電離層観測衛星 ISS


松 浦 延 夫 (情報処理部)

 電離層観測衛星(ISS:Ionosphere Sounding Satellite) は昭和51年2月29日12時30分(日本時間)に宇宙 開発事業団種子島宇宙センター大崎射場からNロケット により打上げられ、ほぼ予定通りの軌道に投入された。 その後3月15日の軌道決定結果によると、近地点991q、 遠地点1,011q、軌道傾斜角69.7°、周期105.1分でほとん ど予定軌道に近いものであった。打上げ後、約1か月間 は宇宙開発事業団が初期運用を担当し、これを電波研究 所が支援する形で衛星各部の機器動作確認及び観測デー タの評価・確認を行った。この間の電波研究所における 支援体制は、ISSからのデータを鹿島支所の管制セン ターで傍受し、ハウスキーピング・データの主要項目を 監視し観測データを磁気テープに記録して種子島増田追 跡管制所の運用を支援すると同時に観測データを7GHz マイクロ回線経由で本所の衛星データ解析研究室に伝送 し観測データの即時監視を行なうというものである。初 期運用期間において衛星は順調に動作し、ブーム展開、 アンテナ伸長、とう載テープレコ-ダによる記録・再生、 各観測機器動作、遅延観測等いくつかの関門を無事通過 したが、最終段階の衛星全日照期直前から蓄電池温度の 異常上昇という緊急事態が発生した。これに対処するた め増田局からのコマンドにより種々措置がとられたが、 4月2日午前6時(日本時間)の448周回目の衛星デー タ送信のあとISSからの電波は途絶したままである。 初期運用段階での動作確認後、電波研究所による定常観 測が始まろうとする直前の異常発生であり誠に残念とい うほかはない。
 約1か月間の初期運用期間中に76パスの運用が行れて おり、このうち衛星チェックモードのみの運用が25パス (うち6周回分のチェック記録モードを含む)で、観測 モードの運用が51パス(うち13周回分の記録観測モード を含む)である。ISSの4項目の観測機器への電源投 入は順次行われ、3月4日に先づRAN(電波雑音観測) の動作チェック、つづいて3月6日にRPT(プラズマ 測定)、3月15日にTOP(電離層の電波観測)、3月25日 に最後のPIC(正イオン組成観測)がそれぞれ作動し、 衛星データ解析研究室のミッション監視装置によって即 時監視が行われた。
 ISSの主観測項目は上記の4種類であって、電離層 パラメータ並びに電波雑音の世界分布を観測し、短波通 信に影響を与える電波環境を探知することを目的として いる。汎世界的なデータを限られた地球局で取得するた めに、衛星約1周分(112分間)の観測データをとう載磁 気テープ装置で記録しておき、地球局上空に衛星がきた ときに26倍の再生比(所要時間5分弱)で地上に送るこ とができる。また、観測経度を適宜選択するために記録 観測開始時を遅延コマンドにより制御することができる。 各観測項目についての概要を次に述べる。
(1)TOP:この観測の主眼は電離層の臨界周波 数を観測することであって、サウンダーから観 測周波数を0.5MHzから15MHzまで掃引しなが らパルス電波を発射し、電離層あるいは大地か らの反射エコーの見掛けの距離d'と周波数fの 関係から臨界周波数を求める。臨界周波数は電 離層の最大電子密度を与え電離層の状態を示す 重要なパラメータである。
(2)RAN:自然電波雑音を4つの周波数チャン ネル、2.497MHz、4.997MHz、9.997/10.003 MHz、24.994/25.006MHzについて観測するた めのもので、空電あるいは電離層の外側からの 電波雑音の平均強度、及び空電による衝撃性電 波雑音の発生頻度を測定する。アンテナはサウ ンダー用のダイポール(全長36.8m及び11.4m) アンテナを共用している。
(3)PIC:衛星高度(約1,000q)における正 イオン組成をベネット型イオン質量分析器を用 いて観測する。2個の分析器がスピン軸の両端 に取り付けられており、質量数1ないし24、密 度10ないし10^5p^3のイオンを検出することがで きる。
(4)RPT:衛星高度における電子・イオンの密度および 温度を球型プローブを用いて観測する。衛星周囲のプラ ズマに対するプローブ電位を掃引し、その間の電子・イ オンの電流特性曲線から密度・温度を求める。
 最後に初期運用期間中に取得したISSデータの解析 結果の一例を紹介する。図はTOPの観測をはじめてか ら最初の記録観測による地球1周回分の臨界周波数 (f0F2)の分布を示したものである。もっとも内側の太線 の円は衛星軌道を地球上に投影したものを表わすと同時 に半径方向の臨界周波数目盛の0MHzを示す。外側の円 に沿って、衛星位置の緯度、経度及び地磁気伏角 (DIP)、L値が示されている。中心の地球には日陰線、地理 赤道、磁気赤道(鎖線)、及び太陽直下点(◎)が示され ている。ISSの218周回のデータは矢印の位置から始 まり(実線) 219周回目のデータ(点線)と重なってい る。日照側(左側)の磁気赤道(DIP=0)付近で f0F2の低下が見られ赤道異常を示している。この差は経 度差によるものである。夜側の磁気赤道付近では地方時 23時ころであるがかなりf0F2が高くなっている。南半 球の高緯度ではスプレッドエコー(半径方向に線分で結 ばれた部分が周波数の拡がりを示す)が見られ、その場 所で臨界周波数が高くなっている。このような現象は北 半球では見られず、臨界周波数がかなり低くなっている。 このような南北非対称は今まで知られていない現象であ る。地球1周回分の電離層データはカナダの衛星Alouette やISISでも得られておらず、ISSの大きな特色 である。Lの値が4ないし6の付近で臨界周波数が急に 低下しているのが見られるが、これは電離層を高緯度側 と低緯度側に分ける不連続線に対応するもので、この不 連続は磁力線に沿って磁気圏にまで拡がっている。ISS 高度の1,000q付近では、この不連続のところでプラ ズマの温度が非常に高くなっており、またこれを境にし てイオンの主成分が低緯度側で水素イオン、高緯度側で 酸素イオンに移り変わっている。この不連続線は電離層 嵐の際にかなり低緯度まで降りてくることが知られてい る。


