CRLニュース   1996.9 No.247


マルチテラビット光ネットワークに関する研究


総合通信部 超高速ネットワーク研究室
北山 研一



1.研究室の概要

 超高速ネットワーク研究室は平成7年6月に総合通信部の研究室として発足し、現在職員4名と特別研究員2名で構成されている。情報通信基盤技術に関する研究のなかの超高速通信技術プロジェクトを担当し、光波ネットワーク全般にわたる研究を行っている。また当所が平成6年に選定された中核的研究拠点(COE)育成プロジェクトにも参加している。


2.研究のポリシー

 光ファイバ通信分野では、これまでNTTや通信機器メーカが研究開発を支えてきた。しかしながら、1985年にNTTが民営化されてからは、それまでNTTが担ってきた公共的な研究開発の役割は、国研である通信総合研究所が果たさなければならない立場になった。したがって、将来有用と思われる汎用的な基盤技術の研究開発やリスクの大きい研究課題に挑戦することが、いまの通信総合研究所は求められている。

 このような認識のもとに、国全体として見たとき、将来重要であるにもかかわらず現在取り上げられずに「抜け」があるような研究課題や、現段階では実用化の可否が明確ではないが成功すればインパクトが大きい研究課題を取り上げることとした。また他の研究機関との競合を避け、少ないマンパワーでも特色が出せる研究テーマに絞り込んだ。


3.研究テーマ

 日本の公衆通信ネットワークのディジタル化は平9末に完了する予定であり、これによってマルチメディア時代に向けたネットワーク環境が一応整うことになるが、今後ともより一層の高度化と経済化が求められるであろう。我が国で光ファイバ通信技術が実用化されてから約15年間が経過し、既に国内の全ての幹線ルートには光ファイバが導入されている。この間にビットレートの高速化、長距離化は急速に進み、伝送コストは15年で1チャネル・km当り1/100に低減されるに至っている。現在の光通信に関する重要な技術課題は次の2つである。

1) 幹線系光ネットワークの大容量化
2) アクセス系の光無線バックボーンネットワーク

1)については、現在は波長分割多重(WDM)が次世代の光波ネットワークの基本的な技術として注目されているが、違った視点から新しい光多重通信の可能性を追求することも必要である。

2)については、最重要課題はFTTH(Fiber-To-The-Home)であるが、研究開発といっても経済化の性格が強いため国研の研究テーマにはなじまない。これとともに将来重要になると思われるのが、光・電波融合技術に基づく広帯域アクセス系の光無線バックボーンネットワークである。以上の認識をもとに、超高速通信技術プロジェクトでは、大きく分けて以下の2つの研究テーマに取り組むこととした。


(1)光符号分割多重通信技術

 光符号を多重化に用いる新しい光符号分割多重通信の研究開発を行い、WDMを併用したハイブリッド多重で1ファイバ当り1Tb/sを越えるマルチテラビットの伝送容量の実現を目指す。また、カオス同期理論に基づく新たな超多重・高秘話光伝送技術の研究開発を行い、従来の多重数の限界の約10倍に相当する1本の光ファイバ当り1000多重を実現する。具 体的なテーマは次の通りである。

(2)光・電波融合技術

 ミリ波〜サブミリ波帯における光・電波融合技術を確立し、光無線アクセスネットワークの構成技術を検討する。具体的なテーマは次の通りである。


4.研究成果

イ)空間CDMAに基づく2次元並列多重光伝送

 世界に先駆けて空間CDMAに基づく2次元並列多重光伝送に成功した。複数の2次元データを光学的な手法で多重化し、一本のイメージファイバにより光伝送し多重分離するものある。イメージファイバは、図1のように数万本の石英系ファイバコアを有し、直径は約2mmである。身近な使用例には内視鏡があるが、これは1枚の画像だけを伝送するものであり、複数の2次元情報を同時に送り、受信側で特定の情報だけを分離する多重光伝送はこれまで困難とされてきた。

