タイトル 長期在外研究員だより
米国の国立研究所事情 インサイドレポート(その3)なぜ米国の研究所は相対的に良い成果を出すか
富田 二三彦
 世界中で様々な分野の研究活動が行われており、日本を始めとするアジア圏やヨーロッパ諸国もそれぞれ特色ある良い成果をあげていますが、相対的に見れば、現在はやはり米国を中心とする英語圏に分があります。実際に米国の研究所に滞在している間に、なぜ米国の方がリードし易いのか、研究環境の良さの原因は何か等についても考えておこうと思っていました。既に皆様お気づきのことばかりですが、以下に少しまとめてみたいと思います。
 結論から言って、「研究者の切磋琢磨が盛んに行われている」ことが、米国の研究レベルを押し上げていると感じます。これは当然のことのようですが、国際感覚から見て同じような状況を日本国内で実現するためには相当の困難が予想されます。つまり「世界に有数の研究所として研究者の切磋琢磨を盛んにする」ためには、下に述べるようないくつかの条件あるいは基盤が必要であると考えられるからです。
 まず、言葉の問題です。世界中で様々な言語が通用していますが、科学技術の世界における現代の公用語は英語です。世界中の優れた研究者と情報を交換して研究レベルを押し上げるためには、英語を不自由なく読み書きしゃべらなければなりません。例えば「世界に有数の研究所」というのは、その分野の研究パワーが日本対外国で1:3であるとすると、それと同じ割合ぐらい外国人が在籍している研究所となります。そこでの研究的な会話は全て英語ですが、外国人が住めるためには、少なくとも研究所内部の全ての生活環境で英語が使えることも必要です。うわさによれば、CRLの事務官にも英国や豪州で自由に英語を操ってくる人材もいるようですから頼もしい限りです。なお、外国人が安心して生活するためには、日本の高収入高支出(物価高)を補う処置がなされていること等も必要です。
 もうひとつ重要な要素は、個人や個性を大切にする環境作りです。これは、例えば夕食を家族と共に楽しむことができるようにするというような環境設定だけでなく、各人が自分の仕事に納得できるように、今の国研のシステムで言えば、納得して研究職の分業化が進められるような個人の意識改革をも含みます。前者について言えば、例えば室長や課長が在籍中に帰宅するのは気が引けるということばかりを考える潜在意識とか、あの人はいつも夜遅くまで仕事して休日にまで出て来るからすごいというようなことだけを過大評価する意識は無くしていくべきです。後者の意識改革には幼稚園から大学までの教育環境とか、人材の流動性など就職環境の全体も絡んでくる問題なので、多分日本では長い時間のかかる改革です。子供達と共に米国の中学や高校の教育を経験していると、(中学生の娘のBiologyの自由課題はほとんど父親がやりました。ごめんなさいBaseline Middle Schoolの美人先生!)非常に強くそのことを感じます。けっして画一的でなく、自分なりに適した道を選ぶことが最良の人生であるという心境には、なかなか今の日本の教育ではなりにくいのではないでしょうか。
 それでも、研究所にやってくる人々は皆頭が良くて物分りが良く、ポスドク等の環境も急速に整備されつつあります。既にご報告したように、米国の国立研究所で、研究職、技術職、管理職、支援職の4つの俸給表が導入され始めていることや、年金制度が産・学・官で統一されつつあること等々を参考にして、日本流に、でも世界に通用するように、制度だけでなく個人の意識まで改革していくことは、これからの日本の国の研究所にとって必要なことです。今後世界有数の研究成果を生み出して行く土壌は、国際感覚を身につけた日本流情緒的研究風土の中にあると感じています。

(米国商務省 海洋大気庁宇宙環境研究所に滞在中)

写真は、ボルダー及びデンバーにある海洋大気庁の全ての研究所が集結した、旧NBSビルディングの南西隣にある新しいNOAAビルディング。


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