タイトル 通信総合研究所の平成11年度研究計画
熊谷  博

1 概況
 通信総合研究所を取りまく環境は、最近の我が国の科学技術振興に関する取り組みや行政改革の流れを受けて急速に変化している。国の科学技術振興策に関しては、平成7年11月に科学技術基本法が成立し、それを実現するための科学技術基本計画が平成8年7月に閣議決定された。本計画は、「科学技術創造立国」を実現するための5カ年計画であり、計画期間中における国の科学技術予算の大幅増が求められている。平成11年度は5カ年計画の4年目にあたり、国全体としての進捗状況の確認と並行して当研究所における計画の進展と成果の確認を行う必要がある。さらに科学技術振興の流れを引き続き強化するための第二期科学技術基本計画策定に向けて活動が必要である。
 行政改革については、各省設置法案および独立行政法人通則法案等が、本年4月27日に閣議決定され、いよいよ改革のための作業が本格化した。当所は独立行政法人へ移行する機関のリストに含まれており、移行時期は平成13年4月1日とされている。本年度と来年度は国の研究機関としての最後の2年間となると考えられ、独立行政法人化への準備作業をこの間に完了させる必要がある。このため今年度当初から当所の設置法に当たる個別法案の策定等の準備作業が本格化する。
 独立行政法人については、枠組みや規程等の改正とともに、研究活動のやり方についても従来からは大きな変化が予想される。まず、研究において、中期計画と呼ばれる3年から5年程度の計画を策定し、実施に移す。計画および成果については毎年評価があり、必要に応じて見直しを行う。中期計画終了時には、部外者により達成度の評価が行われる。研究成果について、社会に公表して部外者の評価を得るというプロセスが重要な部分を占める。また、評価においては、成果が社会にどのように活かされたか、またそのためにどのような努力をしているかについても重要視されよう。このため、知的所有権や技術移転等については、これに組織的に取り組むための機能を従来に比べ強化する必要がある。
 独立行政法人化の準備の一環として、本年度には全所的な外部評価を実施予定である。当所で全所的に行う外部評価は、平成8年度に続き2回目である。外部評価により、これまでの国研における活動を総括し、独立行政法人化における中期計画案を部外専門家により審議していただく予定である。

2 平成11年度の研究計画
 当所は平成9年度に、通信総合研究所将来ビジョン(CRLビジョン21)を策定し、研究所の使命と目標を明確化した。この中で研究所の進むべき方向として、情報通信を核とした研究開発将来構想を示した。本ビジョンは今後5年から10年を見通したビジョンであり、独立行政法人体制においても基本的方向性は不変と考える。本ビジョンを受けて昨年度からその具体化への取り組みを開始した。CRL将来ビジョンの中で、当所の重点研究テーマとして4つの分野を示した。以下では今年度の主要な研究課題を重点テーマのもとで分類して説明する。
 平成11年度は、情報通信、環境問題等の研究に関して21世紀発展基盤として特別の予算枠が認められたことなどから、当所予算は前年度比約10%増であった。このため、新規研究課題として以下に示す12課題が認められた。

(1)新規研究課題
【次世代情報通信ネットワークおよびその利用に関する研究開発】
・次世代インターネット通信方式高度化の研究開発
・ギガビット衛星通信技術の研究開発
・情報収集衛星の開発研究
・準天頂衛星通信システムの研究
・衛星を用いた立体画像伝送に関する日韓共同実験
【周波数資源の開拓に関する研究開発】
・先端的光波利用基盤技術の研究
・次世代日本標準時系に関する研究開発
・標準電波による無線局への高精度周波数時刻の供給
・高速移動マルチメディア通信マイクロセル技術
・無線局の運用における電波の安全性に関する評価技術
・ディジタル放送の高機能化技術
【環境計測および環境情報の高度利用に関する研究開発】
・宇宙環境観測衛星システムの研究開発