図1: イメージファイバ


 今回の空間符号分割多重伝送は、送信側の2次元入力情報を特定の鍵パターンで光学的に符号化し、複数の符号化された入力を空間的に重畳することによって多重化してイメージファイバで伝送し、受信側で同一の鍵パターンとの相関処理によって元の2次元情報が再生するものである。実験では、図2のように白色光を用いて2枚の4×4ビットの2次元データを、それぞれ異なる8×8の鍵パターンで符号化し、これらを多重化して16mのイメージファイバで伝送し、複合化によって元の2次元データを復元した。符号化および復号化は光学的に全ビットに対して並列的に行えるので高速処理に適している。また、符号化の鍵パターンが暗号の役割も果たすので秘話性にも優れている。

図2: 符号化と多重の実験結果


 従来の2次元情報の転送では、画面を走査し一旦時系列信号に変換しているためデータ転送の高速化が難しく、システム全体のデータ処理能力が入出力インターフェースによって制限されるという、いわゆるI/Oボトルネックが生じていた。今回の2次元並列多重伝送によりI/Oボトルネックが解消できるので、将来的には超並列プロセッサ間を結ぶ大容量の2次元並列光データリンクとして、高速の視角情報処理システム等への応用が期待される。


ロ)コヒーレント相関検波を用いた2値光パルスCDM

 光CDMは無線のスペクトル拡散通信の原理に基づいており、情報ビットをユーザ毎に異なる時間波形で符号化し、同一の符号を「鍵」として復号化する多重伝送アクセス方式である。

図3: コヒーレントと相関検波に基づく全光パルスCDM


図3は新たに提案したコヒーレント相関検波を用いた全光パルスCDMシステムのアーキテクチャである。送信側では、情報ビットで変調した光パルスを(0,p) の2値の位相のパルス列で符号化した後、多重して送信する。受信側では、ユーザが自ら発生した光パルス符号と受信信号とのコヒーレント相関検波を行うことによってそのユーザ宛の情報のみを復号できる。コヒーレント相関検波は受信信号と光パルス符号を合波し、バランス光検波よって逆拡散し閾値処理するものである。本方式の特徴は、以下の通りである。

  1. 従来チップレート(符号のパルス数×ビットレート)で行わなければならなかった復号化をビットレートで行えるので、高速化に適している。

  2. コヒーレントな相関演算によって信号対干渉雑音比を大幅に改善できる。

 既に10Gb/s伝送用の8チップの光パルス符号器・復号器の試作を終えた。図4に示すように、光符号器は分岐比が可変のタップ、0またはπの2値の位相変調を行う移相器、合波器から構成されている。

図4: 10Gb/s伝送用8チップ・2値光パルス符号器


動作原理を確認するため、パルス半値幅5psecの光パルス光源と本光符号器を用いて図5に示すような3チップの光符号を生成し、復号器によって良好なコヒーレント自己相関波形が得た。これによって、10Gb/s伝送の実現に明るい見通しが得られた。

図5: 3チップ・2値光符号とコヒーレント自己相関波形


ハ)光波による60GHz帯ミリ波発生

 提案した波長多重(WDM)光無線アクセスネットワークは図6に示すように、1つの制御局から複数の無線基地に無線信号を配信するシステムである。光・電波の発生原理は光自己ヘテロダイン検波に基づいており、2光波の干渉によってビート周波数に相当する電波を発生させるものである。

図6: WDM光・ミリ波無線アクセスネットワーク


本発生方法の特徴は、一つのコヒーレント多波長レーザ光源の出力光から周波数の異なる複数の光波を光フィルタで抽出し、光ファイバでWDM伝送した後、複数の無線信号を発生できることである。従来から光・電波発生方法は種々検討されているが、光波を直接変調する方法では40GHzが限界であり、60GHz帯では周波数の安定性や純度に優れたミリ波信号を同時に発生した例はない。

 実験に用いたコヒーレント多波長レーザは、光注入型モード同期に基づく半導体レーザである。2.4GHzの繰り返し周波数のモード同期マスターレーザからの出力パルス列を、2.4GHzの25倍に当たる60GHzの共振周波数を持つスレーブレーザに注入することによって、図7のように、周波数間隔が60GHzの光を20nm(波長差1nmは周波数差125GHzに相当する)以上の広い波長領域にわたって発生する。実験では、簡単のため2波のみを光周波数分離フィルタで抽出し、情報信号の代わりに156MHzの正弦波で変調し、100kmの光ファイバで伝送した後、60GHzのミリ波を発生させた。

