実験用中型放送衛星(BS)計画


通信、放送衛星計画推進本部

   BS計画決定までの経緯
 「放送衛星」の構想が専門家の間で検討され始めたのは 1960年代の初期である。当時は人工衛星テルスターやリ レーを用いた大陸間のテレビジョン番組や電話の中継が 成功し、遠距離無線中継に威力をみせつけ、衛星通信の 実用化時代を迎えようとしていた。特に、1963年秋に開 催された「特殊な無線通信に周波数帯を分配するための 臨時無線通信主管庁会議」においては、無線通信規則の 追加改定が行われ、通信衛星業務とともに放送衛星業務 の定義も一応示された。それ以来、衛星放送に対する関 心が一段と高まった。
 一方、1960年代になると先進工業国においてはVHF 帯及びUHF帯の地上テレビジョン放送用周波数帯の不 足及び移動無線用周波数帯の逼迫が問題となり、10GHz 以上の周波数帯を放送業務用に開拓する必要が生じてき た。
 インテルサットに代表される衛星通信のめざましい発 展は巨大なアポロ宇宙船の打上げ技術の開発と相俟って、 1960年代後半には一般公衆を対象とする衛星放送の検討 が国際電気通信連合(ITU)の諮問機関である国際無線 通信諮問委員会(CCIR)、国際連合の宇宙空間平和利 用委員会及びユネスコを中心として始められた。1971年 開催の「宇宙通信のための世界無線通信主管庁会議」に おいては、12GHz帯を含む6周波数帯が放送衛星業務の ために分配され、さらに、本年1月から2月にかけて 「12GHz帯の放送衛星業務の計画に関する世界無線通信主管庁 会議」が開催され、日本に対し8チャンネルが割当てられ、 いよいよ衛星放送時代を迎える準備が整ってきた。一方 国内的には、1967年9月に郵政省は、郵政省、日本電信 電話公社(NTT)、日本放送協会(NHK)及び国際電信 電話株式会社(KDD)で構成する通信・放送衛星研究開 発連絡協議会を設備して国内通信衛星及び国内放送衛星 に関するシステム及び打上げの調査研究を開始した。 当時、BSのような放送衛生ではなく実験用静止通信衛 星(ECS)を用いたテレビジョン番組の収集分配という ことで検討が進められていた。その後、米国航空宇宙局 (NASA)を中心とした宇宙開発技術の進歩により気象 衛星ニンバスや資源探査衛星アーツのような大電力衛星 の開発が進み、大電力を必要とする放送衛星の実現の可 能性が増してきた。
 1970年に郵政省は前述の協議会を新たに宇宙通信連絡 会議に改め、1971年頃から放送衛星計画の具体的検討を 開始した。1972年7月に郵政省は宇宙開発委員会に放送 衛星計画の要望を提出し、1973年10月29日、同委員会に よって「実験用中型放送衛星の開発を1973年度から行い、 1976年度打上げを目指して開発を進める」旨の決定がな された。その後、打上げ目標は1年遅れの1977年度に変 更され、現在打上げのための準備が進められている。
   BS計画の概要
 BSは1978年2月23日にNASAのデルタ2914ロケッ トにより米国ケープカナベラル基地から打ち上げられ、 宇宙開発事業団(NASDA)追跡管制網により赤道上空 東経110度の静止衛星軌道に投入される予定である。BS は太陽指向の大電力発生用太陽電池板、2チャンネルのカ ラーテレビジョン放送用直接周波数変換型14/12GHz帯 中継器2台、日本全土を効率よくカバーする鏡面修正パ ラボラアンテナ等を搭載した3軸姿勢制御型の静止衛星 である(図1及び表参照)。静止位置到達後、衛星設計寿 命約3年間にわたってテレビジョン放送実験、 14/12GHz帯電波伝搬実験、衛星管制実験等種々の技術実験が 行われる。


図1 BSの構造


表 システムパラメータ(カラーテレビジョン信号)

