新年のあいさつ


所 長  工 博  糟 谷  績

 新年おめでとうございます。
 昭和52年の年頭にあたり御挨拶旁々、本年における当 所の研究方針について抱負を述べ、職員各位の一層の御 尽力をお願いするとともに、部外の関係各位に対しまし ては相変りませず、絶大な御支援御協力を懇願申上げる 次第であります。
 (人工衛星、リモートセンシング研究)
 本年は何といっても人工衛星に関する研究業務に明け 暮れる年になることでしょう。来る2月の中旬に打上げ を予定されている技術試験衛星U型(ETS-U)を皮 切りに11月には実験用中容量静止通信衛星(CS)、明年 2月には実験用中型放送衛星(BS)、そして電離層観測 衛星2号(ISS-2)が相続いで打上げられ、当所におい ては、これら衛星による諸実験が行われることになります。
 ETS-Uはそもそも宇宙開発事業団が衛星技術を修得す るための衛星で、将来我が国が静止衛星を打上げるため に、地球の自転と同期した軌道に乗せるための技術を開 発するのでありますが、同時に準ミリ波、ミリ波等の伝 搬特性、すなわち降雨による減衰、位相、偏波特性の基 礎データを得、昭和53年度冬期に打上げを予定している 実験用静止通信衛星(ECS)のミリ波帯による広帯域 通信に関する予備的な実験研究に備えるものであります。 このため、地上施設として、地球局の外、降雨強度分布 測定用レーダを始め、天空雑音温度測定装置、各種気象 計を鹿島支所に整備し、世界でも初めての立体的なミリ 波伝搬実験を行う、画期的なものであります。この実験 は約半年位行い、その後はECSの本格的な実験に備え て地上諸施設を改修する予定です。また、ECSの実験 の一つとしてスペースダイバシティを行うために副局の 必要性があり、その建設を昭和52年度中には着手するこ とになりましょう。
 CS、BSについては昭和49年以来整備してきた鹿島 支所の地上局が完成し、CSでは当所と電々公社とが協 力して、(1)衛星搭載ミッション機器の特性実験、(2)衛星 通信システムとしての伝送実験、(3)伝搬特性の測定と評 価に関する実験、(4)衛星通信システムの運用技術に関す る実験、および(5)衛星運用管制技術に関する実験を行う ことになります。また、BSについては当所とNHKと が協力して、(1)衛星放送システムの基本的技術に関する 実験、(2)周波数共用に関する実験、(3)衛星の特性に関す る実験、および(4)地上施設特性に関する実験を行うこと にしています。CSは鹿島支所を主局とし、公社横須賀 野比局および仙台局を固定局とし、その他日本各地に移 動局を設けて、上記実験計画ができています。BSも鹿 島支所を主局とし、可搬型送受信局、受信専門局、簡易 受信局を各地に設けて実験を行うものて、あります。
 ISS-1は昨年2月29日打上げられ予定の軌道に極 めて正確に乗り、約1ヶ月間、地球を446周回して観測 が行われ、予想以上によいデータが得られましたが、4 月上旬に電源回路の不具合のため、電波が停止しました。 その後、極力原因解明につとめ、電源回路部の改修が行 われております。来る52年度末にはISS-2として、 期待のトップサイド電離層データや短波帯雑音データか ら短波電波予報に必要なデータを得、さらに電離層のイ オン密度・温度分布の測定ができるよう努力する所存で あります。
 次に、広いスペクトラム領域の電波の有効利用に資し、 周波数利用状態を監視し、さらに地球環境を監視するた め、VLFからマイクロ波帯の広帯域の電波を衛星で受 信する(パッシブ計測)とともに、衛星から電波を発射 し、その反射波を受信し(アクティブ計測)、いわゆる電 波領域におけるリモートセンシングを行う電波観測衛星 (RMS)の構想をもっています。それに搭載する観測 器の一つとして、52年度にはリモートセンシング用マイ クロ波ラジオメータの開発を始めたいと思います。