図7: 光注入されたモード同期レーザの発振スペクトル


図8は生成されたミリ波のRF周波数スペクトルである。スペクトル線幅は0.3kHz以下であり、極めて周波数安定性が高いことを示している。今回の光・ミリ波発生技術によって、マイクロセルあるいはピコセルのアクセス系ミリ波無線広帯域通信システムの実現が一歩近づいたといえる。

図8: 100Kmの光ファイバ伝送後の60GHzミリ波信号スペクトル


5.今後の進め方

 平成8年度の目標を以下に示す。

(1)光符号分割多重通信

(2)光・電波融合技術に関する研究
 ネットワークの2大構成要素はリンクとノードである。前者は光伝送技術であり、後者は光ノード技術である。今後、これらの技術について総合的な研究開発を行い、21世紀のマルチメディア時代に即した知的で高度なネットワークを支える光波ネットワークの基盤技術を確立する。



<連携大学院シリーズ>


連携大学院の客員教官を体験して


通信科学部長
笹岡 秀一



1.はじめに

 私は、平成8年4月から電気通信大学の情報システム学(IS)研究科の客員教授に任命され、情報ネットワーク学専攻(通称、N専攻)のネットワーク基礎学講座を担当している(CRLニュース、・210参照)。着任早速、前期の講義を担当し、初めてのことで大変であったが、貴重な体験となった。また、配属された学生の修士論文の指導を行って、先生の気分を味わっている。まだ半年しか経っていないが、その間の体験と印象を紹介したい。

2.講義体験

 講義は初めてのこともあり、4カ月も前から準備に取りかかった。当初、これを機会に講義ノートを作成し、特徴ある講義をと意欲に燃えていた。しかし、徐々に大変さが分かってきたので、教科書を使用する安易な道を選ぶこととした。さて、専門分野(移動通信)に近い比較的易しい本を教科書とすることにし、本を熟読しながら講義内容の検討をかなり進めたころ、「あまり専門的な講義は理解してもらえない」、「高価な教科書は受講生に評判が悪い」との話を聞いた。そこで、計画を急遽変更して、休日は、適当な教科書を探して書店めぐりとなった。
講義内容は変復調及び伝送方式の基礎的なものとし、教科書は通信方式の入門書を使用した。本の内容は既に理解しているもので、楽に講義をするつもりであった。しかし、いざ講義をしてみると、自分が理解することとよく分かる講義をすることでは、大きな差があることを実感できた。結局、準備に多大な時間を使うこととなった。

 講義では、受講生の理解度などをチェックする意味もあって、途中で順番に質問をしながら進めた(これは、不評だったのではと心配している)。また、期末の試験を省略する意味から、適宜レポートを提出してもらった。レポートは、あまり難しくないことを心がけたが、受講生にはかなり苦労されたようだった。また、レポートは、採点して次の講義で返すこととしたが、結構大変であることが分かった。なお、レポートの類似性を「進化系統学的手法?」で整理すると、学生間の連携関係が推測され、興味深かった。

3.研究指導

 当所の客員教官から指導をうける学生は、修士(又は博士)論文の研究を当所の関連の研究室で実施している。私は、博士課程一名(D2)、修士課程二名(M2、M1)を担当している。このうち二名は、前任の客員教授であった横山(前)次長からの引継で、実質的には、無線パケット通信が専門の研究者の指導の下で制御プロトコルの研究を行っている。研究の詳細な指導は引き続きお願いして、全般的なところで何か指導できればと考えている。