ISSデータから得られた臨界周波数の分布

 初期運用期間に得られたデータの解析が進められてい るが、限られたデータであるので世界分布図を作成する ことはできないけれども、新しい事柄が見つかっており、 ISSの電力系異常が惜しまれる。




CCIR研究委員会中間会議Aブロック会議に出席して


若 井  登 (調査部)


第6研究委員会会議中の日本代表団
(左から 清水、宮、若井、大滝の各代表)

 国際電気通信連合(ITU)の常設機関の一つである、 国際無線通信諮問委員会(CCIR)は、最近の急速な無 線通信技術の発展を反映して、4年ごとに総会を、その 間に中間会議と最終会議を開催する形が定着化している。
 CCIRは、第1から第11までの研究委員会に加えて、 用語(CMV)と遠距離伝送(CMTT)の委員会を持って いるが、これだけ多数の委員会を同時に開催することは 困難なので、AとBの2ブロックに分けて開催すること も最近の傾向となっている。
 私は、本年2月から3月にかけて、スイス国ジュネー ブで行われた、中間会議Aブロックに、16名から成る日 本代表団の一員として出席する機会を得た。
 Aブロックには、第2、3、5、6、7、8の研究委 員会と用語委員会が含まれていたが、第3と用語委員会 は案件が少なく取止めとなったので、実際に開催された のは、第2、5、6、7、8研究委員会と、第8研究委 員会の中の特別委員会(航空移動)であった。残りはB ブロックに属し、5月から6月にかけてジュネーブで開 催される。
 私は主として、第6(電離層伝搬)と第2(宇宙研究 と電波天文)研究委員会に出席した。紙面の制約もある ので、ここでは当所の業務に最も関連の深い第6研究委 員会の模様を簡単に紹介する。
 第6研究委員会のテーマは、電離層伝搬であるから、 対象とする周波数領域は主としてHF帯以下であるが、 VHF以上の電波伝搬の問題も関係がないわけではない。 というのは、電離層の中にはスポラディックE層のよう に、VHF電波も反射して混信の原因となるような層も あるし、電離層のゆらぎは人工衛星からの電波にシンチ レーションやフェージングを起す原因となっているから である。最近は、本来の電離層を介する伝搬よりも、む しろ宇宙通信に対して電離層が与える影響に関する研究 の方が活発になっている傾向がある。
 さて今回の会議の中心的話題はというと、作業部会 (Working Group)を縮少再編成したこと、暫定作業班、 (Interim Working Party)の活動を強化したこと、HF 及びVHF電波の電界強度計算法がそれぞれ改訂及び新 設されたことであろう。