 BS計画の目的は教育放送や難視聴対策等将来の多様 な国内放送需要に対処するために、個別受信を可能とす る将来の大型放送衛星の開発に必要な技術及び運用に関 する資料を得ることにあり、このBSで辺地や都市にお ける難視聴救済の可能性、地上放送システムとの併存性 その他種々の実験調査が行われる。
 衛星放送の最終形態は各家庭で簡単な受信装置(G/T =6dB/°K)、とくに小型アンテナ(今年2月の主管庁 会議で直径90pのパラボラアンテナが目標とされた)で 放送衛星からの電波を直接受信する形式、即ち個別受信 である。BSはそれに至る過程としての実験用中型放送 衛星であり、日本本土内で直径1.6m以下、離島を含む日 本全土で直径4.5m以下の規模のパラボラアンテナを有す る受信装置(それぞれG/Tは15dB/°K、24dB/°K) で降雨の多い最悪月でも時間率99.9%で良質の周波数変 調テレビジョン信号(FM-TV)が受信可能な設計にな っている。
 衛星製作は郵政省による概念設計及び予備設計が終了 した後、1973年11月、NASDAにより引継がれ、東京 芝浦電気株式会社/米国GE社を製作メーカに選定し作業 が進められており、本年6月にはフライトタイプモデル (実機)の製作が全て完了する予定である。それ以後は 打上げまでGE社の工場で保管される。衛星は、打上げ 後3ヶ月にわたってのNASDAによる軌道上での衛星 初期性能確認の後、利用機関である電波研究所による実 験に供される。当所はNHKとの緊密な協力の基に種々 の実験を行う。
 実験に参加する地上施設には、当所の主送受信局兼運 用管制局(BS主局)、NHKの可搬型送受信局(A型、 B型)、受信専門局(A型、B型、車載のC型)、簡易受信 装置、NASDAの筑波宇宙センタ一及び追跡管制局(勝 浦及び沖縄)等があり、1974年以来、それぞれの機関に おいて建設整備が進められ、1977年度末には全ての施設 が完成する予定である。
 BS主局はBS計画に基づく実験の中枢地球局であり 14/12GHz帯での放送実験及び衛星運用管制の機能を持 ち、茨城県鹿島町の当所鹿島支所に設置される。1975年度 に実験庁舎の建設及び実験施設の工場製作を行い、1976 年度に全ての機器の据付、単体調整を完了しており、1977 年度にはシステム総合調整、衛星との適合性試験、運用 訓練等を経て、衛星打上げに備えることとしている。
 BS主局は本所(小金井)、NASDA筑波宇宙センター 及び追跡管制局、NHK地上施設等と電話、ファックス、 テレックス、データ回線等によって結ばれ、緊密な連携 のもとに実験が遂行される。図2にBS実験系の通信回 線系統を示す。


図2 BS実験系の置局配置と通信回線系統図

 実験計画については、宇宙通信連絡会議開発実験部会 に設けられているBS分科会(電波監理局、当所及び NHKの三者で構成)において検討されており、1975年 度に実験計画概念書が完成し、1976年度には実験実施手 順書、実験実施計画書の作成作業が進められてきた。1977 年度は前年度作業の見直し、衛星エンジニアリングモデ ルとの適合性試験、14GHz帯・降雨散乱予備実験、リハー サル、NASDAによる衛星初期性能確認への支援等が 実施される予定である。
   あとがき
 BS計画及び実験用中容量静止通信衛星(CS)計画は 従来の国内放送及び国内通信の分野に新しい通信手段を 提供すると共に、準ミリ波帯の周波数利用を開拓する実 験として、内外から多くの期待がよせられている。これ に応えるべく、郵政省が中心となり、関係官民協力のも とに鋭意計画の推進が図られている。BS・CS計画は 多大な予算と人員を動員して行われる国家的事業であり、 当所は総力を挙げてこれらの計画を推進している。関係 各位の御協力、御支援を切に希望する次第である。

(衛星研究部通信衛星研究室 室長 塚本 賢一、研究官 内門 修一)

 本記事は、前月号の「実験用中容量静止通信衛星(CS)計画」 に引続くものであり、6月号では「実験用静止通信衛星(ECS)計画」 を予定している。なお、CS・BS計画の主局外観は前月号の3頁に 掲載されており、その地上設備で右側がCS主局、左側がBS主局 にあたる。