 我が国の将来の通信需要及びその多様化に対処するた め、CS及びECS計画の延長としてミリ波衛星通信シ ステム(50/40GHz)の開発を行うとともに、衛星データ の効率的取得、衛星間中継等を可能とするデータ中継衛 星システムの開発を行う実験用静止通信衛星U型 (ECS-U)の構想をもっています。
 さらに、衛星機器に関するものとして、レーザを利用し た衛星アンテナの高精度方向制御システムの開発を行う 計画があります。
(新周波数帯の開発)
 これからますます需要が増大し多様化する周波数資源 を開発する目的で、衛星ばかりでなく、地上においても 新周波数帯、特に40GHz以上の電波を利用するため、 先ずその電波伝搬の研究から開始するつもりです。
(宇宙科学、大気科学)
 宇宙科学の国際的な協同研究の一つである国際磁気圏 観測計画(IMS、1976−1978年)は第2年次に入り、 当所もその一翼を荷って、南極地域を含め、国内の電離 層、電波現象の研究を大きな研究課題として行ってお ります。この中にはロケットやカナダの電離層衛星 (ISIS)等による電離層観測研究があり、また、対 流圏と電離圏との問にある中間圏は比較的未開の領域で、 当所の電波によるこの領域の物理特性の研究は特に期待 されています。
 低高度大気の音波レーダによる観測は当所が我が国で 最初に始めたものでありますが、さらに音波と電波とを組 合せたレーダ、いわゆるRASS(Radio-Acoustic Sounding System) を開発して、よりきめの細い気象状 態を研究し、大気汚染監視に新たな分野を開きたい所存 であります。また、一方レーザレーダを用いて大気中の オゾンモニタ装置の開発を進め、その実験を行うことに なりましょう。
(短波通信の有効的運用)
 最近、短波通信は相対的価値を減じたとはいえ、船舶・ 航空機の移動通信、開発途上国との国際通信、アマチュ ア通信等に、以前にも劣らない重要、あるいは不可欠な 役割を果しています。当所は我が国唯一の短波電波予報、 電波警報業務を実施している機関でありますが、その有 効運用を計るため、短波回線の状態を直接観視し、刻々 とその状態を報知するシステムを作り、進んで短期予報 の方法についての研究を始めたいと存じます。
(情報処理・通信方式の研究)
 当所では音声信号を自己相関関数に変換し、出力信号 とする過程で音声周波数帯域を圧縮、拡大、雑音レベル の低減を行ういわゆるSPAC方式を開発し、内外の注 目を浴びています。これを実時間で処理できる装置を開 発し、その応用を一段と広めてゆく計画です。また、陸 上移動通信についても帯域圧縮の研究を重ね、チャンネ ル間隔の縮少とその多重信号特性との関係を解明する所 存です。レーザによる海中情報伝送についてはここ数年 間かなり研究が進みましたので、52年度中には成果をま とめるよう一段の努力をはらいたいと存じます。
(周波数標準関係)
 近代精密計測分野において、特に人工衛星の追跡、航 空機管制システム、カラーテレビの多元中継システム、 衛星による多重通信システム、電波天文学や測地学など には高安定度周波数標準が必要欠くべからざるものとな って参りました。このため極低温における超伝導効果を 利用した高出力高安定のマイクロ波超伝導空胴発振装置 を昨年度より開発して参りました。本年度も引続きこの システムの整備をしたいと思います。国際間の高精度時 刻比較については、これまでの成果を発展させて、実用 航行衛星を通じて精密同期を国際的に行う実験計画を進 めたいと思います。さらに、わがBS、CSを通じて TVの同期パルスを用いた時刻サービスの実施を行う構想 をもっています。
 かねてから準備中であった標準電波発射業務の電電公 社への委託については、当所で標準化された周波数を 伝送し、名崎送信所からJJYおよび長波標準電波の無 人発射を本年末には実施する運びとなります。

