通信システム部 統合通信網研究室
当所とカナダ産業省通信研究所(CRC)は、このほど日本カナダ間に衛星回線と光ネットワークを組み合わせた広帯域のATM実験ネットワークを構成し、HDTV画像通信に関して国際共同実験を実施しました。
21世紀に向けて情報通信の活用により国際社会の発展を図るため、いろいろな国際共同プロジェクトが取り組まれています。今回の実験はそのようなプロジェクトの1つであるG7/GIBNプロジェクトの一環として行いました。GIBNプロジェクトの目的は、G7各国のATMネットワークの相互接続実験を行い相互接続性を向上させるとともに、その上で国際的アプリケーションの相互運用性を検証することで、これまで日本・北米・欧州間で遠隔教育、遠隔医療などの実験が行われてきました。昨年3月に当所とJPL/NASAが中心となって進め、遠隔ポストプロダクション公開実験に成功した日米高速衛星通信実験もこのプロジェクトの一環として実施したものです。
今回CRL〜CRC間で行った実験では、ATMネットワークの広帯域性を生かせる高臨場感通信システムを開発し、国際実験ネットワークにおいてその有効性の検証と今後の研究課題の抽出を共同で行うことを目的として、HDTVビデオ会議システムを中心に実験を進めました。すなわち、最新の国際標準画像符号化方式であるMPEG2によりHDTV品質の画像を約1/50に圧縮し、ATM方式により最低27Mbit/s帯域で伝送する高精細ビデオ会議システムを開発しました。そしてCRCのディジタル放送技術研究グループと共同でこれを使った高臨場感通信応用実験として心臓外科及び脳神経科学に関する遠隔ワークショップを合計3回実施し、それぞれの分野の専門家によりHDTV画像による高臨場感通信の可能性と技術課題について貴重な評価を得ることができました。
今回の共同実験によりCRCとの研究協力関係が更に深まるとともに、応用分野の専門家との国際連携が深まったことは極めて有意義であったと考えています。国際的なネットワーク実験は今後も色々な形で計画され、CRLの先導は不可欠でありましょう。そのとき計画を生かすのは、結局は人と人の関係であることを改めて確認したプロジェクトであったと感じています。
企画部企画課 広報係
我が国では昭和35年より、広く一般国民の科学技術への関心と理解を深め、科学技術振興を図るために、毎年4月に科学技術週間を定めています。通信総合研究所(CRL)でも、この趣旨に沿って、科学技術分野の啓蒙を目的とした催しを実施してきています。例年ですと、本所が所在している東京都小金井市地区の住民を主な対象として、地元での講演会や研究施設の一部公開という形で実施してきました。本年は対象を拡大し、より多くの方に参加いただけるように、初の試みとして、東京大手町の経団連ホールにおいて、4月18日(土)に「インターネット社会への期待と課題」と題して講演会を開催致しました。その報告を述べさせていただきます。
このような催しを行うにあたって最初に悩む問題が、講師を誰にお願いするか、というものです。多くの方に興味深く聴講してもらたい訳ですから、一般の方に関心の高い題材、そして講師のネームバリューも考える必要があります。幸いにもCRLでは、日本におけるインターネットの第一人者である慶応義塾大学の村井教授を昨年11月より超高速ネットワーク研究室長として招聘しており、インターネットというタイムリーな題材で先生に講演をお願いする、ということで、村井先生にも快くお引き受けいただくことことができました。また、関連する分野でのCRLのアクティビティーも紹介しよう、ということで、こちらについては通信システム部の塩見部長にお願いする事で一件落着です。
次の問題は会場探しです。実のところ企画当初は、例年に倣って地元小金井地区での開催を考えていたのですが、陽気も良くなる4月の土曜日ということもあって、どこもイベント真盛り、適度な会場が有りません。仕方なくというかここで軌道修正、都心へ打って出ることになりました。これが2月の段階であり完全な出遅れ状態だったのですが、悪運強いというか、経団連ホールという名の通った、しかも交通の便の良い会場をどうにか確保する事が出来ました。
さて当日。朝から空は厚い雲に覆われ、今にも雨が落ちてきそう。天気予報も芳しくなく、一寸気がかりな状態です。会場の方は準備万端整い、来場者へ配布する資料や来場記念の粗品"特製マウスパッド"も準備完了、進行のリハーサルも終えて、後は開場時刻を待つばかりです。予定時刻が近づき徐々に来場者の姿が見られ、開演時刻に向かって順調に入場者数が伸びて行きます。ここでやっと講師村井先生登場、連絡が取れず気を揉んだところが解消されホッと胸を撫で下ろす瞬間でした。
講演が始まってしまえば裏方の仕事は終わったも同然、リラックスして見ていられます。古濱所長の挨拶に始まり、次いで村井先生の講演。流石に先生は講演慣れしておられるようで、ステージ上身振り手振りを交え、聴衆を引き付けるように感じられます。講演時間もほぼ予定通り、質疑応答も適度にあって順調々々。休憩時間を挟んで、後半の塩見部長の講演も無事終わり、箱石次長の挨拶で講演会を無事終了しました。
