応用技術衛星(ATS-1)を用いた
通信・管制実験を終えて


橋 本  和 彦 (鹿島支所)

1. ATS-1との出会い
 今からちょうど10年前の今頃、すなわち1966年(昭和 41年)秋、鹿島支所は米国航空宇宙局(NASA)による ATS-1の打上げにそなえてあわただしい日々をすご していた。
 鹿島支所はそれまでの3年間で移動通信衛星 (RELAY-U)による実験、つづいてSYNCOM-Vによ る東京オリンピックの中継といくつかの通信実験を行っ てきたが、到来しつつある静止衛星による広帯域通信の 時代に対処するためATS-1による実験に参加するこ とを決めたのである。まず30mアンテナ施設の改造が必 要であった。送受信周波数が異るための改造、自動追尾 方式の改造、偏波追尾のための改造、果てはデータ処理 装置やプログラム追尾装置の改造まで行った。
 また打上げ時及びそのあとの軌道決定のためには日本 は有効な位置にあったので、NASAの測距装置 (ATSR)を鹿島にも設置し測距を行うこととなった。米 国でこのATSRの研修をうけてきた栗原氏(現宇宙 開発事業団)を先頭に、5つの架より成るこの機器の設 置、調整にあたった。毎日深夜まで及び、トランジスタ を一度にいくつもだめにして一つ一つ取換えねばならな いこともあった。アナログとディジタルが適当に混在し た興味ある機器であった。静止軌道投入時の姿勢決定に は太陽センサデータのほか4GHz直線偏波の偏波角も 使用する。偏波追尾よりのデータをデータ処理装置で 紙テープにしてNASAへ伝送出来るように改造した。
 ATS-1の打上げは12月7日0210GMTの予定であ ったが2分遅れて0212GMTにアトラス/アジェナDロ ケットにより打上げられ、約1時間半後に鹿島から見え るようになった。筆者はプログラム追尾の担当であって、 衛星を最初に捕促して自動追尾の方へ移行させるのが主 な任務である。RELAY-U時代には最大でも30分しか実 験時間がなく、この捕促に時間を費やすと通信実験の時 間が少くなる。早く捕えろという無言の圧力を背に衛星 を探しまわることとなる。さてATS-1の打上げ時に はそれが長時間見えるので、さほどあわてなかったと思 われる。当時の記録によると完全な捕捉までに8分間を 要している。
 ここで初めて鹿島はATS-1と対面したこととなる。 この遷移軌道*上の測距と偏波角測定が1300GMT頃まで 行われた。ATS-1はこの間に鹿島の真西方向である 方位角270°より北側方向にも見える。しかしメルカトー ル地図上に描かれたATS-1の軌跡では鹿島の緯度線 を北に越えてはいない。追尾をしながら議論したが、結 局平面地図上の方位角と高度約3万km強にある衛星に対 する実際の方位角を混同したためと解った。このあと ATS-1は鹿島からは見えない第2アポジー(遠地点) で静止軌道に投入され、ドリフト軌道を経て、最初の静 止位置である150°Wに移動して来た。
*静止軌道に移す前の長楕円軌道

2. ATS-1の諸元
 ATS-1の諸元を表に、またその外観を図に示す。 表の通信系の項にもあるように2つのSHF中継器と1 つのVHF中継器が積まれている。バンド幅はSHFの 方は各々25MHz、VHFの方は100kHzである。3つの モードとはFTモード(周波数変換モード)、MAモー ド(SSB-PM方式のマルチプルアクセスモード)、 WBモード(ワイドバンドモード、観測画像や軌道修正 に必要な測定データ等を伝送する)である。従って前二 者は通信用中継器としての機能をになうが、後者は衛星 上のデータを伝送するテレメータの機能をになう。その 他の実験用搭載機器のEMEは磁気、イオンなどの料学 測定用パッケージで7種の測定を行う。ニューテーショ ン実験は加速度計を積んでニューテーションの検出、測 定を行うものである。Resisto-Jet は電気推進の一つで あるEiectro-Thermal Thrusterでその性能の実験のた め、スピン速度を変えるようにノズルが取りつけられて いる。雲写真カメラ(SSCC)は地球を衛星のスピン により掃引して約20分間で1枚の地球写真を得るもので ある。なお、この方式の成功により同原理のものがSM S*-T、Uに積まれ、また来年打上げられる日本の GMS**にも積まれる。衛星の重量はCSとほぼ同じ350sで ある。
*米国の静止気象衛星。 **静止気象衛星。


