地上ディジタル放送の研究


総合通信部 放送技術研究室長
都竹 愛一郎



1. 放送の歴史

 イタリアのマルコーニが1895年に無線通信の実験に成功してから今年で101年である。この無線通信が世界で最初に放送(ラジオ放送)として実用化されたのは、1920年米国ウエスティングハウスのKDKA局である。日本では大正14年(1924年)にラジオ放送が、そして昭和28年(1953年)にテレビ放送が開始されている。

 放送が始まってから70年経った現在でも、その変調方式は当時とほとんど同じアナログ変調である。ところが、世の中のディジタル化の流れは放送にも押し寄せ、今年10月からCSを使ったディジタル衛星放送(PerfecTV)が日本でも開始された。(ただし、信号の一部分や電波の隙間にディジタル変調した信号を乗せる、広い意味でのディジタル放送は、昭和60年(1985年)にテレビジョン文字多重放送として実施されている。この文字多重放送は、テレビ信号の垂直帰線期間に振幅変調されたディジタル信号を乗せている。) 画像の符号化から変調まで全てをディジタル化した放送は、このCSディジタル放送が初めてであり、その意味で今年はディジタル放送元年と呼んでもよいであろう。

 ディジタル放送の研究が本格的に開始されたのは、音声放送についてはヨーロッパのユーレカ147プロジェクトが1980年代中ごろから、またテレビ放送については、ディジサイファやMPEGなどの動画像符号化が発表された1980年代後期である。欧米でのディジタル放送の動きを受けて、ITU(International Telecommunication Union)の無線通信セクタ(ITU-R 旧CCIR)に標準化の作業班(タスクグループTG11/3)が設置され、地上ディジタ ルテレビジョンに関する勧告作成作業が進められた。

地上ディジタル放送実験局が設置された60m鉄塔




2. ディジタル放送の特徴

 アナログのレコードが、瞬く間にCD(コンパクトディスク)に変わったのは、ディジタル化することによりCDの音質が良くなり、さらに取り扱いが非常に簡単になったためである。同様に放送もディジタル化することにより多くのメリットが生まれる。以下にディジタル放送の特徴をまとめてみよう。

(1) 高能率の画像符号化

 映像や音声情報は、人間の知覚特性から省略しても情報の劣化を感じさせない部分があり、これらの部分を省略することにより、伝送する情報を大幅に減らすことができる。またディジタル信号処理の技術により伝送する情報を削減することも可能である。これらの技術により生まれたのがMPEGと呼ばれる高能率符号化である。例えば通常解像度のTV画像は270Mbpsの情報量があるが、MPEGを用いれば、4~15Mbpsまで減らすことができる。したがって、この高能率符号化技術により限られた周波数帯域幅の中で多くの番組を放送することが可能となる。

(2) 高い周波数利用効率

 アナログ放送(変調)では、帯域幅6MHzのチャンネルで送ることのできる情報は最大6MHzであるが、ディジタル放送では変調方式を工夫することにより、10~30Mbpsのディジタル情報を送ることができる(ただし、単位が違うことに注意されたい)。1Hz当たりの情報伝送量を周波数利用効率(単位はb/s/Hz)と呼んで伝送効率の目安としているが、ディジタル放送では、2~5が可能といわれている。仮に、周波数利用効率が3のディジタル変調方式を用いた場合、帯域幅6MHzでの情報の伝送量は18Mbpsとなり、さきに述べたMPEGを使って1つの番組を6Mbpsに圧縮すれば、3番組の放送が可能となる。

(3) 高精細画像の伝送

 さきに述べたMPEGは、高精細画像(HDTV)の符号化も可能である。MPEGを用いれば、HDTVの情報量約1.2Gbpsを30~120Mbps程度まで減らすことができる。この高能率符号化技術によりHDTV番組も放送することが可能となる。

(4) 耐雑音性

 ディジタル変調は、従来のアナログ変調に比べて非常に雑音に強い変調方式である。これは、変調信号がディジタル(離散的な値)のため、復調時に雑音を排除できるためである。雑音に対する強さは、ディジタル変調の方式により異なるが、例えば16QAMではアナログ変調の約100倍、QPSKでは約1000倍である。このことは、ディジタルとアナログで同じ画質の絵を見るのに、ディジタルなら数百分の一の送信電力ですむことを意味している。

(5) 映像、音声、データの融合

 符号化装置によりディジタル信号に変換されてしまえば、映像も音声も同じように取り扱うことができる。また、通常解像度の番組とHDTV番組を同じ伝送路に多重することも可能である。送信側で、番組の内容を識別する情報を合わせて送ることにより、視聴者は伝送路を意識せずに希望の番組を取り出すことができ、使いやすい受信機が実現できる。