最終的な来場者数は262名(CRL関係者除く)で、成功と呼べるかと思います。アンケートにお寄せいただいたコメントでも、このような催しを高く評価する声を多くいただいています。今後も色々な形で催し物を企画して行きたいと思いますので宜しくお願いします。最後に、御協力いただいた方々、御参加いただいた皆様方に感謝の意を表します、有り難うございました。
−ディジタルHDTVを使用した遠隔ワークショップの試み−
久保田 文人
高速パケット通信方式の1種であるATM(非同期転送モード)は、1980年代のはじめフランス郵電省電気通信研究所(現在のフランステレコムCNET)でディジタルビデオ伝送方式として誕生し、1988年からは広帯域ISDNの中核技術として国際標準化が進められてきました。音声、ビデオ、データなど様々な、性質の異なる通信を多重し、1つの方式で伝送することのできる高速ネットワーク技術としては現在代わるものがありません。ただし製品開発・改良が標準化作業と並行して進み、また各国の実用サービスもそれぞれの考えに従って機能を限定していますので相互接続性がまだ必ずしも保証されず、現在はATM方式の持つ可能性のごく一部が利用できる状態であると言って良いでしょう。これまで各国において様々なパイロット実験が取り組まれ技術のブラッシュアップが行われましたが、GIBN実験は国・地域を越えた相互接続性を確認
するためのものと言えます。
日加実験ネットワークの国際区間は、KDDとテレグローブの協力により、インテルサット衛星回線により日加間を45Mbit/sで直接接続する構成を取りました。技術的に試行錯誤したのはカナダ国内区間の接続です。バンクーバ近くのインテルサット地球局からオタワのCRCまでの大陸横断約4,000キロを研究産業教育用ATMバックボーンネットワークであるCANARIEと、アクセスネットワークとしてRogers、BCTel、そしてOCRINetを従続で接続しました。CANARIEは最先端のネットワーク技術を導入しており、UBR(Usable Bit Rate)というインターネット向きのトラヒック制御を採用しています。当初からボトルネックになると心配していたところでしたが、実際、HDTV画像伝送のために必要な広い帯域を継続的に確保することが予想以上に困難でした。さらに、海底ケーブル回線の故障にともない衛星回線の実験使用が中断することなどもあり、一時は悲観的にもなったものです。第1回の遠隔ワークショップ実験が近づいた1月末になってカナダ国内衛星ANIK-Eを利用してバンクーバとCRCを直接結ぶ衛星ダブルホップ構成のネットワーク接続が成功し、胸をなで下ろしました。そしてCA*netIIというCANARIEの最新バックボーンによる接続にも成功し、最終段階でネットワーク性能評価実験と遠隔ワークショップ実験とを進めることができました。
第1回心臓外科ワークショップ
心臓外科遠隔ワークショップでは、当所の古濱所長とCRCのTurcotte所長との交歓で幕を開け、それぞれのサイトに参加された東海大学医学部及びオタワ大学心臓研究所の外科医らにより最新の心臓手術法の模様を収録した生々しいHDTV動画像やX線写真を見ながら専門的な討論が行われ、高精細画像の有効性、そして遠隔医療・遠隔教育への可能性が高く評価されました。脳神経科学ワークショップでは、人間情報研究室藤田室長の司会で理研、ATR、西オンタリオ大の専門家により、fMRI画像などを使った学術的な討論が行われ、距離を克服し地球規模で学術活動を活発化し得るネットワーク導入に期待が寄せられました。もっとも、時差の克服は如何ともし難いものがあります。オタワとの14時間の時差のため実験は東京側は早朝から、オタワ側は夕方から始めるスケジュールとなり、参加された先生方には前夜から泊まり掛けをお願いせざるを得ませんでした。徹夜実験を続けた実験担当者にも苦労がありました。しかし、両会場にはこの<歴史的な>イベントに参加しているという興奮と満足感がみなぎっており、全ての参加者はそれまでの努力の結実を楽しんだ、とつけ加えておきます。
第2回心臓外科ワークショップ
CRC側にて
右から久保田、小峯、大槻、荒川(特別研究員)
西山 巖
村井氏講演の様子
ここまで決まれば後は宣伝、どれだけ人を集められるかの勝負です。いつものようにポスターを刷り関係者・機関へ配布、WWWへの情報掲載、とこの辺りは手慣れた作業。これらに加え、今回のテーマがインターネットという事で、学校関係のネットワーク管理者やプロバイダ各社への案内e-mailの送付を行い、また直前には小さいながらも新聞広告を掲載するなど宣伝に努めました。その甲斐あってか事前予約で200名程度の方から参加の意思表示をいただく事が出来ました。
塩見氏講演の様子 満員の講演会場