タイトル フォトニックゲートウェイ 光信号処理技術が切り開く超高速ネットワークの新展開
外林 秀之

はじめに

 インターネットの利用などのデータ通信の急増や情報通信サービスの多様化に伴い、情報通信ネットワークに要求される伝送容量が飛躍的に増大し、さらに高機能化が求められています。近年のこうした急激な情報技術革新の流れの中で、情報伝送・転送機能を光領域で行うフォトニックネットワークは、今後の超大容量情報通信時代における不可欠な技術開発課題として、活発な研究が進められています。こうしたフォトニックネットワークでは、光時分割多重(OTDM)、波長分割多重(WDM)や光符号分割多重(OCDM)など複数の多重方式が存在し、また信号の伝送速度もネットワーク毎に異なります。このため今後はネットワークの容量を画期的に増加させる光伝送技術に加えて、信号多重方式や速度の異なるネットワーク間の相互接続を高速で行う技術が必要となっています。
 現在のフォトニックネットワークでは、ネットワーク間で情報を転送する際は光信号を一旦電気信号に変換して処理しており、単純にネットワーク内の速度を上げても、変換にかかる時間に問題が生じ、この電気信号処理がフォトニックネットワーク全体の高速化の障害となっていました。
 次世代の高度情報化社会を支えるフォトニックネットワーク技術は、ユーザが帯域・距離・時間の制約を受けることのないネットワーキングを実現するための鍵となる将来の技術として位置づけられています。当研究所では、フレキシブルで超広帯域な通信ネットワークの実現へ向けたペタビット級フォトニックネットワークに関する研究を行っています。

超高速光信号処理技術

 現在の光通信技術は、光ファイバの伝送技術と電気的な高速信号処理技術で構成されますが、光の持つポテンシャルの一部が活用されているにすぎません。フォトニック技術をより多く取り込んだ新しいコンセプトのフォトニックネットワークの開発や、従来の基幹系中継系以外の多方面のネットワークの光化が急務です。
 毎秒テラ(10の12乗)ビット級の情報量を処理するには、信号処理をできるだけ光領域で行う必要が生じてきます。非線形光学効果を用いた光信号処理技術は、ペタ(10の15乗)Hz程度の超広帯域性を有する利点があります。エレクトロニクス技術においては自由自在な信号処理が可能ですが、光領域ではビット単位で論理演算を行うような事は現状では難しく、大容量の情報を一括して処理するのに適しています。
 よく利用される3次の非線形光学効果は、媒質の分極が光電界の3乗に比例する効果を言います。光の電界は複素数で表すことができますが、光電界の複素数のかけ算が可能となります。これによって実現できる光信号処理機能は、(1)光領域でのかけ算機能(光ミキサ)、(2)キャリア周波数(もしくは中心波長)の変換機能、(3)位相共役光発生などの光の位相を制御する機能、などが挙げられます。位相共役光は、電界が入射光の複素共役の関係にある光のことをいいます。こういった機能を多角的に組み合わせることにより、ペタビット級のフォトニックネットワーク実現への道が開けます。

図1 フォトニックネットワークにおけるフォトニックゲートウェイ
図2 光時分割多重(OTDM)と波長分割多重(WDM)の双方向多重方式変換の原理


フォトニックゲートウェイ

 フォトニックゲートウェイとは、図1に示すような、伝送速度や多重方式の異なるフォトニックネットワーク間を相互接続するために用いられる装置または機能のことを指します。今回、異種ネットワーク間を光信号のまま自在に接続する40Gbpsフォトニックゲートウェイを開発し、その有効性を実証しました。開発したフォトニックゲートウェイが有する機能は2つあり、図2に示すような光時分割多重(OTDM)と波長分割多重(WDM)の双方向多重方式変換と図3に示すような光パケット信号の圧縮・伸張(速度変換)です。
 これらを実現するには、波長領域および時間領域において前述の超高速光処理技術が鍵となっています。図2および図3に示すように、波長領域においてはスーパーコンティニュウムと呼ばれる光信号スペクトル拡大技術とアレイ導波路回折格子という多波長フィルタを用いる事により所望の波長で光信号を取り出しています。スペクトル拡大技術は、光ファイバの非線形光学効果を活用しており、光パルスのコヒーレンス性を保ったまま光スペクトルが広げられる特徴があります。このため、広がったスペクトル内で任意の波長で切り出すことにより、元の光信号を他の波長に複写する事が可能になります。さらに時間領域においては、精密な遅延線を用いた時間シフトとピコ秒高速時間ゲートにより光信号の取り出しを実現しています。これにより所望の時間位置において、任意の波長信号の切り出しが可能となります。このように波長領域および時間領域の超高速光信号処理技術を組み合わせることにより、両方の領域で40Gbpsの光信号を自在に処理することが可能になりました。

図3 光パケット圧縮・伸張の原理


おわりに

 フォトニックゲートウェイは、光信号を電気に変換することなく多重方式や信号速度の変換を行うので、処理速度のさらなる高速化が期待できます。いわば光で光を制御するネットワーク技術の開拓であり、既存のネットワークの枠組み変革の起爆剤となる研究です。次世代の超高速・高機能通信ネットワーク実現のためには,光の持つ特性をより活用したフォトニックネットワークの実現が必要不可欠であり,本研究はそのための必須技術を開発するものです。
 今後は、光時分割多重(OTDM)や波長多重(WDM)のみならず光符号分割多重(OCDM)方式も含めたあらゆる多重方式変換を実現し、幹線系ネットワークから家庭に直結するアクセス系ネットワークまで含めて光信号のままで自在に処理できるフォトニックネットワーク技術の確立を目指します。このような研究が進捗し、ペタビット級フォトニックネットワークの実現により、各ユーザの通信可能な情報量は飛躍的に増大し、これまで不可能であった様々な高度情報サービスが可能になると考えています。

(光技術部 光通信技術研究室)




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