タイトル 研究往来 第10回 第5研究チーム チームリーダー
 ― CRLの技術力を結集し、
地球環境の国際調査研究に役立てる ― 

写真 村山泰啓さん 村山泰啓さん
プロフィール
昭和39年、京都市生まれ。平成5年、京都大学大学院工学研究科博士課程修了。平成5年CRL入所。子どもの頃から科学に興味をもち、科学者か小説家(?)になりたいという夢をもっていたという。


 今回の『研究往来』は、久しぶりに本所に戻ってきました。ご登場いただく村山さんは京都市のご出身。取材者と同郷ということで、地元の話にも花が咲きました。

 1993年から“アラスカプロジェクト”を推進しているCRL。このプロジェクトをとりまとめているのが、村山さん率いる第5研究チームです。でも、アラスカプロジェクトっていったい?
 「アメリカのアラスカ大学などと共同で行っている国際プロジェクトです。北極域の大気の環境を計測する技術・装置の開発を行い、アラスカを中心に、北極域の“中層大気”の特性や振る舞いを観測・研究することが目的です。
 中層大気というのは、一般の方は聞き慣れない言葉だと思いますが、地上高度10から100キロメートルの大気層をさす言葉です。地上10キロというと、飛行機が飛ぶ高度、100キロというとオーロラが出るぎりぎりの低さですね」
 そんな上空の観測を行うのは、人工衛星では?

研究チーム内でのミーティングに熱が入る
 「人工衛星はもう少し上空を飛んでいますね。中層大気というのは、地球環境と宇宙が接触する領域で、今、問題になっているオゾンホールなどもこの中に含まれます。この中層大気を調査研究することは、地球環境問題を知るうえで非常に重要です」
 温暖化や異常気象など、今、地球はあらゆる問題にさらされています。そんななかで、オゾンホールは“押してはいけないツボ”を人類が押してしまった結果だと村山さんは言います。
 「地球環境の変化といっても、そのすべてが我々人類の活動によるものではありません。自然自体の変動や太陽による変動もあるわけです。こういったものと、人類による変動をどう切り分けていくか。つまり、われわれ人類が、どこのツボを押したら環境にいい影響を与え、また、どこを押したら悪影響を及ぼすのかということを探っているのです。悪影響を及ぼすことは、やめるように人類全体で考えていかなければならない。そのためには“地球”というひとつのシステムを理解するために、人間のもっている技術で調査・観測を行う必要があるんです」
 観測は、人工衛星から地上全体を見渡す方法と同時に、地上の定位置から、継続的に観測する方法も重視されてきているそうで、CRLの技術研究はこうした多様な研究に活かされています。古くから電波と光の利用技術の開発と応用研究を行ってきたCRLは、このアラスカプロジェクトにおいても、リモートセンシング(遠隔探査)という計測技術を用いて、調査・計測に役立てています。これは、簡単にいえば電波や光を使って、遠くを計測する技術のことです。
 「アメリカ側と日本側で分担を決めています。CRLからは、たとえば成層圏や下部中間圏(高度20〜70キロ)の大気微量成分濃度を観測する『ミリ波ラジオメータ』や、同じ高度の風向・風速、気温などを観測する『レーリー(ドップラー)ライダー』など、さまざまな大気観測装置を開発・製作しています。これはCRLの中でも、いろいろな研究室がかかわっている研究室横断型のプロジェクトなので、われわれ第5チームは、その全体をとりまとめる役割も担っています」
 ていねいにわかりやすく解説してくれる村山さん。その会話からは、科学への情熱がひしひしと伝わってきます。

理論だててわかりやすく話してくれる村山さん

 「小学生の頃の作文が出てきまして、これがまた、とんでもないことを書いているんです。“最近、中性子が見つかったとか陽子がどうとか言っているが、そんな研究が何の役に立つのだろうか”なんて。ヒネたガキですよね」
 少年時代を振り返って、村山さん苦笑い。誰の影響というわけでもないそうですが、電気が好きで、科学に興味をもつ早熟な子どもだったそうです。
 「中学・高校生の頃はSF小説が好きで、アイザック・アシモフとかアーサー・C・クラークの作品をよく読んでいました。凝り性なので、気に入った作家の作品ばかりを読むんです。日本の小説なら夏目漱石と芥川龍之介。この頃は、まじめに科学者か小説家になりたいなんて思っていました(笑)」
 そんな野望(?)を抱いていた村山少年は、やがて大学で電波工学を学びますが、それだけでは満足できず、大学院に進み、大気の研究に取り組みます。
 「電気関係はもちろん好きで、自分の基本は工学だとは思うのですが、もう少し科学的な観点から、研究に取り組んでみたかったんです」
 ところで、アラスカで得られた観測データは、高速ネットワークを用いた『国際中層大気環境観測実験データ処理装置(SALMON)』によって、準リアルタイムで日本のCRLに転送され、また同時に、データを必要とする研究者に配付されます。
 「データの処理をしているときが一番楽しいですね。データは最初はガラクタの山なんです。でも、料理のしかたによってはダイヤが出てくる。つまり、宝の山でもあるんですね」
 工学と科学の違い、思想と実用の果たす役割など、村山さんの話は研究だけにとどまらず、あらゆる方向に拡がっていきます。しかし、最近は仕事関係の本ばかり読んでいるとかで、反省することしきり。
 「趣味もあまりないし、運動もやっていないし…。ただ、街歩きは好きです。京都市で生まれ育ったので、ただ街並を見ながら歩くのが好きで。街並には、人がつくってきた温もりがあるじゃないですか。東京に来てまだ7年ぐらいで、それほど地理にくわしいわけではないですが、23区内を自転車で走るのなんか、おもしろそうですね」
 都の人らしく、江戸文化について語る村山さん。彼の街歩きは、そういった人々が作り上げてきた文化を感じる方法のひとつなのかもしれません。長身の村山さんが、颯爽と自転車を駆って、東京の街を探索する…。そんな姿を想像すると楽しくなる、あたたかい季節がやってきました。
(取材・文/中川和子)

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