 今年からの学生については、関連の研究室と研究者に指導も含めて引く受けて頂くことも考えたが、今回は初めてのこともあり、自分で直接に指導することにした。2年間の限られた期間で大きな成果を上げるには、適切な目標設定と研究の立ち上げが重要に思われる。現在、研究の実施に必須な専門知識 の習得や計算機プログラム開発の演習に励んで頂いている。しかし、立ち上げが思いの外に難しいことが分かってきた。IS研究科は、学部を持たない大学院であり、多数の大学からの各種の学部・学科の卒業生がいる。また、多彩な経歴を持つ社会人を積極的に受け入れている。このため、学部からの継続で修士論文に取り組む場合に比べて、研究成果を研究会での発表や論文投稿に結びつける上で、かなりハンディがあるようだ。その分、新鮮な気持ちでの頑張る必要があるようだ。

 修士論文の指導は、人それぞれでなかなか難しいものであるが、一応の基本方針を決めて取り組んでいる。その一つは、新規性の高い独自技術の研究に果敢に挑戦してもらうことである。二つ目は、学生の自主的な努力を尊重しながら、努力が徒労にならないように状況を把握しながら適切なアドバイスをすることである。まとめて言えば、努力に応じて成果として報われるように手助けすることである。

4.N専攻の当所関連の窓口として

 N専攻には、当所関係で客員教授及び助教授が各二名いる。今年度は、それらの窓口として外部対応及び学生の相談の担当となった。これまで、各種の手続きの件、研究環境の要望の件、学会参加費などの件、入学希望者の問合せの件などがあった。また、担当になった機会に新たな試みとして、学生全員の参加で研究進捗状況の月間報告会を行うこととした。これは、各自から研究の進捗状況と問題点等を報告してもらうものである。専門外の研究の理解や自分の研究の説明に慣れること、研究スケジュールの自己管理を習慣付けること等の切っ掛けになればと期待している。

5.おわりに

 まだ半年しか経っていないが、その間いろいろと勉強となった。客員教授をさせて頂いているので、IS研究科の名を高めることが期待されていると思う。ささやかな貢献として、最近、共著の誌上論文が2件採録されたので、著者紹介に客員教授のことを記した。今後、学生の指導を通して、IS研究科及び当所に貢献したいと考えている。



応用超伝導国際会議に参加して


関西支所 超電導研究室
鵜澤 佳徳



1 はじめに

 去る8月25日〜30日に、米国ペンシルバニア州、ピッツバーグにおいて開催された1996 Applied Superconductivity Conference(ASC)に参加した。 
歴史的には1966年に始まり今年で17回目を迎える。
ここ3回は主要参加国であるアメリカ、ドイツ、ロシア、フランス、日本、イギリス、オランダ、スウェーデンなどから1500名を越える研究者、技術者が集い、超伝導分野では世界最大規模の国際会議である。テーマは超伝導材料、磁石、薄膜、デバイス、磁気センサー、電磁波センサーなど超伝導応用に関するあらゆる分野であり、発表件数は1000件を越える。第一線で活躍する研究者が一堂に会し発表・討論が行われるため、各分野での世界最新の情報、研究動向を知るための絶好の会議である。

 当室からは発表6件、参加者5名、また本所から発表3件、参加者2名があり、CRL全体では日本からの参加者のうち、電総研に次いで2番目に多かったと思われる。

2 会場にて

 最近ではやっと知り合いの研究者も増え、会場で彼らに会うのが国際会議に参加する楽しみの一つとなった。特にASCは前述の通り”超伝導のお祭り”的存在であるから、お偉い先生から実働部隊まで参加しており、自分 の研究分野における関係者に効率良く会うことができる。筆者の知り合いはもちろん実働部隊の方である。会場で会うと、お互いの結果に興味があるためか、筆者に世間話をするほどの語学力がないためか、発表を待たずしてすぐに今回の成果を紹介しあい、問題点を議論する。特にライバルの動向は気になるところである。会場内を探し、捕まえては話をする。実はこのような中に、通常の発表にはでてこないような苦労話や失敗談があり、また他国の研究の進み具合がわかるため、”今後なにをすべきか”という短期的戦略を練るにあたって重要なこととなる。 