(6) 限定受信とスクランブル

 送信データをスクランブル(データを並べ替えたり、数学的な処理を行なう)して、特定の視聴者だけ受信が可能なようにする方式を限定受信と呼ぶ。受信料を払った人だけがスクランブルを解けるようにすれば、有料放送が可能となる。また、地域を限定した放送(例えばサッカー中継の場合、スタジ アムのある地域では受信できないようにしてスタジアムの来場者数を減らさないようにする等)が可能である。

ディジタル放送設備




3. 地上ディジタル放送の動向

(1) 国際動向

 地上ディジタルTV放送の国際標準化は、先に述べたように、ITU下の無線通信セクタ(ITU-R)にて行われている。特に、地上ディジタルTVに関する標準化は、は米国でのATV制定スケジュールに追われて、急いで勧告作成作業を進めようとしており、現在の放送分野で最もホットな議論が交わされている分野である。この審議を行うタスクグループTG11/3は、第一回会合が1992年12月にジュネーブにおいて開催された。この後、年1回のペースで審議がなされ、今年11月にシドニーで最終会合が開かれ、いくつかの勧告を作成し、その任務を終えた。表1にITU-R勧告となった地上ディジタル放送の変調方式に関する仕様の一部を示す。ただし、日本の方式は本文の表ではなく、付録に検討中の方式として記載されている。


ITU-Rの勧告


表1:ITU-R勧告となった地上ディジタル放送の変調方式に関する仕様の一部
米国 日本  ヨーロッパ
パラメータ 6MHz
シングルキャリア
6MHzマルチキャリア 7MHzマルチキャリア 8MHzマルチキャリア
帯域幅 5.38MHz 5.6MHz 6.66MHz 7.61MHz
キャリアの数 1 1400および5600 1705および6817 1705および6817
変調方式 8-VSD DQPSK~64QAM
(OFDM)
QPSK~64QAM
(OFDM)
QPSK~64QAM
(OFDM)
シンボル長 92.9ns 250マイクロセカンドおよび1ms 256マイクロセカンドおよび1024マイクロセカンド 224マイクロセカンドおよび896マイクロセカンド
誤り訂正方式 トレリス+RS 畳み込み+RS 畳み込み+RS 畳み込み+RS
情報伝送量 19.39Mb/s 3.85~22.46Mb/s 4.35~27.71Mb/s 4.98~31.67Mb/s
所要C/N 15.19dB 6.0~20dB 3.1~20.1dB 3.1~20.1dB


 ヨーロッパでは、ディジタルTVの方式を統一するために、EP-DVB(European Project Digital Video Broadcasting)で検討が進められている。地上ディジタル放送の変調方式は、日本と同じOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)である。1995年の12月にDVB-T(DVB-Terrestrial:地上放送の分科会)の方式が合意され、1997年にも放送が 開始される予定である。

 米国では、1987年にATV(Advanced TV)の検討が開始され、1996年8月にFCC(米国連邦通信委員会)が最終案を公表した。変調方式は、8値VSB(Vestigial Side Band:残留側波帯)としており、ヨーロッパや日本とは異なる方式である。1998年には、放送を開始する予定である。


(2) 国内動向


ディジタル放送用機器。

(左からMPEG2エンコーダ、OFDM変調器、OFDM復調器、MPEG2デコーダ)


 我が国では、通信総合研究所のほかにNHKの放送技術研究所と次世代ディジタルTV放送システム研究所がOFDMによる地上ディジタル放送方式の検討・開発を行っている。OFDMに係る技術開発は1980年代の初めには日本でも行なわれていたが、放送に応用するための研究は、残念ながらヨーロッパに比べて遅れている。これらの機関のみならず、広く関連分野のレベルアップが望まれている。なお、地上ディジタル放送システムの実現に向け、現在上記の三機関によるSFN(Single Frequency Network:単一周波数ネットワーク)の共同実験を行なっている。また、当所と日本テレビ放送網Mとの間でHDTV(High Definition TV:高精細TV)の地上ディジタル放送の実験が計画されている。

 以下に、実験に用いる無線局の概要をまとめておく。

(a)実験の概要

OFDM変調方式によるディジタルTV放送電波を当所60m鉄塔から送出し、測定車により電界強度、ビットエラーレート、受信画質の測定を行なう。測定範囲は、当所を中心に半径10−20kmのサービスエリア内およびエリアのフリンジ。

