CRL NEWS No.257


横須賀無線通信研究センター


横須賀無線通信研究センター長
大森 慎五

1 はじめに

 横須賀無線通信研究センターは、横須賀リサーチパーク(YRP)に本拠地を置く新たな組織である。当センターには、当所の宇宙通信分野を除く総ての無線通信部門が移転し、心機一転新たな研究戦略によりYRPの中核的研究拠点を目指して研究開発を行う。現在は移行期間として小金井に本拠を置いているが、来年2月頃には、第2研究チーム、第4研究チームおよび企画管理室が移転し、順次無線伝送研究室、電磁環境研究室、通信ディバイス研究室が移転を計画している。

2 横須賀リサーチパーク

 YRPは東京湾を望む三浦半島の丘陵地に、我が国の、アジアの、そして世界の情報通信技術の研究開発拠点となることを目指して誕生する。YRPは昭和62年に郵政省の提唱により検討が開始された民活プロジェクトで、横須賀市と京浜急行が約4割を出資して設立された「株式会社横須賀テレコムリサーチパーク」が開発整備を行っている。本年10月には研究開発棟となる1番館、2番館および生活支援棟がオープンする。当センターはこの一番館の2階と3階(延べ面積約2500・)に入居する。
YRPには、既に国内外約40社あまりの研究機関の進出が決まっており、国際的な共同研究、研究交流が活発に行われる物理的環境が整いつつある。


写真:YRP完成予想図(YRPのパンフレットから)
中央が当センターが入居する1番館、右上が2番館、下が厚生館である。


3 新たな研究戦略

 横須賀無線通信研究センターはこのような絶好な研究環境のもと、産官学連携の中核的役割を果たすため、以下のような基本方針を立てた。

  1. 無線通信研究のメッカを目指すYRPでの中核的役割を担う。
  2. 将来の国際標準になり得るようなユーザ指向の戦略的研究開発を国際化の視点で行う。
  3. 産官学との融合、国際的な連携を進める為、思いきった新たな研究スタイルを試み、国立研究所の新たな役割を示す契機にする。

このような方針のもと、当面以下の重点研究テーマを考えている。

  1. 新たな通信システムへの挑戦
    成層圏高速無線通信ネットワークの研究やインテリジェント交通システム(ITS)の研究など
  2. 移動通信の高度化を目指して
    ミリ波帯高速無線アクセスシステムの研究やマイクロ波帯統合移動通信システムの研究など
  3. 安全な電磁波の利用のために
    機器の電磁波障害、電磁波の人体への影響の研究など

これらの具体的な研究内容、将来の研究テーマについては上記の基本方針に沿って国内外の機関と密接に連携し研究計画立案の段階から産官学が参加する共同遂行型の大型プロジェクトに発展させたい。

4 研究体制

 従来の要素技術偏重の研究室体制をやめ、達成すべき研究目標にしたがって必要な要素技術グループを組み合わせる柔軟な体制にする。これは、プロ野球チームが、内野手、外野手、ピッチャー、キャッチャーなどプ ロの意識と技を持った優秀な要素から構成され、一つのチームとして優勝という目標へ一丸となって邁進するのに喩えられる。一軍選手を育成する人材養成も大きな役割である。これらは通信総合研究所に閉じた体制ではなく、産官学一体となって外部からの研究者、学生も含めて積極的な研究交流が可能なオープンラボを目指したい。優秀な“外人選手”も一層積極的に迎えたい。幸い、高給で契約できる任期付き任用も制度上可能になった。

5 連携方策

 国内にとどまらず、国際的なレベルで民間の研究機関、企業、大学などとの連携を実りあるものにする為には積極的な研究者交流に重点をおいた研究交流が必須である。このためには、外部共同研究者への研究資金支援や学生に対する奨学制度など様々な研究支援体制の整備が不可欠であり我々を含めた関係機関の一層の努力が必要である。また、やりっぱなしの研究にならぬよう、研究評価制度の整備もあわせて重要である。

6 おわりに

 当センターの設立と横須賀リサーチパークへの進出は、国立研究機関の役割が厳しく問われている今日、当所にとって一つの回答を出そうとするものである。まず、我々自身の意識改革が求められているとの認識で最大限の努力をするつもりである。郵政省を始め関係各機関、各位の一層のご支援をお願いする次第である。



