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ロボテック通信端末の研究
 プロフィール 

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 昭和30年、山形県尾花沢市生まれ。南極昭和基地で二度の越冬観測を経験。東京天文台(国内留学)で日本の電波天文学の生みの親といわれる森本雅樹氏に師事。鹿島宇宙通信センターの宇宙電波応用研究室長を経て、1999年7月から現職に。

 



 はじめに 

 時計を正確に合わせたいとき、私たちは117に電話をするか、テレビやラジオの時報で確認することがほとんどです。でも、その電話やテレビ・ラジオの時報は、何をもとに決められるのかご存知ですか? 今回は日本の標準時、つまり“時間をつくる”部署である本所の標準計測部・周波数標準課をたずね、その責任者である栗原課長にお話をうかがいました。



 インタビュー 

写真1
▲写真1 日本の周波数標準・標準時の源泉
 「CRLでは光や電波を使った最先端の研究を行っていますが、われわれの実生活に密着していて、わかりやすいのがここの仕事だと思います」
数あるCRLの研究室・施設のなかで、取材件数、見学者数ともに常にナンバーワンという周波数標準課。その対応に慣れているせいか栗原さんは、ユーモアたっぷりにわかりやすく話をしてくれます。

  「私のこじつけですが、ここでは3つの“る”という大事な仕事があります。ひとつは日本の標準時を“つくる”という仕事。これはここにある10台のセシウム原子時計をもとに決めています。

写真2
▲写真2 見学者説明パネルや原子時計模型の展示 
  2番目は海外の標準時と“くらべる”という仕事です。世界にはここと同じように原子時計を置いて、時間を決めている機関がいくつかあります。各機関のデータはパリにあるBIPM(国際度量衡局)に送られ、それらのデータが平均化されて“国際原子時や協定世界時”が決められます。特にCRLは、アジア太平洋地域の中核機関として大きな国際貢献を果たしています。

そして最後の“る”は標準時を公衆回線や電波で“配る”ということです。NTTも放送局も、ここCRLを源泉とする標準時を流しています。そのほかに電波時計ってご存知ですか? すでに販売台数が170万台を超えたといわれていますが、これは自分で時間をわせる必要がないという便利なものです。われわれが電波で送信した時刻情報を時計がキャッチして、自動的に時間を合わせてくれるんです」
“IT”が日常語となった現在、正確な時間を知ることは、私たちの生活に欠かすことができません。それだけに最後の“配る”という仕事がとても大事だと栗原さんは言います。

写真3
▲写真3 オ−ストラリア タスマニア大学の26mアンテナを利用した国際実験スタッフとのスナップ写真
 「以前は短波を使って時刻や周波数情報を送っていたのですが、短波は電離層の影響を受けやすく、そのため精度が落ちるんです。現在では地表を伝わる長波を使っています。この施設は福島県の「おおたかどや山」というところにありますが、ひとつの施設だけで日本列島すべてをカバーすることは少し無理があるので、現在、九州に2番目の施設を作っているところです」

長波帯の施設から送り出される時刻情報は、30万年に1秒の誤差もないという正確さ!これを受ける電波時計は、毎日自動的に日本標準時に時間を合わせることができるそうです。「もうすぐこの電波時計が、家庭用の電化製品にも組み込まれることになるでしょう。そうすれば、停電後にあわてて時計を合わせる、なんていうことはなくなります。つまり、時計は合わせなくてもいいものになるんです」
 でも、そうなればますますCRLの責任が重くなりますね。「そうなんです。日本の標準時をつくり、くらべ、配るということは、24時間365日、休むことができません。だから、いつ、どんなトラブルが起こっても対応できるように、私も携帯電話を24時間手離すことができないんです(笑)」

図4
▲写真4 南極昭和基地に建設した直径11mパラボラアンテナを覆う直径17m黒色レド−ム前の羽毛服姿
 栗原さんはもともとは宇宙技術を利用した空間計測分野の専門家。ハワイが年間60mmのスピ−ドで日本に少しずつ近づいていることを初めて実証したプロジェクトのメンバーでもあり、南極昭和基地に直径11mのパラボラアンテナを組み立て、世界で初めて南極大陸とのVLBI(超長基線電波干渉計)実験を成功させたパイオニアです。その後もヨ−ロッパ・アメリカ・オ−ストラリア・中国など世界中を飛び回っていた人です。
 「だから好き勝手をしているようだけど、実はマイホーム主義者。家族を大事にすることを心がけていますよ(笑)」

写真5
▲写真5 昭和基地で見えるオリオン座とオ−ロラ。北半球との見え方の違いに注目

 ただ、現在は単身赴任中。鹿嶋市の自宅には奥様と高校受験真っ最中の2番目のお嬢さんを残しています。
 「長女が昨年、仙台の大学に入ったので、家族が3箇所に分かれているんですよ。だから1ヵ月の電話料金が5万円を越えることもありますね」
 少し寂しげな栗原さん。
 「家族って、感動を共有できるでしょ。うちの家族はみんなで一緒に行動することが多いものだから、今はちょっと……。去年は長女の受験、今年は次女の受験で、あまり動けないもので。はやくみんなでスキーに行きたいなあ」

  そんな家族思いの栗原さんですが、仕事の話になると表情が変わります。「インターネット社会では“いつ”という共通の時刻情報がとても重要です。たとえば、電子商取引の時間。個人のパソコンに設定されている時間は、まちまちですよね。そのままだと、どの情報が古く、どの情報が新しいものか各自が勝手に解釈してしまう危険性があります。これでは取引は成り立たないでしょう。こういった事態を防ぐために、インターネット時代にふさわしい責任ある日本標準時の供給に関する研究開発が急務ですね」
 私たちの生活にますます密着してくる“時間”。栗原さんの活躍は、まだまだこれからです。

(取材・文/中川和子)

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