タイトル 研究往来 第13回 関西先端研究センター 生体物性研究室

 ― 生物の動きの原理を解明する ― 

写真 榊原斉さん 榊原斉さん
プロフィール
昭和38年、愛知県生まれ。名古屋大学大学院理学研究科分子生物学専攻博士課程修了。平成3年CRL入所。同年8月から関西先端研究センターに。スポーツが趣味で、広く浅く(?)こなすそう。


 「生物を見たときに“生きている”ということを感じるのは、動くからじゃないでしょうか。」
 関西先端研究センターの生体物性研究室で生物のタンパク質モータの動きを研究している榊原さん。
「生物のすべての情報は遺伝子に記憶されていますが、遺伝情報はタンパク質分子のかたちに翻訳され、機能の発現はタンパク質によって為されます。その中で動きを作るタンパク質分子のしくみを、ミドリムシなどを使って解明していくんです。」
 生物はとても不思議なものです。食べたものをエネルギーにして活動し、身体が傷ついても自然治癒力によって回復します。また、あらゆる外界の変化にも、身体の調節機能が働き、生きていけるようになっています。現在のように科学が進んで精巧なロボットが作られるようになっても、生物のメカニズムのすべてが解明されているわけではありません。特に“動く”という生物の活動にはまだまだわからないことがたくさんあります。
「生物が動きをつくるしくみはとても巧妙にできています。ナノメートルという小さな単位の世界で、動きと調節を行うのは分子モータと呼ばれるタンパク質です。

研究風景
 私はミドリムシの鞭毛運動やヒトの気管の繊毛運動などの動力タンパク質、ダイニンに注目しています。ダイニンは、染色体の運動などにも深く関わる重要なタンパク質です。
 この研究は、昨年、世界的に権威ある科学雑誌『Nature』に発表され、生物の動きの定説を覆すものとして、大変注目されています。
 「われわれの研究がすぐに社会で実用化されるというわけではありませんが、将来的にはマイクロマシーンの技術や、センサー技術 などに応用できる可能性は大いにあると思います。」
 ところで、郵政省の通信総合研究所がなぜ、生物の研究をしているのだろう?
 と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。この質問を榊原さんにぶつけてみました。
 「生物のもつすばらしいしくみを学んで、将来の技術発展に応用しよう、ということです。生物が生きていく、あるいは動くためには、あらゆる情報を伝達・認識していかなければなりません。そして、そのメカニズムは、われわれが社会でコミュニケーションをとりながら生きていく手段にも応用できるはずです。基礎研究ですから気の長い話かもしれませんが、それがこのセンターの懐の深さと思います。」
 言葉を選びながらも榊原さんはこう語ってくれました。社会に役立つ技術を生み出すには、まず、基礎研究が行われ、それが各方面に応用されて社会に還元されるー。国の研究機関として、その役割を担っているのがCRLであり、また、なかでも基礎研究を中心に行っているがここ、関西先端研究センターだというわけです。
 榊原さんは現在、ひとり暮らし。スポーツが大好きで、中学・高校時代はバスケット部に、大学ではダイビング・サークルに所属していたそうです。
 「休日はスポーツクラブにも行きます。エアロビクスもやりますよ。最近、太ってきたので(笑)。」
 センター内では休憩時間にテニスをすることも。スポーツは広く浅く、見るのもやるのも大好きだそうです。
 「今年の夏、肉ばなれを起こして、あまり運動ができなかったんです。それで、オリンピックに触発されて、水泳を始めました。」

1997年 小豆島オリーブマラソン
 そんな榊原さんが毎年、楽しみにしているイベントがつい先日終わりました。“六甲全山縦走大会”に挑戦、無事ゴールしたことです。
 「毎年開催されている神戸市のイベントで、六甲山の56qを歩くんです。近隣の研究室で参加者を募り、8名で挑戦しました。朝は夜明け前の5時にスタート。今年は全員で歩こうと決めていたので、ゴールしたのは夜の10時頃でした。」
 少しずつ休憩をとりながら、制限時間内にゴールできるように頑張ったとか。そんなに長い時間、つらくはなかったですか?
 「ゴールしたときも気持ちいいけど、準備期間が楽しいんですよ。みんなで練習をしたり“おにぎりは何個にしようかな”とか、“何を持っていけばいいか”とか、自分であれこれ考えるのが…。」
 楽しそうに話す榊原さん。研究者の顔とは違った、人なつっこい笑顔です。
 「去年は“ダンス・ダンス・レボリューション”にはまってました。ゲームセンターで若い人がやっているのを見て『いいなあ!』と思って。プレイステーションのソフトとシートを買って、自宅でやってました。あ、ウチは1階なんで、下に住人がいませんから。いい運動量で汗だくになるんですよ(笑)。」
 当面の目標は“お嫁さんを見つけること”と言いますが、最近、知り合いから譲り受けたハムスターを“猫かわいがり”状態だとか。
 「目標としては、研究をさらに進めて、もう一度“Nature”に掲載されるような発見をしたいですね。タンパク質の動きから、生物の動きのしくみを解明し、ひいては生命の根源に迫ることができれば…。」
 最後は研究者の顔に戻った榊原さんでした。
(取材・文/中川和子)

六甲全山縦走大会 颯爽と走る榊原さん
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