CRLの宇宙天気予報研究と国際宇宙環境業務機関(hetero)における役割
荘司 洋三

【はじめに】

 ミリ波帯(30〜300GHz)の電波を使用する無線システムでは、十分広い周波数帯域を利用できるため、多チャンネル映像信号などの大容量信号の無線伝送に適しています。しかし、ミリ波帯の信号はあまり遠くまで届かない性質を持つため、屋内でのテレビ用配線をワイヤレス化するシステム等、主に近距離通信への利用が期待されています。
 一般に無線通信システムの実現には、使用周波数帯での発振器が必要不可欠です。この発振信号としては位相雑音(無変調時でもキャリアの位相がランダムに揺らぐ雑音成分)の少ない、周波数の安定したものが望ましいのですが、ミリ波帯のように非常に周波数の高い領域では、このような安定した発振信号を得ることが技術的に困難になります。安定した発振信号を用いない場合、キャリアの位相状態に情報を持たせるタイプの高効率デジタル変調信号を無線伝送することができません。ミリ波帯での発振器の安定化技術については古くより研究開発が成されて来ましたが、未だその性能は十分ではなく、またこのような高度な安定化技術の適用は、ミリ波通信システムを家庭内に普及するレベルまで低コスト化することへの大きな障壁となります。
 当研究所の第四研究チームでは、ミリ波通信システムの小型化と低コスト化の実現を目指した研究開発を進めており、その一環として安価に生産可能な発振器を使用して高効率デジタル変調信号の無線伝送を可能にするミリ波自己ヘテロダインシステムの開発を行いました。

図1 ミリ波自己ヘテロダインシステムの概要
図1 ミリ波自己ヘテロダインシステムの概要

図2 実験システムの外観(左:送信器 右:受信器)
図2 実験システムの外観(左:送信器 右:受信器)

【ミリ波帯でのデジタル地上波テレビ信号の無線伝送実験】

図3 ミリ波伝送後のデジタル地上波信号点配置の様子(64QAM 変調時)
図3 ミリ波伝送後のデジタル地上波信号点配置の様子(64QAM 変調時)

 図1及び図2にミリ波自己ヘテロダインシステムの概要と外観を示します。従来の無線システムと異なる特徴は、送信器でミリ波帯の信号を得るために使用された局部発振信号が送信信号に含まれている点です。受信器ではミリ波帯の発振器を用いることなく、簡単な非線形素子を使って信号を検波し、ミリ波帯の変調信号をもとの低い周波数帯の信号に変換できます。本システムを用いれば、送信器で用いる発振器が安価で周波数の不安定なものであっても、これによって生じた周波数ずれや位相雑音は検波時に完全に相殺されます。実験では、今後使用される様々なテレビ信号の中で、最も位相雑音と周波数安定性に対する要求性能が厳しい、2003年度実用化予定のデジタル地上波テレビ信号の60GHz帯無線伝送を行い、その良好な伝送特性を確認しました。図3は64値多値直交振幅変調を用いたデジタル地上波をミリ波伝送した後の信号点配置の様子を示しており、64値が良好に復調されていることが分かります。これにより、今後のメディアのデジタル化と高効率デジタル変調信号伝送に対応した、ミリ波システムの出現と低コスト化に拍車がかかるものと期待されます。

(横須賀無線通信研究センター 第四研究チーム)



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