(1)作業部会の再編成
 現在9つに分れている作業部会を、5つ程度に縮少再 編成する作業が、議長のD. K. Baileyの要請に基づき、特 別委員会によって行われた結果、次のような6部会構成 が承認された。
  1. 通信系設計に必要な諸要因 (System design factors)
  2. 運用上の諸問題(Operational considerations)
  3. 電離層の特性と電波伝搬(Ionosphere properties and propagation)
  4. 1.6MHz以上の空間波電界強度(Sky-wave field strength at frequencies greater than 1.6MHz)
  5. 1.6MHz以下の空間波電界強度(Sky-wave field strength at frequencies less than 1.6MHz)
  6. 自然及び人工電波雑音(Natural and man-made radio noise)
この再編成の発端は、最近の十数年間に研究の対象が変 化し、活発な作業部会とそうでないものとの差が目立っ てきたこと、学問的色彩の濃い従来の構成を、他の研究 委員会との関連を重視し実用技術に主眼をおいた構成に 組み替える必要性が高まってきたことにあると考えられ る。この新構成は種々の意味で好ましいのであるが、そ の反面、300頁に及ぶテキストを全部見直すという作業 も付随してくる。明年秋の最終会議は、恐らくこの構成 で審議が行われるであろうし、したがって事前の準備は 日本にとってもかなり大変なものとなろう。

(2)暫定作業班(IWP)活動の強化
 CCIRに提出される各国からの寄与文書は、最近ま すます専門化、多面化してきている。したがって、もち ろん会議には専門家が出席するのであるが、それでも会 議という短時日の間に文書の内容を十分に掌握できない 場合がしばしば起る。これに対処するために、専門家の 集りであるIWPの活動を強化して、日常の研究活動を 活発にし、CCIRの会議はその成果のみを重点的に審 議するという形に体質改善をしようとするのがこの強化 の目的である。今度の会議では、次の3つのIWPが新た に設立を承認され、それぞれの議長も決まった。日本は このうち1と2に参加を表明し、目下委員を選考中である。
  1. 高緯度電離層に関連する無線通信の特殊問題
    (議長:D. H. Jelly カナダ)
  2. 宇宙通信・航行系への電離層の影響
    (議長:E. N. Bramley 英国)
  3. 大電力送信機による電離層変形
    (議長:W. F. Utlaut 米国)
 この他に、従来から存在していたが、実質的に活動を 停止していたIWP6/2(電波雑音)も前記の指針に基づ き再発足することとなった。新議長はA. G. Hubbard(米 国)であり、日本も参加を表明した。

(3)HF及びVHF電界強度計算法
 短波の電界強度計算法は、昔から各国が独自の方法を 考案して使ってきたが、国際的に通用する方法、いわゆ るCCIR法に統一しようとする努力が続けられた結果、 やっと1970年に暫定というただし書きつきの計算法が承 認され出版される運びとなった。しかしこの方法は、早 くも1974年には改訂の必要ありということになり、今回 その改訂版が提案、採択されたのであるが、会議前には、 米英の対決により改訂作業はかなり難航することが予想 された。しかし結果的には案外すんなりと従来の米国法 に代る英国法が採用された形に終った。とはいっても計 算法はそれほど大幅に変ったわけではない。この中に日 本は得意の分野で研究業績を盛りこむことに成功した。
 VHF電波がスポラディックE層によって反射され伝 搬する際の電界強度計算法は、永年CCIRの懸案とな っていたものである。この問題を扱うIWP6/8議長の 宮憲一氏は、1974年以来意慾的にこの問題に取組み、各 国からの寄与を生かしながら日本の計算法(宮・佐々木 法)を中心としてまとめ上げ、今会議でCCIR法とし て採択されるまでに漕ぎつけたのであって、その努力は 関係者から高く評価された。

