科学技術基本計画では2000年までの5年間に総額17兆円の科学技術経費を支弁するとしています。しかし政府は240兆円の債務を負い、また地方自治体と合わせると総額450兆円にのぼる借金を抱えての科学技術の振興であります。所期の成果を収めなければ、必ず逆風が吹き冬の時代が来る事を認識して研究開発を行う必要があります。このためには研究戦略に基づいた長中期研究計画の策定と逐次これらの見直しと共に、バランスのとれた研究活動を推進し研究成果を広く知ってもらうことが必要です。また無駄を省き、省エネ型、省資源型の研究推進体制を作ると共に、庶務会計部門を中心とした業務改善計画の策定・実施、あるいは将来を見越した総合的な研究・実験棟整備計画、緑化計画の策定等、系統的なインフラの整備計画を持っておく必要があります。
平成9年度予算案は昨年12月25日に閣議決定されました。当所の平成9年度予算案は総額199億9千万円で、前年度比42%増です。予算額、伸び率とも史上最高です。
(ア)全体予算の内32%が情報通信基盤技術関係であり、(イ)また周波数資源の開発・電波利用料関係が人件費を一部含めて20%です。(ウ)宇宙関係は、第三番目で、全体の約10%に留まっています。新規項目の主なものは、マルチメディア・バーチャルラボ技術開発、電磁環境の相互影響に関する研究、長波標準電波施設の整備、亜熱帯地球環境計測技術の研究開発、横須賀無線通信研究センターの整備等です。
組織関係の内、部レベルでは、総合通信部、通信科学部、電磁波技術部の振り替えによる、通信システム部、情報通信部、光技術部の設置、及び第三特別研究室(実質的には第一特別研究室)の振り替えによる、横須賀無線通信研究センターの設置です。
室レベルでは、光技術部に光通信技術研究室と光情報処理研究室の新設及び振り替えによる情報通信部人間情報研究室、光技術部光エレクトロニクス研究室、横須賀無線通信研究センター無線伝送研究室、宇宙通信部超高速衛星通信研究室の設置と、六つの研究チームの設置です。研究チームは、今回始めて導入したもので、所長直属の期限が定められた課題別の研究組織であり、所長裁量により内容、要員規模を機動的に定められる組織です。これにより新しい課題への取り組みが、一層容易になると共に、所期の成果のでた研究課題の終結も容易になると考えています。要員関係では、5名 要求して4名の増員が認められました。定員削減が3名ですから、実質1名の増員です。
また平成8年度補正予算案では、広域多地点映像中継分配試験標準化システムの整備、情報通信基盤に関する基礎的・汎用的技術の研究開発、周波数逼迫対策のための技術試験事務にたいして、総額18億5千万円が予定されています。
次に「科学技術基本法」に基づいて、昨年7月2日「科学技術基本計画」が閣議決定されました。これを受けて昨年8月1日、研究活動の活性化を狙った意欲的な人事院勧告、即ち任期付任用制の導入、兼業義務の一部緩和、研究員調整手当の新設などを含む勧告が行われました。現在人事院は次の通常国会への上提を目指して、勧告実施のための関係法規の整備を進めています。
また科学技術庁は、昨年12月26日、特許権等の研究者個人への帰属等について、従来の規制を緩和する方向を打ち出しました。即ち、(ア)特許については、職務発明を行った研究者への優先実施権の付与、共同研究による発明の特許権についての研究者個人への帰属、共同研究者・委託研究相手先機関に対する、優先実施権の設定期間の延長を骨子としています。(イ)研究公務員の兼業については、兼業の原則許可を旨として許可基準を明確化し、研究所に設置する兼業審査会において可否を判断するとしています。(ウ)また委託研究については、インセンティブを高めるため受託相手機関に対する優先的な実施権を付与すると共に、優先的な実施の期間(委託研究終了後7年)の延長を可能としています。
これらを受けて当所においても、対応する規程の改正、兼業に係る運用基準等の準備を進めています。研究活動の推進や外部機関との研究交流において、大きな壁の一つである制度上・運用上の諸問題について、部分的ではあるが改善が図られることは、誠に画期的なことです。これらの新しいシステム・規制緩和策の運用を通じて、研究活動の一層のオープン化・活性化を図る所存ですので、ご協力の程宜しくお願い致します。
