所長就任挨拶


所 長  工 博  糟 谷   績


 私は一昨日7月3日付をもちまして、湯原さんの後を 受けて、第7代目の電波研究所長を拝命いたしました。 その責任の重大性を思うとき、浅学非才の身をもって、 それに耐えられるか秘かに危具の念を抱いているもので ありますが、どうか皆様の御支援、御協力を得てその職 責を果したいと思います。どうぞよろしくお願いいたし ます。
 御承知のように当所は電波に関し総合的に研究を行う 唯一の国立研究所であり、郵政省の付属機関であります。 当所は電波研究所として開設以来、ほぼ1/4世紀になろう としています。さらにその前身の電波物理研究所や逓信 省に一業務部門のあった時代を含めますと、既に40年の 長きにわたり輝かしい歴史と伝統を持った立派な研究所 でありまして、このことについては、本年の逓信記念日 に際し前所長がお話しになられたので記憶も新たであろ うかと存ぜられます。
 私どもは一致協力して諸先輩が築かれ、残された偉大 な遺産を守り育て、さらにこれを発展させて行く責任が あるのであります。私は終始この期間、当所入所以来、 一貫してその動向を見て参りましたので、辞令を受けて から改めて当所のおかれている立場と期待されている業 務に対して考えてみました。当所の業務を一言にして言 いますと、それは電波という無形の偉大な天然資源を科 学的に有効に利用するための研究開発を行うことであろ うと思うのであります。
 申すまでもなく、電波の特性である速達性、広範な領 域に伝送される性質を 利用した無線通信技術 の研究開発が最も中心 のプロジェクトとして 鋭意努力が重ねられて きました。さらに今後 も続くことでしょう。 またこの無線通信ある いは電波通信を有効に 行うため、電波が媒質 となる、地球上の伝搬特性、その大部分を占める海洋の 上、さらに海洋の中の伝搬特性の研究を行っています。 特に大気圏、電離圏さらに宇宙空間の電波的環境に対し ては最も多くの努力がなされてきました。
 一方、電波の最も基本となる周波数の標準値を確立す るため、精度の向上、安定度の向上に関する研究がなさ れ、特に我が国における原子標準を確立するとともに、 周波数から時間に関する基準を定めてまいりました。ま た無線通信機器に対し国が定める型式検定の業務を実施 し、無線機器の基準を定め、その測定法、較正法に関し 努力が払われているのであります。
 しかし、ここに注目すべきことはここ十年間、当所は 人工衛星を利用した電波の利用開発に挑戦してきました ことは御承知の通りであります。始めATS(1)に関する実 験研究を種々行い、アルエット(2)、ISIS(3)による電離層の 研究を行うことになり、これらに関するトラッキング、 コマンド、テレメトリの技術を修得し、衛星通信に関す る諸施設の整備を行って参りました。今や我々は我々自 身で利用する衛星を持っため、ISS(4)や衛星通信を行う ためCS(5)、BS(6)、ECS(7)、ETS(8)等の研究開発を開始し て参りました。
 ISSは本年4月上旬、わずか1ヵ月の試験期間で終っ ていますが、目下関係機関と協議を重ね、できるだけ近 い将来再び打ち上げ、所期の目的を達成するよう努力し ているところであります。
 また衛星を用いて広い周波数範囲にわたり、電波空間 を観測し、電波の有効利用を計るためいわゆる電波観測 衛星(RMS)の構想がもち上っています。
 最近、電波空間を研究する手段としてリモートセンシ ングという言葉が使われるようになりました。これは地 上からあるいは衛星等から電磁波を積極的に出して、そ の空間あるいは地上の状態を探査したり、自然界の出し ている電磁波を受信してその状態を探査するものであり ますが、これもこれからの当所の大きな仕事となりまし ょう。我々は光波領域を含む電磁波範囲に止まることな く、電波環境を調査するために音波を利用して行う、新 しい手段も考えています。
 このような広い分野を、また多岐な情報を敏速に処する ための情報処理の研究も、最近は最もポピュラーなもの となり、特に大型計算機を導入し、そのハードとソフト の整備が行なわれています。
 我々は我が国が期待している電波科学技術の研究の動 向に注目し、積極的にその要望に答えなければなりませ ん。またこのような努力は絶えず国際的な動向に一段と 注目し、国際研究協力を積極的に推進しなければなりま せん。研究調査開発は何事によらず世界を相手にして行 うものであり、就中電波に関する研究はその感が一層深 いものでありまして、その中から我が国に最も適したも のを選ぶことでありましょう。また研究開発は学問の世 界の中にもありえて、我々は国内の関連委員会・学会に 参加するばかりでなく、国際的な委員会・学会にその活 躍の場を見出さなければならないのであります。
 以上、我々に課せられている広範な分野、また宇宙科 学技術の研究などのような大型プロジェクトの研究成果 を挙げるためには、所員個々の格段の勉強・御尽力の必 要なことは申すまでもありませんが、その方向づけをあ やまらないようにしなければなりません。すなわち研究 のベクトル和を最大に計ることが肝要でありましょう。 ここに研究管理企画、支援業務の重要性が今日ほど問わ れることはありません。
 さて我々は、一方このような業務を国から負託を受け ている公務員であります。そこに公務員としての規律、 秩序を守ることが要求されているのであります。業務遂 行上、定められた諸法令・規則、予算・決算等の運用に 対しては、常に留意し、誤りのないようにしなければな りません。
 このような立場を十分理解していただき、与えられた 業務は積極的に大胆に、また謙虚に、慎重に、いつでも 健康管理に留意され明朗活達な気分で、楽しく仕事をし ていただきたいものであります。
 最後に、私としても微力ながら皆様とともに一層頑張 りたいと決意を新たにしていますので、重ねて何分の御 協力と御支援を賜り、この電波研究所が一層発展し、皆 様のお仕事が一段と輝かしいものにしたいと念願してい ます。所長就任に際し、その所感の一端を述べまして挨 拶にかえたいと存じます。