3 発表

発表前は緊張する。一体どのくらいの人が興味をもってくれるのだろうか?今回はポスターセッションにおいて、当室で開発しているNbN/AlN/NbN接合を用いたサブミリ波ミキサーに関する発表を行った。これは現在主流であるNb/AlOx/Nb接合よりも高周波応答が期待されるもので、近い将来実用化の研究が進むと当室が有望視しているものの1つである。ポスターセッションはhotな話題ほど人気があるので、人の集まり具合によって自分の研究の位置づけがわかる。幸運にもプレナリーセッションで米国TRWのお偉方が”今後、超伝導エレクトロニクスで有望な材料はNbNであろう”と発言したことからポスターの前には人が途絶えることなく、2時間を有意義に過ごすことができた。セッション中、超伝導の大御所的存在であるジェット推進研究所の研究者からNbN接合の研究を再開していると言われ、自分の研究テーマのおもしろさと緊急性をあらためて認識した。当室の研究のベクトルは正しかったようだ。

4 おわりに

 私事ばかり述べてしまったが、CRLからの他の発表も好評だったのは言うまでもない。また、今回当室から二人、本所から一人がセッションの座長を務めたことを考えると、少しずつではあるがCRLが世界の場で実績を上げつつあるということではないだろうか。(それとも年を取ったということか?)

 これまで述べてきたように、国際会議では直接、当事者同士で話ができ、最新の情報交換を行うことができるため、”今何をすべきか、これから何がおもしろいのか”を明確につかむことができる。これは研究室に閉じこもって、どんなに多くの論文を読んでも得られないものである。特にASCはそういった性格が強いと実感した。2年後も是非参加したいものである。

 尚、本出張はSCAT助成によるものである。ここに深く感謝致します。



写真: ポスターセッションにて



中核的研究拠点(COE)機関評価委員会を開催


第一特別研究室 主任研究官
高部 政雄



 科学技術振興調整費を活用した中核的研究拠点(COE)育成制度では、支援開始後3年目に、中間評価を受けることが義務づけられており、当所のCOEプロジェクト「先端的光通信・計測に関する研究」は、今年度中間評価の対象になっている。

 科学技術会議政策委員会のCOE育成委員会による中間評価は、研究所の視察や今回開催された機関評価委員会の評価報告を基に、科学技術振興調整費による支援打ち切りの可否決定を含めて、12月中旬に実施される。

 機関(CRL)のCOE評価委員会については、選定された初年度(平成6年度)に国際シンポジウムを開催した折りに評 価委員会が開催され、研究計画についての論議が行われ、計画通りに推進する旨の評価をいただいた。今回は3年目に当たり、今までの取り組み、進捗状況や成果、今後の計画等について評価を行うための討論をしていただいた。

委員会の開催は、8月22、23日の2日間で、状況報告や実験施設の視察、分野別討論、委員による討論、全体討論が活発に行われた。なお、評価委員は、東北工業大学の稲場文男教授を委員長とする光技術分野が専門の国内の大学教授6名と、国外の大学教授等4名計10名から構成され、今回全員の参加により、実施された。


中核的研究拠点機関評価委員会


 評価の為の資料としては、COEプロジェクト報告書(本年3月に事前評価資料として作成配布した暫定報告書を、委員のコメントに従い開催までに改訂したもの)等が使用された。又主要論文の別刷り等も配布した。

 資料の内容は、CRLの現状及びCOEプロジェクトの現状、研究マネージメント、COE設定領域の研究成果、中核研究の成果、省及び機関の指導・支援状況、COE化推進が所内に与えている影響等について英文で103頁にわたって記述したものである。

 評価結果については、今回の論議を踏まえ、各委員が評価票に記載し、委員長が纏め、報告書を作成することになっている。



The Best Research Instituteを目指す



通信総合研究所 次長

箱石 千代彦



 以前、理化学研究所の当時の所長をされていた小田稔博士が、理化学研究所はいろいろな研究テーマをかかえすぎていてベクトルが定まらないのではないかとの批判にこたえて、研究所いがぐり論で応じられた。研究所は栗のようなものであって、いがぐりが四方八方へ飛び出していて、それらがどれもピンピンと突きささってくるぐらい強ければそれでいいのではないかとの論旨である。また、最近、日韓郵政大臣会合にあわせて来日された韓国電子通信研究所(ETRI)の所長梁承澤博士は、昨年1年間を通じてみると、研究者1人当りのpaper、patent、productのいずれの面においても、ETRIは世界一の研究所であったと紹介された。