図 ATS-1の外観


表 ATS-1の諸元

3. ATS-1による通信実験
 ATS-1による最初の実験は遷移軌道の第1アポジ ーまでの間で測距の間をぬって行ったTVのループテス トである。その後10日間で静止位置に静止し、TV、電 話のための特性取得の実験が測距と共に行われた。昭和 42年2月には電々公社との共同実験であるPCM-TDMA の実験が行われた。これに続いてVHF中継器によ る飛行機と地上の通信を鹿島でも受信する実験(昭和42 年6月)、ATS-1、インテルサットなどを結んで宇 宙中継の世界規模でのデモンストレーションを行う “Our World”プログラムに協力(昭和42年6月)、NHKとの共 同実験としてカラー同期をPCMで音声マルチプレック スに使う方式の実験(昭和43年1月)、そして前述した MAモードを使用してSSB-PM-FDMA方式の実 験が昭和44年5月より昭和46年1月にかけて行われた。 NHKとのTDM-TVの実験のあと、周波数拡散多元接 続(Spread Spectrum Random Access;SSRA)の 実験が昭和46年10月に始まった。これは将来の小規模地 上局が自由にマルチプルアクセスで衛星通信(電話)が できることを目標に開発した通信方式で、その伝送試験 と改良が行われた。現在もチャンネル容量を増加させる 研究がなされている。
 このSSRAは改造して測距の機能をもたせることが でき、昭和48年1月からこのSSRAを用いた測距方式 によりATS-1の測距を行ってきた。このほか通信実 験ではないが、前述したSSCCの地球写真の受像を昭 和45年1月より2年間行った。ATS-1から見える地 球の領域全体に太陽があたるのは日本時間の早朝になる。 担当者は冬の早朝には大変だったろうと思われる。SSRA による実験では昭和50年夏に行った時刻同期の実験があ る。機器をNASAのロスマン局にも持込み、米国の標 準時の正秒と日本のそれを衛星を介して比較するもので、 非常に良い結果が出て注目された。ATS-1による鹿 島でのいわゆる通信実験はこれが最後となった。

