タイトル 情報通信・電波研究のCOEをめざして 通信総合研究所の平成12年度研究計画
廣本 宣久

はじめに

 IT(情報通信技術)による国民生活、社会経済への変革の波が押し寄せ、個人や企業の活動のグローバル(全地球的規模)化が進んでいる。
 これらの動きに対応するため、平成12年2月には「情報通信研究開発基本計画(第3版)」(電気通信技術審議会答申)、3月には「21世紀の情報通信ビジョン」(電気通信審議会答申)等が出され、国としての研究開発の方向が検討されてきた。
 また、科学技術創造立国をめざす科学技術基本計画のフォローアップと次期計画の策定、強力なリーダーシップを持つ総合科学技術会議設置へ向けての検討も行われている。
 情報通信・電波に関する唯一の国の研究所として、IT革命とも呼ばれる技術革新と、その基礎となる科学技術の創造に貢献し、情報通信・電波研究のCOE(中核機関)となることは、通信総合研究所の使命である。その達成に向けて、通信総合研究所は、平成12年度、以下の施策を進める。
 なお、平成12年度は、情報通信、科学技術、環境等経済新生のための特別の予算枠(ミレニアム特別枠)が認められたことなどから、当所予算は前年度比約10%増の240.9億円となった(図1)。

図1 CRLの予算(2000年度)
図2 CRLの研究分野(重点研究領域)
図3 けいはんな情報通信融合研究センターの研究分野
独立行政法人化の準備

 自律性を高め責任を明確化し、競争的環境によって活性化し、研究開発力を一段と高めようとする国立研究機関の独立行政法人化を来年4月に控え、その準備を確実に推進する。CRLビジョン21(平成10年3月策定)に基づく将来ビジョンと戦略に支えられた重点研究領域(図2)と研究計画の策定、それらを柔軟かつ効果的に推進するための組織運営制度、企業会計原則に基づく弾力的で公開性の高い財務会計制度、業績反映を有効に活用する人事給与制度などの確立をはかる。



けいはんな情報通信融合研究センターの開設

 ネットワーク社会の急速な発展に対応して、情報通信技術の研究を強化するため、従来の共同研究の枠組みを超えた産学官連携で推進する研究拠点として、関西文化学術研究都市に、けいはんな情報通信融合研究センターを平成12年7月開設する。本センターは、情報通信部を振り替えて新設するものである。けいはんなセンターでは、人間を中心とするコミュニケーション技術の実現を目標として、インターフェース/コンテンツ技術の研究開発を推進する(図3)。



沖縄電波観測所の移転と九州長波電波送信所の整備

 沖縄電波観測所を、地上からの環境変動計測と高速ネットワークを利用した環境情報の利用技術の研究開発拠点として強化するため、昨年度に引き続き移転・整備を進める。また、日本全国に正確な周波数と標準時を通報するため、福島長波局に続いて、我が国2局目の長波帯標準電波送信所として、九州長波局を、昨年度と本年度の2ヶ年計画で整備する。



次世代情報通信基盤技術の研究開発

 ITの急速な展開に対応するため、「情報通信基盤技術に関する基礎的・汎用的技術の研究開発」プロジェクトを1年切り上げて、第2期(平成12年度〜16年度)に移行させ、以下の研究課題で先導的な研究開発を推進する。
  • 情報通信のヒューマニゼーション技術の研究開発
  • 次世代マルチギガビット通信プラットフォーム技術の研究開発
  • ペタビット級ネットワーク基礎技術の研究開発 (図4参照)
    (なお、ペタビット級は10の15乗ビット毎秒程度の情報伝送速度のこと)
 また、高齢者・障害者などが自由に情報を受信・発信したり、ネットワークにアクセスできるようにする技術などの研究開発を行う。

図4 ペタビット級ネットワーク基礎技術に関する研究開発

無線通信システム技術の研究開発

 インターネットの急速な展開は、モバイル端末など無線アクセス技術の発展にも依っている。そのため、様々な無線通信システムを融合するワイヤレスネットワーク融合技術の研究を新規に開始する。
 また、光ファイバの整備が困難な地域でも、高速ネットワーク利用ができるようにするためのギガビット衛星通信技術の研究開発などを引き続き推進する。


電磁波計測技術および環境情報の高度利用技術の研究開発

 信頼性の高い周波数・時間標準および位置標準を構築することを目的に、宇宙における時空標準基盤技術の研究を新規に開始する。
 また、引き続き地球環境保全に役立てるため、地球環境計測技術や宇宙天気予報システムの研究開発などを行う。


情報通信基礎技術の研究

 ITのための大容量通信を可能とするWDM(高密度波長分割多重)通信の急速な展開と更なる高密度化に対応するため、光基準周波数のための基盤技術の研究開発に新規に取り組む。
 また、情報通信技術の新たなブレークスルーをめざして、生命の情報通信機能の解明とその情報通信技術への適用のための研究などを引き続き推進する。


おわりに

 平成12年度の通信総合研究所の課題と研究計画について紹介を行った。当所は平成13年度からは、新生独立行政法人通信総合研究所としてスタートを切ることになる。そのことが、情報通信・電波研究のCOEをめざす当所の新たなステップとなるよう、今年度から最大の努力を続けていく決意である。

(企画部 企画課長)



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