(b) 実験局のパラメータ

送信周波数:TV40ch(635MHz)
帯域幅:6MHz
送信電力:30W
送信アンテナ:3素子及び12素子リングアンテナ
アンテナ高:地上高56m
送信場所:通信総合研究所内60m鉄塔
搬送波多重方式:OFDM
各搬送波の変調方式:QPSK,16QAM,64QAM,256QAM
伝送情報量:最大約30Mbps
伝送番組数:最大3番組
画像品質:NTSC及びHDTV


4. まとめ

 周波数有効利用のために検討されている放送のディジタル化について、その特徴と研究動向について述べた。放送行政に関わる郵政省の研究所として、ディジタル放送実現のために当所に課されているテーマは多く、外部機関や大学との共同研究を積極的に進めていき、日本のディジタル放送方式として最良のものを作って行きたいと考えている。


10月22日に開催された周波数資源プロジェクト研究発表会で展示したディジタル放送用機器。




動画像を添付可能な電子メールシステム

−VAメール:Video & Audio Mail System−


総合通信部 非常時通信研究室
岩間 美樹



1.はじめに

 マルチメディアと言う言葉が世の中に出てからもう随分たちますが、その指す内容というと人によってさまざまな定義があります。ここでは、文字だけとか絵だけの独立したメディアではなく、複数のメディアを同時に扱うことと一応定義しておきましょう。ところで、このマルチメディアは最初はCDなどのパッケージメディアとして始まりました。すなわち、あらかじめ用意された情報を何らかの装置で再生してみるだけ、という形 です。その後、単純な再生ではなく、ユーザが選択肢を選んでいくことによりインタラクティブに再生内容を変えていくことのできるような方式も取り入れられましたが、あくまでもある一つのパッケージの域を出ませんでした。

 ところで、インタラクティブというとコミュニケーション=通信ですが、これまでの電子的な通信ネットワークは企業などビジネス分野では専用線をとおしてTV会議などの広帯域通信が行われていますが、個人のレベルではまだまだ電話線によるものに留まっています。しかし、ビデオカメラなどの普及によって、動画像情報を取込み編集したりして利用できる素地が整ってきたこと、また、「インターネット」で代表される情報ネットワークの利用が盛んになってきたことなどにより、マルチメディアを通信に利用するという欲求も起こりつつあるようになりました。

 これら背景の下で、通信総合研究所とNTT通信網研究所(現:マルチメディアネットワーク研究所)は、平成6年度より広帯域通信ネットワークにおけるマルチメディアアプリケーションとしてVAメールの開発を始めました。また、同研究はギガビットネットワーク協議会実験部会の実験の1つとしても位置付けられています。


2.VAメールってなに?

図1: VAメールサービスイメージ


 それではVAメール(Video & Audio Mail System)とはなんでしょうか?VAメールシステムでは文字どおり、動画像情報(映像+音声)を電子メールで相手方に送ることができます。これがどれほど新しいことなのか次に考えてみましょう。

 まず、これまでの電子メールのことを考えてみてください。電子メールではテキスト情報を送ることができます。音声も簡単なものなら添付できます。静止画も数枚なら送れるでしょう。しかし動画像になると通信量の制限からなかなか見るに耐えるようなものを送るのは難しいのです。また、これらの情報は発信者から受信者へコピーを作る形で送られるます。そのため、送る情報量が増えるにしたがって受信者側の蓄積情報も増えます。動画像ですと1秒で数Mbyteもの情報量になりますから、長時間になったり、何人からも送られてきたら、それだけで受信者の蓄積装置はパンクしてしまいます。さらに、これ情報はあくまでデータとして送られてきますので、受信者側ではこれら情報を見るあるいは聞こえる形に直してやらなければなりません。そしてそれを出力することではじめて、受信者が理解することができます。そのため受信側の端末ではその処理を行う能力を持っていなければなりません。動画像の場合は再生速度に合わせた処理をしないと、画像が間延びしたりとんだりしてしまいます。以上のように、これまでの電子メールシステムで動画像を送ろうとすると、さまざまな問題があることが解ります。

図2: 従来のメールシステムとVAメールシステム


 では、VAメールシステムではどうでしょうか?