4. ATS-1の管制実験
 上に述べたように衛星通信実験は10年以上の長い歴史 を持ち、日本の宇宙通信の幕開けから続いている。一方 衛星管制については歴史が浅く、最近になってCS、 BSが具体化し、衛星管制の知識が必要となり、開始され た。話の発端は昭和48年6月にATS計画担当者らが日 本に来たときのNASA側からの提案である。彼らの最 大の関心はその翌年にようやく打上がることとなった ATS-6についてである。このATS-6のために ATS関係の地上局、運用管制センターはATS-1、3、 5による負担をできるだけ減らさねばならない。そこで ATS-1の運用の肩代りを日本に依頼したいという希 望があった。その代り運用管制に必要なソフトウェアは 供給しようという条件である。日本側も管制についての 知識を必要とし始めた時期であったので担当者レベルで は合意に達した。予算面のこともあって正式合意までに 1年間を要したが、昭和49年7月にはNASA側からコ マンドエンコーダその他の機器の貸与をうけ8月から正 式な運用支援に入った。
 運用支援は日本時間の昼間であって、分担の時間帯の 衛星の監視と必要なコマンドの送信が主なことである。 このほか静止軌道保持のためのジェット噴射による軌道 修正(約1ヶ月に一度)、2週間に一度の測距、また着 秋に起る衛星が地球の影に入る期間の運用がある。この 影に入る(蝕)時間は最大70分程であるが土、日曜日も 運用する必要がありATS-1の場合夕方の6時頃から 8時頃になる。そしてこれが春秋おのおの50日間ほど続 くのである。蝕に入る前にATS-1の場合、中継器を 全部OFFにし電力消費を最小の状態にして蝕に入らせ る。一度VHF中継器をOFFにするのを忘れ蝕に入れ てしまい、バッテリ電圧の異状な低下から気がついてあ わててOFFにしたということがあった。バッテリ電圧 は下限の目途を26Vにしてあるが、23Vになると自動的 にバッテリは切離される。この時にはここまで行かなか ったので良かったが、もしこれが起きるとテレメトリ系 もOFFになってしまう。以前にNo.1系のテレメトリ系 を一度OFFにしたらONするのに大変手こずった経験 がNASA側にあり、それ以後はNo.2系との切換えは行 わずNo.1をOFFにしないようにしてい る。もし23Vを下まわっていたらテレメ トリ系はONに再びならなかったかもし れず、したがってATS-1は機能を停 止していたかもしれない。
 我々はこのことから衛星の寿命は衛星 に使う部品の信頼性を上げることも必要 だが、その寿命を短くするような運用を さけることも同じ程度に重要であること を学んだのである。
 一方供給されたソフトウェアについて であるが、これが我々の一番の関心事で あり、また一番労力を必要としたことで ある。ソフトウェアの中で軌道決定プロ グラム(DODS)は非常に大きいプログ ラムである。 当所のセンタ計算機 TOSBAC5600/160で働くようにするた めの作業を行ったが、約1年間を要し てようやく期待した精度が出るように なった。このDODSはいろいろな機能 を持っており、最初はまったくそのまま の形で働くようにすることを考え作業を 進めたが、途中でそれではどうしても期 限に間に合わないことがわかり、必要な 機能に限定して働かせることに変更した。 10万ステップにも及ぶこの大きなプログ ラムの変換作業に対しては最初に方針を検討するのに時 間を十分割いた方が、結局は早く終るということがわか りこの点を反省しているわけである。このほかのソフト ウェアもすべて働くようになった。この作業には情報処 理研究室の多大な助力を得ている。
 これらのソフトウェアも使ってCS、BSへの応用を 念頭におきながら数種類の衛星管制実験を行った。最近 CS、BSの管制ソフトウェアについてメーカーと打合 せが多く開かれるが、この運用の経験が大いに役立って いる。さらにAFC社、GE社が作っている管制オフラ インソフトウェアの体系や軌道決定などの手法は我々が NASAのソフトウェアで学んだものと大変良く似てお り、理解する上で大きな助けとなっている。ATS-1 の管制運用やソフトウェアを使っていて良かったと感じ ている今日この頃である。

5. あとがき
 ATS-1の運用支援と管制実験は今年の7月末で終 了した。ATS-1と関係してちょうど10年、管制に携 ってちょうど2年が経過した。ATS-1と共に来た10年 間は鹿島支所の衛星研究の第1期といえるであろう。その シンボルの30mアンテナも昨年取りこわされた。CS、BS という自前の衛星を使っての第2期が始まろうとしてい る。
 10年後はどうなるであろうか。終りに話の重点が筆者 の体験の方に偏ってしまったことをおわびすると共に、 実験等に対し各方面から賜った御支援に改めて感謝申し あげます。




