タイトル 3次元空間共有通信 Internet-3D
荒川 佳樹

はじめに

 通信の歴史を大雑把に振り返ると、音声(電話、1次元)から画像(テレビ、2次元)へと発展してきています。では、その次に来る通信は何でしょうか? この質問に対する我々の答えは、「3次元空間共有通信」です。21世紀は、いよいよ3次元通信の時代であると、我々は考えています。3次元通信とは、3次元(立体)ディスプレイや3次元音響を用いて3次元の情報の空間・環境を生成し、この3次元情報空間を通信して「空間共有」します。

図1 超幾何図形スキームの一例
写真1 「NetUNIVERSを用いた多地点間空間共有通信実験」
3次元情報空間とその統一情報処理

 このような3次元通信を実現するためには、3次元図形(コンピュータ・グラフィックス:CG)、3次元実画像、および3次元音場などの3次元情報を、統合的にシームレスに処理し通信することが非常に重要であると、我々は考えています。すなわち、統一情報処理理論(統一情報符号化方式)の確立を目指しています。この統一3次元情報空間の実現への第一歩として、我々は統一3次元CG空間を実現しました。すなわち、「超幾何図形スキーム」と呼んでいる独自の統一幾何処理方式の開発に成功しました(基本特許取得済)。
 超幾何図形スキームを、図1(3)の超3角形の例で説明しますと、通常の3角形の概念を拡張し、3角形の3つの頂点が同一直線上となる「ゼロ3角形」を包含する幾何表現処理方法です。ゼロ3角形は、3角形と線分の両方の特性(2面性)を合わせ持ちます。これにより、3角形幾何が持つ表現性と処理性を飛躍的に増大することができました。例えば、図(2)と(3)を比較すると、従来法では、面を表現するのに13個の(通常の)3角形が必要です。一方、超3角形法では、約半分の7個ですみます。ゼロ3角形は6個となりますが、3角形処理からは除外され、「線分」として扱われます。そこで、非常に高効率・高速かつ柔軟な3次元幾何図形処理を実現します。現在、この超幾何図形スキームに基づいた、3次元CG空間を生成し多地点間で共有通信するソフトウエアNet UNIVERS (Networked UNIfied Virtual Environment and Robotics Space)を開発しています(写真1参照)。
 さらに、高臨場感な3次元CG空間を生成するには、光の3次元的な振る舞い(反射、拡散、写り込み、陰影等)を計算機上でシミュレーションし、実写映像に迫るリアリティを追求することが必要です。この光線のシミュレーションに、超幾何図形処理の1つである超3角形アルゴリズムを導入し、かつ、従来法よりも厳密な光の拡散反射物理計算モデルを用いることにより、従来水準を超える空間画質を、従来の数倍以上の高速な処理速度で実現しました(写真2参照)。この研究開発は、(株)オプトグラフと共同で実施しました。

写真2 「NetUNIVERSによる光線シュミレーションCG空間」((株)オプトグラフ提供)
写真3 「立体表示方式FLOATS(米国ニューオリンズ市で開催されたSIGGRAPH2000での展示風景)
ロボティクス空間

 3次元空間共有通信を真に実現するには、遠隔操作ロボット等を用いて、相手の空間を実際に遠隔操作できるロボティクス空間を実現することが必要不可欠であると、我々はまた考えています。画像や音だけで構成された「触れない空間」では不十分です。この遠隔操作空間では、3次元視覚インターフェースが重要な役割を持ちます。すなわち、相手側の作業空間が3次元映像としてリアルに再現表示され、かつ眼に違和感がなく見えるということが重要です。
 そこで、我々は、目の視差および焦点機能を両方利用する、リアリティの高い、かつ眼に自然な「メガネなし立体表示方式」FLOATS (Fresnel Lens Optics AndTwo-image Stereoscopy)を開発しました(特許申請中)。そして、このシステムを、世界最大のCGに関する国際会議SIGGRAPH2000(2000年7月、米国ニューオリンズ市)において発表、展示しました(写真3参照)。さらに、物をつかむ等の高度な作業空間を実現するためには、視覚に加えて触覚が必要です。そこで、東京工業大学で開発された触覚提示装置SPIDARと我々のFLOATSを組み合わせたシステムを構築しました。現在、このシステムと遠隔操作ロボットハンドを組み合わせた、ロボティクス空間通信の実現に取り組んでいます。

マルチメディア・バーチャルラボ・プロジェクト(MVL)

 CRLでは、高速ネットワークを用いて各地の研究開発機関を結び、高度な共同研究開発環境を実現する「マルチメディア・バーチャルラボ・プロジェクト」(以下、MVL)を推進しています。このMVLでは、その一環として、ここで述べてきた3次元通信技術をベースとした「3次元サイバーラボ」の構築を目指しています。CRLでは、3次元空間共有通信実験施設UNIVERSをすでに完成させ稼働させています。
 そして、郵政省が整備した「ギガビットネットワーク:JGN」を用いて、このUNIVERSと、図5に示す国内の主要バーチャル・リアリティシステムを接続したテストベッドである「MVLギガビットネットワーク」を完成させました。現在、MVL開発推進協議会(会長:熊谷信昭先生)と共同で、種々のMVL実証実験を実施しています。その一環として、我々の3次元空ヤ共有通信ソフトウエアNetUNIVERSを用いて、図2に示す各施設を多地点間接続した、大規模な3次元空間共有通信実証実験を今年度から来年度にかけて計画しています。また、今年度7月に開所された「けいはんな情報通信融合研究センター」に、UNIVERSをさらに高度化したUNIVERS IIを、近い将来に構築し、これらをテラビット級のネットワークで結び、3次元通信および3次元メディアに関する研究において、世界をリードしたいと考えています。

図2 MVLギガビットネットワーク
Internet-3D

 我々はまた、この3次元空間共有通信をインターネット化することを構想しています。3次元通信のワールドワイドな展開です。これを、3次元(3D)メディアを中核としたインターネットという意味で、Internet-3Dと呼んでいます。これが、我々が考えているインターネットの未来像です。この具体的なイメージとしては、高臨場感な立体ディスプレイと遠隔操作汎用ロボットを備えた、3次元Webブラウザを想像してください。すなわち、我々が開発した3次元空間共有ソフトウエアNetUNIVERSを、このInternet-3DのWebブラウザとして発展させたいと考えています。

(けいはんな情報通信融合研究センター 表現創造技術研究室長)




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