(7月5日当所講堂で行われた新所長の挨拶から)


(注 釈)
 (1)アメリカの応用技術衛星
 (2)カナダの科学衛星
 (3)カナダの国際電離層研究衛星
 (4)日本の電離層観測衛星
 (5)実験用中容量静止通信衛星
 (6)実験用中型放送衛星
 (7)実験用静止通信衛星
 (8)技術試験衛星





大気汚染監視用音波レーダ


福 島   圓 (第二特別研究室)

 光化学スモッグに代表される大気複合汚染は依然とし て重大な社会問題である。汚染物質の拡散や蓄積には下 層大気の大気安定度すなわち気温や風の高度分布から決 められる気象の状態と密接に関係していることは周知の 事実である。例えば、風が強い日には汚染物質は遠方、 上空まで拡散して薄められてしまうし、雨の日には汚染 物質も雨粒に付着して落下してしまう。これに反して、 弱風、晴天時には、汚染物質は地面付近の下層に滞留す ることが多い。とくに、二、三百メートル以下の高度に 気温逆転層が発生している場合では、汚染物質は気温逆 転層を貫通して上空に拡散することはないので下層大気 中に高濃度で蓄積されてしまう。その上、日射が強まれ ば光化学スモッグに見舞われるということになる。この ように、気温逆転層は下層大気を覆う蓋(ふた)の役目 をする。その発生頻度や空間的分布状態を常時監視する ことができれば、汚染物質等の拡散蓄積の動向を予知す ることが可能となるわけである。
 下層大気の気温や風の立体構造を観測するには、従来、 主として気球や塔が使用されていた。気球による直接測 定を都市部で実施するには種々の難点があって連続的測 定は不可能に近い。また、塔上観測には高度の制限があ り、観測場所の制約も当然おこる。これら直接測定の困 難性を避けるには遠隔探査(リモートセンシング)によ る以外にはない。
 音波レーダはソーダ(SODAR: Sound detection and ranging)と呼ばれることもあ る。ソーダは1972年に創られた新造語で、レ ーダやライダ(レーザ・レーダ)と並置され て用いられ、それぞれ音波、電波、光波を使 用するリモートセンシング測器の代表格であ る。この音波レーダ(ソーダ)は音波が大気 中の温度変動に鋭敏に反応するという性質を 使って気温逆転層を遠隔的に探知する装置で あって、初めてオーストラリアで開発されて から未だ10年を経ていない。
 電波に比べて、音波の方が大気中の温度変 動に対して格段に鋭敏に反応するので探知距 離の短かい下層大気中では、大気中伝搬による減衰が著 しいことを考慮しても音波を使用する方が、はるかに簡 単な装置で気温逆転層を測定することができて有利であ る。また、音波レーダはドップラ効果を使って風速の上 下成分をも同時に遠隔的に測定することが可能である。
 音波レーダで探知される実体は、各種の研究・検討の 結果、大気中の温度の微細変動、つまり、空間的な波長 にして数十センチメートルから数センチメートルにわた る気温の乱れで、その波長にもよるが、気温の山と谷と の間で1℃から100分の1℃の程度の微細な気温の乱れ のある領域であることが判っている。つまり、音波レー ダで測定されるのは気温逆転層付近などに発生する気温 の乱れの強度であって、大気の温度そのものの高度分布 を測定しているのではないことに注意すべきである。
 電波研究所では1970年末、下層大気の電波気象的構造 探査を目的とする大型の固定式音波レーダを設置した。 以来、逐次装置の改良整備に努め、1972年4月から2年 間の連続観測を実施した結果、音波レーダは気温逆転層 の発生高度、発生時刻、消滅時刻等のほか晴天時の下層 大気構造を一目瞭然、記録紙上に映し出し、しかも、あ る程度量的な情報を提供しうることが実証された。
 これらの経験に基づいて、必要なとき任意の地点で気温 逆転層の監視追跡が可能な移動式音波レーダを試作し、 しかも、その音波レーダ本体部分は、将来、大都市部あ るいは巨大コンビナート地帯における大気汚染監視用定 常観測点網に組込みうるような音波レーダの開発計画が 立てられた。このため、昭和49年度から51年度までの3 年間、環境庁に一括計上される国立機関公害防止等試験 研究費の移替えを受けて表題の大気汚染監視用音波レー ダの開発研究を推進してきたのである。本年度はその最 終年度に当る。