 これらの課題の中から、以下の4件について説明を加える。
「次世代インターネット通信方式高度化の研究開発」
 インターネット通信方式を現状の通信方式からさらに高度化するための基盤的情報の収集と解析を行う。このためにネットワークの振る舞いを観測する装置を開発し、実際のネットワーク上で測定を行う。さらにこの測定を通じて、次世代インターネットにおける高品質通信手順(プロトコル)の開発を行う。本研究はインターネット技術における標準化にも寄与することを目指している。


「先端的光波利用基盤技術の研究」

図1 先端的光波利用基盤技術のイメージ図
 平成6年度以来、科学技術庁によるCOE(Center of Excellence)育成プログラムとして実施してきたが、開始後6年目の今年からは当所の独自予算によりさらに研究の発展を図る。今年度からは、光波利用基盤技術として、超高速スイッチ等への応用を目指した光電磁界利用技術と大気中の光伝搬におけるゆらぎの補正等をめざした光波面制御技術を中心に研究を行う。
 なお、本研究においては、研究に従事する非常勤研究職員の雇用のために当所独自の制度を今年度から創設し、定員以外の人材の活用を図りつつ研究を行う。研究内容のイメージ図を図1に示す。


「次世代日本標準時系に関する研究開発」
 従来よりも一桁以上精度の高い高精度一次標準原子時計の研究開発並びに高精度時系の構築に向けた高精度周波数・時刻計測システムの研究開発を行い、各種応用分野への寄与を目指す。一次標準原子時計の開発においては、真空中に原子を外乱のない状態で冷却・蓄積する技術やレーザによる原子の冷却技術を適用する。

「宇宙環境観測衛星システムの研究開発

図2 太陽定点監視衛星のイメージ図
これまで実施してきた「宇宙天気予報の研究開発」の成果を発展させ、より高度な宇宙環境の監視、予報システムを構築していくために宇宙環境監視衛星ミッションを提案し、これの実現のための研究開発を開始する。このためには、まず太陽活動の先行監視が可能となる宇宙空間上の定点に衛星を配置し、太陽および宇宙空間の観測を行うための「太陽定点監視衛星」を提案する。研究ではコロナ撮像等の搭載観測装置の研究を行うほか、このための宇宙環境シミュレータの開発や衛星上でのデータ処理技術等の研究を進める。太陽定点監視衛星のイメージ図を図2に示す。

(2)継続研究課題

図3 手話データベース画像例
 継続研究課題では、当所の大型プロジェクトである「情報通信基盤技術に関する基礎的・汎用的技術の研究開発」の進捗について紹介する。 本研究は、今後の情報通信技術においてその基盤技術となるべきテーマを国として先導的に実施し、先端的情報通信技術の有効性を社会において実証することを目的とし平成7年から実施している。この中では、超高速ネットワーク、汎用情報通信端末、映像情報データベースを3本の柱としている。
 本年は研究の5年目となり、成果をまとめ上げるとともに、部外専門家を交えた調査研究に基づき、本プロジェクト以降の計画策定を行う。本技術分野における技術の進展は目覚しく、今年からは全国規模のギガビット高速ネットワークテストベッドの運用が開始している。今後はこのようなテストベッドの活用も視野に入れた研究を進める。また、本研究における特徴的な成果として、障害者支援端末技術として進めている手話認識において、4,000語からなる手話の画像データベースを構築した。この成果は社会的にも大きな反響が得られた。本データベース画像例を図3に示す。

3 おわりに
 平成11年度の研究計画として、研究所を取りまく情勢といくつかの研究課題の紹介を行った。昨年度の補正予算により、当所の本庁舎の新設が認められ、近々建設工事が開始される。当所にとって庁舎の建て替えは長年の夢であり、ようやく実現にこぎつけたわけである。完成予定は平成12年度末であり、13年度からは新しい庁舎において、独立行政法人のスタートを切る予定である。国立研究機関として残された2年間に、これまでの研究内容及び実施体制、研究運営、各種業務の実施等の問題点を洗い出し、独立行政法人化に向け新たなより効果的な仕組みを創造していく必要がある。

(企画部企画課長)



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