 ところで、国立試験研究機関である通信総合研究所は、納税者である一般国民、それに世界人類に情報通信の研究開発を通じて、恩恵をもたらすことが求められている。ここでいう情報通信の研究開発とは、人類の知見を高めることに貢献する基礎的研究、長期的な観点から開発を行う先導的研究、国民社会の健康、安全等に貢献する全般的研究の3つを国に期待される基本的研究としてよいと考えられる。

 さて、良い研究所を作るにはどんな要素が必要で、どんな心構えがいるのであろうか。まず、要素であるが図1を見ていただきたい。研究所はなにより人である。どのような分野の仕事をし、どのように人を育ててきたかという歴史が、最も基底にある要素である。輝かしい歴史のうえに、輝かしい歴史が築かれる確率は大きく、歴史を知ってこれを尊重し、またより良い歴史を積み重ねるという自覚なしには、良い研究所はありえない。

図1:良い研究所を作るには


 二番目の要素は、人の雰囲気、考え方、活動の方法、場所のかもしだすムードといった伝統である。進歩的体質、保守的体質といったものもこれに入るが、この要 素の最大のポイントは、伝統は人の交替によって変わりうるということである。たとえば、進歩的体質をもつ組織に、大変保守的体質をもつ人が加わると、その組織の伝統は必然的に変更を受ける。そのような意味で、良い伝統をはぐくむという言葉があるが、このことに対する配慮なしに、良い研究所はないと考えられる。

 三番目の要素は、研究活動そのもの、研究業務、日々の運営から成るプロジェクトの実施である。ここでは勿論、研究者の意欲、創造性が一番のキーであり、研究活動そのもの以外に研究所の生産センターはないのであるから、これをどのようにして高く掲げ維持していくか最も重要な要素といえる。これに付随する事項としては次の4つが主要なものである。@情報収集とセンシティビティ−科学或いは社会・技術環境への柔軟なレスポンス A国立研究所、大学、民間を通じた人の移動−秀れた研究者のリクルート、チームの結成 B大小さまざまなプロジェクト或いは個人プロジェクトの評価−良いプロジェクトの設定 CPR、プレゼンテーション、影響力ある人間との接触−良い研究環境、研究設備、使い易い予算の獲得。

 四番目の要素は、プロジェクトの実施についての反省、すなわちプロジェクトの評価である。プロジェクトの内容、実態を詳細に知っているのはプロジェクトの実施者のみであるという事実と、実施者は自らの事績に愛着をもつことが多く、かつ、しばしば視野が狭くなってしまうという事実とにどのように折り合いをつけて、評価を適確に進めるということは、かなりデリケートな問題である。さらに、プロジェクトを評価して、より良いプロジェクトを設定する、つまり、プロジェクトの調整、改廃、リストラクチャリングを行いつつ、それに携わった人間という人的資源は、日本全体でみるとエンカレッジし有効に働いてもらうことができなければならない。

 五番目の要素は、研究者、管理者への報酬である。報酬には金銭的報酬のほか、社会的ステータス、他からの尊敬なども含まれるであろうが、創造性にあふれた研究を進めるためには、研究一本槍の研究者、つまり管理者的要素をもたない純然たる研究者に対する報酬を厚くするべきである。また、我が国全体として創造立国へ突き進んでいくためには、プロジェクトリーダーや上級管理者について世界中からヘッドハンティングができる体制ができるよう報酬制度を見直していく必要がでてくる。

