PARTNERS計画を振り返って


井出 俊行



3月に開催されたアジア・太平洋衛星通信東京フォーラム




 約4年間にわたって実施してきたきたPARTNERS計画は、本年3月31日をもって終了いたしました。これを機にPARTNERS計画を振り返って、雑感を述べさせていただきます。暫しのお付き合いをお願いいたします。




PARTNERS計画とは

PARTNERS(Pan-Pacific Regional Telecommunication Network Experiments and Research by Satellite ) 計画は、アジア・太平洋地域における衛星通信ネットワークの国際共同実験を行うものです。この実験では、衛星通信が、教育、医療、学術交流等の分野に、どのように寄与できるかを実証し、通信実験及び衛星電波伝搬測定等の各種実験を通じて技術移転、技術交流を行うことにより、国際協力促進の一助となることを目的として、国際宇宙年(ISY)の1992年から実施してきました。衛星は、移動体衛星通信実験で活躍した技術試験衛星5型(ETS−V)を用い、実験地球局は国内(CRL、電通大、東北大、東海大、放送教育開発センター、NASDA)、及び国外(タイ、インドネシア、パプアニューギニア、フィジーの大学等及びタイ、パプアニューギニア、カンボジア、フィジー等の病院)に設置して、デモンストレーションを含めた各種の実験を行ってきました。詳細については、その前身である「汎太平洋情報ネットワーク実験」(CRL・ハワイ大学の共同実験)とともに、既に本紙(1992年10月第199号、1993年7月第208号)で紹介しているのでご参照下さい。

 本年3月31日をもってETS−Vの通信実験運用を終了することに伴い、PARTNERS計画も終了する事となりました。


現地作業での出来事

PARTNERS計画では、現地作業においても色々な事がありました。前出の本紙(第208号)でも地球局設備の配送ミスや病気(マラリア)の事などが紹介されましたが、その後に起こった出来事の幾つかを紹介すると、電波伝搬特性の測定が順調に終了するかに見えた帰国前日に、バンドン工科大学(ITB)の装置が落雷で破損。帰国準備のためホテルに戻っていた研究員は緊急呼び出しを受け、対策検討のため再びITBへ。ラマダン(断食期間)のためホテル外では食事もとれず、夕食抜きの残業となりましたが、部品の手配も出来ず、測定の継続は不可能な状況でした。幸い、同等品が学内の他の部門にあったので、それを借用して測定を継続できました。部品や道具が不足することはよくある話で、南太平洋大学(USP)では、壁にケーブルを通す穴を開けるのに工具が無く、サバイバルナイフ(いわゆるアーミーナイフ)に付いていた刃渡り6センチメートルほどの小さな鋸で、小一時間かかって穴を開けました。「ネズミに頼んだ方が早かったかな?」とは、現地スタッフの弁。ITBでは、屋外ユニットの冷却ファンのダクトに鳥が営巣してしまい、送信アンプがダウンしたこともありました。USPでも冷却ファンが動かず、開けてみたら蟻の巣がびっしり。改修に手間取ったのは言うまでもありません。



現地作業での出来事成果報告会にて

 本年3月6日、「アジア・太平洋 衛星通信東京フォーラム」が開催されました。当フォーラムは、PARTNERS計画の終了に際し、実験参加各国の関係者が一堂に会して、約4年間にわたり実施してきたPARTNERS計画で得られた研究成果を報告するとともに、今後の情報通信基盤整備に向けた意見交換を行う場として開催されたものです。会場となったKDDホールは、各国の関係者や聴講者で満席となり、改めて関心の高さを知らされました。成果報告では、衛星通信ネットワークの有効性の確認や運用上の問題点等から、熱帯地域における電波伝搬特性に至るまで、様々な報告がなされました。皆一様にPARTNERS計画の有意義性を報告し、技術面のみならず、研究員の交流によるヒューマン・コミュニケーション/ヒューマン・ネットワークの形成も大きな成果である旨の報告もなされました。筆者等も幾度か現地に赴き、地球局の保守調整作業や実験などを通じて、参加各国の方々との友好関係を築くことができたと確信しています。報告会終了後のレセプションでは、旧知の友となった各国の方々と、地球局設置作業や実験での想い出話に花が咲き、ヒューマン・ネットワークのメンテナンスも滞り無く行われました。


PARTNERS計画を振り返って

CRL・ハワイ大学の共同実験として開始した汎太平洋情報ネットワーク実験が、PARTNERS計画としてISY活動におけるアジア・太平洋地域の国際共同実験へと発展し、PARTNERS協議会をはじめとして、多くの関係者の御尽力によって、無事に終了することが出来ました。CRLはPARTNERS計画において、地球局の開発・整備、衛星通信回線の設定、衛星搭載中継器の運用管理等、技術的側面から支援する役割を果たしてきました。特に鹿島宇宙通信センターでは実験の都度、各国との通信回線の接続や、画像・音声の中継など、ネットワークの要として、いわば放送局と電話局を併せたような活躍をしてきました。これらの労に対して、PARTNERS協議会よりCRLへ感謝状が贈られました。紙面を借りまして、関係の皆様に御礼申し上げます。

 実験を通じて、一つだけ残念だったのは、実験を経験した人が限定されてしまった事です。せっかくの機会でしたので、協議会のメンバーはもとより、より多くの方々に参加して頂けたら、もっと多くの成果が得られたのではないでしょうか。現在、郵政省では、商用の通信衛星を用いた新しいPARTNERSを計画しています。多くの皆様の参加をお待ちいたします。

 最後になりますが、これまでPARTNERS計画に御理解・御協力を頂いたアジア・太平洋地域の皆様に厚く御礼申し上げ、ワープロかられることといたします。ありがとうございました。




南太平洋大学(フィジー)でのマルチメディア通信実験





宇宙通信部 移動体通信研究室