低層ラジオゾンデと比較測定実施中の音波レーダ

 この音波レーダは写真に見られるようなトラック上に 音波アンテナ部、送受信部、送受信モニタ部が固定装備 され、基準発生器、A/D変換器、KODIC-104ミニコン ピュータならびに記録部(磁気テープ記録器とさん孔タ イプライタ)を発電機付の移動実験車に搭載して移動す る。測定時には両者間をケーブルで接続する。この音波 レーダはシステムの各部に任意調整可能の機能を備えて おり、言わば研究用の汎用機であるが、通常は次のよう な定格で使用される。電気的送信出力:100ワットまた は60ワット、使用周波数:1600Hzまたは2000Hz、送信 パルス幅:120ミリ秒または60ミリ秒、パルス繰返し周 期:6秒(観測高度1000メートルに対応する)。なお、ホ ーンレフレクタ形音波アンテナの開口直径は1.85メート ル、また、記録は磁気テープに収録するほか、さん孔タ イプライタに2パルスごとの受信エコーを高度10メート ルごとの平均値として11段階の数字又は4段階の特殊記 号により打出しを行う。
 このようなデータ処理系付の音波レーダ開発研究過程 において、システム各部の相互連繋方式について研究が 行われた。この外、音波レーダ実用化に備えて、各種の 周辺機械及び関連回路についても研究が進められた。主 なものとして、(1)電子ペン式記録計応用の受信信号モニ タの開発、(2)雑音検出回路の発明、(3)音波レーダ受信信 号表示記録器の開発、が挙げられる。
 この最後の音波レーダ受信信号表示記録器とは、カラ ーテレビのように、気温逆転層エコーの強弱あるいはプ リューム(暖気柱)エコーの強弱、およびそれらの上昇 下降運動を示すドップラ風速鉛直成分の強弱をそれぞれ 7段の任意の色調で表示するものである。なお、この装 置は通常、高度1,000メートル、過去1時間分の観測記 録(エコ一強度−高度−時間図表)つまり、下層大気構造 をカラー表示するが、音波レーダの1パルスごとに、時 々刻々画像を新陳代謝させて常時、大気状態の監視を容 易にする見事な装置である。
 一方、比較測定のため、従来から気象観測に用いられ ている低層ラジオゾンデと音波レーダとの同時観測を行 ったところ、ラジオゾンデによって顕著な気温逆転層が 観測される場合、音波レーダ観測でほぼ同一高度に層状 エコーが記録され、また、熱対流状態を示すプリューム エコーが観測される場合は接地層より上部、地上約100 メートルから1,000メートルまでの上空の気温は100メー トルに付き約1℃ほぼ直線的に減少し、接地層では気温 の減少率は100メートルに付き2〜3℃にも達し対流を おこすような不安定状態であることが判った。これらの ことから音波レーダ観測によって観測高度範囲内におけ る大気安定度を推測することが可能である。すなわち、 音波レーダ観測における層状エコーは気温逆転層の存在 を示し、プリュームエコーは地上から100メートル位ま での不安定層の上部は大気安定度がほぼ中立な大気層で しかも弱風状態であることを示す。
 電波研究所における音波レーダ観測の成果が初めて、 日本気象学会において発表されたのは1971年春であるが、 昨今、漸く、気象学者が大気境界層研究に音波レーダの 応用を試みつつある状況である。また、電力中央研究所で は火力発電所周辺の大気汚染防止を目的とする音波レー ダの応用を研究中である。
 音波レーダを初めて開発したのはオーストラリアWRE の故Lindsay G. McAllister氏である。アデレイド郊外に あるWREと電波研究所とはVHF電波の赤道横断伝搬 共同実験等の関係があって、音波レーダ開発の情報は早 くから伝えられていたことが、この研究開発の端緒であ る。電波研究所の置かれている立場上、その後、様々の 国際交流の場を通じて音波レーダ関連の研究活動情報の 交換が進められてきたことも、わが国の音波レーダ開発 に与って力になっている。