VAメールシステムではこれまでの電子メールに加えて、ビデオオンデマンド(Video on Demand: 以下VoD)システムを利用しています。VoDでは、蓄積装置に蓄積された画像情報を利用者の要望に応じて再生します。テキストは通常のメールシステムを利用し、動画像情報はVoDへ蓄積し、受信者がそれを再生することにより、利用者レベルでの蓄積装置は不要となります。また、電子メールとは別に通常のVoDの通信路を映像の配信路として利用するため、大きな負荷を持つ動画像も楽に受 信者の元へ届けることができます。また、動画像のブラウザとしてもVoDのものを流用できるので、受信側端末ではVoDの蓄積装置から再生順序に従って送られてきた動画像を順次再生して行くことができます。このように、VAメールではメールの配信に2つの経路を使うことによってきれいな動画像のやり取りが可能となりました。

 また、動画像が一旦VoD蓄積装置に蓄積されることを利用して、同じ画像を複数の相手へ送付することもできます。この機能を利用して、動画像版の電子掲示板サービスを行うことができるようになっています。逆に、受信者が必ずしも動画像を見たいと思わない場合もあると思います。VAメールでは、通常の電子メールシステムでテキスト情報を送る際に、動画像情報のシーンいくつかを取り出し静止画ダイジェストとして添付することができます。受信者は、それを見て動画像を見るかどうかをきめることができます。見ない場合は、蓄積装置から受信者への配信が不要となるため、ネットワークからみても負荷を軽減でき有効な手段であると言えます。


3.ネットワークとVAメール

 上に述べたようにVAメールシステムは動画像を含めたマルチメディア通信には有効な手段と言えますが、いくつか問題点もあります。

 その1つにネットワークとの関係があります。VAメールの構成の半分をなすVoDシステムはこれまで1つのネットワーク内で運用されてきました。それに対して、電子メールはいくつかのネットワークを跨いで通信を行うことができます。 VAメールでも同様にサイト間の通信のできることが期待されます。今回の開発で、特に重要としているのがこの事項です。

 それぞれのVoDシステムは自分が持っているコンテンツについて、格納場所や中身の情報をユニークに管理するための情報を持っています。しかし、複数のVoDシステムが相互に接続される環境では、個々のシステム内の管理だけではなく、システム相互のコンテンツ管理が必要となってきます。例えば、全く同じ内容のコンテンツがいくつかのサイトにある場合に、どこにあるのが元の情報であるかとか、どこにコピーがあるのかといった情報を持っていないと、元の情報が変更された場合に、情報の整合性が問題になります。また、勝手にコピーが作られていて元の情報を作った人の意図に反して情報が悪用されるということも考えられます。このようにコンテンツの管理という面では、利用できる人の限定といった開示許可の情報と複製されたコンテンツの配置が重要です。VAメールでは動画像のオリジナルの情報の位置、コピーの情報の位置、サイトごとの開示許可などを管理情報に盛り込んで、オリジナルを持つサイト、コピーサイト両方で情報共有することにより、上に挙げたような問題を解決しようとしています。

 更に、VoDシステムの相互接続はコンテンツ管理のほかに、相互にコンテンツを利用する方法についても検討が必要です。例えば、VAメールがあるサイトから別なサイトへ送られた場合には、動画像情報を別サイトの受信者も見ることができなければなりません。VAメールでは、受信者がオリジナルの情報を直接再生して見る方法の他に、複製が許可されているサイトへはコピーを作って、コピーの再生を行う方法もサポートしています。

 VAメールでは以上により、複数のネットワークにおける動画像の送受が可能となっています。


4.これから

 これまでのVAメールでは以上のような検討を元に試作品を作ってきました。しかし、これらには、つぎのような課題が残っています。

異種VoDシステム間での接続

これまでのシステムは同種のVoDシステム間を結んだシステムでした。異種のシステムでは、コンテンツの管理方法や格納方法がそれぞれ違うためそれを吸収あるいは共通化する手段を検討する必要があります。

ユーザに利用しやすいインタフェースの開発

個人のユーザがシステムを利用する上で、いかに操作を簡単かつ解りやすいものにするかはどのシステムにおいても永遠の課題といえます。特にVAメールシステムでは、動画像の投入やメールの作成など、既存のシステムにない機能が追加されているため、インタフェースの充実は重要です。

 今後は、これまでにつくって来たVAメールシステムの評価を行いながら、上記のような課題に取り組んで行く予定です。



《趣味シリーズ》

歩け歩け日本全国、そして世界へ…


関東支所 宇宙制御技術研究室
木村和宏



 数年ほど前から、誰でも気軽に実行できる健康増進のための運動としてウォーキングが注目されるようになり、愛好者も増加している。ウォーキングは基本的に、いつでもどこでも一人で気軽にできる軽スポーツであるが、最近ではほぼ毎週のように全国各地でウォーキングの大会が開催され、多数のウォーカーが参加している。これまでに数多くの大会に参加して完歩した経験から、大会ウォーキングの楽しさについて紹介したい。