 以上、5つの要素によって良い研究所が少なくとも理屈のうえでは出来あがり、歴史となって循環すると考えられる。


 ひとつの研究所は様々な人達から成るひとつの社会である。所長をはじめ、総務、企画のような管理部門の人々、いくつもの研究部門の人々、その他様々な人々によって成り立っている。ここで研究者と研究を支援する人々に分けて最も望まれる資質について考えてみたい。まず、研究者は紙と鉛筆だけをもって陸上競技のトラックに立たされているようなものだとの比喩がある。現代科学や技術の世界では巨大な実験設備や解析用コンピュータが必須になっているようであるが、独創性という競争の選手として自分の頭脳だけを頼りとしてトラックに立っていることに違いはない。研究者には独創性こそが一番大切なものである。さて、この独創性を伸ばすためのキーは、まず第1に本人の独創的たらんとする意欲であり、第2には上司、先輩が部下、後輩に対して独創的であることを好み期待しているというサインを送りつづけることである。独創的であるようにするための準備トレーニングとしての勉強や、手法の獲得ということはいろいろあろうが、研究所全体が独創性、オリジナリティを尊重 するムードを高めていくことは欠かせない。日本の社会は独創性を許さず受け入れない社会であるというようなことが言われているが、国立の研究所は変革のパイオニアになるべきであり、この結果多少のトラブルが生じても構わないと考えられる。

 次に、研究を支援する人々は、研究を育成し管理するプロである。「菊づくり汝は菊の奴かな」という古い川柳がある。菊づくりをする愛好家が、まるで菊の下僕か奴隷のように菊の世話をしている様をよんだものだが、研究を支援する人々も全くこれと同じであり、この人達の努力があってはじめて研究は花をひらき実を結ぶ。このなかで研究部門の長である研究管理者は、プロジェクトの設定、予算の獲得、研究者の確保からはじまって、研究の推進、進捗状況の管理など多方面の仕事を受けもつことになる。いわば、研究者と研究を支援する人の両者を兼ねたプレイング・マネージャの役割をしているが、このうちマネージャの部分の機能を周囲で分担することができる仕組みを作ることが重要である。

 筆者は、去る7月に当研究所に着任して以来、古濱所長のリーダーシップの下、CRLをthe best research instituteにしたいと念願しています。研究所の皆様方の一層の奮励を期待しますとともに、関係者の方々のご支援をたまわりますよう、お願い申しあげます。



<研究発表会等のお知らせ>


第91回研究発表会のお知らせ


 平成8年度秋季研究発表会(第91回)を関西の大阪メルパルクホールにて開催いたします。特に今回は無線通信研究100年を記念してカリフォルニア大学の伊藤竜男教授による最先端アンテナ技術の特別講演を行います。また、講演の他に、当所のより多くの研究を紹介するためポスターセッションを行います。より多くの方々のご来場をお待ちしております。

詳細につきましては こちら をご覧ください。

日時:平成8年10月30日(水) 午前10から午後5時まで
場所:郵便貯金会館 メルパルク大阪 4階



無線通信研究百年記念

CRL周波数資源プロジェクト研究発表会のお知らせ


 移動局を中心とする近年の無線局の急激な増加などの周波数利用の増大、多用化、高度化に対して将来とも安定した周波数供給を図るには、未利用周波数帯の開発、既利用周波数帯の効率的利用などを可能とする研究開発を積極的に進める必要があります。

 このような観点から、郵政省通信総合研究所では、平成5年度から規模を拡大して、大学や民間の研究機関等と連携を図りつつ周波数資源開発を行ってきました。それから3年余りを経過し、また、本年は無線通信研究百年でもあることから、これを機会に当プロジェクトの成果を広く一般の方々にご理解頂き忌憚のないご意見を頂くとともに、今後の周波数資源開発の一層の推進に寄与するため、本発表会(講演並びに開発機器の展示)を開催することとしました。以下に本発表会の概要を示します。多数のご来場をお待ちしています。


  1. 日時 平成8年10月22日(火) 10:00〜16:55
    (休憩時間に展示機器の説明を行います)
  2. 会場 虎ノ門パストラル「鳳凰の間」
  3. プログラム