第19回COSPAR総会へ出席して


所長   糟 谷   績

 本年は米国各地で国際会議が催されることが多いよう に思われる。申すまでもなく合衆国建国二百年を記念し、 また、それにちなんだことによるものであろう。特に1776 年7月4日合衆国の独立を宣言し、初めての連邦政府の 首都(1800年、後にワシントンへ移転)となったフィラ デルフィアにおいては次々と内外の色々な行事や集会が 催されている。
 私自身が参加したCOSPAR(宇宙空間委員会)第 19回総会および関連シンポジウム等もこのフィラデルフ ィア市にあるペンシルバニア大学のキャンパスを利用し て6月8日から19日まで行われたのである。会場となっ たペンシルバニア大学は有名なベンジャミン・フランク リンによって1740年に創立された大学で、米国でも一流 大学に数えられているといわれている。
 フランクリンは米国の大政治家であったが、我々には むしろ子供の頃から雷が電気現象であることを凧を上げ て実験したという有名な逸話で知られている。実際、フ ランクリンという人は当時米国における政治経済に重要 な役割を果たしたばかりでなく、天文学、物理学、化学、 工学にも非常な影響を与えた天才的偉人であったようで ある。
 さて、このように、歴史の香り高い文化都市で今回の COSPAR会議が行われた意義はまことに深い。 COSPAR総会およびシンポジウムは毎年初夏のころ世界各 地で開催されるので、その内容については急に変ったよ うな印象をもたないが、常設されているCOSPAR研 究グループによる公開研究集会の外、特に本総会に設け られた特別シンポジウムおよび特別講演が開催されたこ とが特徴である。
 特別シンポジウムのテーマは次の5つから成っている。
A−赤外域およびサブミリ波天文学
B−少量宇宙組成物質と励起宇宙物質
C−宇宙空間からの気象観測……第1回GARPのグロ ーバル実験結果
D−宇宙空間内における物質科学
E−宇宙科学の将来に関する国際シンポジウム
 特別講演
1. スペース・シャトル利用者に対する現状
  Dr. Glynn S. Lunney(NASA、ジョンソン宇宙セ ンタ)
2. Venera-9および10による金星探査
  アカデミ一会員 M. V. Keldysh(ソ連科学アカ デミー)
3. Salyut-4 軌道ステーションによる科学実験
   ソ連宇宙飛行士 P. I. Klimukおよび V. I. Sevastianov.
 研究グループによる研究発表会
W. G.* 1(飛しょう体技術)
 最近の研究成果と宇宙機器の改良
 Geoid** 重力の場、地球の自転運動
W. G. 2(惑星間空間、磁気圏の実験)
 今回は開催され なかったが、コロラド州ホルダーにおいて「STP† 国際シンポジウム」と題して本テーマに関する国際研 究集会が同じ頃開催された。
W. G. 3(天体物理学と応用宇宙技術)
 最近の天文観測結果、SASからの最近の結果、X線 天文学、太陽フレア、星としての太陽、地球近傍の彗 星中のダスト、月および惑星、黄道光等
W. G. 4(超高層大気物理実験)
 熱圏における光学観測、波動・風・乱流、熱圏の密度 と組成、中性大気と電離大気との相互作用
W. G. 5(宇宙生物)
 火星のサンプル、外部生物と惑星検疫、放射生物学、
 重力場の生物
W. G. 6(気象と地球探査)
 地球の衛星探査結果
W. G. 7(月および惑星)
 金星の表面とその対流圏、金星の雲と上層大気、 火星、水星、木星(内部と外部)、木星磁気圏とその 環境と木星の月
W. G. 4とW. G. 6との合同研究集会
 半球大気非対称性と相互作用、成層圏と中間圏気象の 相互作用(成層圏と中間圏とのロケット、衛星データ、 循環・天気とダイナミックス、成層圏と電離圏との相 互作用)
が主な研究発表テーマであった。
*Working Group−作業班
**ジオイド−地球の等重力ポテンシャル面のうち、海洋上におい て平均海面に一致するもの
†太陽地球間物理学