 私がウォーキング大会に参加するようになったきっかけは、新聞に掲載された大会案内記事を見て参加した平成元年の日本スリーデーマーチである。これは毎年11月初旬に埼玉県の東松山市で開催される、参加者2万数千人の日本で最大規模の大会である。この大会では、1日10〜50kmの4種類の距離のコースが設定されており、各自で参加距離を登録して3日間完歩を目標にして歩く。初参加のときは30kmコースを3日間歩いた。2日目に足の裏にマメができ、足が痛くてかなり辛かったが、3日目にゴールしたときの感激はこの上ないものであった。この大会に参加したときに、ウォーキングの愛好者のための団体である「日本歩け歩け協会」なる組織があることを知り、早速入会した。さらに、この大会を含む北海道から沖縄までの7つの主要大会に参加して全て完歩すると、「日本マスターウォーカー」として認定されるという制度ができたため、挑戦してみることにした。こうして何回か大会に参加しているうちにやみつきになり、今では年間20回以上参加している。脚力もつき、1日40km程度なら平気で歩けるようになった。

 ウォーキングの大会は競争ではなく、マラソンなどの他のスポーツ大会と違って順位をつけたりタイムを競ったりはしない。定められた距離もしくは各自が選択した距離を完歩することが大会の主旨である。一応制限時間はあるものの、ゆっくり歩いても十分に間に合う程度に設定されており、まわりの景色を眺めながら無理なく自分のペースで歩くことができる。コースの途中でのんびりとお弁当を食べたり、神社仏閣に立ち寄ったり、名所史跡等の見学や観光をすることも可能である。地図とコース上の標識にしたがって思い思いのペースで歩く自由歩行形式のほか、集団で隊列を組んで歩く団体歩行形式の大会もある。

 歩くことは体に対する負担の少ない運動であり、体力増進、成人 病予防、肥満防止、ストレス解消といったメリットがある。これらを目的とした日常の散歩でも、最初はつまらなくても長く続けているうちに、季節の移り変わりを感じたり、身近なところで小さな発見をしたりという楽しみがわいてくるものである。しかしながら大会ウォーキングには、この他にも大会ならではの楽しさがある。
1つは歩き終わったときの達成感である。50km、100kmという長距離のコースを完歩した後のよろこびは格別である。参加回数や歩行距離に関する認定制度もあり、これらの達成を目標にすると歩きがいがある。
2つめは、大会が開催される全国各地の自然を満喫し、風土に触れながら歩けることである。その地域の観光名所を通るだけではなく、自然が豊かで自動車の通らない小道や古い町並みが残る旧道等、歩きやすくて眺めの素晴らしい道を厳選してコースが設定されているためである。個人で歩いていたのでは気がつかなかったり、行き止まりになりそうで不安で入り込めないような道の先にある、隠れた名所を訪ねることができる。
3つめは人とのふれあい、仲間との交流である。何度も参加しているうちに、全国の歩く仲間と知り合いになることができる。年齢や職業、地位などとは無関係に、同じ趣味を持つ仲間として利害関係のない人間関係をもつことができる。歩きながら会話するだけではなく、ゴール後に乾杯したり、宿や往復の列車内で歓談するのも楽しいものである。



写真:オランダのナインメーヘンにて、左端が筆者


 日本国内だけではなく、世界各地でウォーキング大会が実施されている。特にヨーロッパには歴史の古い大会が多い。私は平成8年7月に、オランダのナイメーヘンで開催されている国際フォーデーマーチに参加した。(写真) 私が初めて海外で参加した大会である。この大会には88年の歴史があり、世界最大の大会で4万人弱が参加している。大会中は地域全体がお祭りのような状態になる。朝早くから近所の人たちが道端に椅子を出して、家族総出で声援してくれる。街に入るとブラスバンドで歓迎される。自動車が締め出された片側2車線の道路を、世界数十カ国の参加者が道幅いっぱいに歩く。最終日のゴール前数kmの沿道には約10万人の観衆が集まり、参加者全員がパレードをすることになる。道の両側いっぱいに並んだ3重4重の人垣の間を声援を受けながら歩いていると、マラソンの選手にでもなったような気分であり、4日間で200km歩いた疲れも足の痛さも吹っ飛んでしまった。あらためてオランダの人たちの歩け歩け運動に対する理解の深さを認識し、日本との歴史、文化の違いを痛感させられた。今後も機会があるごとに海外の大会に参加したいと考えている。世界の主要大会を全て完歩し、「国際マスターウォーカー」になることが今後の目標である。

 ウォーキングの行事は、小規模な大会や地域の団体の月例会まで含めると毎週どこかで行われている。知り得る範囲の大会の情報について、近日中にWWW(http://ceres.crl.go.jp/~kimura/walk.html)で提供する予定である。興味をもたれた方、休日暇を持て余している方、運動不足や体型が気になる方は一度参加されてみてはいかが?