ESA・ISS国際協力打合せ会議に出席して


特別研究官  尾 方  義 春

1. はじめに
 ESA(European Space Agency,欧州宇宙機関)と 日本との宇宙開発における国際協力に関する第3回行政 官ベース会議が1976年12月7日、8日の両日、パリの ESA本部で開催された。今回は郵政省として電波監理局か ら出席出来ないということで、ISS(電離層観測衛星) に関する国際協力について具体的な調査打合せを行う予 定となっていた私がこの会議にも出席することとなった。 第2回の会議は1975年5月、日本において開催され、 ESA側からDirector GeneralであるMr.Gibson以下5 名が出席し、日本側から科学技術庁、外務省、文部省、 東大宇宙航空研究所、通産省、運輸省、気象庁、国土地 理院、郵政省、宇宙開発事業団(NASDA)等から約 26名が出席し、日本側の説明が大半であった。今回は、 逆に日本側から団長として科学技術庁佐伯参事官、文部 省植木研究機関課長、東大宇宙航空研究所平尾教授、郵 政省尾方、NASDA山口システム計画部長及びパリの 日本大使館倉持1等書記官の6名が出席の予定であった が、山口部長病気入院のため5名出席となったのに対し、 ESA側からMr. Gibson以下12名が出席し、ESA側の 説明が大部分であった。さらに、8日はESA側の都合 もあり会議は行われずアリアンロケット関係の会社 (SEP,Aero Spatial)見学となった。日本の宇宙開発に おける国際協力の相手は主として米国であって、ESA については比較的関心が薄い向きもあるかと思われるの で、各種の資料も参考にして若干ESAについてのべて みる。
 欧州諸国は、共同で宇宙開発を実施するために、1962 年ロケット開発を目指して欧州ロケット開発機構 (ELDO)を、さらに、1964年に宇宙研究及び衛星開発研究 を実施することを目的として欧州宇宙研究機構(ESRO) を設立した。1972年12月に開催された第5回欧州宇 宙会議において、ELDOとESROを解消合併し欧州 宇宙機関(ESA)を設立することが決定され、1975年 末に設立条約の署名が行われて実質的に発足した。署名 国はベルギー、オランダ、デンマーク、フランス、西独、 イタリア、オランダ、スペイン、スウェーデン、スイス、 英国の11か国でありこの組織は表1の通りである。


表1ESAの組織概要

 またESAの付属施設としては次のようなものがある。
●地上局
  Michelstadt(西独) Darmstadt東方約30q
  Villafranca del Castillo(西)
  Fuchino(伊)
●技術センター
  ESTEC(European Space Research Technology Center);
  Noordwijk市(和蘭)
●運用センター
  ESOC(European Space Operation Center);
  Darmstadt市(西独)
 さらにESAとして決定されている宇宙開発計画の現 状は表2の通りである。この他計画中で未だ決定に至っ ていないものもあるが省略する。

表2 ESAの宇宙開発計画

2. 日本−ESA会議の概要
 前にものべた通り会議そのものは1日で終り殆んど ESA側の説明であった。日本側は団長が現状の概要を説 明した後、文部省、郵政省から提出された資料を主とし て、補足説明を行った。東大宇宙航空研究所関係では既に 担当者間での折衝が行われていたようであり、GEOS 衛星について南極昭和基地との共同実験の話も出された。 今回郵政省からの特別の提案事項はなく、ESAが計画 しているMAROTS衛星についての質問が出された。
即ち、米国海軍のMARISAT衛星が大西洋、太平洋 上に続いて印度洋上に打上げられたことによって、MA ROTS衛星計画に変更があるのか、さらに、MAROTS とMARISATとの利用上の互換性を考慮するの かという事であった。詳細は省略するが、ESAは MAROTSとMARISATとの互換性を考慮しており、
GEOS(Geostationary Satellite for Magnetospheric Studies):東経0°と35°の間の静止軌道上において、 熱プラズマ、低、中エネルギー粒子、電磁場などの磁 気圏観測を行う科学衛星、重量560s。
IUE(International Ultraviolet Explorer):米国、英国 と共同して、紫外線観測を行う科学衛星、重量380s。
ISEE-B(International Sun-Earth Explorer-B):地 球磁気圏のプラズマ、電磁場、エネルギー粒子の観測 を行う科学衛星、3つの衛星が計画され、AとCは米 国が製作し、AとBは同一ロケットで打上げられる。 重量165s。
EXOSAT(European X-ray Observatory Satellite)
 天体のX線源の位置及びそのスペクトル特性を測定す る科学衛星、重量340s。
METEOSAT(Meteorological Satellite):東経0°の静 止軌道上で気象観測を行う気象衛星、重量320s。
AEROSAT(Aeronautical Satellite):西経40°(A)及び  西経15°(B)の静止軌道上の2つの衛星を使って、米国及 びカナダと航空移動通信実験を行う航空衛星、重量420s。
MAROTS(Maritime Orbital Test Satellite):西経40° から東経40°の静止軌道上で海事通信実験を行える海 事試験衛星、重量466s。
OTS(Orbital Test Satellite):東経10°の静止軌道上 で通信実験を行う軌道試験衛星、重量444s。
ECS(European Communications Satellite):1980年 代始めに打ち上げられる欧州の実用静止通信衛星。北 海の石油基地など通信困難地域との通信、データ通信、 コンピュータ通信、遠隔印刷、テレビ会議、テレビ電 話、電子郵便などに使われる。
SPACELAB:米国で開発中のスペースシャトルで軌道 に投入される軌道上の実験室。有人で約1週間(最大 30日間)宇宙物理、太陽物理、大気物理、地球観測、 天文、生物、生命科学:医学、材料工学などの各種実 験を行う、重量12,000s。
ARIANE:ESAで開発中の大型ロケット。静止軌道上 に重量約910sの衛星投入能力をもつとされている。
計画に変更はないとの事であった。また、ESAからM ARO TS打上げ時におけるNASDAの支援について 要望が出されていたが、NASDAの検討結果も既に一 応出されており、特に山口部長が出席不可能となったの で、団長が簡単に検討結果を説明した。ESAとしては、 色々の事情からNASDAの支援には特に重点はおいて いないようであった。今回は、仏−西独共同で開発中の スペースラブ及びESAが管理し、CNESが主となっ て開発しているアリアンロケットについて可成り詳細な 説明があったが、ここでは省略する。