 今回のCOSPAR総会には委員会の委員であり、 我が国の宇宙空間研究連絡委員会の委員長である前田憲 一教授の外、永田武、平尾邦雄、早川幸男、古在由秀、等 松隆夫、佐伯長久の諸教授、田鍋浩義助教授、及び筆者が日 本から出席した。また参加者は総勢約450名におよんだ。
 COSPARがカバーしている分野は前述の通り極め て多岐に亘るので勿論全ぼうを知ることも出来ないし、 理解も出来ない。筆者の専門の超高層大気部門について 云えば人工衛星観測、ロケット観測が益々一般的となり 超高層大気には衛星、ロケットなくしては、もはや本格 的な研究ができないところまできている。衛星・ロケッ ト先進国の米ソは小型人工衛星などによる地球大気研究 の大筋はほぼ出つくしたとして、今後は地球外の惑星に 関する物理学的、化学的、生物学的な研究や宇宙ステー ション、つまり1980年代に行うスペースラブ等の大型有 人実験衛星の開発に主体が移りつつあるようである。超 高層大気の研究はむしろ米ソ両国以外の国、西独などが AEROSを開発してから非常に力を入れ、 また実力を発揮してきたように思われる。ま た、最近、研究成果を多く発表しているのは 印度であって、磁気赤道にあるThumbaから ロケットを打上げ電離ジェットによる電流系、 磁場変動に関する研究が著しく発展してきた。 印度の科学者はソ連、独、仏と極めて密接な 共同研究体制をとって着々とその成果を挙げ てきていることは、国際的協力の感覚が優れ ているためであろうか。
 ちなみに今回の超高層研究に利用された人 工衛星の名を国別に列記してみれば、米国は Atmospheric Explorer(AE-C、-D、-E)、 Nimbus-5、ソ連はIntercosmos-8、 -14、Salyut-4、Intercosmos-Kopermik500、西独は AEROS-A、-B、OGO、Nimbus。印度は専ら Thumbaにおけるロケット観測、 ISIS、ATS-6。 英国はESRO-4、フランスはD2B Aura、OGO -6。ブルガリアはIntercosmos-2、-8、日本は TAIYO(我がISSが成功していれば当然入ったであろ う)、このように自国で開発した衛星を用いた研究は勿 論であるが、国際協力によって米国やソ連の共同利用研 究者になって多くの成果の発表がなされている。衛星や ロケットに搭載された質量分析装置、エネルギー測定装 置、電子・イオン流プローブによる電離気体の組成、密度、 電子・イオン温度の地域、高度分布、時間的変化が益々精 細に説明されてきたし、陽イオンのみならずN2 O2−や O3−イオンの負イオン分布も測定出来るようになってきた。 さらに、下部電離層のO/N2の量や冬季異常時のNOの 増加の関係などについても新しい結果がでてきている。
 一方、本会議のハイライトである特別講演は1980年代 にNASAが打上げようとしているスペースラブ計画の 発表があった。これは5人以下、7日および12日間の飛 しょう期間、高度は280qから450qで、天体物理、生物科 学、磁気圏物理、宇宙技術の多目的研究を行おうとして いるものである。もう一つのトピックスはソ連の金星探 査機Venera-9、-10の成果である。これにより金星の 表面成分すなわちウラニウム、トリウム、カルシウム構 成の割合、花崗岩の成分の測定結果、金星における大気 が高度60qで約460℃であること、金星電離層の密度は 高度約150qで最大値となり、1.5×10^4p^ー3程度で地方時 変化は少いことなど多くの興味ある成果が発表された。 また、ソ連の二宇宙飛行士によるSalyut(9.5トン)での 60日間の宇宙滞在飛行の体験談が述べられた。Salyut内 には250sの望遠鏡や電磁気計などの測定装置が積まれ、 いろいろな実験が行われた。特にCygX-1(白鳥座)の 宇宙電波が測定されたことが注目された。
 次に興味深いのは特別シンポジウムの中の「宇宙科学 の将来」であったが、このシンポジウムは3日間にわた り、現在世界で最も著名な宇宙科学者を紹へいして行われ た。座長は特にCOSPARの会長De Jager教授、前会 長H. Friedman博士、米国科学アカデミーのF. S. Johnson 博士、ソ連アカデミー会員R. Z. Sagdeevが司会して行わ れ、Prof. H. Alfven(スエーデン)、Prof. R. Lust(西 独)、Prof. J. Blamont(仏)、Sir Harrie Massey(英)、 Prof. G. Field(米)、Prof. Y. Pal(印度)、早川幸夫教 授(日)Acad. R. Z. Sagdeev,Prof. H. van de Hulst(和) らによって宇宙の構造、ブラックホール、高エネルギー天 文学、無重力条件における物理学、化学、生物学の問題 点、中間大気研究課題(Middle Atmosphere Project)の 設定、スペースラブ計画、太陽系研究計画、各国におけ る宇宙科学研究の現状と将来構想など、かなり近い将来 の実施可能な問題について色々な角度から検討議論が行 われ、宇宙科学研究の動向を示唆した。
 ところで、学会の合間を見て、フィラデルフィアの中 心地や史跡を見物した。市は大西洋岸のデラウェア湾に 注ぐデラウェア川の西岸にあり湾口から約120q上流に あたる。また、もう一つのスクールキル川が市中を貫流し ている。市は始めウィリヤム・ペンによって1682年ペン シルバニア植民地の首都に選ばれたということである。 1732年、Independence Hallはペンシルバニア州の州会議 事堂となり、ここで独立宣言書や憲法の調印がなされたと いうことである。ここには普段は有名な「自由の鐘 (Liberty Bell)」が置かれているのだそうだが、本年は特に観光 客のためインデペンデンス・モール広場に鐘の一部ガラ ス帳りの安置所を作って見物人に見せている。多くの内 外の観光客、子供達が行列を作ってそばまで行ってさわ ってみて感慨にふけっている。偶々私が同行した印度の Gupta博士などは米国が二百年などといって懐古してい るが、自分の家など二百年よりずっと古く建てられたの で大したことはないと言っていた。成程、古い東洋でも 四・五千年と歴史をもつ印度から考えれば二百年といっ ても昨日のこと位にしか思わないのであろう。しかし、 市中は独立当時の輸状に並べた13個の星と13条の条とか らなる独立当時の星条旗と現在の星条旗が市の中心街の ビルに交互に掲げられているのは如何にも二百年記念市 を誇示しているようであった。