 以上は昭和52年あるいは年度から開始される当所の主 な研究計画のあらましであります。これ程多様、多岐な 研究業務が計画される年となりますことは、当所開所以 来のことであろうかと存ぜられますが、現在、我が国は 経済低成長時代下にあり、当所においても、人員的にも 予算的にも必ずしも満足して対処することが出来ないか も知れません。このためには研究の手法、研究体制を一 段と工夫する必要がありましょう。すなわち、一層適確 な研究企画を行うことが必要であると痛感されます。さ らに行政の動向にも注意し、敏感に対処するための調査 活動が益々必要となりましょう。そして、無線機器型式 検定業務の円満なる運営には一段の努力が必要でありま す。益々多様複雑化する所の業務に伴って増大する庶務・ 会計事務を一層細心の注意を以て正しく遂行しなければ ならないと思います。本所、支所、各観測所の職員は一 致協力してこの重要な年に対処されるよう健闘を祈って 止みません。




WARC・CCIR・電波技術審議会の動向


調 査 部

 調査部の使命の一つは行政と研究の橋渡しにあると考 える。我々はこのため電波監理局の主催する色々な会議 にできるだけ出席して、電波行政の問題点、電波研究所 の分担すべき事項を把握して研究所に伝達し、また研究 所の成果を行政に反映させる方策を常に考えている訳で ある。今回はこのような観点からITU(国際電気通信 連合)に関連した最近の内外の動向、及び電波技術審議 会の活動の一部を紹介しよう。
 ITUは国際連合の専門機関の一つで、電気通信の改 善及び合理的利用のための国際協力の維持と増進をその 任務としている。電気通信、宇宙開発の国際性を考える 時、このような連合の存在は当然必要であり、現在我が 国を含む151ヶ国がこれに加盟している。
 ITUは全権委員会議、管理理事会、主管庁会議のほ か4つの常設機関、即ち事務総局、国際周波数登録委員 会(IFRB)、国際無線通信諮問委員会(CCIR)、 国際電信電話諮問委員会(CCITT)から構成されて いる(図参照)。このうち我々になじみ深いのはCCIR と無線通信主管庁会議で、今回はこれらの会議の動向に ついて述べる。


図 I T U の 組 織

 ITUはこの3年間に3種類の世界無線通信主管庁会議 (WARC)の開催を計画している。即ち今年1月から2月 にかけてWARC-BS(12GHz帯における放送衛星計 画に関する世界無線通信主管庁会議)、1978年2月にWA RC-AR(航空移動(R)業務に関する世界無線通信 主管庁会議)、そして1979年9月にWARC-G(無線通 信規則及び追加無線通信規則の全般的改正のための世界 無線通信主管庁会議)が開催される。
 まずWARC-BSは我が国が52年度打上げる放送衛 星に関係がある。これは12GHz帯放送衛星業務のための WARCであり、ここで他業 務との共用基準、周波数及び 軌道計画法、周波数使用の管 理手続などが検討される予定 である。さてWARCは無線 通信の規則を決定する行政会 議であり、これに関連した技 術的諸問題を研究しWARC を支援するのがCCIRの役 割の一つである。事実、昨年 前半ジュネーブで開催された CCIR中間会議Aブロック のSG5(CCIRの研究委 員会については表参照)、及 び中間会議Bブロックと同時 開催された12GHz帯放送衛星 計画に関するJWP(合同作 業部会)において、用語、電 波伝搬の諸問題、放送衛星シ ステムの技術特性、計画のた めの技術基準、軌道及び周波 数計画法、周波数共用の諸問題が研究され、JWP議長 のJ. A. Saxtonにより、WARC-BSのためのCCIR 報告書が作成された。これは大変立派な報告書であり 昨年京都で開催されたITU放送衛星セミナーでも殆ど の講師がこの報告書を引用していた。