情報通信の飛躍的な進展を目指して

− 光技術部の新設 −


光技術部長
福地 一

 旧訳聖書の冒頭の“Let there be light." や、もう少し科学的な事例で、人間の視覚が進化の過程で太陽のスペクトラムに高い感度を有するようになったことなどを例にだすまでもなく、光は人類のはじまりとともにあり、時には崇高な、時には身近な存在でした。通信の世界でも、古くは、たいまつ、のろし、太陽光の反射、腕木など光と視覚を利用した遠隔通信がよく知られています。電波の発見が高々110年前、そして通信への電波の利用が約100年前に始まったことと比較すると、光による通信はかなりの長い歴史を有しているといえます。このように、光は人類にとって相当古くからなじみがありますが、まだ、人類は光の通信や計測分野で発揮するであろう能力をフルに活用し、電波を扱うように光を自由に扱う力をいまだ持ち得ていません。そして情報通信の急速な高速化を考慮すると、いまだに”もっと光を“といった状況なのです。

 近年の光通信の急速な進展は、コヒーレントな光を発生させるレーザの発明、低損失な光伝送を可能とする光ファイバと半導体レーザの開発、光を電気に変えることなく増幅することのできる光ファイバ増幅器の発明によるところが大きいといわれています。そして現在では10Gbpsの光ファイバ通信が実用化され、実験室レベルでは200Gbpsの伝送を可能としています。しかし、インターネットの爆発的な普及に代表されるコンピュータとネットワークの融合と大衆化・グローバル化、コンピュータの加速度的な高速化に支えられて扱う情報が高品質映像などの大容量情報となることなどを考慮すると、21世紀の初頭にはテラビット級の高速・高機能な情報通信ネットワークが必要になるものと予想されています。このようなネットワークの高度化は光でしか実現できず、光多重技術、光ノード技術、光デバイス技術などの進展が不可欠です。

 従来、光通信は幹線系の高速化に重点がおかれていましたが、今後はFTTHを目指した光アクセス技術、光を電波で変調し目的地までファイバ伝送して電波に変換するなど移動体通信への電波・光融合技術も、これからの研究に期待がかけられています。また、地上ファイバ網の高速化に伴い、宇宙通信も含む無線通信の大容量化も不可欠で、まだ人類が自由に扱えない目に安全な赤外領域の周波数帯を開拓して大容量光無線通信を実現する技術の研究が必要になっています。

 このような、背景をもとに、光技術部は、これまで通信総合研究所が培ってきた電波・光のポテンシャルをいかして、上記の光ネットワーク、光無線ネットワーク、光・ミリ波デバイスに係る諸技術の研究を進めています。また、研究の推進にあたっては、所内はもとより、産学官及び国際的な連携など、所内外に開かれた研究体制を実現すべく努力しています。そして、3つのトータル光通信(幹線系内の全光化、アクセス系を含む光化、無線通信を含む光化)を目指して、情報通信の飛躍的な進展に貢献していきます。

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国際ネットワーク実験 第一研究チーム


第一研究チームリーダー
磯部 俊吉

 第一研究チームでは、次世代のグローバル広帯域ネットワークの構築や利用に必要な技術開発と国際ネットワーク実験を推進します。

 国際的な情報通信基盤の整備、国際共同プロジェクトの推進といった時代の要請に応えるため、通信総合研究所では、アジア・太平洋ネットワーク(APII)実験、グローバル広帯域ネットワーク(GIBN)実験、高速衛星通信ネットワーク実験、ポストパートナーズ実験などいくつかの国際実験が並行して進められています。これらは技術開発要素から見ると、互いに関連あるいは共通する部分が多く、所として相互に調整し、資源を有効に活用しながら推進する必要があります。このような背景を踏まえて、生まれたのが第一研究チームです。

 我々は、関係の研究室及び本省の関係部局と連携し、CRLの役割を考慮しながら現存または将来の実験プロジェクトを推進します。技術開発を促進するためのネットワーク(テストベッド)を整備し、各種アプリケーション実験を実施するとともに、ネットワーク接続及び利用技術の研究開発を行います。例えば、APIIプロジェクトでは、現在、韓国、シンガポールと遠隔医療等の実験を行うべく準備を進めています。また、本年2月に関西支所の構内に完成したAPIIテクノロジーセンターのシステムを用いてビデオ・オン・デマンド相互接続、インターネット接続等の実験研究を行う予定です。詳しくは、 WWW(http://www.apii-tc.or.jp/) を参照してください。