開会式におけるエンターテイメント
(フィラデルフィア地方民族音楽舞踊)

 太陽地球間物理学(STP)国際シンポジウムがコロ ラド州ホルダーで行われたことは述べたが、この会合の 機会を利用してIUWDS(国際ウルシグラム、世界日 業務)の専門家会議が行れることになっており、筆者も 招へいされていたのでCOSPAR会合の後半の出席を 失礼して6月16日ボルダーヘ向い、6月17日、18日両日 を米国国立海洋大気庁(NOAA)のRadioビルデングの IUWDSの専門家会議に出席した。委員長はフランス ムートン天文台のP. Simon博士、幹事のNOAAの Miss Lincoln,Doeker氏ほかHickman氏(この会議でDoeker 氏に代りsecretaryになった)Sargent氏、オーストラ リアからCock氏、ソ連からDanilov博士、印度のKodia 博士等、他10名位が出席し、今回は各地区センターの責 任者全員の会合ができた。このことはホルダーの関係者 が大変喜んでいた。議題はウルシグラムメッセージの交 換の実情・予報の方法、黒点極小期の問題、コロナホール、 利用者の分析などについて、ひざをつき合せての会合で あった。私はこれまで何度も米国を通過したが1960年1 月初めカナダ留学の帰路当時CRPL*へ3日間立寄っ たのみで、非常に関係が深いにもかかわらず、以来、 NOAAへは一度も訪問できなかったので、非常に懐し い気持で訪れたのであった。
 勿論世界資料センタも担当していたのでその長であ るMr. A. H. Shapleyのセンタをも見学した。Shapley 氏は非常に喜んでくれ、一夜自宅へ呼んでくれ、Kay夫 人と偶々帰省していた一人娘のCarol娘とともに大変な 歓待御馳走になり、さらにコロラド大学で公開していた 学生オーケストラの鑑賞までさせて貰った。これまで何 度も訪問しないので同氏から私はbad boyであるとなじ られていたが、これでやっと再訪の役も果した。車でホ テルまで送ってくれたShapley氏は、もうteaseしない といってくれた。電離層データ研究者のMr. R. O. Conkright は往復共デンバー空港まで出迎えて見送りをして くれた。本当に楽しいホルダーの再訪であった。
*中央電波伝搬研究所 Central Radio Propagation Laboratory.