南極観測船「しらせ」出港


宇宙科学部 宇宙空間研究室
一之瀬 優



南極へ向 かって晴海埠頭を出航する「しらせ」


 南極観測が始められて以来、毎年欠かさず行われてきた出港セレモニーが今年も11月14日東京港の晴海埠頭で行われ観測隊員を激励しました。そして、隊員を乗せた観測船「しらせ」は家族や関係者に見送られて一路南極に向けて無事出港しました。

 船は2週間でオーストラリアのフリーマントル港に入港し、生鮮食料品と燃料を積み込むために約1週間停泊した後、再び南極昭和基地に向けて出港し、途中種々の観測を行いながら12月30日に昭和基地に接岸することになっています。基地の近くに接岸できれば雪上車により、できない場合でもヘリコプターによって越冬に必要な物資と観測資材の輸送を行い、基地の建設作業や夏季観測等を2月中旬まで行った後、越冬隊員を交代して帰国する予定となっています。

 南極観測は毎年回を重ね、途中2年間の中断があるものの今年で38回目となりました。この間、通信総合研究所は電波研究所の時代から毎年観測隊員を送り出してきました。今年は、小関 淳さんが電離層定常観測担当、また、瀬戸口 正さんが宙空系観測の担当隊員として選任され、それぞれ1年間の越冬観測の任に就かれます。小関さんは北海道電気通信監理局の出身、趣味は冒険とのことで、ヒマラヤやゴビ砂漠、シベリア等へ行った経験の持ち主ですから、寒さにも強く南極観測隊員としては打って付けの人物といえます。彼はまだ独身ですが、フィアンセを残しての出港との事。一方、瀬戸口さんは九州電気通信監理局出身の二児の父で、1級無線通信士と2級無線技術士の免許を持つ優秀な隊員です。彼は南極の氷の上で始めてラジコンヘリコプターを飛ばすことが夢だそうです。

 出港当日は前日の強風とは打って変わった穏やかな日和となり、朝早くから見送りに来た人達や報道陣が、この日だけ一般に公開されている「しらせ」の船内をあちこち見て回っていました。普段はめったに入ることができない操舵室内では「この船は観測船、砕氷艦、軍艦の三つの機能を併せ持った特殊な構造をしていて、南極の氷海に入ると何百回も前進後退を繰り返して氷を割りながら進むことができる能力を持っている」等との説明を興味深そうに聞いている人もいました。また、隊員の家族や知人は、隊員二人が共同で使う二段ベットの付いた小さな船室内などを隊員の説明を聞きながらめずらしそうに見ていました。

 出港に先立って、当研究所独自の簡単な歓送式が行われ、丸橋南極本部長からの挨拶があり花束の贈呈、両隊員の「元気で行ってきます」の挨拶、記念写真の撮影の後、恒例となっている胴上げが南極越冬経験者等によって行われました。そして、二人の隊員は、見送りに来てくれた関係者全員が花道を作る中を一人一人と握手をしながら乗船して行きました。

 船は正午丁度に、七色のテープが切れるのを惜しむかのようにゆっくりと、「いってらっしゃーい」の声に送られて岸壁を離れて行きました。船の甲板では隊員達が、だんだんと小さくなって姿が見えなくなるまでいつまでも手を振って別れを惜しんでいました。



《短信》

「無線通信研究100年記念式典」開催される


企画部 企画課
斎藤政満



 10月24日(木)サンケイ会館(千代田区大手町)サンケイホールにおいて無線通信研究100年記念式典が開催されました。本式典は、1896年(明治29年)10月に我が国の逓信省が無線電信に関す る研究を開始してから本年が丁度100年目にあたることを記念して行われたものです。主催:郵政省通信総合研究所、共催:通商産業省工業技術院電子技術総合研究所、NTT、NHK、KDD、(株)国際電気通信基礎技術研究所、通信・放送機構、(財)テレコム先端技術研究支援センター、(社)電波産業会、協賛:(社)電子情報通信学会、(社)テレビジョン学会、情報通信関係のメーカーほか多数が参加し、厳かな雰囲気のもと執り行われました。