3. ISS国際協力に関する調査打合せ
 電波研究所としてはISS計画に対し米国又はカナダ 及び欧州地域におけるデータ取得に関する協力が実現す れば、ISSの利用に大きな効果をもたらすものと考え ており、幸いある程度の予算措置も講ぜられている。今 回はESAとの会議で提案されなかったが、第2回の会 議でISS協力の問題が提案されている。また、当所は、 1966年8月以来ISIS(International Satellite for Ionospheric Studies, カナダが衛星を製作し、米国NASA が打上げたもので4個のうち2個は現在も利用され ている)計画に参加し現在に至っている。ISS計画が 固って来るに伴い、ISIS Working GroupからISS に関する国際協力体制をとることを再三強く要望されて いた。特に、1975年6月、日本で行われた日加科学技術 会議に出席したカナダCRC(Communications Research Center) のDr. Franklinが本所及び鹿島支所を訪 間し、ISS計画への参加を強く要望した。この結果 1975年12月にはカナダ、DOC(Department of Communications) のDr. Chapmnanと電波研究所長との間で文書が 交換された。1976年3月に「うめ」が不具合を生ずる直 前に、CRCのDr. Hartzから具体的な問題についての 照会があった。このような情勢のもとで、ISS予備機 が1978年2月に打上げられることが決まり、CRCと具 体的な打合せ、特にテレメトリ及びコマンドに必要な 装置等についての調査打合せを行う必要に迫られていた。 今回、ESAとの会議に出席した機会に、ISIS Working Group の主要な構成機関である英国のAppleton Laboratory, 我々が欧州におけるコマンド、テレメトリ局とし て適当と考えているWinkfield Station(NASAの衛星 追跡・データ取得網局の1つで、NASAとAppleton Lab. 共同で運営している)及びカナダCRCを訪問し、資料 を提供すると共に具体的な協力体制に関する打合せを行 った。この結果、Winkfield Station及びCRCは設備の 追加・変更は殆ど不要で、技術的な問題のないことが確 認され、極めて幸であった。
 但し、ISIS関係国では電離層関係の分野が大巾に 縮少され、ISS協力について強く要望された数年前と は状況が大分変っている。CRCは、文書交換も行われ ているので出来る限り協力するという姿勢である。一方 Appleton Lab. はこの点に関してはかなり困難であり、 もしこの研究所が協力体制をとらないとするとWinkfield Station に頼むためにはNASAと直接折衝する必要 がある。また、ESAとの折衝をさらに進める必要が生 ずるかも知れない。
 何れにしても、宇宙開発の分野での国際協力は我が国 の方針として推進されているところであり、ISSの国 際協力については、国内問題を早急に整理して具体的に 準備を進めることが望まれる。