 以上要点だけを書き挙げたが、最後に感想をのべて本 文を締めくくることにする。
 私は前回の中間会議(1972年)にも出席したが、その時 は一人で9つの作業部会を受け持った。これらの部会は大 体2つが同時開催され、その間にIWP会合が重なるので、 審議に参加できたのは半分以下であった。その上日本から の寄与文書を説明するため、関係の部会をあちこち駆け回 っていると論議のつながりが分らず、ほとほと弱ったもの である。しかし今回はKDDの官憲一、清水恍平両氏の御 協力により、3人で分担して参加できたので、十分に日 本代表としての責任を果すことができたと思っている。
 また、いつものことながら、ジュネーブ在勤の藤木 IFRB委員をはじめ電気通信関係の諸氏には、会議はも ちろん生活上のことに至るまで言葉に尽せぬ程お世話に なり、6週間にも及ぶ任務を全うできたことに対し、深 く感謝している。




科学技術庁の昭和51年度研究功績者賞受賞

−マイクロ波回線の交叉偏波歪発生に関する基礎的研究−


第三特別研究室 主任研究官  小 口 知 宏


 同技官は4月13日東京農林年金会館において開催され た科学技術庁の表彰行事の一環として研究功績者賞を受 賞した。本表彰制度は科学技術に関して優れた研究成果 をあげた研究者に対し科学技術庁長官賞を贈って研究功 績者として表彰し、研究者の研究意欲の向上に資するこ とを目的として昨年度新設され たものである。本年度は第2回 目の表彰に当たるが、当所にお いては初の受賞となる。
 本表彰の対象となった研究テ ーマは“マイクロ波回線の交叉偏波歪発生に関する基礎 的研究”であって、同技官は旺盛な研究心と卓越した理 論的知識に基づき、長年月にわたる努力の結果、上記の 研究を完成したものである。本研究はこの分野において 世界の最先端を行くものであり、あらゆる国におけるこ の種の研究が同技官の研究成果に基づいて行われている といっても過言ではない。
 限られた資源を有効に使用しようという観点から、同 一の周波数で直交する二偏波に別々の情報をのせて伝送 し、実効的に帯域を二倍にしようという試みがなされて いる。この場合雨が降ると雨滴による電波の散乱現象に より減衰と同時に二つの直交偏波間に混信が生じ、これ がこの方式の実用上最大の問題点となっている。
 本研究は、この点に関し、理論的に混信量を予測する だけでなく、混信を装置内部で補償する場合、どの周波 数ではどのような補正を行えばよいかという点について も解答を与えるもので、この方式の実用上その貢献度は 極めて大きいと考えられる。
 受賞された同技官の今日までの努力の結晶に敬意を表 するとともに、今後なお一層の活躍を念願するものである。




