CRL NEWS
国際共同校則衛星通信実験
門脇 直人
 はじめに 

 衛星通信は、広域性、同報性、回線設定の柔軟性、耐災害性などに優れた通 信手段です。通信総合研究所(CRL)では、衛星通信システムの大きな伝送遅延等に起因する技術的問題を解決し、さらに実際のアプリケーションの運用性実証を目的とした国際共同高速衛星通 信実験を実施しています。2000年5月から7月にかけて米国航空宇宙局(NASA)を中心とした米国の研究機関との間で日米高速衛星通 信実験を実施し、また2000年11月から12月にかけて韓国の電子通信研究所(ETRI)との間で日韓高速衛星通 信実験を実施しました。


 日米高速衛星通信実験 

 日米高速衛星通信実験は1993年に日米宇宙協力プログラムハワイ会合にて提案され、1997年2月から3月にかけて45Mbpsの衛星ATM回線を利用した、HDTV画像による遠隔ポストプロダクションデモンストレーションを行いました。今回は図1のように45Mbpsの高速衛星ATM回線の上にIP接続機能を付加することによって高速インターネット環境を実現しました。その結果 、衛星通信回線に直接接続していない多くの実験参加機関がデータを共有するようなアプリケーション実験を行なうことができました。アプリケーション実験としては、衛星通 信ネットワークを利用して米国カリフォルニア州にあるウィルソン山天文台の望遠鏡を操作する遠隔天文観測デモンストレーションや、札幌医大と米国医学図書館(NLM)の間を結んで高精細人体断層写 真の伝送実験デモンストレーションを行いました。
  今回の実験では2つの衛星を用いる場合があり、その際は片道約0.5秒の遅延が発生するため、受信確認を送信側が受け取るまでに約1秒の時間を要し、連続的なデータ転送ができなくなります。それが原因でデータ伝送効率が大きく低下する現象が発生します。今回の実験では、インターネットに おけるデータ転送に使用されるTransport Control Protocol (TCP)において、転送データを保持しておくためのバッファ容量 を大きくし、受信確認信号を受け取るまでの時間中にもデータの送受信がとぎれない手法を用いたこと、また回線容量 と遅延時間がわかっている場合に回線が混雑しない範囲で最大のデータ転送を行う方法で、効率的なデータ伝送が可能なExpress Transport Protocol (XTP)という手順を用いることに よって、データ伝送効率を約20Mbpsまで向上させることができました。
図1
▲図1 日米遠隔天文観測実験の様子
  遠隔天文観測デモンストレーションでは、CRL本所、米国のNASAジェット推進研究所、ケック数理学研究所、メリーランド大学から米国ウィルソン山天文台の望遠鏡を遠隔操作し天体の映像を保存しました。この映像データはインターネットを介して誰でも共有できるようになっており、各地点の操作者は手元で望遠鏡を操作しているかのように扱うことができるようになりました。このような技術の応用により、大容量 の天体観測データを世界的規模で共有し利用することが可能になります。また小平市の創価高校とサンタモニカのクロスロード高校の生徒さんには、日米に離れていながら同じ場所で一緒に天体観測をしているような仮想天体観測教室を実体験して頂きました。

図2
▲図2 日米高速衛星通 信実験フェーズ2 ネットワーク構成

図3
▲図3 日米高精細人体画像伝送 デモンストレーション
 高精細人体断層写真の伝送実験では、米国NLMが持っている高精細の人体断層写 真のデータベース“ビジブル・ヒューマン”のデータを高速に札幌医大に伝送する事に成功しました。このビジブル・ヒューマンは男性データセット15GB、女性 データセット40GBの大容量のデータであり、遠隔地の研究者がこの データを利用するには高速な通信能力が必要になります。本実験では、衛星経由で従来約3分かかった情報を約10秒で伝送することができました。このような技術が実現することにより、世界中の多くの医学研究者が共同で研究を行うような新しい研究環境の実現が期待されています。
 
図4
▲図4 日韓DV伝送実験の様子
 日韓高速衛星通信実験では、伝送速度45Mbpsの高速衛星ATM回線を用いて、CRLとETRIの間にインターネット接続環境を実現しました。日米高速衛星通 信実験で得られた効率的な伝送手法についてさらに伝送パラメータの検討を進め、データ伝送性能評価実験では、往復遅延時間が0.525秒あるにも関わらず35Mbpsのスループットを得ることができました。また、ディジタルビデオ(DV)規格の動画像をソフトウェアでパケットに変換して伝送することで、一般 家庭でも広く普及しているDVカメラを用いて日韓の双方向での伝送に成功しました。この技術と衛星の広域性を組み合わせることで、高品質な動画が安価にどこからでも発信できることになります。また、本実験ではMPEG2方式で圧縮したHDTV伝送実験も行いました。これは2002年のサッカー ワールドカップ時のデモンストレーションを視野に入れたものです。
  これらの実験を通じて現在問題となっているディジタル・デバイドの解消に有効な通 信手段となる高速衛星通信技術を確立し、衛星の特長を活かした新しい利用形態に関する研究を進めていきたいと考えています。

(宇宙通信部 超高速衛星通信研究室長)


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