タイトル デジタル・ナロー通信方式とは? 400MHz帯等業務用無線の周波数有効利用の促進に向けて
浜口 清

はじめに
  150MHz帯や400MHz帯の周波数の電波を使用する防災行政、消防、電力、運輸等の公共業務用移動通信無線局では、主にアナログ変調方式を使用した音声による通信が行われています。現在、150MHz帯において約700チャネル、400MHz帯において約5000チャネルの周波数の割り当てがあるものの、既にほぼ全てのチャネルを割り当て済みであり、非常にひっ迫した状況となっています。
 一方、これら無線局は公共業務に使用されることから、いざという時の大切な情報伝達の手段になり得ます。例えば、消防に使用される無線局では、現場の状況を消防本部で把握するために、移動局から基地局へ、静止画像を伝送したいとの強い要望があります。
 このため、増大する移動通信用無線局を収容することを目的に、現在、チャネル周波数間隔として150MHz帯では1チャネルあたり20kHz、400MHz帯では12.5kHzを使用しているところを5〜6.25kHzにナロー化し、周波数の有効利用を図ることが重要です。また、データ通信等の高度利用や画像伝送などのニーズの多様化、秘話性の向上に応えることを目的に、周波数の利用効率・データ伝送等に優れたデジタル変調技術を用いて、無線局の利便性の向上を図ることが重要です。
 当研究所の第四研究チームでは、業務用無線局の利用の増大及び通信の高度化の要請に応えるべく、デジタル技術等を用いる狭帯域通信方式(デジタル・ナロー通信方式)の無線設備の技術的条件の策定を行うために、平成8年度よりデジタル・ナロー通信方式の研究を進めています。

JPEG画像伝送実験
写真1 野外伝送実験の様子
  平成8年度より、伝送実験による評価を目的として整備した無線実験装置を使用して、室内実験、代表的な平野部や山間部、盆地を対象とした野外伝送実験と、電波伝搬特性を把握するためのマルチパス伝搬測定実験を行ってきました。写真1に山梨県勝沼町での野外伝送実験(基地局側)の様子を示します。これらの実験の結果、特に盆地や山間部では、遠くの山に到達した電波が反射し、直接受信した電波と混ざり合って波形が歪む現象(マルチパス現象)があり、通信品質を大幅に劣化させる原因となることがわかりました。
 この対策として、受信した反射波を受信機内で打ち消す技術(適応等化技術)を実験装置に搭載し、甲府盆地において野外実験を行ったところ、適応等化技術によるビット誤り率(デジタルの1を0に、または0を1に誤る確率)の低減効果が顕著であることを確認しました。また、音声とデジタル信号を相互に変換する集積回路(音声コーデック)を用いて音声伝送実験を実施しましたところ、ビット誤り率が3%程度であっても音声通信が十分可能であることを明らかにしました。また、これら新規システムの置き換えの過程では、一時的に従来システム(狭帯域FM)と混在することになりますので、新旧システムの間において相互に干渉を与える実験を行って、周波数の共用条件(同時使用するための条件)を明らかにしました。
 さらに今回、デジタル・ナロー通信方式を用いたJPEG画像伝送実験を実施し、野外における実用レベルでの静止画像の伝送に初めて成功しました。なお、JPEGとはITU(国際電気通信連合)とISO(国際標準化機構)で定めたカラー静止画像の圧縮、展開を決める規格であり、圧縮率が高いわりに画質の低下が少ない特長から、デジタルカメラ、パーソナルコンピュータなどでの画像データ保存形式として一般的に使用されています。
図1 誤り訂正の原理

 この実験に用いたシステムの特徴は、伝送の誤りを極力少なくし、かつ短い時間でデータ伝送を行うために、伝送効率の優れた再送訂正方式(タイプIIハイブリッドARQ方式)を導入したことにあります。ここで用いた再送訂正方式では、通常は情報データを送信し、誤りが検出された場合のみ誤り訂正のためのデータを再送する方式です。例えば、図1では移動局から静止画像データを符号化して基地局に送信します。基地局では、受信したデータの誤り判定を行い、誤りがあった場合、移動局に再送を要求します。以上の手順を繰り返すことにより、高品質な(誤りがほとんど生じない)静止画像のデータ伝送を行うことができます。この方式の特長は、情報データと誤り訂正のためのデータを分けて送信することにより、同時に送信する他の方式と比較して、回線状態が劣化した場合における再送回数を減少できることにあります。伝送効率が高いことから、伝送帯域に制限のあるデジタル・ナロー通信方式に特に適しています。
 写真2に、実験に用いた装置とアンテナの外観(左側:基地局装置、右側:移動局装置)、表1にこの装置の主要諸元を示します。

  諸 元
多元接続方式 FDMA/FDD
変調方式 π4-shifted QPSK
伝送速度 9.6kbps
ロールオフ率 0.2
チャネル間隔 6.25kHz

表1 主要諸元
写真2 左側:基地局装置
右側:移動局装置
 

電波の有効利用に向けて
 郵政省は、平成9年に400MHz帯等の周波数の電波を使用する業務用の陸上移動局等の無線設備の技術的条件を策定するため、電気通信技術審議会に諮問を行い、平成10年に答申を得ています。今回の成果はこの電気通信技術審議会で議論され、デジタル・ナロー通信方式の標準化に大きく活かされています。
 デジタル・ナロー通信方式の導入の結果、ナロー化により周波数の割り当てが容易となり、消防・救急用及び防災行政用の新規無線局の整備拡充に役立ちますし、デジタル化により画像伝送等の通信の高度利用や秘話性の向上が図れます。特に今回、静止画像の野外伝送実験の成功により、デジタル・ナロー通信方式の普及になお一層の拍車がかかるものと期待されます。

(第四研究チーム)




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