表 CCIRの研究委員会

 次に1978年2月開催予定のWARC-ARは航空移動 (R)業務のためのWARCである。1966年に決定した航 空移動(R)業務用短波帯周波数の区域分配計画の改正 を、最近の航空界の著しい発展に鑑み、SSB方式の計 画的導入、及び大量輸送機の長距離運航管理体制の確立 をめざして行うものである。CCIR中問会議ではSG8 特別会議を設けて、短波のSSB化に伴う諸問題の検 討を行った。
 次にWARC-Gは1959年開催されたジュネ-ブ会議 以来20年振りに、無線通信規則の全面的見直しを行うも のである。以上3種のWARCに対して、昨年2月、本 省に対策協議会が設けられ、電波研究所でも調査部及び 電波部がこれに参加している。我々はWARC-G対策 には特に電波研究所の積極的参加が必要であると考えて いる。
 無線通信規則第5条の周波数分配表は全面的に見直さ れるが、現在対策協議会ではVLFからEHFまでの凡 ゆる周波数帯の需要予測を行っている。有限資源である 電波を有効利用するための研究か電波研究所の使命であ るから、この問題に大いに関心を持つべきである。凡ゆ る周波数帯における電波伝搬の基礎知識の提供、そして 特に40GHz以上の新しい周波数帯の開発は重要である。 短波帯電波の需要予測や宇宙開発用周波数の需要予測な ども電波研究所の将来計画に関連があろう。
 宇宙開発の進展に伴い電波の利用密度が増大し、周波 数共用の問題がますます重要となっている。その対策に は電波伝搬も含めた通信系の総合的な知識が必要であり、 ETS-U、CS、BS、ECSと一連の通信衛星実験 計画を持つ電波研究所への期待は大きい。
 WARC-Gでは無線設備の技術基準の改正も行われ るが、対策協議会では、周波数偏差の許容値、電波の帯 域幅の規定、発射の種別と表示、スプリアス放射許容値 などについて検討している。凡ゆる通信方式の体系的研 究によって帯域幅の規定に理論的根拠をあたえることな ども一つの研究問題であろう。
 WARCに技術面から支援を行うのが同じITU傘下 のCCIRであると先程述べたが、WARC-Gへの準 備は昨年の中間会議に始まり、1977年9〜10月の最終会 議Aブロック(SG2、4、5、9、10、11、CMTT)、 1978年1〜2月の最終会議Bブロック(SG1、3、6、 7、8、CMV)、1978年6月の第14回総会、そして1978 年末に開催予定のWARC-GのためのSJM(特別合 同会議)と続けられる。
 次に、電波技術審議会関係の話に移ろう。これは5つ の部会から構成されているが、第1部会への諮問は “CCIRの研究調査に対し日本として寄与すべき事項”で ある。第1部会の9つの委員会はCCIRのSG1から 11までとCMV、CMTT関係を分担している。50年度 は約80件(うち電波研究所提案16件)の寄与文書を提案 したが、現在最終会議への寄与文書の審議が行われてい る。今年9月のAブロックには宇宙と放送に焦点が置か れ、SG2、4、5、9、10、11、CMTTと7つの研 究委員会が開催される予定であるので、これらSG関係 の我が国の提案事項を今年2月下旬に部会専決答申すべ く審議が進められている。
 さて電波研究所のCCIR対策委員会(委員長:鈴木 次長、総幹事:石川室長)は伝搬、宇宙通信、電波天文、 放送、通信、標準報時、スペクトル利用と7つの小委員 会から成り立っているが、最近委員の入替えを行い、3つ の小委員会の主査を新任し、13名の委員を加えた。とく にCCIR最終会議Aブロックに対応する小委員会では 電波技術審議会第1部会の日程に合せて審議を行ってい る。
 電波技術審議会の第2、3、4部会は夫々一般無線、 雑音、放送に関する諮問事項の審議を行っているが、以 下電波利用技術と宇宙システムを取扱う第5部会の活動 について簡単に述べておく。
 第1小委員会では本省が昨年度行った「電波利用シス テムの将来方向」についてのアンケートの取纏めを、若 井電波部長が分科会主任として行っている。周波数の利 用予測も含めたこの取組めはWARC-G対策の貴重な 資料を提供することになろう。また、この中には昨年度 各研究室から提案された「将来計画」も多数含まれてい るので、審議会の検討結果を参考にして、夫々の計画の 実現の可能性を更に検討すべきだと考える。
 第2小委員会には2つの分科会があり、第1分科会は 固定地点間通信衛星の利用技術、第2分科会は衛星間通 信技術をテーマとしている。後者の主任は石田衛星研究 部長である。研究所の将来衛星計画に50/40GHz衛星通 信とデータ中継衛星の基礎実験を行うECS-Uがある。 審議会では、データ中継衛星技術に関する内外の動向を 全般的に検討しているので、ECS-U計画を進めてゆ く上に参考になると考えられる。
 最後に第3小委員会では、電波によるリモートセンシ ング技術の将来方向の取纏めを行っており、企画部の古 浜主任研究官が副幹事として参加している。電波研究所 は電離層の電波探査を古くから行っており、また最近では 電波による海洋波浪、音波による気温逆転層、レーザ波 による公害物質の遠隔測定など多角的にリモートセンシ ング技術の開発を行っており、リモートセンシングは我々 のお家芸と言える。衛星利用のリモートセンシングとして はマイクロ波による地球表面の情報の測定があり、RMS (電波観測衛星)を想定したミッション機器の開発が計画 されている。一方、レーダ方式の能動的リモートセンサが米 国の地球探査衛星計画に登場し、世界の注目を集めている。
 以上のように第5部会の活動は研究所の将来計画策定 に大変参考になるので、夫々の小委員会の審議経過に注 目してゆきたい。

