CRL NEWS
無線LANシステムの研究開発
中島 潤一
 あふれるデータとインターフェース 

 特に気にしなくてもパソコンや家電製品にまでSCSI(Small Computer System Interface)、USB(Universal Serial Bus)など、データをやり取りする規格として“インターフェース”や“バス”という言葉が飛び交うような時代となりました。機器間のインターフェースはそれ自体高度な計算処理等をするものではなく、データを運ぶパイプ管のつなぎ目のような存在ですが、接続に不具合があったりすると、まったく大変なことになってしまいます。購入したい周辺機器がパソコンのインターフェースに対応していなかったり、データが化けてしまったりと、誰しも一度は経験されているのではないでしょうか。インターフェースの仕様が合わなかったり、送ろうとするデータ量に対して「つなぎ目」が細かったりすると、データがあふれてしまうことになります(図1)。
 一本のデータ線を中心に、順次データを送り出す方法をシリアルインターフェース、それに対して複数のデータ線を使って並列にデータをやりとりする方法をパラレルインターフェースと呼びます。パラレルインターフェースはパソコンにおいてはハードディスクや、拡張スロットに用いられているように、より高速なデータを交換する場所に用いられます。しかし歴史的にCPUのデータバスから直接データを取り出したり、データバスに直接データを流し込むというような発想のもとに始まっていたり、データや関連する制御情報のタイミング手順が複雑になっていたりするので、互換性をとることが難しく、しばしば機器の“相性”などとなって現われます。周辺記録装置用のインターフェースとして進化したSCSIなどを除けば、未だにパソコンではプリンタをルーツとするパラレルインターフェース(EPP:Enhanced Parallel Port)、計測機器でも比較的速度の遅いGPIB(General Purpose Interface Bus)ががんばっていることは、いかにパラレルインターフェースがスタンダード化や互換が取りにくく、特にケーブル接続ではスペックが少々古くても安定したインターフェースが望まれているかという状況を示しています。


 科学データの急増と非互換の各種機器 

 さて、科学研究に用いられるデータとパラレルインターフェースの関係はどうなっているでしょうか。通信総合研究所が世界で初めて実現したギガビットVLBIをはじめ、リモートセンシング、そして高エネルギー分野の過渡現象など、最先端の科学データ取得や記録ではすでにその速度が1Gbpsを越えるようになっています。ところがこのような速度に至る高速のデータを扱うインターフェースは市販されていない為、研究者達はまちまちにオリジナルなインターフェースを採用したり作って来ました。そもそも研究というものは対象が違うたびに装置を作り変えていくものですから、最初はさほど気にしてはいなかったのです。しかし国際化が進んだ20世紀末になって、多国間の研究者間ではいよいよ取ったデータの互換が取れない、記録したデータを研究のために交換したりコピー継承するのにも方法が無いなど、重大な局面に遭遇することになりました。1Gbpsのデータとは1秒間に128MB、なんと5秒に1枚CD-ROM(640MB)を焼くといった速度となってしまい、付け焼刃の対策では解決できません。安定したギガビット級のデータ伝送に耐えられるインターフェースを採用し相互に互換を図ることが不可欠となりました。

図1
▲図1 まちまちなインターフェースでデータの洪水


 汎用科学インターフェース 

 現在もっともどん欲に高速データ伝送を必要とする研究のひとつがVLBIです。VLBIは電波星からの雑音電波を検波せずそのまま記録保存するため、最低でも64Mbps、最近では256Mbps〜1024Mbpsの速度でデータを取りこみます。我々のグループは国際天文連合、国際測地連合などの下に研究活動をする国際VLBI事業(IVS)という科学者の集まりに属していますが、ここで命を受け米国、カナダ、およびオーストラリアのVLBI研究者と、ありとあらゆる高速インターフェースを検討しました。そして、移り変りの速いコンピュータ関連のインターフェースをそのまま使うのではなく、最も科学データの伝送に適したインターフェースを自ら開発しました。これが我々の提唱し、誰もが利用可能な“汎用科学インターフェース(Versatile Scientific Interface、またはVLBI Standard Interface以下VSI)”です。VSIでは世界でCRLだけが成功しているギガビットVLBIの32並列伝送を基本に構成されました。また図2に示すようにデータの伝送の取決めはDIM(Data Input Module)、DOM(Data Output Module)というように概念化されていて、今後現われる記録メディアや、ネットワークなどにも対応可能となっています。

図2
▲図2 VSIの伝送内容と概念化された伝送モジュールによる国際間の科学データ交換

 VSIデータの中味とは 

 あなたは日記を付けるとき一連の出来事を書いてしまい、あとから日付や時間を苦労して順に付けたという経験はありませんか?科学データは日記と同じようなものであり、“いつ、何処で、何が起こった”、ということがデータの本質です。図2で説明しますとDATA、CLKの部分が大量のデータ本体で、1pps以下の部分で付随する時刻や観測状況などの関連情報が伝送されます。この付随する、“いつ、何処で”、という部分が重要なわりに、世界中でそれぞれ勝手に取り決めていたので、非互換となる原因でした。VSIでは32対のデータ線に合わせて、時刻を精密に決める1pps(1秒パルス信号)、その1秒パルスの属性(年日時分秒)や測定関連情報を毎秒送出するPDATAという信号、その他の科学データを伝送するのに便利な機能が盛りこまれています。またLVDS(低電圧差動)により雑音に強く、長いケーブルで機器間をつないでも、32MHzや64MHzといった高速な伝送クロック周波数で安定して動作するように考えられています。コネクタはMDR80(ミニDリボン80ピン)というものを用いますので、一見はちょっと大き目のSCSIのケーブルにも見えるでしょう(図3)。

図3
▲図3 VSIインターフェースを備えた2GbpsのADサンプリング装置とVSI規格ケーブル

 つながる世界の観測機器 

 インターネットでは世界のコンピュータがつながり、今まで出来なかった情報交換が人類社会に利便性や可能性をもたらしました。我々はVSIによって世界の機器がつながるようになれば、科学データの世界でも同じことが起こると考えています。今まで高速の科学データは特定の研究グループだけのものでしたが、世界で共有できる可能性が出てきたのです。例えば汎用科学インターフェース(VSI)と高速ネットワークデータ伝送を組み合わせれば、世界中の電波望遠鏡を一斉に同じ星に向けVLBIで宇宙の果てを観測したり、行方不明の宇宙探査機を探すといったことが可能になり、人類の持つリソースの集結が可能になります(図4)。なお、CRLでは世界に先駆けて、実際のVSIインターフェース機器を製作中であり、来年度にはデモンストレーション実験を行う予定です。科学者達の理想と夢がつまったVSIインターフェースの今後にご期待頂ければと思います。

(鹿島宇宙通信センター宇宙電波応用研究室)

図4
▲図4 ネットワークの進化とVSIにより各国観測機器間のデータ交換が可能になる

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