第50回研究発表会プログラム

−昭和51年5月19日当所講堂において開催−


1. 電離層観測衛星〔うめ〕特集
        司会   (企画部) 田尾 一彦
 (1)電離層観測衛星の開発、打上げ及び追跡・管制に ついて 宇宙開発事業団 (35分)
       (試験衛星設計グループ) 高比良 昭
       (打上管制部)      榊   博
       (追跡管制部)      村松 金也
 電離層観測衛星の開発、打ち上げ及び追跡・管制につ いて、衛星開発の経緯、打ち上げ状況及びその結果、初 期段階の追跡管制の状況の概要を述べる。
 (2)電離層観測衛星による観測速報(60分)
  1)概要        (情報処理部) 尾方 義春
  2)電離層観測(TOP) (情報処理部) 松浦 延夫
  3)電波雑音観測(RAN)(電 波 部) 村永 孝次
  4)電離層プラズマ特性観測(RPT)
            (衛星研究部)  宮崎  茂
  5)正イオン組成観測(PIC)
            (衛星研究部)  巌本  巌
 電離層観測衛星(ISS)は我が国における実用を目指 した人工衛星第1号として、昭和51年2月29日12時29分 宇宙開発事業団により種子ヶ島宇宙センタ大崎射場から Nロケットを用いて打ち上げられ、極めて正確に予定の 軌道に投入された。
 その後、特に重視されていたとう載テープレコーダの 動作、センサブームの展開、長短2組の観測用アンテナ の伸展等いずれも計画どおりに行われ、打ち上げ後約1 か月間衛星の状態、機器の動作、特にミッション機器の 動作のチェックが逐次実施され、各動作が正常であるこ とを確認した上で電波研究所は4つのミッションすなわ ち、電離層臨界周波数の世界分布の観測(TOP-A、B)、 電波雑音源の世界分布の観測(RAN)、電離層上部の空 間におけるプラズマ特性の測定(RPT)、及び正イオン 組成の測定(PIC)について定常段階の観測を開始する 予定であった。しかしながら、その後衛星電源の故障に より観測不可能となったので、それまでに取得された観 測データを基に検討した結果を速報的な意味で発表する。
 (3)記録映画(30分)     宇宙開発事業団製作
2. データ中継衛星システム(30分)
             (衛星研究部) 中橋 信弘
 ISSのような移動衛星と地球局との間の通信は、現 在地球局から直接見ることができる時間に限られる。そ こで中継用の静止衛星、即ちデータ中継衛星を導入すれ ば、通信時間が増大し、データ取得効果が飛躍的に増加 することになる。米国ではこれをTDRS (Tracking and Data Relay Satellite)システムと称して1979年末の運 用開始を予定しているが、我が国においてもこのデータ 中継衛星システムを研究開発する必要があるとの立場か ら、調査・検討を行ったので、その結果を報告する。
3. 中・短波による海洋波浪の観測(30分)
            (通信機器部)生島 広三郎
 陸上に設置された中・短波帯のパルス送信機を用い、 沖あい海洋波浪からの後方散乱波を受信解析し、海洋波 浪情報を抽出する技術についての調査、研究結果を述べ る。この技術には後方散乱波の強度に着目するものと、 ドプラスペクトラムに着目するものとがあるが、ここで は前者を中心に述べることとする。
 なお探査用電波の周波数が固定されている場合の予想 される波高観測誤差についても報告する。
4. 重水素ホイッスラの発見(30分)
            (情報処理部) 渡辺 成昭
 低緯度の上部電離層において、音にすると雷様の太鼓 のごとくポンポンと聞こえる新型のホイッスラを人工衛 星により発見した。この現象は雷放電による電波が電離 層上部の多種類のイオンと作用し、特に重水素イオンと 共鳴作用をすることによって生じたものと考え、これを 重水素ホイッスラと呼ぶことにした。これは電離層上空 で反射し、南北両半球を繰り返し往復してイオンの情報 を与える。これらの観測と理論計算によるスペクトログ ラム及び北限界等が良い一致を示したことを紹介する。
5. 降雨によるマイクロ波交叉偏波歪の   (30分) 発生について
          (第3特別研究室) 小口 知宏
 最近マイクロ波帯の地上回線あるいは衛星回線におい て同一周波数の直交する2偏波に別々の情報をのせ、実 効的に帯域を2倍にする伝送方式が周波数有効利用の点 から注目され、各国において実用化を目指した研究が進 められている。この方式を実用化する上で最大の問題点 となっているのは、雨滴による電波の散乱に基づく2偏 波間の混信である。本報告ではまず雨滴による交叉偏波 の発生機構と発生量の理論的計算法について述べ、つい で計算結果の解釈並びに実験結果との比較などについて 述べる。
6. 時間標準と時刻同期について(40分)
          (周波数標準部) 佐分利 義和
 原子時計及びこれによって保たれるタイム・スケール は1×10^-13又はそれ以上の精度を実現している。このよ うな高精度は単に周波数、時間標準の向上のみならず、 多くの分野で特に広範な地域での独立同期技術の実用化 という面で利用されつつある。そこで時間標準の国際的 並びに国内的な現況、関連する諸技術及び動向など、高 精度利用にあたって参考となる事項について概説する。