 第一研究チームの業務は、所内外の関係の方々との連携が必須となりますので、皆様のご指導、ご協力をよろしくお願いします。



APIIテクノロジーセンター内景



第二研究チーム


第二研究チームリーダー
長谷良裕

 この たびの組織改正で、元の3つの移動通信関連研究室が、2つの研究チームに再編されました。このうち第二研究チームは、主として、準ミリ波およびミリ波帯での通信速度が高速でモビリティの低い無線アクセスシステムの研究を担当し、第四チームがマイクロ波帯以下のモビリティの高いマルチメディア移動通信システムを担当することになります。とは言っても、研究というものはイナーシャ(慣性)が大きいので、当面は以前からの研究を中心に行いつつ、徐々に新しい方向に持って行こうと考えています。

 また、第二と第四チームは来年早々に横須賀リサーチパーク(YRP)に移転しますが、同じ移動通信関連の研究グループとして、組織の壁をなるべく意識しないで臨機応変の研究体制を組めれば、と考えています。幸いなことに、電磁界理論、電波伝搬、アンテナ、変復調、信号処理、通信プロトコル等々の多彩な専門家が集まっていますので、みんなの力を結集すれば、今の世の中には無いような画期的な新通信システムを提案したり、研究開発したりできるかもしれません。YRPの他の機関とも協力しながら、将来の夢の無線通信システムの構築を目指したいと思います。

 横須賀移転を機に、新たなシステムとして提案し、研究を開始しようと考えているテーマの1つとして、成層圏無線中継プラットフォームを多数用いた広帯域無線アクセスネットワークの研究があります。これは、高度20km程度の成層圏に全長300m程度の巨大な飛行船型のプラットフォーム(エネルギーは太陽電池で自給)を数十km間隔で多数滞空させ、プラットフォーム間を光またはミリ波の超高速回線でメッシュ状に結ぶ無線ネットワークを想定しています。ユーザーとプラットフォーム間のアクセス回線も25Mbps〜156Mbps程度を考えています。プラットフォームの機体は科学技術庁と郵政省が共同で開発することが予定されており、CRLでは、無線システム部分の研究開発が期待されています。

 第二研究チームに所属する職員、特別研究員、研修生等の人数は合計20人近くと大所帯で、横須賀への移転までは2号館と3号館に分散して仕事を行うことになります。当面不便な生活になりますが、横須賀移転後は、新築の広い研究室で、新しいカルチャーを自らが作りだし、新しい研究分野を自らが開拓するという楽しみをとっておいて、当面の不便さにがまんしているところです。チームのメンバーには、何事も自らが先頭に立って道を切り開くいう、開拓精神の実践を期待しているところです。


成層圏無線中継システムのイメージ図



COMETS高度衛星通信放送実験 第三研究チーム


第三研究チームリーダー
若菜 弘充

 第三研究チームは、最新の衛星通信システムに関する研究を目的として発足したが、現在の最大のターゲットは、平成10年1・2月期に打ち上げが予定されている通信放送技術衛星COMETSを用いた高度移動体衛星通信実験及び21GHz帯による高度衛星放送実験である。

 このCOMETSプロジェクトは、これまで宇宙通信部衛星通信研究室が中心となり、通信放送技術衛星計画推進本部という組織の下で、総合通信部放送技術研究室、関東支所宇宙通信技術研究室等複数の研究室が参加して推進されてきた。実験段階への移行に伴い、この衛星通信研究室を第3研究チームとして鹿島宇宙通信センターにおいて再組織化し、人的資源を実験現場 である鹿島に結集するという新しい試みをとった。同センターの宇宙通信技術研究室は、COMETS以外にもN-Star実験や日米衛星通信実験など数多くの衛星通信実験プロジェクトを手がけているが、COMETS実験に関しては第3研究チームを核として両者が一体となって推進する計画である。



通信放送技術衛星 COMETS (NASDA提供)


