SEC(宇宙環境研究所)の第2、第4木曜日には、業務係の部屋の前に「本日勤務時間報告書提出日」の札が下がります。これが、研究職員が定常的にタッチするほとんど唯一の事務文書で、これには、あらかじめ現在使用可能な年休・病休時間数、出張等が出力されていて、それに実際の仕事時間や休暇時間を自己申告して業務係に提出します。以下、前回の報告では書ききれなかった、特に日米の違いで気づいたことについて紹介します。 |
この4ヶ月間、紙による事務連絡はありませんでした。全ての公的情報が同報emailだけで済まされます。例えば、12/24や12/31を半日祝日扱いとすること。イラク攻撃期間中は外部ドアが全てロックされ、IDを入力しなければ建物から出入りできないこと。新しい銀行カードのための誓約書を提出すること等々。
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特定の銀行(NOAAは今年からCITIBANK)と3年程度の契約で提携し、給与や公的出張旅費支払等は、各人に支給されるその銀行のカードを通じて行われます。よって金勘定の一部は銀行が請け負っています。 |
年休は、前年からの繰越時間数(上限240時間)にその年の勤務日数に比例して年休時間が加算されます。業務過剰で年休が十分にとれなかったと所長が認める場合は120時間ぐらいまでのボーナス年休が追加されます。一方、病休の時間数は年を越えて加算されます。よって、年をとって万一病気がちになっても十分な病気休暇がとれます。また年金計算の時、病休時間数は勤続年数に加算して扱われます。
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前回、より優秀な人材の獲得・確保をめざした、「Pay
for Performance」給与システムを紹介しましたが、同時に年金制度も改革され、産学官の人の異動をより容易にすると目論まれています。(http://www.opm.gov/retire/)
旧制度は連邦職員だけを対象としたもので、過去3年間の最大年俸の(奉職年数-1)×2の百分率(例えば30年勤続の人は58%)(上限80%)の年金が支給され、この勤続年数には連邦機関以外での奉職年数は加算されません。よって、州立大学や民間企業との間で行き来する場合は、わずかな退職金と年金を手にするだけで一から出直さなければなりませんでした。この旧制度を民間と同様の年金システムにしたのが新制度で、1983年以降の採用者から適応されます。具体的には上式の×2がなくなり、その分を政府への積み立て年金と共済積み立て年金で賄うものです。新制度では、例えば国の財政状況が悪くなると年金支給額が下がる可能性もあり、×2が保証されていた旧制度より連邦職員にとっては不安定なものですが、年金制度が産学官で同じで勤続年数が加算されるため、年金に関する転職のデメリットがなくなります。 |
事務系の職員は、連邦機関の間を数年〜10年毎に異動します。例えば所長秘書は、研究とは全く関係のない連邦機関からやってきて、SECの雰囲気が極めて自由(ラフ)なのに驚いています。SECは商務省のNOAA(海洋大気庁)のERL(12研究所からなる環境研究所)のひとつですから、ローカルな職員数比率は直接参考になりませんが、概数で、研究者35名(内正規職員20名)技術者18名(内同16名)予報官(研究と技術の中間職)22名(内同16名)所長、副所長及び業務係8名(全て正規職員)となっています。SECは宇宙天気予報業務を持っているので予報官がいて、また環境情報ネットワークの維持開発等のため技術系職員が必須ですが、正規職員としての技術職が研究者数の2/3〜1/2程度いるのは普通のようです。事務職員の数も、NOAA中枢には全職員のための事務職が大勢いるそうで、ERLの世話をする人全てを考えれば、米国でも事務職員の比率は研究者+技術者に対して20%程度になるかもしれないとSEC所長は言っていました。 |
SEC幹部はその年度の実行予算を含め、常に3年間分の予算を扱っています。つまり、1999年1月には要求側から見て最終関門のOMB(Office
of Management and Budget)から大統領に2000年度の予算案が渡り、大統領が議会に説明し始めますが、この時点でSEC幹部は、2001年度の予算要求書第一次案を書き終えています。日本とさほど大きな違いはありません。SECの場合は、OMB以前に3〜4段階の関門があるので、準備を早くしなければならないのです。
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以上この数ヶ月間、昼食時等にこちらの人達との世間話の中で聞きかじったことをご紹介しました。SECもCRLも研究所ですからそれほど大きな違いはありません。それでもこちらの方が「少しだけ」研究環境が良いように感じます。その原因がどこにあるのか、引き続き宇宙天気の仕事をしていく中で見つけていきたいと思います。なお、写真はSEC所長の誕生日ケーキカットでした。
(米国商務省 海洋大気庁宇宙環境研究所に滞在中) |