〈外部機関近況〉


郵政研究所


磯部 俊吉



1.概要

 郵政研究所は、夜になるとミニスカートが立ち並ぶ六本木交差点と、未だに根強い人気の東京タワーの真ん中に位置する郵政省飯倉分館(かつての狸穴)にあります。郵政研は、郵便・貯金・保険の郵政三事業のすなわち特別会計の研究所で、昭和63年6月に発足し、情報通信、物流、金融・経済などの分野について、中・長期的な観点から研究・調査を行っています。組織は図1に示すように、4部、1室、1センター、1課、1館からなり、3つの経営経済研究部に代表されるように、経済、金融等の研究による事業のシンクタンク的役割が中心となっています(インターネットのホームページアドレスはhttp://www.iptp.go.jp)。その中で、唯一技術開発研究センターだけが、技術開発研究を行っています。発足当時は十名強で宇宙かなたの衛星通信から大深度地下の郵便輸送システムの研究も行っていましたが、発足後7年経ち、人数も増え、郵便事業の効率化、サービス向上に密接な研究テーマに定着しつつあります。




2.研究テーマ

 技開センターの主な研究テーマは、図2に示す通りです。平成10年2月から7桁の新郵便番号を導入し、郵便物に書かれた住所をバーコードに変換して印字し、これによって配達順に並べるところまで機械化する計画があるので、それに関連した研究がいくつかあります。




(1) 次世代郵便処理システムに関する研究
 大量の郵便物を一層効率的かつ高速に取り扱うために、あて名読取りに関する文字認識の高度化、ビデオコーディング(OCRで読み取った郵便物のあて名画像を人が見て、打鍵入力によりバーコードを付与)による郵便番号未記載郵便物処理の効率化、道順組立処理(郵便物を配達順に並びかえること)の自動化に関する研究を行っています。

(2) 郵政事業の運用・管理システムの効率化・信頼性向上に関する研究
 郵便業務における処理区分フロー、輸送ネットワーク、集配経路等を最適化する際の科学的な意思決定手法について研究を行うとともに、この手法に基づく意思決定支援システムの開発を行っています。

(3) インテリジェント窓口の研究
 スピーディーな窓口サービスの提供、自動サービス機器の導入、また事務処理の効率化を実現する窓口システムを目指して、インテリジェント窓口に関する研究を行っています。

(4) 先端技術の郵政事業への応用等に関する研究
 郵便の徹底的な効率化、省力化を目指して、近年飛躍的に向上した自動化技術、通信技術の活用等、今後研究する必要のある技術を長期的な視野のもとに研究しています。


3.オペレーションズ・リサーチ(OR)

私が行っているのは上記の(2)ですが、ORの研究ということになっています。ORの一つの定義を書けば、「システムの運用に関する問題に科学的な方法、手法及び用具を適用して、システムを管理する人に問題に対する最適解を提供する方法」ですが、幅が広くてとらえにくい概念です。研究内容を具体的に言うと、郵便処理のフロー、機械配備、要員配置、または、ポストや郵便局の配置、配達員の受け持ち地区、輸送の拠点とネットワークなどを計画する際に、ORの最適化手法が使えないかを検討し、必要なら計画業務の運用システムとしての意思決定支援システム(パソコン等を用いた対話型情報システム)を開発しようとすることです。ORの手法としては線形計画 法が有名ですが、現在の研究で使っているのは、シミュレーションや巡回セールスマン問題を解くための遺伝アルゴリズムなどです。シミュレーションでは、シミュレーション言語SIMAN/CinemaをベースとしたARENAという汎用ソフトウェアを使っています。


4.伝統的な技術

 もともと郵政研技開センターの前身は官房資材部用品研究所で、さらにさかのぼれば昭和10年から郵便事業の納入物品に使用する紙・被服等の物理・化学試験等を行ってきた歴史があります。現在も縮小はされましたが、郵便葉書の再生紙化、ビニール封筒等機械処理が難しい材質等の研究を行っています。

 95年11月に全国で39億1100万枚の年賀はがきが売り出されましたが、このうち新たな技術を用いた「版画用専用はがき」が1億枚含まれており、これは郵政研が開発したものです。このはがきは、従来のはがきより白くなっているとともに、インクの吸収力が強くなっているため、カラー印刷の鮮明度が上がり、各種インクの乾燥時間も短くなっています。プリントごっことのマッチングは検討中ですが、版画で年賀状を作られる方、一度使ってみて下さい。郵便事業では、このようにお客さんの多様なニーズに対応するという姿勢が重視されます。


5.寄合い所帯

 技開センターの研究内容は、主に基礎研究、システム開発、本省等で行う調査研究会方式の3種類が同じくらいの割合で、システム開発は、区分機等新しい郵便処理機械、情報システムなどの開発といった実用を念頭に置いたものとなります。本省からの依頼研究という制度があり、ほとんど郵務局からですが、現在ではプロジェクト13件のほとんどが、この依頼研究に関係しています。

 人員構成は、本省の電気通信3局、官房建築部、郵務局、メーカからの出向者等様々です。これらの人が入り交じって、主任研究官を中心に3、4人のグループを作っています。仕事のやり方が異なった職場から集まった人達が1つの仕事をするため、たまにはカルチャーの違いを感じることもありますが、協力しあいながら仕事を進めています。


6.小さい空

 通総研より恵まれているのは、出張の自由度が若干違うのと、今年はありませんでしたが、所内で英会話研修が行われることくらいでしょうか。

 都心は、様々な利便とアミューズメントを享受しやすい環境ですが、空が小さく見えます。時々4号館からの富士の夕焼け、オタワの抜けるような広い青空を思い出しながら、官庁型机配置の係長席でノートパソコンと向かい合っています。

 毎年5月に研究発表会を第1部と第2部に分けて行っていますので、是非ご参加下さい。また、現在、通総研からの出向者は私一人だけですが、飯倉分館にいらっしゃった際には、是非3階へお立ち寄り下さい。


(郵政研究所 技術開発研究センター)