(調査部長 羽倉 幸雄)




第21回IAF会議に出席して


塚 本 賢 一(衛星研究部)

 昭和51年10月に筆者は情報処理部今井信男研究室長と 共に、第27回IAF会議出席その他の目的をもって約2 週間にわたり米国ならびにカナダを訪問した。その概要 について報告する。
IAF会議出席:今回のIAF会議は10月10日から16日 までの1週間米国カリフォルニア州アナハイムの会議場 (Anaheim Convention Center)で開催され、日本から は斎藤成文教授を団長として東大13名、京大・九大各1 名、電波研2名、民間6名および学生2名の計25名が参 加した。アナハイムはロスアンゼルスの南東約40qのと ころにあり、会議場は道一つ隔ててデズニーランドの向 い側に位置していた。この会議の正式名は1976 Congress, International Astronautical Federationで、国際宇宙航 空連合1976年度会議とでも邦訳されるであろう。
 IAFは1950年に11機関をメンバーとして発足して以 来毎年会議が開かれ、今回は第27回目であり現在では37 ヶ国からの58機関で構成されている。我が国の登録メン バーはJapan Astronautical SocietyとJapanese Rocket Society である。この会議は宇宙物理からロケット 工学、通信・気象・測地その他の実用衛星、科学衛星、 宇宙生物学、材料工学、更に宇宙法に至る極めて広範囲 な分野にわたっての国際情報交換の場である。その目的 とするところは、「平和目的をもって宇宙航空学ならびに 技術の開発を促進し、技術情報の広範な普及に資する」 ことであり、その成果は国連の宇宙空間平和利用委員会 に対し、大きな貢献をなしている様である。


IAF会議場前にて(左 筆者、右 今井氏)

