タイトル ITS(高度道路交通システム)情報通信システムの開発
佐藤 勝善、加藤 明人

 IT(情報技術)化の波は様々な分野に広がり始めていますが、道路交通の分野にも、IT化の大きな波が押し寄せようとしています。道路交通システムと情報通信システムをうまく連携させることにより、交通事故の防止や物流の効率化、さらには自動運転による高齢化社会への対応など、道路交通システムのさらなる高度化をねらった高度道路交通システム(Intelligent Transport Systems: ITS)の構築が、いま世界中で急ピッチで進められています。ITS は道路交通を取り巻く非常に広い分野にわたる一連のシステムの総称ですが、ITSで提供されるサービスの中には、自動料金収受システム(Electronic Toll collection: ETC)や道路交通情報通信システム(Vehicle Information Communication System: VICS)のような道路側から車両へ情報提供、また自動隊列走行や安全運転補助に必要な、車両走行状態や制御情報の車両間での交換など、道路側と車両、または車両間における様々な情報交換を必要とするものがあります。このような路車間あるいは車々間で、様々なマルチサービスの提供や、非常に高信頼性を必要とする通信路確保などの観点から、横須賀無線通信研究センター無線伝送研究室では、Radio on Fiber技術を用いた路車間通信技術、およびミリ波を用いた車々間通信技術の検討を進めています(図1)。

図1 ITS情報通信システム概念図


【ROF(光・電波融合伝送:Radio on Fiber)による路車間通信技術の開発】

 路側から車側への情報提供のための路車間通信については、現在 5 GHz マイクロ波帯を利用した狭域通信(Dedicated Short Range Communications: DSRC)システムが主に検討されていますが、将来サービスが想定される動画伝送や高速データ通信など、各種マルチサービスに対応するため、CRLではROF技術を利用した路車間通信の実現を目指しています。
 ROF技術は、空間に放射する電波を、多くの基地局を統括する集中管理部で一括して発生させ、その電波を電波-光変換を行い光信号として光ファイバーケーブルを用いて各基地局まで配送・分配し、各基地局では光-電波変換のみを行い、そのまま直接電波を放射するというものです(図1)。この技術を用いると、将来通信方式等に変更があっても、各基地局の変更はほとんど必要なく、集中管理部の置き換えだけで済み、また将来のトラフィックの増大にも十分に対応できます。周波数は、大量の伝送が必要となることを考慮して広帯域性に優れたミリ波帯の利用を想定しています。このように、ROF技術を取り入れた路車間通信システムは将来に向けて非常に拡張性の高いシステムであるといえます。
 このシステムの実用化のためには、光と電波との変換技術や各基地局へ効率よく配送分配する技術など、多くの技術的課題があります。また、ミリ波を路車間通信に使う場合、1つの基地局でどれだけのエリアをカバーできるか、サービスエリア間での非常に激しい干渉の影響をどのように低減するかなど、伝搬にかかわる多くの問題が発生します。これらの問題を解決するため、当所では実験、理論の両面から検討を行っており、今後、さらに実験を積み重ねシステムの実現に向けていきたいと考えています。写真1、写真2に実験システムの外観を示します。

写真1 ROF路車間通信実験装置(路側基地局) 写真2 ROF路車間通信実験装置(移動局)


【ミリ波を用いた車々間通信技術】

 車と車の間で直接情報をやりとりする車々間通信システムは、これまでにも通信媒体として赤外光などを利用したシステムなどが検討されてきましたが、太陽光の影響を受けにくい、また雪や霧などの天候の影響を受けにくいという理由から、電波を利用した車々間通信システムへの期待が高まっています。そこで当所では、非常に周波数が高いミリ波帯を用いた車々間通信システムの技術検討を進めています。ミリ波帯の電波は大気中での吸収が大きく、比較的短距離で急速に減衰してしまうため、長距離通信には向きませんが、車々間通信で想定されている百数十m程度の距離であれば問題はなく、むしろはやく減衰してしまうことで電波干渉を防ぐことができ、電波の場所利用効率の向上が期待できるという特徴があります。また、既に実用化されているミリ波を利用した自動車レーダーとの機能統合により、大幅なコストダウンが可能であるというメリットもあります。
 車々間通信が扱う情報は、前方障害物情報やブレーキ・アクセルなどの制御情報など安全に関わるものが多く、通信路には非常に高い信頼性を必要としますが、ミリ波を自動車のような移動体相互の通信に使うためには、フェージングやドップラーシフトなどの電波伝搬における様々な困難を克服する必要があります。そこで、図2に示すようなシステムを用いた高速道路などでの走行実験による電波伝搬測定等を通して、最適な変調方式や誤り訂正方式などの検討を進めています。図3にその実験車両の外観をしめします。また、周波数帯や変調方式、アクセス方式などを国内外で統一する必要があることから現在、YRP(横須賀リサーチパーク)研究開発協議会や(社)電波産業会などとの密接な連携を取り標準化作業等も進めており、2003年頃の実用化を目標にした取り組みを進めています。

(横須賀無線通信研究センター 無線伝送研究室)


図2 ミリ波車車間電波伝搬実験の測定系
図3 ミリ波車々間電波伝搬実験車両




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