 今回のチーム制導入の背景には、所内組織改正検討委員会による答申がある。そこでは、社会的要請や国際的要請等により、現時点で明確な目標をもって総合的かつ機能的に研究プロジェクトを推進すべき分野には、時限的な研究開発期間をもつグループ制を導入すべきとある。本プロジェクトのように、明確な目標と期限をもち、複数の研究分野の研究者を大きく挑戦的な課題に集中して投入ができるプロジェクトが対象となった。現在、鹿島宇宙通信センターに結集された第三研究チームと宇宙通信技術研究室との複合体は、(仮にCOMETSグループと呼ぶとすれば)、そこには企画部、宇宙通信部、総合通信部、電磁波技術部及び鹿島宇宙通信センターの力が結集できたことになる。新たな試みのグループとして、産学官の連携を積極的に図り、COMETS高度衛星通信放送実験を推進していきたいと考えている。
今後ともよろしくご指導、ご協力をお願いいたします。実験計画等については、またの機会にご紹介したいと思います。



第四研究チーム


第四研究チームリーダー
守山 栄松

 第四研究チームは陸上移動通信システムの研究開発、特に高速・高能率無線伝送方式及び新周波数帯の研究開発を担当しています。

 現在、陸上移動通信はその年間設備投資額のみで鉄鋼業を越えており、景気の牽引役として大きな期待がされています。これは、それまでのポケットベルのようなサービスから、携帯・自動車電話やPHSのように、より利便性の高いサービスの開発による利用者の開拓によるものであると考えられます。これにともない、陸上移動通信無線局数の増加も著しく増加しています。このため、陸上移動通信に使用する周波数帯も800MHz帯から1.5GHz帯,1.9GHz帯と拡大されてきました。移動通信の産業規模拡大を図り、今後の移動通信の発展を支えるためには、より高い周波数の開発と、より周波数利用効率の高い陸上移動通信システムの研究開発が必要となっています。この研究開発は、現在の移動通信の産業規模を考慮すると、郵政省が行う研究開発の中でもきわめて社会的影響度が大きく、かつ研究開発の重要性も高いものといえます。通信総合研究所では16QAM方式、適応変調方式、周波数ホッピング方式等の周波数利用効率の高い無線伝送方式の研究開発を行ってきました。

 一方、陸上移動通信においてはインターネットのようなマルチメディア通信への対応のため、一度に多くの情報が送れる高速な無線伝送方式の実現が望まれています。しかし現在、数100kbps程度の通信が実現されている程度で、光ファイバを用いた有線通信の伝送速度の1/10000程度にすぎません。これは、陸上移動通信では、高速伝送を実現するための技術的難度が有線通信に比べて高いためです。通信総合研究所では、従来より高速伝送のための研究を行い、技術を培うとともにその検証のため実験装置の開発を行ってきました。図にその系譜を示します。多くの研究開発例の最近の例として、π/4-QPSKビタビ等 化器方式があります。1996年には、この方式に基づく実験装置の開発により10Mbpsの搬送波ビットレートを達成する実験装置の開発に成功しています。

 これら長年培った技術の蓄積を基に、新規に発足した第四研究チームでは、今後も陸上移動通信の発展のため、マイクロ波帯を初めとした新周波数帯の開発と周波数利用効率の高い陸上移動システムの研究開発を行うとともに高速伝送方式の研究開発を行う予定です。





第五研究チーム


第五研究チームリーダー
森 弘隆

 地球環境問題は将来の人類の生存にかかわる重要問題であるため、当所においても様々な取り組みがなされていますが、当チームはアラスカ大学等との国際共同研究によりこの問題の解決に貢献することを目指しています。このプロジェクトは、平成3年度に日米科学技術協力協定の下での共同研究課題として日米両国政府の間で合意されてスタートしました。研究の目的は、最新の電磁波センシング技術を応用して広い高度範囲にわたる地球大気の有効なリモートセンシング技術を開発すると共に、アラスカ大学地球物理研究所と協力して、アラスカにおいて北極域の大気環境の総合的な観測・研究を行い、地球環境変動のメカニズムの解明に寄与するということです。