 IAFは非政府間ベースの集会として定義づけられて おり、国際会議というよりはむしろ学会的色彩が強く、 極めて自由な雰囲気で発表と討論が行われていた。 IAFの本部はパリにあり、今回はAIAA (American Institute of Aeronautics and Astronautics)を始めとする 米国5団体の招待で建国200年祭を記念して開催される ことになったもので、事前の論文の受付け編集等の作業 はニューヨークのAIAA事務局で行われた。会長は L. Jaffe氏であり、今回の会議々長はG. E. Mueller氏であ った。IAFは1960年にIAA(International Academy of Astronautics) およびIISL(International Institute of Space Law)のそれぞれ独立した集会を創設し たが、これらはIAF会議と一緒に開催される習慣にな っている。
 今回の会議のキャッチフレーズは、宇宙輸送の新時代 (A New Era of Space Transportation)であり、スペ ースシャトルの利用計画の促進ということに重点がおか れていた様である。世界各国から約500名の参加者があ り、発表論文も450件の多きに達し、46の分科会 (Session)に分かれて毎日4ないし5の部屋を使用して熱心 な発表・討論が行われた。即ち初日の参加者登録と歓迎 レセプションに続き、11日の午前には全参加者を一堂に 集めて議長のG. E. Mueller氏の挨拶、フォード大統領 の歓迎メッセージの代読に始まる開会式と宇宙輸送の新 時代を演題としたNASAのJ. C. Fletcher氏の招待講 演ならびに公開討論会があり、13日の技術見学旅行日を はさんで、11日午後より16日午後の閉会式まで、各分科 会毎にぎっしりしたスケジュールで会議が続けられた。 私達の関係した通信衛星関係は、11日午後、12日午前お よび14日午後の第4、第9および第26分科会であり、そ こでINTELSAT-N,ECS、将来のINTELSAT, CTS,SYMPHONIE,ATS-O、直接TV放送、移動 業務衛星その他の衛星についてのシステム・実験内容等 が発表された。第4分科会は斎藤教授ならびにESA(欧 州宇宙機構)のR. C. Collette氏か議長となって進めら れたが、この分科会で私の発表したのは、RRL,NASDA, NTT,NHK共同の論文「日本の通信・放送衛星計画と実 験」でCS・BS計画に関するものであるが、日本の衛星計 画に対し、一般の関心が強く熱心な質問がなされた。また 11日夕刻には「宇宙輸送の新時代における協力の可能性」 という題で参加者全員による公開討論会がNASAの A. Frutkin氏の司会で行われ、パネリストとして斎藤教授 がカナダのJ. Chapman,ESAのR. Gibson,ソ連のB. N. Petrov の各氏と共に参加し、国際協力につき討論された。
 13日の技術見学はジェット推進研究所(JPL)と、 ロックウェル・インターナショナル社のスペースシャトル 施設の2コースが企画されたが私達はJPL見学に参加 した。JPLは周知の如くカリフォルニア工科大学の付 属研究所で、アナハイムの北方バスで1時間のところに あり、110エーカの敷地を有し、従業員4,000人を擁し ている。古くからJPLはNASAの、特に無人 Deep Space Programの研究推進のシンボル的役割を果して 来た機関で、Ranger,Surveyor,Mariner等による月、 金星、火星、水星等の探査はあまりにも有名である。最 近話題をにぎわしたのはViking計画での画期的火星探 査であり、1977年にはMariner衛星により、木星・土星 の探検が行われようとしている。午前中JPLの所長 B. Murray氏その他によるこれら探査計画の説明があり、 午後施設見学が行われた。特にVikingの実物大のオービ ターおよびランダー(着陸船)が展示され、ランダーに よる火星面での資料収集の模擬実験まで行われた。今回 の見学会ではJPLは極めて開放的で、撮影も自由で、 例えばソ連代表団からの多くの質問に対しても担当技術 者レベルで積極的に回答がなされていたのが印象的であ った。
 日程の都合で、私達は14日以後の会議に出席出来ず、ま たこの会議は大規模かつ広範囲であるため、IAF会議 の全貌を把握することは困難であったが、各国からの研 究者、技術者が一堂に集まり、友好かつ謙虚な雰囲気で 自由に話し合える場としてこの会議の持つ意義の重要性 が認識された。
