タイトル 所長就任挨拶

飯田  尚志

はじめに
 このたび7月13日付けで所長を拝命致しました飯田です。よろしくお願い致します。古濱前所長の時代に通信総合研究所(CRL)はそれまでの数年間の変化を加速し、大きく変貌してきました。これから1年8か月程で、独立行政法人になるというさらに大きな変化を迎える大変な時期を控え、心引き締まる思いがしますとともに、やりがいのあることと捉えたいと思います。

 情報通信技術は20世紀の時代を動かす主役の一つを果たし続けてきましたが、現在ほどその力を見せつけている時はなかったと思います。しかも、その得意とする即時性、グローバル性が発揮され、特定の人のためだけではなく、誰もがその便利さを享受できる時代に来ています。そして、この技術は今後ますます進歩することが予想され、また期待されています。そのためには各種の技術の革新が求められているわけで、不断の努力が必要であり、情報通信に関する唯一の国立研究所であるCRLの果たす役割は極めて大きいと同時に期待に対する責任も重大です。

CRLビジョン21を基礎として
 今後、CRLはどのような点に注意して研究を進めていくべきか、その基となるのは、今までも紹介されていますが、CRLビジョン21(CRL News, No.266,1998年5月号参照)です。これは、平成8年度外部評価の結果に基づいて、CRL将来ビジョン検討委員会での審議を踏まえて平成9年度に策定されたものです。このCRLビジョン21ではCRLの使命と目標が明確にされ、人類社会の持続的な発展のために情報通信に関する研究開発を推進することを使命とし、電波・光に関する研究を通じて、情報通信に関する世界的に中核となる研究所となることを目標としています。

 CRLビジョン21の中で将来のCRLの規模について言及されており、当面(約5年後)の規模としては、現在の規模程度、約10年後にはいわゆる研究者1000人・予算1000億円構想が盛り込まれています。勿論、CRLの規模が今後どのように実際に推移していくかは分からないわけですが、我が国の情報通信関連産業から生み出されるGDPの規模や、それだけのGDPを生み出していくために必要な新しい技術開発のための研究の遂行は必須であることを考えれば、国立研究所としてのCRLは、この程度の規模となることが必要であるということで、編み出されたものでした。したがって、CRLが今後、かなりの努力が必要とはいえ、研究成果を十分に上げ、世の中の期待に応えていくことにより、このような規模となることも根拠のないことではないと考えられます。

柔らかい・燃える研究に
 ただ気を付けなければならないのは、最近のいわゆる情報通信技術の革新が、必ずしも従来タイプの研究から出ていないものもあるということです。研究室の中で行っていた小規模な研究が、いきなり応用技術として実用化され大きな成果を上げることがあると聞いています。したがって、研究の進め方としては従来のやり方にとらわれることなく、脂の乗った時期に一気に研究を進めるような意気込みとそれを支える体制、または、皆でそれを後押しするような気持ちも必要になってきます。何が脂に乗っているかを見極めるのは極めて難しいとは思いますが、果敢に挑戦していくという意気込みが、組織をあげて大切だと思います。

 このような情勢の下で研究において成果を上げるには、堅い・冷たい研究所ではなく、むしろ柔らかい・燃える研究所が理想的だと思います。換言すれば、果敢に未知のものに挑戦することだと思います。主流の研究に全力を投じるのは当然ですが、研究者というのは必ず、人には言えないテーマを温めているものではないかと思います。このようないわゆる隠れた研究テーマについても大切にして欲しいものです。研究者に一つの目的に向かって仕事をさせるのみの体制ではなく、副産物も大切にする懐の大きな研究所となることが是非必要だと思います。

ベンチャー企業も育つ環境を
 また、これからのCRLにとって重要なことは基礎・先端的研究を進めることは言うまでもありませんが、一方でこれからのベンチャー企業が育つことも重要であると考えます。それには特許取得を増やすことや、現在注目されている技術移転機関(TLO)のような組織をどのように活用するか検討することも必要と考えます。重要なことは研究者が発明し、かつ自ら起業できる環境だと思いますので、どうしたらそのような環境が整備できるか知恵を出す必要があると思います。

独立行政法人への準備
 独立行政法人となったら、CRLはどう変わるのかについてはまだまだ明らかでないところがたくさんあります。しかし、予算の使い方が柔軟になったり、組織の構成、定員、採用について独立行政法人の長の裁量が増すことなど、少なくとも、現在より迅速な対応がとれるようになることが期待できると思います。また、現在より海外の研究拠点が作り易くなるといわれており、今後具体的に検討できるとよいと思います。独立行政法人となって、研究の運営が柔軟にできるようになり、かつ予算が手当てされると、今後研究が飛躍的に活発になることが期待できると思います。大切なのは、どうしたら我が国の情報通信の研究成果が上がるようになるかという観点から独立行政法人の枠組みを構築していくことだと思います。

 独立行政法人になると、研究の進め方について大きく変化することは確実なのですが、それにも増して変化する(激変といっていいかもしれません)ものは企業会計の導入により変化する総務関係だと思います。この変化に追いつくためには、相当の気構えと勉強が必要になります。通常の業務の中で、このような新しいものへの変化に対応することは非常に大変な作業ですが、当所の場合、一丸となって乗り切ってきた経験が過去何回もありますので、若さと気概でやっていけるとは思いますが、必要な体制を作ることも重要だと思います。

おわりに
 独立行政法人になるという大変な時を迎え、今後の作業は膨大になると予想されるわけですが、この生みの苦しみを乗り切らねばならないと思います。職員全員一丸となって取り組むことにより必ず乗り切ることができると思います。今後とも皆様のご支援を切にお願いする次第です。

略 歴
昭和17年 東京生まれ
昭和41年3月 東京大学工学部電子工学科卒業
昭和46年3月 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
同年4月 郵政省電波研究所(現通信総合研究所)入所
鹿島支所にてカナダの電離層観測衛星アロエット、ISIS、ヨーロッパ宇宙機関人工衛星TD−1Aなどのテレメータ・コマンド運用に従事
我が国の電離層観測衛星ISS自動化管制施設の設計、運用に従事、この間、昭和50年8月〜昭和51年8月カナダ通信省通信研究センター客員研究員
昭和59年9月 衛星通信部第二衛星通信研究室長
昭和60年4月 宇宙通信部宇宙技術研究室長
将来の衛星通信システムとして、ミリ波パーソナル衛星通信システムなどを提案
昭和62年4月 宇宙開発事業団出向。
人工衛星開発本部主任開発部員として、CS−3衛星の開発に従事
平成元年6月 郵政省通信総合研究所宇宙通信部長
平成3年6月〜平成4年6月 米国コロラド大学大学院客員教授
平成5年7月 通信科学部長
平成6年4月〜平成11年3月 電気通信大学大学院客員教授
平成6年7月 電磁波技術部長
平成7年6月 企画部長
平成10年6月 次長
平成11年7月13日付 通信総合研究所所長就任

平成11年度 前島賞受賞

著書 「ウェーブサミット講座 衛星通信」
オーム社 編著
通信総合研究所 所長 イイダ タカシ


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