AI AA・CASI共催第6回衛星通信システム集会に出席して


石 田   亨  (衛星研究部)

1. はじめに
 本年4月5日から4日間、カナダ・モントリオール市 で開催された表題の集会において、我国の通信衛星(CS) 計画・放送衛星(BS)計画について発表することとなり、 電波研究所(RRL)が主となって宇宙開発事業団 (NASDA)・電電公社・日本放送協会の協力を得て原稿を 作成し、CSについては岡本氏(NASDA)、BSにつ いては筆者(RRL)が代表して発表した。以下に集会 の概要ならびに印象について報告する。
2. 集会の概要
 AIAA(American Institute of Aeronautics and Astronautics) の衛星通信システム集会は、今迄米国内 で隔年毎に開かれて来たが、今回は、カナダのCTS (Communications Technology Satellite:本年1月21 日打上げ)実験のデモンストレーションを兼ねて、 CASI(Canadian Aeronautics and Space Institute)と の共催としカナダで開かれたものと思われる。
 集会の参加者は全部で約400名で、我国からは石田、 飯田(RRL)、大山、赤川(KDD)、岡本、沢辺 (NASDA)、尾形(三菱)、大原(東芝)の計8名が参加し た。セッションは次表の如く二つに分れ、隣り合った部 屋で並行して行われ、この他に二件の合同パネルデスカ ッションがあった。
 合計73編の発表論文を国別に分類すると、やはり米国 が圧倒的に多く56件、次いでカナダの8件と極端な差を 示している。機関別にして見ると次の通りである。
                                                                                  