第51回研究発表会プログラム
−昭和51年11月11日当所講堂において開催−


 1. 衛星通信のためのミリ波ダイバシティ実験
                   (電波部) 乙津 祐一
 ミリ波帯以上では、衛星通信のような高仰角伝搬の場合でも降雨 時における減衰はさけられない。それを補償する方法としては、ダ イバシティ送受信等が効果的であり、必要欠くべからざるものである。
 本報告は実際の衛星通信実験に先立って行れた35GHzのラジオメ ータによる実験報告であって、15q間隔のサイトダイバシティ効果 及び富士山頂と山麓におけるハイトダイバシティ効果(高地と低地 の降雨減衰差の効果)についての減衰統計曲線を中心に、諸外国の 実験結果も含めてダイバシティ効果の検討を行う。
 2. 技術試験衛星U型(ETS-K)によるミリ波伝搬実験計画
  (1)計画の概要         (衛星研究部)石田  亨
  (2)受信施設          (鹿島支所) 林 理三雄
  (3)降雨強度分布測定装置
               (第二特別研究室) 田中  浩
  (4)実験の運用         (衛星研究部)畚野 信義
 実験用静止通信衛星(ECS)は、ミリ波による衛星通信の実用 化をはかるための第一段階実験として、昭和53年度末期に東経145 度の静止衛星軌道へ打ち上げられる。そのため宇宙開発事業団は、 静止軌道への投入技術を修得することを目的として、昭和52年2月 衛星には郵政省の依頼により、伝搬実験用として1.7GHz、11.5GHz、 34.5GHzの互にコヒーレントな3波のビーコン発振装置が搭載され る。電波研究所では昭和52年4月頃から約半年間にわたり、これを 用いてミリ波の高仰角伝搬特性についての実験を行い、各種のデー タを得ることにより、ECS実験のための資料とする。実験は直径 10mのアンテナを有する地上受信局、降雨強度分布測定装置、天空 雑音温度測定装置、気象計等から成るシステムにより行う。この実 験の計画、施設、運用等について紹介する。
 3. 乱流媒質内の光伝搬における強度分布−cluster近似−
              (第三特別研究室) 古津 宏一
 乱流媒質内の光伝搬においては前方多重散乱が主体となるが、こ の場合の光波の強度に関するν次のモーメント方程式は、形式的に、 ν個の粒子が2体力で相互に作用し合っている多体問題における、 Schrodinger方程式と同一になる。従って、通常の相互作用表示を 用いてモーメント方程式を総ての次数にわたって形式的に解くこと が可能であるが、これにcluster展開を行って高次のモーメントを 1、2、3次の低次のモーメントだけで表示する。この近似の有効 性は媒質のゆらぎの性質によって左右されるが、Kolmogorovのスペ クトルをもつ乱流媒質においては非常に有効であり、最近のソ連に おける1〜4次のモーメントに関する実験値(特にLog-normal値か らのずれに重点を置いている)と非常によい一致を示す。次にこの 任意次数に対するモーメント表示式に基づいて強度分布を解析的に 求め、結果として(@)分布は強度の対数についてGauss分布に近 い、(A)強度について閾値があり、それ以上の強度をもつ確率は ない、(B)閾値の所に振幅は非常に小さいが鋭いδ−関数の形を した分布がある。ところで、この分布は媒質のスペクトルや平面波 又はビーム波等の条件に勿論依存するが、それは1〜3次のモ-メ ントを通じて間接的に関係するだけであって、その意味で普遍的な 分布である。最後にKolmogorovスペクトルの乱流媒質に基づいて clustor近似の適用条件について検討する。
 4. レーザ波の利用とその現状
                 (通信機器部) 五十嵐 隆
 マイクロ波以下の周波数帯が窮迫しつつある昨今、ミリ波以上の 周波数帯における研究開発を促進し、電波の総合的有効利用の確立 か望まれる。
 ここでは、レーザ波の特性とその利用の現状を概説し、当所にお けるレーザ研究の一端を紹介する。さらに、今後のレーザ波利用の 可能性と問題点、安全管理等について述べる。
 5. 手書き漢字の自動判定
                 (情報処理部) 吉田  実
 漢字がストローク(筆使い)構造を持つこと、手書き漢字を構成 する各ストロークか簡単な筆点運動モデルで表現可能であることの 二点を基礎に、判定対象文字を構成するストローク群を Analysis-by-Synthesis法により抽出し、それらの相対分布から字種を判定する手 書き漢字自動判定システムの研究を行ってきた。手書き住所を対象 とした場合、ほぼ所期の目的を達成し得る見通しが得られたので、 計算機シミュレーション結果を中心に報告する。
 6. 南極昭和基地における電波諸観測
                  (電波部) 若井  登
 昭和31年の第1次南極地域観測隊の出発以来、電波研究所は、昭 和基地及び往復の船上での電波関係諸観測を担当して今日に至って いる。この間延べ38人の職員を隊員として参加させ、電離層、オー ロラレーダ、リオメータ等の定常的に行う観測、及び電界強度(短 波、中波、長波)、電波雑音、VLF放射等の特定のテーマに関す る観測を実施してきた。また最近ではロケット、人工衛星を用いた 極地電離層の観測研究にも参加して多くの成果を挙げてきている。
 本発表では、南極という厳しい条件下に設置されている観測諸施 設の現況を概説し、さらに各観測研究の目的と今までに得られた成 果について述べる。




