通信・放送衛星計画推進本部
1. CS計画決定までの経緯
図1 CSの実験システム
3. 衛星の概要
CSは、静止軌道重量約350sのスピン型衛星であり、
直径218.4p、高さ223.5pの円筒形の本体に高さ128.8
pのホーンリフレクタ型機械的デスパンアンテナの付い
た衛星で、通信系、TT&C(追跡、テレメトリ及び
コマンド)系、姿勢・アンテナ制御系、電源系、熱制御
及び構体系、2次推進系、アポジモータの各サブシステ
ムから構成されている。通信系は中継器群と通信用アン
テナから成り、中継器は、30/20GHz帯6台(F1〜F6)
及び6/4GHz帯2台(G1、G2)の計8台で構成され、双方
向的4000回線の通信容量を備えている。これらのうちF2、
G2の計2台が国産である。20GHz、4GHzの公称出力は
それぞれ4dBW、4.5dBWであり、全ての中継器の帯域
幅は200MHzである。G2を除きすべてAGC制御される。
G2はスイッチアッテネータを有し、地上コマンドにより
1.5dB段階で10.5dBにわたって入力レベルの制御が
可能である。またF1のみ地上コマンドによりAGCON/
OFF制御が可能である。ビーコン信号として19.45GHz、
3.95GHzの2波を持つ。このうち、3.95GHzはテレメト
リ信号のPM変調残留搬送波である。通信系のアンテナ
は、30/20GHz帯と6/4GHz帯共用の高利得ホーンリフ
レクタ型アンテナで、30/20GHz帯での照射パターンが大
体日本本土の形状となるよう反射板が成形されており、本
土の周辺部でアンテナ利得が33dB以上確保されるように
設計されている。このためアンテナの指向精度は、±0.3°
以下、軌道保持精度は東西、南北とも±0.1°以下と規
定されている。なお、6/4GHz帯では沖縄を含む日本全
土に対して、25dB以上のアンテナ利得をもつ。偏波は円
偏波である。
TT&Cは、6/4GHz帯(Cバンド)及び
2.1/2.3GHz帯(Sバンド)で行われる。CバンドTT&Cアンテ
ナは通信系のデスパンアンテナと共用であるが、Sバン
ドTT&Cは、衛星本体の中央部に帯状に配置された
64個のタイポールアレイからなり、スピン軸に直角な面
内で無指向性である。TT&C信号は、Cバンド、Sバ
ンドとも共通のSバンドで処理されるため、Cバンド
TT&C信号は、C/Sコンバータ或はS/Cコンバータ
を介して、Sバンド系機器に接続されている。
衛星本体外面に貼られた太陽電池は、衛星寿命末期
に最少約422Wの電力を供給する。衛星の最大消費電力は
400W以下である。又、2次電池として1個のニッケル
・カドミュウムの蓄電池を有している。これは20AHの
容量を持ち、蝕の期間に、30/20GHz帯、6/4GHz帯、
それぞれ11台の中継器を動作させることができる。
図2 CSの構造
4. 地上施設の概要
CS実験に使用される地上施設は、鹿島支所に建設さ
れる主固定局兼運用管制局とNTTによって整備される
副固定局(横須賀)、準ミリ波簡易型固定局(仙台)、マイ
クロ波可搬局、マイクロ波用電話車載局、マイクロ波用
テレビ車載局及び準ミリ波用電話車載局によって構成さ
れる。その他伝搬実験用の電界強度測定装置及びSCPC
実験装置が若干整備されることになっている。
鹿島支所のCS・BS用主局兼運用管制局の地上設備
<主固定局兼運用管制局>
CS実験用として鹿島支所内の旧30mφアンテナ台
地に、南向き平屋建てのCS・BS(実験用中型放送衛星)
共用実験庁舎が建設された。実験庁舎には、東西両翼に
3階建ての塔部を庁舎の一部として建てその屋上東側に
CS用30/20GHz帯13mφアンテナが設置されている。
同西側にはBS用の14/12GHz帯13mφアンテナが設置
されている。CS用6/4GHz帯10mφアンテナは、地上
マイクロ回線との干渉軽減のために、台地東側の傾斜地
を整地し、台地より約4m低い位置に建設されている。
実験庁舎は、総床面積約1,300uであり、1階部分には、
CS・BS別々の実験室と実験準備室、CS・BS共
用の電源、計算機、運用管制室、会議室等がある。アン
信装置はアンテナ塔部に設置される。
アンテナを塔部3階屋上に設置するのは、地上較正施
設を見通すためである。
通信実験は30/20GHz帯、6/4GHz帯双方のアンテナ