次に研究活動の外部評価の実施状況について述べます。昨年の年頭の挨拶において、外部評価の必要性について言及しました。その後所内及び研究評価委員会の皆様の多大のご協力を得てほぼ順調に進んでいます。COE化を目指す光技術部門を皮切りに、部門別研究評価委員会は昨年中に全部終わりました。次のステップは、今年2月6、7日の運営評価委員会を成功させることです。今年度末には外部評価結果の大勢が判明し、来年度始めには評価結果と共に、これらに対する対処方針の大枠を公表できると考えています。
外部評価実施の次のステップは評価結果の運用です。対外的には外部評価の実施事実と対処方針の広報が大切です。郵政本省のみならず科学技術庁、人事院、大蔵省、総務庁を始めマスコミを通じて広く科学技術関係者に周知する必要があります。対内的には外部評価結果を今後の研究所の運営に積極的に生かし、研究活動の改善に役立てることです。即ち外部評価結果を考慮して長期戦略を立て、研究部門毎の長期・中期研究計画の作成ないし見直しを行うと共に、研究プロジェクトの見直しを図る必要があります。部門別研究評価委員会の委員と当所幹部との懇談において頂いた共通的な意見の一つは、「研究目的に対する問いかけと、国研に相応しい研究を実施して欲しい」と言うものでした。この点について言えば、学術的色彩の強い研究であれ、行政的色彩の強い研究であれ、国研で実施する研究の目的・意義・重要性あるいは研究が成就した時のインパ クトの大きさについて、「自分の言葉」で話せなくてはなりません。また必要なら何時でも原点に立ち返って研究計画の内容を見直すことの大切さを意味しています。
このような研究評価に基づく改善には系統的な努力が必要ですから、外部評価を一回実施すれば成果が挙がると言うものでもありません。従って今回のような大規模の外部評価は数年毎に実施するとしても、研究計画・内容についての簡単な外部評価は何らかの形で毎年実施することが望ましいと考えます。これについては外部評価結果に照らして改めて検討する予定です。
次に組織改正の特徴について述べます。最初にご紹介したように、情報通信基盤技術関係の通信システム部と情報通信部、光技術COE化関係の光技術部及び電波利用料関係の横須賀無線通信研究センターが、本年7月から設置される予定です。この改正により、情報通信基盤技術及び光技術COE化関係の研究が、一層効率的に進められるものと期待しています。
横須賀無線通信研究センターは予算項目にも整備計画が挙がっているように、横須賀リサーチパーク(以下YRPと略称)に研究室を構えて、 YRPに進出する産学官の研究機関との間で無線通信・周波数資源関係の研究を鋭意進めるためのものです。当面3ないし4の研究室またはチームがYRPにて研究を進める予定です。 YRPに参加する地方自治体・企業から国研である当所のYRP進出に寄せられた期待には大なるものがあります。爛熟期を迎えた無線通信技術の開発・運用のメッカを目指すYRPへの進出は当所にとっても大変大きなインパクトがあり、当所の研究スタイルに一大変革をもたらす可能性をもっています。 YRPにおける当所の役割のキー・ワードは、ユーザー・オリエンテッド、標準化・規格化、国際化であると考えています。電波利用料を主な財源として進める無線通信・周波数資源関係の研究は、ユーザー・オリエンテッドであることに特に留意する必要があります。ユーザー・オリエンテッドな研究開発の推進に関する当所の経験は浅く、将に歩きながらこれに適合した研究スタイルを身につけることが必要です。研究スタイルの脱皮を図るには、本所を離れてユーザーと近いところで共に研究開発を進めることが効果的であると考えます。即ち、「新しい酒(ユーザー・オリエンテッドな研究開発への研究スタイルの脱皮)は、新しい革袋(YRP)に盛れ」と言うことです。
凡そ10年前当所は関西への進出を開始し、新しい研究開発拠点の建設を通じて数々の新しい経験を積み、また新しい要員を迎えて研究開発の新しい流れを作りました。そして関西支所における研究活動の発展は、当所全体の活性化に大きく寄与しました。この経験にならって横須賀無線通信研究センターにおける研究開発を通じて、当所全体の体質の改善と活性化を図りたいと考えます。立ち上がるまで人・物・金を含む物心両面にわたる支援が欠かせないため、所員の皆様のご協力をお願いする次第です。当分の間YRPにおいて当所の研究室は借家住まいですが、土地を購入し研究棟を建設するか否かについては YRPの発展方向を見て近い将来決定したいと考えています。
