝搬後、S、C、L帯それぞれの光増幅器によって伝送損失を補償し、周回スイッチを経由して4コア光ファイバに導入される。このループ伝送の繰り返しにより、最終的な伝送距離は3,001 kmに達した。
⑤ 各コアの信号をそれぞれ受信し、伝送誤りを測定した。

2. 実験結果

図8
図8 実験結果
上記図7の実験系において、送信及び受信時に誤り訂正処理などの様々な符号化を適用することで、システムの伝送能力(データレート)を最大限効率化するための検証を行った。
図8の実験結果のグラフは、誤り訂正を適用した結果で、多少ばらつきがあるものの各コアで1波長のデータレートが平均毎秒145ギガビット程度、4コア合計の1波長の平均毎秒580ギガビットで安定したデータレートが得られ、552波長合計で毎秒319テラビットを実現した。

用語解説

図3
図3 広く利用されている標準外径光ファイバのイメージ図

標準外径光ファイバ

国際規格で光ファイバのガラス(クラッド)の外径は0.125±0.0007 mm、被覆層の外径が0.235〜0.265 mmと定められている。現在の光通信で広く使用されている光ファイバは、外径0.125 mmのシングルコア・シングルモードファイバで、毎秒100テラビットが容量の限界と考えられており、新型光ファイバの研究開発が盛んに行われている。

波長多重技術

異なる波長の光信号を1本の光ファイバで伝送する方式で、波長数に比例し伝送容量を上げることが可能であるが、光伝送に適した波長帯域は限られており、現在の光伝送システムで利用されている波長数は90程度である。

光増幅方式

光ファイバは、同軸ケーブル等と比較して伝送損失が非常に小さいが、数10 kmを超える伝送では光信号が減衰していく。そのため、長距離伝送システムでは、光増幅器を用い伝送損失を補償する必要がある。光増幅方式は、希土類添加ファイバを使った増幅、ラマン増幅、半導体による光増幅がある。今回は、希土類添加ファイバを使った増幅とラマン増幅を使用した。

テラビット、ペタビット

1ペタビットは1,000兆ビット、1テラビットは1兆ビット、1ギガビットは10億ビット。毎秒1ペタビットは、1秒間に8K放送の1,000万チャンネル相当である。

伝送容量と距離の積

光ファイバ伝送の最大の利点は、光の波長領域の広さを活かし多くの波長を利用する大容量と、長距離伝送でも信号劣化が少ない搬送能力である。したがって、光伝送システムの伝送能力の一般的な指標として、容量や距離だけではなく、それらの積で表現したものが用いられることがある。

波長帯域

通信用途で主として用いられている、C帯(波長1,530〜1,565 nm)とL帯(1,565〜1625 nm)、その他にO帯(1,260-1,360)、E帯(1,360-1,460)、S帯(1,460-1,530)、U帯(1,625-1,675)がある。今回はS、C、L帯を使用した。

図4
図4 光通信波長帯域

希土類添加ファイバを使った増幅器

エルビウム(Er3+)やツリウム(Tm3+)などの希土類イオンを少量、光ファイバの母材に添加することで、大パワーの励起光の照射によって、より長波長の信号光の増幅現象が生じることを利用した光信号増幅システム。これにより、光ファイバ通信の大幅な長距離化を実現した。

ラマン増幅

光ファイバの材料であるガラス素材における誘導ラマン散乱を利用した光信号増幅方式。希土類添加ファイバ光増幅器と同様に、大パワーの励起光の照射によって、より長波長の信号光の増幅現象が生じる。

図5
図5 ラマン増幅しない場合とラマン増幅後の伝送損失の比較

新型光ファイバ

現在、中・長距離通信用に普及している標準シングルコア・シングルモードファイバは、毎秒150テラビット程度が容量の限界と考えられている。その問題を解決するために、コア(光の通り道)を増やしたマルチコアファイバや、マルチモード・マルチコアファイバの研究が進められてきた。

図6
図6 これまでNICTが伝送実験を実施した主な標準外径光ファイバ

16QAM

QAMとは、光の位相と振幅を併用し複数のビットを表現する方式(多値変調)の一種である。16QAMは1シンボルが取り得る位相空間上の点が16個で、1シンボルで4ビットの情報(24=16通り)が伝送でき、同じ時間でOOK(On-Off keying)の4倍の情報が伝送できる。
OOKの5倍(32QAM)、6倍(64QAM)の情報が伝送できる変調方式も利用されているが、32QAM、64QAMは、伝送後の光信号のゆがみが大きく長距離伝送には適していない。16QAMは、1シンボル当たりの情報密度を高めつつ、中・長距離へ十分到達可能であることから、最も実用性の高い多値変調方式の一つと考えられている。

本件に関する問合せ先

ネットワーク研究所
フォトニックICT研究センター
フォトニックネットワーク研究室

淡路 祥成
Tel: 042-327-6337

広報(取材受付)

広報部 報道室

Tel: 042-327-6923