系で、衛星運用管制は6/4GHz帯アンテナ系で実施され
る。従って通信実験用の端局装置、変復調装置等は1.7
GHz帯を共通IFとして、30/20GHz帯、6/4GHz帯両
システムに切換え使用できる構成となっている。CS主
局の主要諸元は表のとおりである。30/20GHz帯
アンテナと6/4GHz帯アンテナを分離し、それ
ぞれについて最適の設計とし、共用よりもかえって経済
性を高めた。すなわち、30/20GHz帯アンテナについて
は、4回反射集束ビームカセグレン型として性能向上を
図っている。準ミリ波伝搬実験の重要な一項目として交叉
偏波発生量が測定できるようにするとともに、各種実験
の際、基準となるシステムとしている。送信系としては、
増幅管として30GHz帯の500W TWTを採用し、大電力
化を図るとともに、送信周波数の切換えに柔軟性を持た
せている。
一方、6/4GHz帯アンテナは限定回転型として、追尾
系も簡便なステップ方式を採用した。特に6/4GHz帯で
問題となる地上マイクロ回線との干渉については、コル
ゲートホーン及びテーパ照射分布を採用し、かつ低地に
設置して、妨害及び被妨害の軽減に留意した。
<副固定局>
副固定局はNTT横須賀通研に設置される局で、12.8
mφアンテナシステム及び11.5mφアンテナシステムか
ら構成される。12.8mφアンテナは昭和46年に建設され
たニァフィールドカセグレン型で2回反射ビームウェー
ブガイド方式の給電系を持ち、準ミリ波とマイクロ波の
共用である。手動,プログラム追尾及び136MHz、4GHz、
20GHz帯での自動追尾機能を有する。準ミリ波帯及びマ
イクロ波帯での送受信装置、FM及びPCM変復調装置
を備え、種々の通信実験が可能である。また実験に伴う
副次的な各種の衛星運用管制が可能である。11.5mφア
ンテナは新しく開発中の準ミリ波専用アンテナであり、
12.8mφアンテナシステムの近傍に設置される。本アン
テナは大都市の電話交換局屋上に設置されるモデルアン
テナとして開発されているもので、総重量24トン(12.8
mφアンテナは50トン)の限界駆動型のX-Yマウント
タイプである。
<簡易型固定局>
簡易型固定局は準ミリ波専用であり、機能的には横須
賀局11.5mφアンテナシステムと類似である。鹿島主
局、横須賀副固定局及びこの簡易型固定局の間で準ミリ
波帯マルチプルアクセスの通信実験が行われる予定であ
る。
<可 搬 局>
可搬局は直径約10mのアンテナを有するマイクロ波専
用の局で離島に設置され、テレビ及び電話の伝送実験に
使用される。
<車 載 局>
車載局にはマイクロ波電話用、マイクロ波テレビ伝送
用及び準ミリ波電話用の3種類があり、マイクロ波電話
用の開発は50年度に完了したが、他の局は現在開発中で
ある。いずれも直径約3mのカセグレンアンテナを備え
る。電話用マイクロ波車載局は2個のシェルタとアンテ
ナとからなる。一方のシェルタには送受信装置と変復調
装置が、他方には約60回線の電話端局とガソリン発電機
が収納される。アンテナは運搬時、7つの部分に分解さ
れ、目的地で組立てられた後、車両後部に設定される。
これらの主要構成部は、DC-8クラスの航空機あるいは
大型ヘリコプタにより導搬可能である。これらの車載局
は災害時等の臨時回線設定用に用いられる。
表 主局の諸元
5. 実験計画
CSの実験計画は、CS分科会の作業グループによっ
て検討が進められている。電波監理局、電波研究所及び
NTTから構成されるメンバにより鋭意案が練られてお
り、現在までに実験計画概念書が完成し、51年度には更
に実験実施手順書の作成作業が進められている。
CS実験は大きく5項目に分類され、その細目は以下
のとおりである。
(衛星研究部通信衛星研究室 室長 塚本 賢一、研究官 小嶋 弘)
注)昭和50年4月AFC(Aeronutronic Ford Corporation)社に、
相 京 和 弘(衛星研究部)
昭和50年度科学技術庁長期在外研究員として昭和50年 11月から1年間、全世界に7ヵ所ある非干渉性散乱レー ダ(以下ISレーダ)施設の1つであるMillstone Hill レーダ・サイトに滞在し、ISレーダによる上層大気圏測 定法の研究に携わる機会を得たので、ここに雑感を交え てその概要を報告したい。