第184回研究談話会


  9月16日
1. 線形予測フィルタの安定性について 吉谷清澄(通信機器部)
2. 狭帯域化FM方式の一実験
         塚田藤夫、大内智晴、角川靖夫(通信機器部)
3. 誤りを含むM系列と元の系列の相互相関関数について
                   猿渡岱爾(衛星研究部)
4. 数個又はランダムな粒子を含む乱流媒質内での散乱理論−
  特に逆散乱波強度について   古津宏一(第三特別研究室)
5. 地球表面における静止衛星アンテナパターン
              篠塚 隆、林 理三雄(鹿島支所)
6. 超伝導空胴によるマイクロ波発振器の安定化
    小宮山 牧児(周波数標準部)、平川浩正(東大理学部)


短   信


 米海軍天文台(USNO)の運搬原子時計来所
現在、世界各国標準時の国際比較には、毎年行われる運搬原子時計 による比較データが最も重要視されている。昨年8月のATS-1 による日米精密時刻同期実験に併行して時刻比較が行われて以来、 約1年ぶりの本年9月13日に、再びUSNOの運搬原子時計が当所 を訪れた。その結果はヨーロッパ各国を経て世界一周した後に正 式に発表される予定である。
 外国出張
猪股 英行 (通信機器部)  大気汚染ガス検出用レーザレーダ システムの研究のためカナダ国へ出張(昭和51年9月1日から昭和52年8月31日)
 来 訪
9月9日 Prof.J.P.McClure (米国・テキサス大学)
9月17日 Mr.Julian Y.dixon (米国・連邦逓信委員会(FCC)・ 研究標準部長、国際無線通信諮問委員会(CCIR)・第1研究委員会(SG1)議長)
9月27日 Mr.Kraison Pornsutee(タイ国・通信省・郵電局・周波数管理部・ 技術課長)
  鹿島支所に管理課新設
 当所鹿島支所には10月1日から新しく管理課が新設され、これまでの 庶務課と会計課が同課に組織された。