COMSAT10件
Bell 4
NASA 3
MOPT/NASDA 2
INTELSAT 2
ESA 2
TRW 9
Hughes 6
AFC 6
RCA,TELESAT,
ESTEC,GE,etc1〜2

3. 技術的内容
 集会の冒頭に“衛星・地上総合 通信システム”に関するパネルデスカッションがあり、 Jowett(BPO)、Lester(TELSAT)、大山(KDD)、 Oliver(ATT)、Quagalione(Telespazio)等が、それ ぞれ広汎な視野から1990年代迄の予想について見解を述 べ、熱心な討論が午前一ぱい続いた。特にLesterによる、 1990年代迄の6/4、14/12、30/20GHz帯の使用度の 予想、開発されるべき技術、打上げ機の将来等の説明は、 多少定性的・楽観的であったがカナダでの国内衛星通信 の実績を踏まえ、説得力があった。またOliverのデジタ ル通信(PCM-TASI)によるコスト低減化(Analog 4.5ドル対TASI-D1.5ドル/Ch.哩)及び Multi Spot Beam/SS、大山氏の国際間衛星通信における海 底ケーブルとの共存、国際デジタル網の提言等興味を惹 いた。
 また会期の中問に開かれた“従来の打上げロケット対 スペースシャトル”のパネルデスカッションではやはり 打上げ費用が論議の中心であった。一部の参加者から「未 だ青写真にすぎない」とか、従来のものと比較して「あ まり経済的でもないではないか」と言った批判もあった が、NASAとしては建設しながらの入居者募集中とい う感じであった。
4. あとがき
 日本を発つ時、東京はちょうど桜が5分咲き位であっ たが、モントリオールは建物の陰などにはまだ雪が残っ ており、戸外の風は冷かった。会議場は市内の目抜き通 りにある最も格式の高いクィーンエリザベスホテルで行 われたが、宿泊費の方もそれに相応して高いので、我々 日本からの参加者は皆歩いて数分の距離にあるローレン シアンホテルに泊り、昼食も殆んどホテルに帰り地下の 食堂で一緒に取ることが多かった。
 パネルデスカッションや各国の報告から得た筆者の印 象は、国内及び地域衛星通信においても米、加では既に 実用期に入っており、いかにしてシステム全体のコスト を下げるか、そのためには衛星通信の広域性・即時性の 特色を生かしたサービス需要の喚起、そのための技術開 発の方向づけ(特に1979のWARC-Gを意識した使用 無線周波数帯の選択)等に論議が集中したように思われる。
 論調は総じて概念的・楽観的で質問も否定的、批判的 な意地の悪い質問はなかった。これは衛星通信が着実に 定着して来た証左と見ることも出来るが、一面では前述 の機関別論文数に見られるように、コムサット及び衛星 メーカが圧倒的に多いというAIAAの性格によるもの であろう。たとえば我国の学会では考えられないことで あるが、各メーカが発表するに際して使うスライドは総 て綺麗なカラースライドで、しかも自社名やマークを堂 々と付けて、一見各会社の営業宣伝を聞かされているよ うな錯覚を覚えることもあった。勿論特設コーナでは各 社既製の衛星モデルや将来衛星計画等が展示されて居り、 CTSに使用された可撓ゾーラパドルの類似品等も出品 されていた。
 CS・BS計画に関する我国の発表については、むし ろ世界に先駆けて30/20GHz帯の使用とか、国土に合せ たアンテナビーム成形とその維持とか、後発国としては 技術的な冒険に対して拍手を送るという感じであった。
 特に30/20GHz帯が充分実用可能である例証に横須賀 通研の地球局のスライドがTRWのJarettによって示さ れたり、BS計画発表の際に個別受信実現の可能性を 思わせるNHK技研開発の簡易受信装置の低廉さに聴 衆がどよめいたこと、また打上げロケットのセッション において1980年代の展望として、アメリカにスペースシ ャトル、ヨーロッパにアリアンが登場するとともにアジ アでは日本が3914相当のNロケットを非常に安いコスト で提供する充分な実力を持っているという司会者の冒頭 講演があったこと等、我国も急速に実力をつけて来たと 諸外国では見ているのではなかろうかと感じた。
 このことが必ずしも我田引水でないことは、AIAA の事務局が本年2月にまとめた「通信衛星開発研究にお ける合衆国の役割り」というパンフレットに、“日本の CS・BSカナダのCTS、ヨーロッパのOTS、 MAROTS、SIRIO等、外国では政府がスポンサーと なって積極的で野心的な各種計画が進行している。 NASAは1973年以降通信衛星の開発研究から撤退したが、 新ATSシリーズの様な開発研究を再開すべきである云 々……”と書いてあることでも明らかであろう。しかし 本集会終了後、カナダのCRCでCTSの製作過程や実 験計画を聞き、さらにBSやCSの製作状況を実際に GE社、AFC社で見学する機会を得て、実際の製作・試 験面やシステム総合の面ではやはり外国特に米国に依存 せざるを得ない部分が多いことを痛感して帰って来た。
 終りに、本報告を記す上で岡本・尾形両氏の報告も参 照させて頂いた。本集会出席中における御配慮と併せて 両氏に対して深く感謝します。