MIT付属リンカーン研究所のレーダと電離層研究施設の全景
(遠方のレードームはNortheast Radio Observatory Corp.のHaystack観測所、
手前左はFirepind赤外線研究施設)
この研究所はボストン市北西約40qの独立
戦争発端の地として有名なレキシントンにあ
り、1951年、MITの付属機関として発足、現在は
Federal Contract Research Centerとも呼ばれ、軍関係を
はじめ、各省庁やNSFと研究契約を結び、全9部、正職
員約700人、外部契約職員約1,100人から構成されている
(表)。各種レーダ、通信衛星やコンピュータ応用を中心
に専用素子の開発まで幅広い分野を手掛けており、電波
研究所と関連する研究テーマも数多い。例えば、第3部
でのレーダ・システム,特に近年脚光を浴びているイメ
ージ・レーダの研究があげられる。レーダ応用技術を除
けば、レーダそのものの研究として将来有望な分野で、
当所がプロジェクトとして取上げる価値は十分あるよう
に思われた。また、第6部の主要テーマは現在、LES
(Lincoln Experimental Satellite)-8,9の通信衛星の
研究開発であり、設計、組立、試験の一連の過程を
全部所内で完遂しうる施設を備えている。両衛星は同時に
静止軌道に打上げられ、衛星−衛星間、衛星−地上間をK
およびUHFバンドで回線構成し通信実験を行うもので、
軍関係の衛星だけに、多少特殊な設計が施されているが、
我々のCS,ECSと類似の実験計画をもち、参考になること
も多いであろう。第9部は超高出力レーダ応用がテーマで、
Millstone Hillレーダはその中の第91グループに属する。
ここの主任は一昨年8月まで筆者が滞在に際し最も世
話になったDr. J. V. Evans(現第9部副部長でURSIの
議長も兼務)であった。このグループはISレーダによる
電離圏の定常観測の他、追尾アンテナ
で空軍の依託による衛星追跡を定常的
に行っている。そのため、カナダの姉
妹研究所にあたるCRC(現在は正式名
ではないが)と同様にsecurity clearance
が相当厳しく、外国人研究者とし
て永住査証で入国し正職員で働く人々
(全職員の2%未満)および同種の機関
からの研修者を除くと短期の客員研究
者は皆無に近いようである。筆者の場
合、毎日受付で手渡されるタッグから
推測して出向先や研究テーマの内容か
らかclearanceの手続は省略されたよ
うで、visitorの資格にもかかわらず
拘束されずに施設を利用できたのは幸
いであった。滞在地の職員構成は5〜
6名の研究者、2〜3名の秘書と他
は実験を支える技術者と技能者で
総勢20名程である。プロジェクトの規模からいえば適当
な構成のような印象を受けるが、勤務状況や体制、成果
からみると我が国との差異は明白で、徹底した分業制と
効率のよい人材の配置それにチーム・ワークの良さに負
うところが大きいようであり、我が国の研究機関も参考
にすべき点の一つであろう。しかし、これら合理的な人
事、研究管理も職場を変えることがむしろ評価される場
合の多い風土や開放的な人事交流などを抜きに考えられ
ないので、このままの形で、終身雇用を是とする我が国
に導入できるかどうか疑問であろう。
表 MIT、リンカーン研究所の構成と財政支援機関
ニューイングランド地方は日本では北海道の緯度に相
当し、概して気候は厳しい。ここ数年来、世界的規模の
異常気象が続いており、今冬の寒冷異変とは逆に、滞在
中の冬は地元の人が驚く程例年になく寒い日が少く、-10℃
前後の2,3月を除いて比較的温暖で過ごしやすい日
日であり、エネルギー危機は全くなかったように思う。
むしろ、高すぎる室温さらに一般消費者の大型車志向な
どにみられるようにエネルギーの将来に対しても非常に
楽観的な空気が支配していたような印象が強い。伝えら
れる失業率の増大現象は職場や毎日の新聞の求人欄でみ
た限りなかなか実感できなかったが、道路沿いの家の庭
で週日の昼間、芝刈などをしている一家の主人らしき人
人を多々見たり、学位をもつ新卒者がタクシー運転手を
して糊口をしのいでいる話などを耳にすると我々の立場
からは計り知れない程深刻な状況のようであるが、社会
不安とまでいかないのはやはり国民性によるものであろ