 式典では、甕昭男大臣官房技術総括審議官の郵政省挨拶ののち、古濱洋治通信総合研究所長が式辞を述べられました。また、西島安則日本学術会議副会長、辻井重男電子情報通信学会会長、金子尚志テレビジョン学会会長より祝辞をいただきました。これらのお話の中で、技術一般の開発の歴史と教訓、国内外での無線電信研究のルーツ、日本が歩んできた無線通信の足跡と社会への関わり、未来における通信の役割など、100年の歴史と科学技術基本計画が閣議決定された本年をスタートとした今後の100年のビジョンが熱く語られました。

郵政省挨拶 (甕技術総括審議官)


 また、記念講演会では、西澤潤一東北大学総長より「日本における通信事始」、竹内啓明治学院大学国際学部教授より「通信の社会的パワー」を講演をいただき、400席の式典会場はほぼ満席となる盛況でした。

 同時に行われた展示会・デモンストレーションには、情報通信への期待を裏付けるかのように開場前から多くの参加者が詰めかけ、研究開発中の通信機器や最新鋭のマルチメディア機器の説明に熱心に聞き入っていました。

 21世紀の情報通信社会の発展を考えるうえで非常に意義深い式典となりました。

通信総合研究所が出展したミリ波無線LAN装置



外部誌上発表


外部誌上発表IEEE Trans on Neural Networks (1996年7月)
A Symmetric Linear Neural Network that Learns Principal Components and their Variances
F.Peper、野田 秀樹
Space Communications (1996年7月)
The Role of Satellite Communications in the GII: Japan's Approach
飯田 尚志、内田 国昭、山本  稔、松井 房樹
情報通信ジャーナル (1996年7月)
音が無い音を聞いている脳
宮内  哲
電子情報通信学会・論文誌 (1996年7月)
256ビームイメージングリオメータの開発
貝沼 昭司、村山 泰啓、森  弘隆、五十嵐喜良
言語処理学会誌 (1996年7月)
開発者の視点からの機械翻訳システムの技術的評価−テストセットを用いた品質評価法−
井佐原 均、内野  一、荻野 紫穂、奥西 稔幸、木下  聡、柴田 昇吾、杉尾 俊之、高山 泰博、土井 伸一、永野  正、成田 真澄、野村 浩郷
財団法人国際超電導産業技術研究センター・超電導基盤技術動向調査委員会報告 (1996年7月)
サブミリ波帯超伝導SISミキサー王   
鎮電子情報通信学会 論文誌(欧文)(Transactions of the IEICE of Japan) (1996年7月)
A Study on Distributed Control Dynamic Channel Assignment Strategies in Sector Cell Layout systems
福元  暁、岡田 和則、朴  徳圭、吉本 繁壽、笹瀬  巌
電子情報通信学会論文誌 (1996年7月)
陸上移動通信用QAMの複数パイロットシンボルを用いた周波数オフセット補償方式
浜口  清
電子情報通信学会論文誌 B-II (1996年7月)
ETS-VI衛星のスピン状態を利用したSバンド衛星間通信用 フェーズドアレーのアンテナパターン測定
田中 正人、松本  泰、山本 伸一、鈴木 健治、有本 好徳
Applied Physics Letters (米国物理学会誌) (1996年7月)
Theory and properties of quasi-waveguide modes
王  慧田、有賀  規、叶  佩弦
日本視覚学会1996年夏期研究会 (1996年7月)
サッカード系における運動学習
藤田 昌彦
IEEE Electronics Letters (1996年8月)
Performance of multi-pilot symbol aided multipath fading Compensation
神尾 享秀、三瓶 政一、Kamilo Feher
IEEE Trans. Vehicular Technology (1996年8月)
Adaptive array sensor processing applications for mobile telephone communications
A.K.Djedid、藤田 正晴
IEEE Transactions on communications (1996年8月)
Differential Detection with IIR filter for improving DPSK detection performance
浜本 直和
IEEE/OSA Journal of Lightwave Technology (1996年8月)
Improvement of Coupling Efficiency Between a 0.82μm Wavelength Laser Diode and a VAD Single-Mode Fibre by Conical Microlenses
H.Ghafouri-S、有賀  規
IEICE Transactions on Communications (電子情報通信学会英文論文誌) (1996年8月)
Detection Estimation in Sensor Arrays without Eigendecompositions
A. KLouche、三浦  龍
Indian Journal of Radio & Space Physics (1996年8月)