以上今年は、外部評価に基づく当所の研究開発の体質改善とYRP進出を中心とした組織改正を、2つの大きな課題とした年であると考えています。また今年は昭和27年8月1日に郵政省電波研究所が発足して丁度45年目を迎えます。45周年は一つの節目でありますから、何らかの記念となる行事を実施したいと考えています。しかし5年後に50周年行事を控えているため、特に 大々的な記念行事はその時に行いたいと考えます。その代わり50周年を目指して過去の資料の散逸を少しでも防ぐため、50年史の資料整備のため準備委員会をOB諸先輩の力も借りながら今年中に発足させる所存です。最後になりましたが、皆様のご健康とご発展を祈念致しまして年頭の挨拶と致します。
企画課 広報係
1月21日午後、堀之内久男郵政大臣がご視察に来所された。大臣は、当所幹部引見に引続き、概要説明をお受けになった後、リモートセンシング、宇宙通信、首都圏広域地殻変動観測、光センター、マルチメディア通信の各研究現場をご視察になられた。
各視察先の部署では、「お疲れにならないように」との配慮から椅子を用意していたが、大臣はほとんどお座りになることなく、所長の説明に熱心に耳を傾けられ、当所の研究業務に深い関心をお持ちいただいたようである。
関西支所 知的機能研究室
その中にある関西支所のページは、震災直後に関西支所の有志が本所のWWW管理者のご協力を得て発信したもので、関西支所の計算機室の書棚が倒れている様子や、長田区救援物資配送基地での関西支所関係者のボランティア活動の様子などが入っています。この写真が、ある大手教科書出版会社の高等学校「新現代社会」の教科書(平成10年供給分)に掲載されることになりました。今後、教科書検定等の過程を経ることになりますが、今のところ、同書の第1編「現代社会に おける人間」の第1章「現代社会と青年」の第2節「情報化社会と管理社会」の冒頭に、「阪神・淡路大震災時に、コンピュータのネットワーク上に発信された情報」の見出しで掲げられる予定です。あの震災を忘れないためにも、また次代のネットワーカーを育てるためにも、我々の
WWW
ページが教科書を通じて全国の高校生の目に触れることは、意義のあることかと思います。
編集者註:以上は関西支所広報紙KARC Frontからの転載ですが、この記事の後、同写真の教科書掲載要望がもう一件あり、こちらは中学地理の教科書で、情報通信は地理的制約を緩和する、というイメージで取り上げられるようです。
ATR人間情報通信研究所感性脳機能特別研究室室長、
筑波大学助教授、1975年よりCGに着手し、
主催:郵政省通信総合研究所、小金井市教育委員会
滝澤 修
平成7年版通信白書のカラーグラビアページに、「WWWを通じて各種機関等のボランティアによって発信された被災情報」という見出しの写真が載っていたのをご存じでしょうか。これは、コンピュータディスプレーを接写した管面写真で、阪神淡路大震災関連情報のWWWページ(神戸市役所、奈良先端大、関西支所等)のMosaicウィンドゥを複数枚重ねたイメージ写真です。
通信総合研究所では、毎年4月の科学技術週間に、科学技術分野の啓蒙を目的とした高宴会を開催しています。本年の開催は以下のとおりとなりましたので、ご案内申し上げます。多数の来場をお待ちしております。
講演会
「より自然でやさしい通信をめざして」
開催日時
平成9年4月17日(木)
14:00〜16:30
開催場所
小金井市公会堂
JR中央線武蔵小金井駅南口徒歩5分
講演1
心地よい音、映像
一より進んだ通信に役立つ脳科学一
講演者
大橋 力(おおはし つとむ)
千葉工業大学情報工学科教授、
芸名「山城祥二」として芸能山城組の組頭も努める。
講演2
成長するサイバースペース内人工生命
一コンピュータグラヒックアートの可能性一
講演者
川口 洋一郎(かわぐち よういちろう)
現在も世界的CGアーティストとして活躍中。
その他:入場無料、事前申込不要