 参考までに宇宙輸送関係以外の主要な分科会を列記す ると次の様である。天体力学、アポロ・ソユーズ実験結 果、通信衛星、材料・構造、宇宙医学、推進系、宇宙法、 惑星空間飛翔、マイクロ波地球観測、宇宙大電力システ ム、宇宙空間相対性理論、宇宙空間材料処理、科学衛星、 宇宙運用コスト低減、宇宙空間安全と救助、宇宙空間プ ラットホーム、衛星電カシステム、太陽系探査、地球・大 洋力学、信頼性・経済性解析、ロケット工学、宇宙航空 の歴史、上層大気物理、教育、データ処理と分配。
AFC社ならびにGE社訪問:昭和52年度に打ち上げが 予定されている実験用中容量静止通信衛星(CS)およ び実験用中型放送衛星(BS)は、宇宙開発事業団 (NASDA)によってそれぞれ三菱/AFC、東芝/GEを製 作メーカーとして開発が進められているが、それらの開発 状況を調査し、合わせて実験地上施設との整合をはかる 目的をもって、両社を訪問した。AFC社 (Aeronutronic Ford Corporation)はサンフランシスコ南方約40マイル のパロアルトにある。CSはプロトフライトモデル (PFM)の認定試験(QT)を終了し、認定試験後審査 (PQR)に入るところであり、フライトモデル(FM)も 機能試験が進み、開発は予定通り順調とのことであった。 電波研鹿島主局の衛星運用管制ソフトウェアも開発を終 り、インテグレーション作業が進められていた。
 GE社(General Electric Company)はペンシルバニ ヤ州フィラデルフィアの北方30マイル程のバレーホージ にある。
 BSはNASDA職員立合いの下にPFMの認定試験を実 施中で、最も苛酷な振動試験を終了したところであり、 FMも各サブシステムの製作を完了し、一部試験を実施 中で何れも予想通りの進捗状態とのことであった。
カナダCBC放送局ならびにCRC訪問:GE社訪問を 終え、CTS衛星による実験状況を見学、調査する目的 をもって、カナダに渡り、モントリオールのカナダ放送 協会(CBC)の放送会館およびオタワ郊外にあるカナ ダ通信省通信研究センター(CRC)を訪問した。
 CTS(Communications Technology Satellite)はカ ナダおよび米国が共同開発した通信技術衛星で、51年1 月17日にケープケネディから打ち上げられた世界最初の 12GHz−14GHzの大電力テレビ放送・通信実験用の衛星 であって、その寿命は2年間とされている。カナダが衛 星を設計製作し、米国が進行波管電力増幅器(TWTA) の供給と衛星打上げを分担したものである。この衛星に は展開型の太陽電池アレイ(1,200W)、TWTA(200W) および三軸姿勢制御という3つの進んだ技術が採用され ている。CTSはカナダとアメリカが半々の割で使用し ており、カナダは5月から実験を開始している。カナダ の26項目の実験のうちCBCは都市におけるテレビ受信、 ラジオ放送およびオリンピックのテレビ放送の3項目を 担当し、CRCは直径9mのアンテナをもつ主局をはじ め多数の可搬型の地球局を整備して各種実験に供してい る。CBCはカナダの公共放送業者で、英・仏両国語が 併用されている国情を反映してモントリオールにフラン ス語のプログラム製作部門があり、トロントに英語の部 門がある。そのほかオタワに本部およびスタジオがあり、 モントリオールには技術本部もある。私達の訪問したの はモントリオールのMaison de Radio Canadaという建 物で、日本のNHK放送センターに当るところである。 CTSの受信設備としては放送センターの屋上に受信ア ンテナを置き衛星からの12GHz受信波を周波数変換して 400MHzにし、ケーブルで室内受信設備へ導き、復調信 号を劇場のような評価室において通常のテレビモニタで 画像を表示するようになっていた。屋上にはPhilipsの 1.2mアンテナ、CRCの2m、RCAの1.2m、NHK の0.6mおよび1.0mの種々のアンテナが設置され、 NHKの1.0mアンテナと簡易受信装置で評価信号対雑音 比44dB程度の良好な画像が得られている。案内して下 さったDr. Siocosの話では、NHKの受信装置が非常に 優れているとのことであった。CRCでは Acting Director GeneralのDr. Barryを始め多勢の幹部職員の暖い 歓迎を受け、CTS実験を中心とする説明と施設見学か 極めて能率よく行われた。CTSの実験は、広く国内か ら応募した49項目の提案の中、26項目が選ばれ、CRC、 CBC、諸大学、諸州政府など18実験団体によって行わ れている。これらの実験内容は純技術的な12項目と、社 会的必要性に基づく14項目に大別され次の表の如くであ る。