船舶用レーダ型式検定の現状


通信機器部機器課

   はじめに
 電波研究所では、電波に関する研究のほかに、電波法 並びに郵政省設置法に基づいて、無線設備の機器に関す る型式検定業務を行っている。この業務には、無線局に 備えつける周波数測定装置や、主として人命財貨の安全 に関与する機器等を対象として、その製造者に対して一 定の技術基準を厳守させるために義務的に行うものと、 製造者からの委託をうけて行うものとがある。後者は無 線機器の製造者に対し、定められた無線設備の機器の製 造を行う際に、あらかじめ試作された機器の試験を行い、 この試験に合格した製品と全く同一型式で製造された製 品に関しては、使用の際の無線局免許手続きを簡易化す るなどの優遇措置を与えることによって、終局的に無線 設備の機器の性能を一定基準以上に保持し、電波監理の 効率的運営を図ろうとするものである。
 従来、型式検定は、警急自動受信機をはじめ12機種の 無線機器に対して実施されていたが、今回、海上の交通 安全を期するうえから新たに船舶用レーダがその対象機 種に加えられ、昨年9月から受検申請の受付けを開始し、 合格機器も誕生したので、これを機会にその概要を述べ て参考に供することとしたい。
   レーダの型式検定を実施するに至った経緯
 昭和43年、ロンドンにおいて開催された第4回政府間 海事協議機関(IMCO)臨時総会において、昭和35年 の海上人命安全条約(SOLAS)の改正に係る決議が 採択され、総トン数1600トン以上のすべての船舶には、 主管庁が型式認定を行ったレーダを備えつけ、指示部を 船橋に設備しなければならないことになった。昭和46年 10月の第7回IMCO通常総会において、上述のレーダ に関する厳しい性能基準が勧告された。郵政省では、こ の勧告に合致するよう国内規則を改正し、これを機会に 従来の型式認定を改め、委託による型式検定の対象機種 に追加するよう諸般の準備を整えることとなった。こう して、電波法に基づく無線設備規則並びに無線機器型式 検定規則の一部改正が実施され、運輸省においても、船 舶安全法に基づく船舶設備規程の改正を行い、一定規模 以上の船舶には、航海用レーダの設置を義務づけ、省令 公布から1年を経過した昭和51年11月18日から施行する こととなった。このような行政措置の流れに並行して、 当所においても、船舶用レーダに関する試験設備の拡充 整備を急ぐと共に、型式検定試験の具体的実施方法につ いて調査を開始した。一方、船舶用レーダ製造各社に対 しては、当所の行う型式検定をうけるよう強い行政指導 が行われ、関係規則の発効を前に、受検申請が集中する こととなった。
   予備調査と型式検定結果
 レーダは、その語源(Radio Detection and Ranging) からも明らかなように、電波を発射し、その反射波を受 信することによって、目標の存在と、そこまでの距離、 方位などを知るための無線装置で、航海用に使用される 周波数は3、5、9GHzの3周波数帯である。船舶用 レーダは、関係規則により、その使用状態を考慮したか なりきびしい環境条件に対する電気的機械的性能を満た すことが求められ、距離特性、方位及び距離に関する分 解能に加えでいくつかの新しい条件も求められることと なった。当所では、規則に定められた各条件について適 切な試験方法を確立すると共に、現状における船舶用レ ーダの性能を把握するため、検定試験に先立って各種の 調査を行った。マイナス25℃から上は70℃までの温度試 験は、新たに設備した恒温室において実施した。アンテ ナパターン、アンテナ利得、空中線電力、送信周波数、 送信パルス幅、占有周波数帯幅等の電気的性能から、機 械的性能を含むその動作特性に至る詳細な調査を行った。 また、レーダから発生する磁界及び地磁気のレーダに対 する影響についても、当所の磁気遮蔽室内において、そ の調査を行った。当所の構内で満足な試験が不可能であ った航行性能は、静岡県田子の浦および成田空港におい て実施した。田子の浦では、コーナリフレクタを取りつ けたブイを船でえい行し、海岸に設置したレーダを操作 して、海上の物標及び堤防、断崖などに対する距離と方 位の分解能に関する調査を主体に、総合的な調査を行っ た。田子の浦で実施が困難であった特に近距離に関する 距離特性については、成田空港において調査を行った。 その結果、アンテナビーム幅と方位分解能との関係や最 小探知距離等多くの技術的事項に関する調査資料を得る ことができた。空中線の風圧試験は、科学技術庁航空宇 宙技術研究所、並びに防衛庁技術研究所に依頼し、風洞 を使用して性能に関するデータを取得した。このほか、 レーダにおける占有周波数帯幅の測定を容易にするため、 スペクトラムアナライザ方式による測定システムが試作 され、実用に供することができるよう実験が繰り返えさ れるなど、測定法についても多くの検討が加えられた。 以上の調査結果をもとに、昭和51年9月1日から、受験 申請の受付を開始した。試験の結果は、各社とも規則に 定められた規準を一応満足したとはいえ、今後とも性能 の向上に努力する必要があろう。
 今回の型式検定の開始に当っては、新しい技術基準へ の移行が円滑に行われるようにするため、電子機械工業 会の協力をえて、船舶用レーダ製造各社に対し、検定試 験の開始までに、各社の製品の性能の不十分な点を指摘 して、その改善に努めさせることによって、使用者側に 対しても新規則への移行のための支障を生じることのな いように、申請前に予備調査を実施した。その結果、定 常状態における電気的性能は、一応規準を満足するもの が多かったが、当初は、振動試験でリード線が断線する もの、環境温度、湿度の変化で動作の低下を来たすもの が多くあらわれた。一般に、周波数偏差は、常温におけ る周波数を基準に高温では低い方向に、低温では高い方 向に変化した。空中線電力は、常温時に比して、低温で は高めに、高温では低めに出る等の傾向がみられた。 低温ではブラウン管上の表示に致命的欠陥を生ずるもの 等もかなりの数にのぼった。これらの欠陥は、検定試験 の開始までには一応の解決をみたとは言え、今後の新機 種の設計には十分注意を払う必要があろう。また、自励 発振形の出力管として使用されるマグネトロンは、現状 ではその特性に均一性が乏しく、その交換によって、送 信周波数は大幅に変動することがあるので、製造者は勿 論、レーダの使用者にも注意を喚起したい。このほか、 温度試験の際に試験用測定器に動作不良を生ずるなど、 予期せぬ事故も発生し、試験設備の対環境性能の安定化 をはかるべきことが痛感され、占有周波数帯幅測定にみ られるように、測定法や測定器の開発などについても、 検定試験を実施する側に対しても、多くの問題を提起し た。


