タイトル 研究往来 第9回 横須賀無線通信研究センター 第四研究チーム
― “宇宙を利用する時代”を見据えて ―

写真 小原隆博さん 小原隆博さん
プロフィール
昭和32年、岩手県生まれ。昭和60年東北大学大学院博士課程修了。昭和61年宇宙科学研究所(文部省)入所、平成9年CRLへ転入、現職へ。子どもの頃『鉄腕アトム』が大好きで、ロケットにあこがれ宇宙に関心をもったという。



 今回の『研究往来』は、茨城県ひたちなか市にある平磯宇宙環境センターに伺いました。美しい海岸線をのぞむ高台に建つセンターの玄関で、小原さんはにこやかに私たちを出迎えてくれました。

 「1969年にアポロ宇宙船の月面着陸、そして70年には日本初の人工衛星“おおすみ”が打ち上げられました。私の少年時代のキーワードはまさに『宇宙』だったんです」
 宇宙やロケットに関心をもった理由を、小原さんはこう楽しそうに話します。小原さんの研究テーマは“宇宙空間物理学”。大学院在学中に、科学衛星のプロジェクトに参加(“おおぞら”1984年打ち上げ)そして宇宙科学研究所の職員となってからは“あけぼの”(1989年打ち上げ)のプロジェクトにも参加しました。

宇宙の嵐について語る小原さん。
「オーロラは、見るものに畏敬の念さえ起こさせる程、
 すばらしい自然現象です。」
 「以前は地球周辺の宇宙空間は真空だと思われていたのですが、地球の磁力線によって エネルギーの高い電子やイオンが捕捉されているという事実が確認されました。
 その代表的なものがバンアレン帯(放射線帯)で、他にオーロラを起こす粒子が存在する領域もあります」
 地球の電離層より高い宇宙空間は“ジオスペース”と呼ばれていますが、人工衛星などによる観測が進むにつれて、さまざまな自然現象のしくみが解明されてきました。 オーロラもそのひとつだといいます。
 「太陽風(超音速で太陽から吹き出す荷電粒子の流れ)が吹いてきて、ジオスペースにエネルギーが貯まります。しかし、太陽風のエネルギーは一定ではなく、強かったり弱かったり。エネルギーが沢山たまりすぎると大きな爆発が起き、磁力線に沿って電子が落ちてきて、大気と衝突を起こして光を出すのがオーロラです。このオーロラは、エネルギーの変化の測定によって、発生する時間と場所が予測できるようになりつつあり、近い将来、その情報を一般に提供することも考えています」
 以前、国際会議が開催されたスウェーデンで見たオーロラの美しさと、そのときの感動は忘れられないという小原さん。こういった感動が、物事を調べていく動機になるといいます。研究においても、人から得た情報や知識だけでなく、常に自分の実験や体験を大事にしているそうです。
 「ジオスペースでは、時々、嵐(ジオストーム)が起こります。嵐の時は、オーロラは激しく輝きます。と同時に、嵐によって放射線粒子が異常に増えて、人工衛星の故障や破壊を引き起こす事があるのです」
 自ら人工衛星の打ち上げを体験している小原さんは、その苦労を考えると、衛星の障害となるジオストームを予測し、なんとしても衛星を護りたい気持ちになるといいます。
 「2004年には、国際宇宙ステーションが完成する予定ですが、そこでも放射線粒子の脅威は避けられません。ジオストームの予知が正確にできれば、危険を回避することが可能になります。そのため、現在の宇宙科学の流れとして、スペース・ウェザー(宇宙天気)の研究が盛んになっています」
 それだけではありません。オゾン層の破壊などにも、ジオストームが関係しているのではないか? という説を唱える研究者もいるといいますから、私たちの生活とも全く関係がないとは言い切れないのです。
 未来の宇宙利用を見据え、宇宙環境について語る小原さん。その眼は宇宙にあこがれた少年時代そのままのようです。しかし「子どもたちはあまり宇宙に興味がないようで…」とちょっぴりさみしげなパパの顔ものぞかせます。ちなみに小原さんは奥様と3人のお子さんの5人家族。一番上のお兄ちゃんはすでに「お医者さんになる」という志を持っているとか。
 「妻が鎌倉の生まれで海のそばで育ったこともあり、休日には、車で海岸線をドライブしたり、潮干狩りに行ったりして楽しんでいます。年に1、2回は鹿島神宮まで行って、お参りします。『何かいいことありますように』って(笑)」
 センター近くの漁港で水揚げされる豊富な海産物に、家族の胃袋も満足しているそうです。

 「海のものは本当においしいですね。特にカニとあんこう鍋がオススメですね」
 21世紀までもう300日あまり。宇宙は身近になり、研究の対象から利用の時代に移行しつつあります。そこでは、宇宙の“安全な利用”が大きな課題になると小原さんは言います。『鉄腕アトム』にあこがれ、ロケットの打ち上げに胸をときめかせた少年の夢は、確実に現実のものとなる――。その日に向かって、小原さんの宇宙環境の研究は続いていきます。
(取材・文/中川和子)




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