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無線LANシステムの研究開発
 はじめに 

 ミリ波帯(周波数30〜300GHz、波長1〜10mmの電波)は、広帯域伝送や機器の小型化が可能という特徴をもっています。当所では、1990年代初期より60GHz帯における電波伝播特性の解明・セクタアンテナの開発・ゾーン構成法の検討・無線LANモデルシステムによる基本伝送特性の解析等の基礎研究を行ってきました。この成果 を踏まえて、ミリ波高速無線LANのプロトタイプシステムの開発を行いました。平成9年度にATM(非同期転送モード)ベースの第1バージョンで、52Mbpsという当時の世界最高速で本格的なマルチメディア伝送を実現しました。平成10年度に開発した第2バー ジョンはIPベースの構成をもっており、64Mbpsの高速無線インターネットアクセスを実現しました。それらのシステムには当所が提案したマルチメディア伝送を考慮して設計したMAC(媒体アクセス制御)プロトコルRS-ISMA(Reservation-based Slotted Idle Signal Multiple Access)方式が実装されています。


 システム構成 

 平成11年度に開発に成功したプロトタイプシステム(Ver.3)の主要諸元を表1に示します。本システムは、2台のアクセスポイント局(AP)と4台の無線ユーザ局(ST)により構成され、一周波数で2つの基本サービスエリア(BSA)におけるSTに高速インターネットアクセスサービスを提供します(図1)。2台のAPは、各々イーサネットスイッチを通 してイントラネットまたはインターネットに接続されます。STは、その局が所在するBSAのAPとの間で高速通 信を行い、別のBSAへ移動しても自動的に新たなAPとの通信ができるよう、BSA間の自由な移動にも対応しています。
  無線送受信機は、平面アンテナとMMIC(モノリシック集積回路)技術を採用し、体積を1000cc以下に抑え、小型化に成功しました。無線アクセスプロトコルには、RS-ISMAを修正したものを使用し、156Mbpsの超高速をサポートしています。本方式の利用により超高速無線伝送によるマルチメディア通 信に必要となるQoS(サービス品質)の保証を可能としました。さらに、同じ情報(例えば映像)を特定の複数ユーザに配信するマルチ キャスト機能と、アプリケーションの特性に応じた情報送信制御機能を追加しました。本実験システムでは、インターネットで一般 的に利用されている電子メールやファイル転送等の簡易なデータ通 信だけでなく、今後の利用拡大が予想される音声や映像等のマルチメディア通 信も可能となっています。

図1
▲図1 試作システムの構成

送信周波数 AP:37.75GHz ST:38.75GHz
送信電力 AP:10mW ST:10mW
アンテナ利得 AP:5dBi ST:20dBi
半値幅 AP:60° ST:10°
変調方式 GMSK
無線伝送速度 上り/下り: 156Mbps
無線機体積 1000cc以下
MAC方式 Enhanced RS-ISMA
多重方式 FDD(周波数分割多重)
システム構成 AP: 2台 ST: 4台
▲表1 システム主要諸元


 実証実験及び標準化 

 本システムはマルチメディアアクセス(MMAC)推進協議会超高速無線LAN部会の実証実験システムとして今年5月15〜18日に横須賀リサーチパーク(YRP)で開催されるMMAC公開実証実験において実演される予定です。なお、RS-ISMA方式は電波産業会・ミリ波超高速無線LANに関する工業規格に採用される見込み です。



 今後 

 今回開発した超高速ミリ波帯通信システムは、マイクロ波(3〜30GHz)や準マイクロ波帯(主に2GHz帯)でのシステムに比べて広帯域サービスが提供できるため、将来の超高速無線LAN(図2)のみならず、屋外における超高速無線アクセスシステムへの適用が期待されています。当所では、今後、今回開発した超高速無線LANシステムを基礎として、屋外の超高速無線アクセスシステムの研究開発へ発展させていく予定です。

(横須賀無線通信研究センター 第2研究チーム)
図2
▲図2 超高速無線LANの実験風景

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