《外国出張》

北米の移動通信研究機関を訪問して


笹岡 秀一





 北米における移動通信技術の研究動向を調査するため,科学技術庁の中期在外研究員として平成7年9月24日から10月23日までカナダ及び米国に出張した.

 今回の在外研究の主な目的は,北米における構内通信及び移動通信技術の研究状況,特に,ミリ波構内通信などの構内無線通信技術,並びに,陸上移動通信における変復調技術の研究状況の調査であった.また,通信総合研究所での移動通信の研究状況を紹介し,訪問先の研究者と意見交換を行うことも目的であった.その他に,大学における研究指導に関して見聞を深めることも期待していた.なお,今回訪問したのは,一ヶ所に多少滞在して調査を行う目的と限られた期間とのために,北米にある移動通信に関連する多くの研究機関や大学のごく一部であったが,訪問先では有益は議論ができて,大変実りの多いものであった.また,訪問先では,全ての所で講演を依頼され,通信総合研究所における移動通信の研究状況を紹介できたことも有益であった.

 カナダにおいては,ケベック大学の付属研究所であるINRS-Telecommunications に1週間弱滞在し,構内無線通信及び移動通信の研究状況を調査した.ここでは,構内無線通信の実験的研究及び基地局位置設計法の研究,移動通信の高品質化技術と通信路のモデル化の研究が注目される.また,この間,カールトン大学を訪問して,ミリ波構内通信の実験的研究及び高速伝送技術に関する研究について調査した.また,国立研究機関であるCRCを訪問し,ミリ波デバイスに関する研究状況を調査した.カナダの研究機関を訪問して,ミリ波構内通信の研究が活発でレベルが高いこと,研究開発を産官学(製造業,国立研究所,大学)が一体となって遂行していることが分かった.

 米国においては,カリフォルニア大学デービス校の工学部電子情報工学科のDr.Kamilo Feher 教授の研究室に3週間弱滞在し,陸上移動通信における高能率変調技術に関して調査を行うと共に,通信総合研究所の研究成果を紹介し議論を行った.Feher 教授の研究室では,最近主流である線形増幅器を前提とした線形変調技術とは異なる立場から,非線形増幅器の使用が可能な電力節約型の変調方式の狭帯域化の研究を行っていた.具体的には,変調信号の包絡線変動が小さく,スペクトルも狭帯域となるフィルタリング法(又は,変調ベースバンド波形の成形法)及び波形発生回路のFPGAによる実現法の研究が行われていた.これらの研究は,送信電力増幅器の電力制限が厳しい場合に最適な変調方式を考える上で非常に参考となるものである.

 また,今回の出張で付随的に期待していた「米国の大学での研究指導に関して見聞を深めること」については,その希望をFeher 教授に伝えたところ,色々と便宜を図って頂いた.具体的には,大学院の講義に参加させて頂いたり,Feher 教授と学生や研究員のとの議論の場や技術打合せに同席させて頂いた.また,研究室にできるだけ居ることが有益との指摘を受けた.その研究室は,実験室,工作室及び居室を兼ねた一部屋で,そこに全ての学生・研究員が同居していた.このため,学生・研究員の研究の様子や彼ら議論の様子などをつぶさに知ることが出来て,非常に参考になった.また,時には議論に参加することができて大変良かった.

 限られた期間であったが,当初予定した目的を一応達成することができた.また,それ以外に付随的に得られたことも有益であった.例えば,カナダ及び米国の研究者と議論して,彼らの研究への取 組み方について理解を深めたこと,通信総合研究所で現在進めている研究について有益な意見を聞けたこと,大学における研究遂行と研究管理の具体例を知ることができたこと等が,今後の研究実施及び研究管理に有益と思われる.


 最後に,この出張の機会を与えて下さった科学技術庁及び郵政省の関係各位に感謝いたします.


(通信科学部長)