タイトル TCP/IPによる超高品質メディアの高速転送技術(270Mbps以上)の実現
勝本 道哲

はじめに

 最近のインターネットでは、十分な品質のコンテンツではないにもかかわらず、10Kbps(※1)から300 Kbpsを使った放送型コンテンツが脚光を浴びており、次世代インターネットにおける主アプリケーションとして期待されています。一方、インターネット以外では、20Mbps(※2)から45Mbpsを使ったデジタル放送、DVD等が高品質なコンテンツとして提供されています。しかし、放送業務、映画等で使用されている270Mbpsから1.5Gbps(※3)を使った非圧縮フォーマットと比較すると高品質とは言えません。今後、高速インターネット環境が普及し通 信と放送の区別がなくなってくると、より高品質なコンテンツが求められ、それらを提供する技術が望まれます。

D1 over IPの実現

 超高品質メディアとして非圧縮D1映像をTCP/IPによりロスレスで転送する技術を「D1 over IP」と命名しました。この技術は、管理デーモンとマルチAVフォーマットで構成されています。非圧縮D1映像は、放送業務で使用されているフォーマットで、インターネット通 信を行う場合270Mbps以上の実転送帯域が必要となり、この技術は270Mbps以上の通 信を可能にしました。

管理デーモン

 開発した管理デーモンは、図1に示すようにシステムで帯域を確保しなければならない各個所に配置され、各インターフェイス間で指定された帯域を保証する機能を持っています。例えば、ディスク帯域管理デーモンは、大容量 蓄積ディスクから配信サーバへのデータ入出力転送時の帯域確保と転送量の管理を行っています。

図1 システム概要図


マルチAVフォーマット

 実際にTCP/IPプロトコルを使って超高品質メディアを転送する場合、多くのフォーマットに対応する機能とシステム全体での帯域保証機能が必要となります。そこで、フォーマットを統一し、システム全体で帯域が安定するような独自のフォーマットとして図2に示すマルチAVフォーマットを定義しました。ただし、図2に示すフォーマットは、非圧縮D1フォーマットの場合の例でありデジタルビデオ(DV)や他の映像フォーマットの場合は、別 のパラメータ値をAVヘッダに設定することにより様々なフォーマットに対応し、システム全帯域で安定したデータ転送を可能としています。

図2 マルチAVフォーマット


実装システム概要

 D1 over IPシステムとして、図3に示すような高品質ビデオ・オン・デマンドシステム(VOD)を構築しました。各ハードウェアとしてSGI製のワークステーションを用いて、サーバはR10000(250MHz、6CPU、3GBメモリ、大容量 蓄積ディスクを搭載)、クライアントはR10000(225MHz、2CPU、1GBメモリ、D1シリアルインターフェイス、IEEE 1394インターフェイスを搭載)です。デバイスドライバ、各デーモン及びアプリケーションの作成には、SGIが提供するコンパイラを用いています。

図3 システム構成図


実証デモ実験

 これまでに行った実証デモについて紹介しておきます。
1 郵政省通信総合研究所研究発表会(1999年9月):3つのビル間(一部光空中伝送)をATM OC-12(622Mbps)で接続し1ストリームのD1と1ストリームのDVをフレーム落ちなく転送しました。
2 N+Iインターロップ(2000年6月):デジタルベータカムなどの複数のカメラを接続し、1ストリームのD1と2ストリームのDVをフレーム落ちなく転送しました。
3 夢の技術展(2000年7月〜8月):大手町-お台場間をATM OC-12により接続し、1ストリームのD1と6ストリームのDVを約3週間にわたり転送しました。結果 として、D1映像はフレーム落ちもなく転送しましたが、DVはIEEE 1394の同期ずれを起こしてしまい、何度かリセットしました。
4 INET2000(2000年7月):横浜-大阪間(約500Km)をギガイーサネットにより接続し、1ストリームのD1を転送しました。各種設定の調整不足により安定した送信になるまで時間がかかりましたが、フレーム落ちなく転送しました。
5 大臣デモ:小金井-大手町(折り返しで約60km)をギガイーサネットにより接続し、2ストリームのD1と1ストリームのDVをフレーム落ちなく転送しました。

 以上のように、D1 over IPは実システムとして利用可能であることが証明されています。

今後

 今後通信と放送の区別がなくなり、多くのコンテンツを制作しなければならない状況が訪れることが予想でき、現在のテープメディアや映像専用線を使った制作では追いつかないことも考えられます。しかし、本技術により、リアルタイムで超高品質メディアを転送し編集、配布することが可能となり、多チャンネルあるいは、多メディア時代に豊富なコンテンツ制作技術として大きく貢献すると考えます。また、実験室環境ではHDTV over IPも実現しており、超高速ネットワークのインフラが整備され超高品質コンテンツが流通 する次世代インターネットの到来は確実であると考えます。

(通信システム部 超高速ネットワーク研究室)

※1.Kbpsは千ビット毎秒
※2.Mbpsは百万ビット毎秒
※3.Gbpsは10億ビット毎秒



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