松井 敏明 |
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はじめに
ミリ波帯通信装置 ミリ波の研究開発は比較的早い時期に開始され、すでに30年ほど前には基本技術が確立されました。天文学の分野では宇宙観測に用いられ、分子化学や材料研究等の基礎科学の分野でも古くから利用されています。 しかし、従来の技術が金属導波管技術を中心とする立体的な回路を基本とする装置構成であったため、ミリ波の波長が短い割に、装置は大きく、重く高価なものでした。そのため、一般へのミリ波の利用は進んでいませんでした。 しかし、将来の通信システムとして要求される超高速通信特性とコストの安いサービスを確保するためには、十分な周波数帯域を持つミリ波を有効利用することが重要です。 ミリ波の普及には、ミリ波装置の高性能化と同時に、小型・軽量で、量産による低コスト化を可能とするミリ波装置に関する研究開発を行う必要があります。通信総合研究所では、装置の小型・軽量化と、実用的で低コスト化にも対応するために、ミリ波薄膜デバイスや、平面アンテナを含む薄膜回路部品の設計・試作、及び試験・評価を一環して進める事のできる施設を整備してきました。更に、薄膜集積回路技術に基づく実用的なミリ波装置の研究開発の鍵となるミリ波帯で働くトランジスタの研究開発を進めてきました。 ミリ波トランジスタ トランジスタの信号電流の増幅率は通常周波数の増加に反比例して低下するため、ミリ波の高い周波数で十分な増幅特性を持つトランジスタの実現には高度な薄膜プロセス技術が必要とされます。
また、ミリ波帯では、ミリ波の伝送路中での損失の他、伝送路の変換部、接続部での損失が大きく、アンテナ部とミリ波送受信回路との一体化技術は装置性能を左右する重要な技術であり、ミリ波の薄膜集積回路とアンテナの集積一体化技術は、新しいタイプのミリ波装置の基本構成として最も重要な技術課題の一つとなっています。 世界最高速HEMTの開発 HEMT(High Electron Mobility Transistor)(高電子移動度トランジスタ)は、ミリ波周波数帯の実用化と将来の超高速通信システムの実現には、欠くことのできない重要な半導体素子です。
今後の発展 今後は、より高速のHEMTの実現を目指すほか、ミリ波帯の新機能デバイス研究を進める予定です。また、このたびのHEMT技術の成果である優れた高周波特性を生かし、60〜200GHz帯の新しいミリ波通信デバイス技術研究を行い、超広帯域のミリ波増幅器や、カードサイズのミリ波通信装置など、各種の実用的なミリ波技術の開発を進める予定です。さらに、ミリ波・サブミリ波天文学や地球環境のリモートセンシング分野をはじめ、多くの基礎科学技術分野への応用が期待されます。 注)HEMTは、1980年、富士通研究所の三村高志、冷水佐壽(現大阪大学大学院教授)らによって開発された高速のトランジスタであり、現在までに、BSやCS等の衛星放送受信機等に実用化されています。 (横須賀無線通信研究センター通信デバイス研究室長)
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