 私達の主局見学中、丁度オンタリオの北方500マイル の場所に置かれた3mアンテナの可搬型地球局と交信中 であり、私達も通話を試みたが、良好な音質であった。 また訪問した21日はCBC-CTSのデモンストレーシ ョンの日であり、CRCの建物の屋上に設置された1.6m アンテナによりその様子を見ることが出来た。デモンス トレーションの時間は2時間で、試験信号、カラースラ イド、ビデオテープ(英語)、ビデオテープ(仏語)の各 30分から構成されており、極めて良好(評価値4以上) な画質であった。ビデオテープの内容はCTS実験の概 要や技術解説、カナダ通信相の挨拶等であった。
 以上短期間の出張日程であったが、内外の関係ある方 方の御協力により極めて能率的に海外の宇宙活動の動向 を見聞し得たことを感謝致します。特にIAF会議出席 に当って終始御指導頂いた斎藤先生に、同行した今井室 長ともども心から御礼申し上げる次第です。




FM-CWレーダ開発基礎実験


福 島  圓、増 田 悦 久 (第二特別研究室)

 FM-CWレーダは周期的に直線的周波数変調を行う可 聴周波音波を打上げて、大気乱流領域からのエコー(反響) を受信して、この受信音波と送信音波とのビート信号か ら上空の反響源の強弱位置を検出する音波レーダである。 FM-CWレーダは高分解能で近距離の探査不能域がない という特長をもっている。また、連続波方式であるので、 従来のパルス方式レーダに比べて送信出力の大幅な低減 つまりうるさくないレーダ実現の可能性をもっている。 大気乱流の微細構造探査を目的にFM-CWレーダ開発を 計画し、去年10月試験的観測に成功したので、その概要 を紹介する。
 従来のパルス方式レーダでは同一の音波アンテナを切 替えて送受信に使用していたが、新しいFM-CWレー ダでは送信用には直径16mのコンクリートパラボラアン テナを使用し、受信用にはその傍に約1m掘りこんだ土 中に設置した直径3mの金属製パラボラアンテナを使用 した。送信用音響変換器のホーンは当所試作係に新設され たならい旋盤を使用した処女作であり、また受信用音響変 換器は市販の広帯域特性コーンスピーカの中から選定し たものである。FM-CWレーダの電気的送信出力は25 W、送信中心周波数は2,000Hz、周波数掃引幅は85Hz、 周波数掃引時間幅は3.5秒間、繰返し周期は7秒間で受 信エコーの距離分解能は2mと計算される。FM-CW レーダの構成に使用した高価なスペクトラムアナライザ を始め、FMデータレコーダ、X-Yプロッタ、掃引発 振器、周波数変調器は所内各位の御好意により一時借用 で間に合わせたもので、混合器以降の受信部は自作した ものである。
 今回の試験的観測はビート信号をFMデータレコーダ、 に記録させた後に再生させ、一回の周波数掃引ごとに周 波数分析を行い、その出力をX-Yプロッタにより描か せたものであるが、スペクトラムアナライザを専用でき れば実時問処理・直視的表示も可能である。短時間の観 測データではあるが、層状エコー、プリューム(暖気柱) エコーの微細構造を推測させるものが得られている。図 は昨年10月18日10時2分から8分間の観測データで、高度 約100〜300mにおけるプリューム内のエコー強度の細か い変化状況が連続的に詳しく観測されている。
 FM-CWレーダの開発は直線的周波数変調音波が発 射できるかどうか等に難点があって、各国の研究者間で その実現が困難視されていたものであるが、今回の開発 成功は我々の知る限り世界最初のものである。


図 FM-CWレーダ観測記録例(エコー強度−高度−時間チャート)
縦軸:掃引周波数=高度、横軸:周波数帯域幅1Hzのスペクトラム強度=
エコー強度(相対値)、繰り返し周期は7秒間(時間は左から右へ)


短   信


   平磯支所における海洋波浪の測定実験
 通信機器部海洋通信研究室では、11月29日より12月4 日まで、平磯支所において、電波による海洋波浪の測定 実験を行った。今回の実験は、波浪による散乱受信電波 のドップラー・スペクトラムを求めることか主な目的である。


   日本標準時の調整−うるう秒そう入−
 当所周波数標準部では、昭和52年1月1日午前9時の 直前にうるう秒をそう入し、1秒のステップ調整(1秒 遅らせる)が行われた。これにより、日本標準時は午前 8時59分59秒の次に8時59分60秒が入り、年前9時00分 00秒となる。昭和47年1月1日に新標準時が採用されて から、1秒(正のうるう秒)のステップ調整は今回で6 度目となった。


   NHK「総合テレビ」に電波研登場−2題−
 その1 「ゆく年くる年」のクライマックス、23時58 分30秒〜00時00分03秒に、日本の標準時を刻む親時計が ある電波研究所の実況を生中継で放送した。
 その2 1月12日午後10時15分から同45分まで放送さ れた「あすへの記録、黒点を追う、活動期に入った太陽」 で、平磯支所の電波警報業務が紹介された。


  沖縄電波観測所の移転
 当所の沖縄電波観測所は、昭和51年12月23日に下記へ 移転を行った。従来の場所から南東に約4q離れた所で ある。
   沖縄県中頭郡中城宇久場台城原829-3
   郵便番号901-24
   電話(09893)8-0045