Solar Radio Burst on 30 September 1993
Hari Om Vats、M.R.Deshpand、K.N.Iyer、近藤 哲朗、磯辺  武
ISCS Bulletin (国際衛星通信協会) (1996年8月)
通信総合研究所、キーストーン計画を開始
濱  眞一
Journal of Geophysical Research(米国地球物理学会誌) (1996年8月)
Direct penetration of the polar electric field to the equator during a DP2 event as detected by the auroral and equatorial magnetometer chains and the EISCAT radar
菊池  崇、H.Luehr、北村 泰一、坂  翁介、K.Schlegel
Journal of the Meteorological Society of Japan (1996年8月)
Mesoscale and Convective Scale Features of Heavy Rainfall Events in Late Period of the Baiu Season in July 1988 Nagasaki Prefecture
高橋 暢宏、上田  博、菊地 勝弘、岩波  越
CRIPTA TECHNICAINC. AJohn Wiley & Sons. Inc. Company (1996年8月)
Space Charge Behavior in an Antistatic Polymer Including Polymer Solid Electrolyte
福永  香、前野  恭Solar Physics (1996年8月)
CORONAL CHANGE AT THE SOUTH-WEST LIMB OBSERVED BY YOHKOH ON 9 NOVEMBER 1991 AND THE SUBSEQUENT INTERPLANETARY SHOCK AT PIONEER-VENUS-ORBITER
亘  慎一、Z.Smith、H.A.Garcia、T.Detman 、M.Dryer
レーザー研究 (レーザー学会誌) (1996年8月)
Investigations on formation of mutually pumped phase conjugation with a new configuration using BaTiO3:Ce crystal
王  慧田、吉川 宣一、吉門  信、有賀  規
気象研究ノート(日本気象学会) (1996年8月)
「地球環境のマイクロ波放射計リモートセンシング」7 中層大気微量気体の観測
増子 治信、落合  啓、入交 芳久、稲谷 順司、小川 利紘
天文誌「スカイウォッチャー」8月号 (1996年8月)
地球近傍0.00303天文単位をかすめた小惑星1996JA1
吉川  真
電子情報通信学会・和文論文誌B-II (1996年8月)
DBFによる移動体衛星通信用セルフビームステアリングアレーアンテナの構成法
三浦  龍、千葉  勇、田中 豊久、唐沢 好男
電子情報通信学会誌 教養のページ (1996年8月)
OFDM 変復調方式
都竹愛一郎
Applied Optics : Lasers、Photonics、 and Environmental Optics (1996年8月)
Near Shot−noise−level relative frequency stabilization of LD−pumped Nd:YVO4 microchip laser
兵頭 政春、カーティ・ティモシー、阪井 清美
TELECOM FRONTIER (SCAT TECHNICAL JOURNAL) (1996年8月)
衛星搭載レーダーによる降雨リモートセンシング井口 俊夫
日本天文学会 (1996年8月)
「やさしいアンドロイドの作り方−SFはどこまで現実になるのか− 福江純著」
油井由香利
Review of Radio Science 1993-1996 URSI (1996年8月)
Remote Sensing of Precipitation and Clouds
岡本 謙一、古津 年章、熊谷  博、井口 俊夫
Electronics Letters (1996年8月)
Optical beat frequency generation up to 40.6 THz by mode-locked semiconductor lasers
小野寺紀明「無線百話」 (1996年8月)
3.3 太平洋を越えた放送波
佐川 永一
4.3 電離層の世界観測綱
五十嵐 喜良
4.7 太陽任せの短波通信
野崎 憲朗
5.2 八木・宇田アンテナの発明
藤田 正晴
5.4 レーダのいろいろ
宮澤 義幸
5.10 電磁波障害の原点
篠塚 隆
5.13 通信を邪魔する電波雑音
山中 幸雄
5.16 電波は台所まで
篠塚 隆
5.18 超短波用アンテナのいろいろ
田中 正人
6.3 周回衛星と静止衛星
川瀬 成一郎
6.7 人工衛星オンパレー
浦塚 清峰
6.8 星からの便り 6.9 電波星で地球を測る
高橋 幸雄
6.10 宇宙飛行士むけ天気予報
野崎 憲朗
6.11 電波は宇宙の果てまで
小山 泰弘
6.12 宇宙通信用アンテナのいろいろ
大森 慎吾
7.2 宇宙を回る電波灯台
今江 理人
7.9 世界を結ぶ携帯電
浜本 直和
8.1 ミリ波で防ぐ車の衝突
井原 俊夫
8.2 電波で一掃オフィスの配線
井原 俊夫付表(標準電波)
大塚 敦