予定時間
次 第
講 演 者
10:00-10:05 開会の挨拶 通信総合研究所長
古濱洋治
10:05-10:10 来賓挨拶 郵政省電気通信局電波部長
田中征治 氏
10:10-11:00 基調講演
高度情報社会における電波周波数の有効利用
拓殖大学工学部長
池上文夫 氏
11:00-11:20 周波数資源開発の取り組みについて 通信総合研究所電磁波技術部長
杉浦 行
11:20-11:55 放送用周波数有効利用技術 通信総合研究所放送技術研究室長
都竹愛一郎
11:55-13:30 休 憩   (展示説明)  
13:30-14:05 インテリジェント電波有効利用技術 通信総合研究所通信系研究室長
吉本繁壽
14:05-14:40 マイクロ波帯移動通信技術 通信総合研究所高速移動通信研究室長
長谷良裕
14:40-15:15 ミリ波構内通信技術 通信総合研究所ミリ波技術研究室長
真鍋武嗣
15:15-15:45 休 憩   (展示説明)  
15:45-16:20 ミリ波帯通信用デバイス技術 通信総合研究所電磁波技術部主任研究官
松井敏明
16:20-16:55 光領域周波数帯の研究開発 通信総合研究所光技術研究室長
廣本宣久
16:55 閉会の挨拶 通信総合研究所次長
箱石千代彦


◆展示:8素子x2段アレーアンテナによる可変ゾーン構成模擬実験装置、移動体位置測定装置、QAM等化器、OFDMによる画像伝送実演、60GHz無線LAN実験装置による画像伝送実演、60GHz帯無線LAN用多セクタアンテナ、60GHz帯誘電体装荷平面アンテナ、半導体近赤外検出素子


4.問合せ先   周波数資源プロジェクト担当:
  TEL 0423-27-6913、 FAX 0423-27-7602、E-mail ihara@crl.go.jp

なお参加申し込みは定員(約230名)になり次第締め切らせていただきます。



無線通信研究100年記念式典

及び講演会開催案内


 本年は、我が国が明治29年(1896年)に逓信省において無線電信に関する研究を開始してからちょうど100年目にあたります。

 日本における無線通信のめざましい発達は、我々の生活を豊かにしてきました。また、無線通信技術は21世紀に我が国が目指す「科学技術創造立国」「情報通信社会」における中心的役割を果たすことが期待されています。

 そこで、我が国の無線通信の研究発達の歴史を振り返えると共に、現在および将来の無線通信技術について展望することにより、情報、通信、放送分野の連携と発展の促進をはかることを目的として、記念式典および講演会等を行います。

詳細につきましては こちら をご覧ください。

日時:平成8年10月24日(水) 13:30〜
場所:サンケイ会館 サンケイホール(5F)



外部誌上発表


IEEE Trans. Neural Networks 誌 (1996年5月)
A Categorizing Associative Memory Using an Adaptive Classifier and Sparse Coding
ペパフェルディナン、メディヌリシラジ情報通信ジャーナル (1996年5月) 「インターネットで宇宙天気予 報」〜宇宙環境情報サービスシステム〜石橋 弘光春秋会総会 (1996年5月) 最近の電磁環境問題について杉浦  行 J. Appl. Phys (アメリカ物理学会) (1996年5月) Superconducting properties and crystal structure of single-crystal NbN thin films deposited at ambient substrate temperature王   鎮、川上  彰、鵜澤 佳徳、小宮山牧児
Japanese Journal of Applied Physics (1996年5月)
Ultrashort Electromagnetic Pulse Radiation from YBCO thin Films Excited by Femtosecond Optical Pulse
斗内 政吉、谷 正彦、王  鎮、阪井 清美、友澤 靖嗣、萩行 正憲、村上 吉繁、中島 信一Telecom FRONTIER SCAT Technical Journal (1996年5月)
窒化ニオブトンネル接合を用いたサブミリ波帯SISミキサー王  鎮
Electronics Letters (1996年5月)
THz optical beat frequency generation by mode-locked semiconductor lasers
小野寺紀明
中部エレクトロニクス振興会・電磁環境委員会「EMC計測に関する初心者講習会」 (1996年5月)波形と評価、統計とその意味(5/16) ・妨害波の測定と評価方法(5/23)杉浦  行