次は要員についてであります。前述のように平成7年度は予算は増えたものの、実質的な定員増はありません。予算定員は423名であり、研究職は約7割の295名であります。この内本所には約200名、関東支所に約40名、関西支所に約50名の研究員がいます。これに加えて研究所全体では研修生、特別研究員など合わせて約140名の外部研究員・研究補助者が研究活動に従事しています。この内本所には約120名の外部研究員・研究補助者がいます。簡単に言えば本所には、プロパー研究者の6割に相当する外部研究者・研究補助者がいる勘定になります。こうした人達が研究活動のある部分の担い手となっており、合理的な研究指導及び研究の推進が重要な課題となっています。また今年度から開始された情報通信基盤技術の研究開発プロジェクトでは、研究室に要員を重点的に集めると共に、本省から3名の支援、新設の超高速ネットワーク研究室及び高度映像情報研究室へのNTT光ネットワーク研究所及びKDD研究所からの室長の招へい、メーカーからの要員派遣など様々な協力を得て、プロジェクトの推進にあたっています。
予算が増えますと、これに係わる調査や仕様書の制定などの作業が膨大なものになります。これについては所員の皆様に尽力して頂いております。また契約件数の増加や国際入札制度の一部変更などにより会計処理量が著しく増大し、この簡素化・省力化が焦眉の急となりました。このため、これまで検討していました「100万円以下の物品の会計課と各研究部との相互協力による早期調達制度」を導入致しました。この結果会計業務の一部の省力化が図れると共に、各研究部側においては早期に物品を入手出来るようになっています。この方式は研究室及び会計部門双方にとって概して好評であります。
平成7年度における研究開発の中心課題は情報通信基盤研究開発であります。これは従来からの当所における基礎的・先端的指向の研究とは、一味も二味も違って、要素技術の研究は比較的小さく、大部分はシステム指向の応用研究であります。このためユーザー側の技術に対する要望を如何に引き出し、それに答えるかが重要なポイントとなっています。プロジェクトの成果は論文のみならず研究計画の妥当性とその達成度に よって評価されるべきものであり、従って研究計画の重要性及び成果の的確なアピールが大変重要となっています。
中でも(2) 項の「電波利用料財源」を利用するスキームは、近年の無線局の著しい増加による周波数の逼迫を背景に緊急に充実を図る必要のある事務について、この財源を利用することにしたものであります。電波利用料制度は、元来この財源を (1) 電波監視の充実や (2) 総合無線局ファイル作成のために用いることを目的に3年前に設立されました。今回、電波利用料を負担する人に明確な還元要素があることを前提に、「周波数逼迫対策」に利用する道が開かれたものです。従って、その運用については一般の予算とは区別して考える必要があります。ここ1、2年の予算の著しい伸びに加えて、この予算項目は当所の研究活動の性格を大幅に変える要因を含んでいますので、以下これに対する考え方を述べます。
(1)「太陽惑星系科学」や「地球環境計測」のような自然現象物理の研究や計測技術の研究開発。1957年のIGY(国際地球観測年)に象徴される太陽惑星系科学の研究は、広い意味での人間の住む地球環境に関する研究であり、以後活発に研究活動が展開されています。「宇宙天気予報の研究」はいわゆる戦略的研究(*1)の一つと考えることができます。
*1 従来の基礎研究と応用研究の中間に位置づけられた、すぐには応用できないが、将来産業上の応用の可能性を有する研究。
(2)「宇宙通信」や「首都圏広域地殻変動観測」のような大型でリスキーな研究開発。1964年の東京オリンピックの日米衛星TV中継に象徴される当所の宇宙通信の研究開発は現在大きく発展しており、大型で失敗の危険の伴う研究開発であります。こうした研究開発の遂行は国立試験研究機関(以下「国研」と略称する)の大きな役割の一つであります。
(3)「人間・生体情報」や「電磁波物性・材料」のような基礎的・先端的研究。1989年以降、関西支所において開始した「バイオ」、「情報」、「電磁波物性」の研究はこのカテゴリーに属し、人類の知的財産を増やすための研究であります。また光領域COE(中核的研究拠点)の育成に係わる研究活動もこのカテゴリーに属する戦略的研究でありま す。
(4)「周波数資源の開発」や「情報通信基盤技術」のような応用指向の強い先端的研究開発。「周波数資源の開発」は、過去10数年にわたって実施してきており、この研究開発の性格は周波数有効利用に係わる要素技術の開発等の基盤的研究の部分もありました。しかしながら平成5年度からその研究開発の重要性が認識され、予算規模がそれ以前の約10倍となり、また平成8年度から電波利用料財源を利用する道が開かれますと、特に電波利用料を財源として行う部分は、技術基準に結びつけられるような成果が求められることになります。このため要素技術の開発等の基盤的研究の実施のみでは不十分であり、ユーザーの意向を先取りしたシステムを含む応用指向の強い研究の実施が不可欠であります。すなわち学術的に意味のある研究課題の追及のみならず、技術開発の成果の規格化・標準化・実用化などを含む成果の技術移転を最初から折り込んだ研究の推進が必要であります。このような研究分野は、当所の必ずしも得意とする分野ではありませんが、是非ともこうした分野で成果を出せるような手法に習熟する必要があります。この点で平成4年度以前の「周波数資源の開発」と明確に区別して考える必要があります。
この分野の研究課題の推進においては、基礎的部分から実用的部分を含む全体構想のなかで、国研として分担すべき部分を明確にし、その役割を果たす必要があります。研究の実施において他機関・他組織の手を借りるにせよ、研究計画に当該研究分野の中心的課題を盛り込む必要があり、且つ研究計画全体の進行に責任をもち、研究成果を着実に出す視点が必要とされます。このため産官学の連携が重要であり、また全体像を描きながらプロジェクトの遂行を行う研究指導者の育成ないし獲得が大変重要な課題となっています。
(5)「下部電離層の定常観測」、「無線機器の検・較正」、「標準周波数の発射」のような定常業務と技術開発。郵政省設置法に基づく業務であり、周波数標準器の研究などこれらを支える研究開発を行っています。しかしながら国研の研究の性格が基礎的・先端的研究へ移行するに従って、当所においても定常業務部門の縮小、外部移管を図っていく必要があります。
このため手始めとして、当所内の研究談話会や研究成果討論会における顧問や客員研究官の先生方の参加、あるいは研究課題によっては外部専門家によるピア・レビュー(*2)を検討する必要があります。また、プロジェクトシート(研究計画書、同報告書)の作成に際して、内容の妥当性について学術的、行政的、社会的、あるいは経済的側面から評価を頂くことも検討する必要があります。
*2 同じ専門分野の対等な研究者による研究成果の評価
上記3.1項の(4)「周波数資源の開発」や「情報通信基盤技術」のような応用指向の強い先端的研究開発については、電波利用料を財源とする部分は具体的な技術基準の作成をその成果とするものでありますし、その他についても外部専門家による研究計画の策定から研究成果に至るまでの評価を行う仕組を是非作るべきと考えます。これら部外の専門家による評価の仕組については、別の機会に論ずることにします。
今年は我が国で無線通信の研究を行うための組織即ち逓信省電気試験所無線電信研究部が設置されて丁度100年を迎えます。このため記念出版や式典の準備を進めています。100周年を大いに祝い、今後の発展のきっかけとしたいと考えます。