中空戦に関する予備実験

   むすび
 船舶用レーダの試験を始めてから、本年2月中旬まで における申請数は50台に達し、1月末までに40台が合格 している。現在までの申請は、9GHz帯のものが主体で あったが、これに加え、今後は3GHz帯、5GHz帯のも のも近々申請されるものと予想される。
 終りに、御協力を賜った諸機関ならびに関係の方々、 御指導、御援助いただいた多数の方々に深く感謝いたし ます。


短   信


  ECSの副局、平磯支所への設置決る
 実験用静止通信衛星(ECS)計画において、ミリ波 による通信実験と伝搬実験の送受信局として主局(鹿島 支所)とともにスペースダイバーシティ効果利用の実験 システムを構成する副局が平磯支所に設置される運びと なった。地上施設の主要部分は52年度中に製作され、53 年度打上げのECS実験において運用される。


第52回研究発表会プ口グラム
−既知52年6月8日当所講堂において開催−

1. 周期的形状の壁面によるTV波反射障害
            (通信機器部)杉浦 行
2. SPAC(自己相関関数を利用した音声処理方式)
 の電気通信における応用
            (通信機器部)鈴木 誠史
3. 超長基線電波干渉計による国内基礎実験結果
            (鹿島支所) 川尻 矗大
4. 符号化パルス方式トップサイド・サウンダの開発と
 地上実験結果
            (衛星研究部)相京 和弘
5. 技術試験衛星K型(きく2号)を用いたミリ波伝搬
 実験速報
            (衛星研究部)畚野 信義
6. 実験用中容量静止通信衛星(CS)、実験用中型放送
 衛星(BS)の実験計画並びに地上施設
 (1) CS計画の概要と実験計画
              (衛星研究部)塚本 賢一
 (2) BS計画の概要と実験計画
              (衛星研究部)梶川 実
 (3) CS・BS主局の衛星通信実験システム
              (鹿島支所) 横山 光雄
 (4) CS・BS主局の衛星運用管制システム
              (鹿島支所) 橋本 和彦


第17次南極越冬隊員帰国

 佐々木 勉、山腰 明久の両隊員は、1年間の南極越冬 観測を終え、3月22日元気で帰国した。第17次隊は、特 にISIS衛星によるトップサイド電離層の観測や、み ずほ観測拠点に前進して地磁気と極光の観測を行った。