 大気リモートセンシング技術の開発は、平成5年度からまず成層圏から熱圏下部までの中層大気領域(高度15ー100km)の電子密度、風、温度、大気微量成分などの基本的物理量を測定する6種類の計測機器の開発を開始しました。そのうちのイメージング・リオメータという銀河電波を受信することにより高度90km付近の電子密度の水平分布を世界最高の空間分解能で測定する装置がすでに完成し、アラスカのポーカーフラット実験場でオーロラ粒子の降り込みによる電子密度変動の様子を日夜観測しています。他の機器も今後2、3年のうちに順次アラスカに設置されて観測を開始する予定となっています。これに引き続いて、平成9年度から気象現象の発生する対流圏領域の雲、水蒸気、及びエアロゾルを測定する3種類の機器、及び太陽活動の影響を強く受ける熱圏領域の電離大気、及び中性大気の相互作用を観測する2種類の機器の開発を開始しています。これらの機器の開発は、当チームの他、それぞれ専門の開発技術と実績を持つ4つの研究室が分担して行っています。

 極域はオーロラによって象徴されるように太陽活動の影響が直接現れる地域であり、また中低緯度から放出される人工生成物が大気の大循環により運ばれてきて大気汚染の影響が地球上で最も早く明瞭に現れる地域でもあります。そのため、極域は地球環境変動のメカニズム、及び予知技術の研究には最適の場所と考えられます。アラスカ大学付属ポーカーフラット実験場は広大な敷地の中に観測ロケットの発射施設や各種の観測施設を持ち極域研究で古くから知られた場所ですが、最近の施設拡充計画により基盤的機能が増強され、我々の開発する多種多様な計測機器を受け入れることも十分可能になりました。この地において開始される日米の最新の計測技術を用いた極域大気の総合観測・研究は世界的にも類のない画期的なプロジェクトであり、地球環境変動のメカニズムを解明する研究に飛躍的な進展を促すものと期待されま す。



宇宙技術で地殻変動を測る第六研究チーム


第六研究チームリーダー
吉野泰造

 第六研究チームでは、宇宙測地技術を用いた首都圏広域地殻変動観測に関する研究を推進します。首都圏4カ所(小金井、鹿嶋、三浦、館山)に展開したVLBI(超長基線電波干渉計)およびSLR(衛星レーザ測距)観測施設で大地の息吹を数mmの精度でとらえるこの計画をわれわれはキーストーン・プロジェクトと呼んでいます。これらの施設整備を平成7年度に終え、めでたく竣工式を終えたことはCRLニュース第245号(1996.07「キーストーンの門出を祝って」)でもお伝えしたところです。また、この計画では各局のVLBI観測データを超高速(256Mbps)で中央局に伝送し即座にこれを処理するリアルタイムVLBIが使われています。この世界的にも最も先端的なリアルタイムVLBIのシステムはNTT通信網総合研究所との協力の下に誕生し、これも既に本格稼働して毎日の地殻変動観測結果を迅速に提供するのに役だっています。しかし、ここで満足しないのが通信総合研究所の技術屋であり、継続的なデータの収集を図るとともに、機動的な研究開発体制を生かした「もう一歩先」の技術開発を進めていきたいと思っています。具体的には、観測地点の位置決定において、水平成分に比べ精度が劣る鉛直成分の誤差改善が特に期待されています。また、研究は先進的であるほど結果的に副産物も付随して生まれるものだと思われます。したがって、時限プロジェクトではありますが、摘める実は摘みたいと思っています。
(写真は鹿嶋局のVLBIおよびSLR観測施設)

 一方、本計画を開始して以来、世の中の動きは激しく、阪神大震災の発生とこれにともなう地震研究のあり方の見直しが進められました。当所でもキーストーン計画を、より集中して推進するため新しく設けられたチーム制のもとに研究体制を再編成しました。しかし、キーストーン計画が閉ざされたものであっては成果にも限界があると思われます。内外の関係者の知恵と協力が必要です。連日、観測を進めている首都圏の地殻変動データに見られる現象をより深く理解するために、関連研究者との交流も積極的に行いたいと考えています。毎日の地殻変動観測成果は、関係機関に提供するとともに広く WWW(http://ksp.crl.go.jp/) でも公開しています。キーストーン計画へのご助言をいただければ幸いです。

 夜空に輝く星座に「六分儀」というのがあるのをご存じでしょうか。主に船舶でその位置決定に古くから使われた器械ですが、第六研究チームの番号との不思議な関係を感じます。チームはナンバー制で覚えにくいと思いますが、第六のチームは宇宙技術を用いた地殻変動観測の研究チームとご記憶下さい。