第180回研究談話会


1. 極光帯におけるリオメータの異常吸収について
               大瀬 正美(電波部)
2. ミリ波ラジオメータを用いた高度ダイバーシティの 実験
        乙津 祐一、小林 常人、篠塚 隆、
        井原 俊夫、青山 伸一(電波部)
3. 海中レーザスコープの探知能力
      三浦 秀一、松井 敏明、近藤 喜美夫、
      藤間 克典、石川 嘉彦、生島 広三郎
    (通信機器部)
4. NASA本部並びにCRCを訪問して
               田尾 一彦(企画部)
5. 相関関数による雑音低減効果
       高杉 敏男、鈴木 誠史(通信機器部)
6. 実験用中容量静止通信衛星を対象としたSCPC (Single Carrier per Channel)方式の検討
             猿渡 岱爾(衛星研究部)
7. 電離層世界マップの数値予報
              田中 高史(鹿島支所)
8. ATS-1衛星の管制実験(その1)
  DODSによる軌道決定
         塩見 正、西垣 孝則(鹿島支所)
9. ATS-1衛星の管制実験(その2)
  食にともなう衛星の収縮
             川瀬 成一郎(鹿島支所)




一般公開 (科学技術週間)


 科学技術週間行事の一環として、例年どおり、本所並 びに地方機関の施設を一般に公開した。
 交通ストや天候不順にもかかわらず多数の熱心な見学 者が訪れ、好評を博した。

公開日時と来場者数

 本所の公開項目
1. 人工衛星とロケットを使った宇宙空間の観測
2. ラジオメータによる、ミリ波降雨減衰の測定
3. 電離層衛星「ISS」と短波通信
4. 水素メーザ原子周波数標準器
5. 周波数の安定さを測る
6. 原子時計の国際比較
7. 日本の時刻標準
8. テレビ電波を使っての、時計及び周波数の比較
9. 日本の標準電波
10. 通信衛星・放送衛星計画のあらまし
11. 逆転層を探る音波“ソーダによる対流圏探査”
12. 下部電離層探査
13. 水中レーザ
14. 映画 人工衛星「きく」あがる


一般公開スナップ




リモートセンシング(Remote Sensing)とは


 通信や精密計測に欠くことのできない電波は、近年リモートセンシング(以下RSと略す)と称する聞き慣れ ない言葉の出現によって、その重要性が新しく見直されようとしている。RSの直接の意味は、対象物あるいは 対象物の現象の性質を遠距離から観測することであり、遠隔探査などと訳されている。したがって、RSの手法 としては、レーダとかカメラなどを思い起こせばよいわけである。前者(レーダ)は、観測者が電波を出し、そ の反射波を受けて対象物や伝搬路の性質を測る能動的(Active)な方式のものであり、観測対象物の種類によっ て種々の波長の電磁波あるいは音波のレーダが使い分けられている。光波、音波領域のものは、それぞれライダ, ソーダとも呼ばれている。後者(カメラ)は、物体からの反射光を受ける受動的(Passive)な方式のものであり、 光波のみならず赤外、電波、音波領域においても同様の方式のものが使われている。電波領域のものはラジオメ ータと呼ばれている。
 科学技術の進歩に伴う人間活動の著しい増大によって、大気汚染、水質汚濁など人間環境の破壊が進み、環境 データの取得による環境状態の監視が重要な課題となっている。この目的のため、RS技術は非常に有効な手段 であり、時間的、空間的分解能のよい種々の自動化された装置が開発されようとしている。他方、米国の地球資 源技術衛星(ERTS-1、2後にLANDSAT-1、2と改名)が全地球表面の映像データを地上に送ってから、 各方面の反響を呼び、RSの重要性が認識され始めている。
 RSは、日本においてしばしば衛星から地上、海上の映像を光、赤外あるいは電波領域で取得するという狭い 意味に使われているが、一般的には、より広い概念を意味している。すなわち、人間の住む地球の状態の監視の ため、衛星、航空機等の飛しょう体のみならず、地上、海上から電磁波、音波を使う新しい遠隔探査の技術体系 であり、電波の新しい有効利用であると考えられる。