超3角形/超4面体と情報空間



 


超3角形を用いた3次元形状の表現処理の例



荒川 佳樹


1 情報通信と情報空間

 通信とは、コミュニケーションをする人と人の間に情報空間を構築することであると、我々は考えいる。情報空間とは、通信網およびコンピュータ上に構築される人工の仮想空間である。

 例えば、テレビ会議では、ブラウン管上に相手側の世界が画像として再現される。これは、2次元画像による情報空間がブラウン管上に実現されていると見なすことができる。次世代の21世紀の通信である3次元通信では、3次元画像を用いて、臨場感ある3次元の情報空間をいかにして通信網上およびコンピュータ上に実現するかが研究されている。

 また、現在ホットな話題となっているマルチメディアでは、動画像を含む映像画像情報がその情報主体となる。そして、この映像画像情報に加えて、音声やテキスト情報など種々の情報が統合的・統一的に処理されることが期待されている。そこで、あらゆる情報が統一処理されるこのような情報空間の実はますますその重要性を増してきている。



2 情報の原子と統一処理

 「このような情報空間をどのように構築・構成するか?」 これは非常に質的で重要な課題である。
私たちが住んでいる実空間(実世界)は100個ほどの原子から、またさらにその原子は数少ない素粒子から構成されている。このように、我々の世界は一見非常に複雑に見えるが、その構成要素は少数で非常に単純である。

 一方、「我々が研究の対象としている情報世界はどうであろうか?」「情報空間を構成する情報の原子および素粒子とは何か?」 ディジタル処理を前提とするなら、情報世界の素粒子とは、最も基本的かつ根元的構成要素という意味で、"0"と"1"であろう。物理学とは違って、情報世界の素粒子ははっきりと確定している。次の素朴な疑問として、「情報の素粒子"0"と"1"で構成される、情報世界における原子とは何か?」 物理学では原子に対する知見はほとんど確定しているが、情報の原子に関する研究はこれまでほとんどなく、あまり関心も持たれてこなかった。情報の原子を追求することが情報空間を実現するための第1ステップであると我々は考えている。

 次の課題は、「このような情報原子で構成される情報空間をどのように統一処理するか?」である。
物理学において、力の統一理論はまだ完成しておらず難しい問題である。しかし、非常に魅力的なテーマとして、活発な研究がなされている。情報分野においても、あらゆる情報の処理を統一的枠組みで行う統一処理(統一モデル)の実現は非常に重要かつ根元的課題であるが、テーマがあまりにも壮大であるためか、これもこれまでほとんど研究されてきていない。

 しかし、高度知的情報処理の実現は、言い換えれば真のマルチメディアの実現は、このような統一処理・統一モデルの実現をなくしてはあり得ないと我々は考えている。

 あらゆる種類の情報を含む情報空間(情報世界)は、非常に広大で複雑な世界である。そこで、我々は研究の第1ステップとして、まず画像/図形世界、すなわち「形」の処理世界を研究の対象として絞り込むことにした。画像/図形世界における原子の探求とそれを用いた統一処理モデルの構築を研究テーマとして取り組んできている。



3 原子図形

 これまで、画像と図形はまったく別の枠組みで表現・処理されてきた。画像はピクセル(画素)ベースで、図形はポリゴン(多角形)ベースで処理されてきた。この両者はどちらも「形」を処理するにもかかわらず全くの別の処理モデル・処理体系となっている。



図1 情報原子としての原子図形


 画像と図形を統一表現・処理するには、これらを統一的に表現できる情報の原子が必要となる。そこで、最も根元的かつこれ以上分割不可能な要素図形であるということで、図1に示すように、点、線、3角形、4面体を画像/図形世界における情報原子と我々は位置付けることにした。これらを原子図形と呼んでいる。そして、これらの原子図形に関する基礎研究を行ってきている。
すなわち、これらの4つの原子図形のみを用いた統一的画像/図形処理体系の確立に取り組んできている。



4 超3角形による図形処理

 今回はこれらの原子図形の中でも最も重要な働きを演じる3角形に関して、超3角形による統一図形処理体系を完成させたのでその概要を解説する。



図2 形状表現法


 従来の(3次元図形に関する)図形処理は、図2(b)に示すように多角形面を用いて表現・処理されてきた(ポリゴンベース)。このような表現形式では、データ構造および処理アルゴリズムが非常に複雑となり、その処理効率もよくない。そこで、3角形の持つ単純性に着目して、図2(c)に示すように多角形面の代わりに3角形面を用いる方法が考えられる。3角形を用いるとデータ構造および処理アルゴリズムは究極的に単純化される。

 しかし、3角形のみを用いて処理を行うと3角形の数(データ量)が指数関数的に急激に増え(3角形の爆発)、また非常にいびつな3角形が生成する (病的3角形の発生)。従って、これまでに3角形をベースにした図形処理は成功しておらず、現在の図形処理はポリゴンベースとなっている。

 我々は、この3角形処理が持つ致命的な欠点を克服するために、 超3角形表現処理を確立した。超3角形表現とは、図3に示すように通常の3角形を拡張し、3角形の3つの頂点が同一直線上になることを許す表現方法である。この3角形を面積がゼロになることから ゼロ3角形と呼んでいる。これに対し通常の3角形を 実3角形と呼んでいる。すなわち、超3角形表現とは、この実3角形とゼロ3角形を混在させる表現形式である。そして、このゼロ3角形を用いることにより、その表現性と処理性を飛躍的に増大させることができた。



図3 ゼロ3角形/ゼロ4面体



5 その成果と今後の展開

 超3角形を用いた図形処理の最大の成果は、情報原子として3角形のみを用いて、統一図形表現および統一図形処理体系を実現したことである。そして、その図形処理において、3角形の表現性と処理性を飛躍的に増大させることができた。すなわち、超3角形表現処理の優位性は以下の点にある。

(1) 3角形処理が持つ致命的欠点である3角形の数の増大を大幅に抑制することができる。
(2) ゼロ3角形は分割処理などからまったく除外できるので高効率処理を実現できる。
(3) ゼロ3角形を用いることにより容易かつ自由に面(3角形)を接続することができる。
(4) 隣接面探索が高速化する。
(5) ポリゴンベース処理では難しい(超)並列処理が容易に実現できる。

 このように超3角形処理では、3角形のみを用いて高効率かつ高速な処理を実現することができる。そこで、多角形をまったく使用する必要がないので、多角形処理の持つ複雑性の問題を根元的に排除することができる。



図4 超3角形処理例


 図4に超3角形図形処理の例を示しておく。計算機実験による超3角形処理の具体的な効果は以下のようである。

(1) 従来のポリゴンベース処理に比べて1,000倍〜10,000倍以上の高速処理が実現できる。
(2) 従来の3角形処理に比べて10倍〜100倍以上のデータ圧縮が実現できる。
(3) 超並列処理のシミュレーション実験結果では、逐次処理に比べて10〜1,000倍以上の高速化が可能である。

 超3角形処理の欠点は、多くの場合、実3角形処理とゼロ3角形処理が別処理となり、実3角形のみを用いる場合に比べて複雑な処理になることである。

 今後の展開としては、現在進めている超4面体に関する研究を早期に完成させたい。そして、今回の成果は図形処理分野に関してであったが、今後画像処理分野にも超3角形/超4面体処理を展開し、超3角形/超4面体処理を用いた統一画像/図形処理体系を実現したい。そして、マルチメディアを含む高度知的情報通信分野における基幹要素技術である統一情報空間モデルの実現に一歩でも近づきたいと考えている。




関西支所 知覚機構研究室