う。滞在期間中は建国200年に当り、とくにボストン周
辺は独立戦争に因む史跡が随所にあるので、好機とばか
り大いに期待していたが、実際には、図案化した星の周
りにAmerican Revolution Bicentennial 1776-1976と
あるマークが印刷された商品やパンフレット類、インデ
ペンデンス・ホールやミニットマンを彫んだ記念コイン
や切手など身近かなものからそれらしき雰囲気を感じさ
せる程度で、お祭好きな米国人のイメージを打破するのに
十分な程総じて静かな年であったように思う。それでも
7月4日の独立記念日は例外で、日本のテレビでも放映
されたように、ニューヨーク、ボストン、フィラデルフ
ィアをはじめ各地で盛大な記念式典やパレード、演奏会
等々の華やかな催物が開かれ、建国200年を祝う米国の
すがたに初めて接した思いがした。
滞在1年で最も強く感じたことは科学技術に限っても
世界をリードしなければならないという米国の揺ぎなき
信念であったように思う。ISレーダをとってみても、欧
州の3ヵ所以外では4ヵ所とも米国の建設になるもので、
この種の施設に多額の予算を注ぎ込む姿勢に米国と日本
の先行投資に対する基本的な考え方の相違がうかがえる
ようである。大気圏の研究では、全世界的な観測網の強
化が必須であるが、不幸にしてその強力な武器であるIS
レーダは欧米に偏在しアジア地域には1カ所もない。一
昨年のURSI(国際電波科学連合)の勧告にもあるように、
我が国も本格的に取組むよう諸外国から要請されており、
既存の施設の例(仏国のCNETや米国のNOAA)からみ
ても、現在進行中の衛星計画と共にリモート・センシン
グ技術の開発の一環として多くの波及効果も期待できる
ISレーダをプロジェクトとに将来取上げる方向で準備を
進める必要があるのではなかろうか。
終りに、在外研究員としてMillstone Hillでの滞在の
機会を与えて下さった科学技術庁振興局および電波研究
所の関係官立に感謝の意を表したい。
降雨強度分布測定装置の校正実験
第二特別研究室では、鹿島支所に建設された降雨強度
分布測定装置の信頼性を高めるために、同装置の校正を
2月3、4の両日に行った。設置場所(鹿島支所)から約2
q離れた地点へ係留気球を500〜600mの高度に上げ、こ
の下に散乱断面積のわかった反射球を吊り下げ、それに
レーダ電波を照射し、反射して来る電波の受信電力を記
録する。これにより装置設計から推定された利得との比
(F値)を計算することを目的にしたものである。
たんせい3号の打上げ支援
東京大学は、昭和52年2月19日鹿児島宇宙空間観測所
(内之浦町)において試験衛星MS-T3(たんせい3号)
を搭載したロケットM-3H-1号の打上げに成功した。
当所鹿島支所では、東京大学の依頼を受けて打上げ時よ
り第12周回にいたるまでテレメータ信号受信等の支援を
行った。
秋田で電離層観測打ち合せ会議を開催
2月22・23の両日、秋田電波観測所において第31回電
離層観測打合せ会議が開催された。本所と全観測所から
合計20名の担当者が集まり、電離層観測機の運用保守状
況の詳細な報告と討議、各所の現況報告及び52年度の研
究計画について熱心に討論した。
技術試験衛星K型(きく2号)は、昭和52年2月23日17時50分、宇宙開
発事業団種子島宇宙センターからNロケット3号機によって打上げられた。所
定の楕円軌道(遷移軌道)に投入された同衛星は、2月26日14時32分アポジモ
ータ点火によって、ドリフト軌道に投入された。その後の逐次軌道修正の結果、
3月5日7時現在、遠地点35,787q、近地点35,783q、軌道傾斜角0.568°、周
期約23時間56分、東経130度、赤道上空の同期軌道に投入され、ほぼ静止衛星と
なっている。
電波研究所は、ETS-Uに搭載されているビーコン発振器の電波(1.7、
11.5、34.5GHz)を利用して、今年10月末まで、伝搬実験を行う予定である。
尚、この実験計画の詳細については、電波研究所ニュース9月号(No.6)を参
照されたい。
ETS-IIを用いたミリ波伝搬実験用施設の紹介
降雨強度分布測定装置(上はアンテナ部、下は制御部)
衛星電波伝搬路上及び周辺の降雨強度分布を測定する。
衛星電波受信用10mφアンテナ
ETS-IIの電波1.7,11.5,34.5GHzを受信する。