策21回「電波の日」を迎えて


所長工博 糟 谷  績

 昭和25年6月1日、電波法、放送法が制定され、電波 が広く国民に解放されたのを記念して設けられた「電波 の日」も本年で第27回を数えるに至った。
 私どもは電波科学・技術の研究に直接従事し、この分 野でいささかの寄与が出来ることを幸いに思うと共に、 ますます電波の有効利用のため、研究に一層まい進しな ければならない。
 申すまでもなく、電波の研究とは、電波が超長波から 光領域域に至る広範囲にわたるスペクトルを占める電磁波 現象を、その特長である速達性、超高速性、広搬性、集中 性、精密性、変化性等を如何に有効に科学的、技術的に 利用するかを研究することであろう。このような特長を もつ電波の利用は、それぞれの周波数の特性に応じて、 通信、放送、遠隔操縦、遠隔測定、測位測距など極めて 多方面にわたり、今や電波は近代社会形成に必要不可欠 なものとなっており、このような利用面について、さら に高能率、高精度化を目ざしての研究開発の努力が必要 である。電波の変化性という特長から、最近、空間を通 して無線でエネルギーを伝達するという利用面に電波 研究の新しい分野があることにも注目したい。周波数帯 について考えるならば、技術の進歩は低い周波数帯から 次第に高い方へ移り、現在ミリ波、サブミリ波からレー ザの利用について研究開発に努力が払われつつある。ま た、電波の利用空間で考えれば、宇宙空間、地球周辺、 地上(陸上、海洋)、海中水中にわたり、電波で見た空 間を「電波空間」として利用開発が進んでいる。一方、 電波を利用する上で、使用する電波と、これら空間で自 然に発生する種々の電波や、人工的に発生する種々の電 波との調和を図り、一層有効に電波を利用しようという 電磁環境工学(EMC)という新しい角度からの電波研 究の分野が開かれようとしている。
 目下の最大の研究課題となっている宇宙開発について いえば、我々が現在直接手掛けている我が国の人工衛星 だけでも、4個以上になり、電離層観測衛星(ISS)、 実験用通信衛星(CSおよびECS)、そして実験用放送 衛星(BS)については、総力を挙げて研究が進められ、 そのほとんどが本年度中に集中して打上げの予定で、こ れら実験開始は目前に迫っている。この他、本年2月23 日に打上げられ、我が国最初の静止衛星となった技術試 験衛星K型(ETS-K)により、準ミリ波、ミリ波の 衛星、地上間の電波伝搬実験が目下行われつつあり、着 々と成果を挙げている。これらのことはこれまで度々紹 介されてきたし、これからも色々な立場でより具体的に 精細に報告されるであろう。
 さて、この機会に、当所が発足したのは、電波の日制 定の2年後の昭和27年8月1日であり、本年はちょうど 25周年に当ることを申し上げたい。昭和27年といえば、第 二次世界大戦後、我が国の占領行政が終結し、この年4 月平和条約が発効した。占領時代には電波行政は電波監 理委員会によって運営されていたが、平和条約の発効と 共に、郵政省の内局の電波監理局に継承された。同時に 電波監理委員会がもっていた研究機能を統合して、電波 研究所が、郵政省の付属機関として設立されたのである。
 当時の電波研究所は、電波研究の最も基本となる電波 の伝り方に関する研究、周波数標準の研究と標準電波の 発射、そして無線機器の型式検定やこれに伴う無線機器 に関する研究を3本の柱として、第一部(電離層課、対 流圏課、電波資料課)、第二部(標準課、機器課)、事務 部(庶務課、会計課)の3部7課、稚内、秋田、平磯、犬 吠、山川の5電波観測所の規模により出発した。昭和31 年10月11日、3次長制を実施し、1部7課8研究室、5 電波観測所に改め、昭和42年6月1日にはほぼ現在と同 様な機構となり、8部、6特別研究室、26研究室、2支 所、4地方電波観測所となった。この時、情報処理部と 衛星研究部が新しい部として発足し、鹿島および平磯を 支所とした。その後、特別研究室の改廃、海洋通信研究 室及び衛星データ解析研究室の増設、事務部を総務部と する改称、沖縄のわが国への復帰に伴う沖縄電波観測所 の開設、さらに、鹿島支所の組織の強化(衛星管制課及 び管理課の新設)など幾多の改革が行われて現在に至 っている。この組織の改組改変はその時々の内外の研究 事情に応じたもので、この四半世期にわたる研究の変遷、 発展を如実に物語っている。
 電波がもつ複雑な電波伝搬機構は無線通信の有効適切 な運用には避けて通れない重要な問題であり、電離層の 研究、対流圏の研究から必然的に宇宙科学、大気科学、 気象学、電波天文学などの基礎科学にも発展してきた。 この方面での当所の果した役割は極めて大きく、その研 究も国際的立場で行ってきたし、その優れた成果は幸い 世界の先端に立ってきた。今日の電波研究所が世界的な 名声を馳せているのも、この分野の貢献に負うところが 極めて大きい。
 昭和32年11月ソ連のスプートニク1号が打上げられて 以来、宇宙時代が到来し、電波界にも宇宙通信時代が訪 れた。当所はこの人工衛星の電波をいち早くとらえて、 観測を開始し、その後も種々の人工衛星から送られるテ レメータ信号により、またカナダのアルエット、ISIS の電離層観測衛星を利用し、電離層、超高層大気の観 測研究を続けてきた。衛星通信の実験としてはNASA の応用技術衛星ATSによる多様な情報伝送の研究を行 い、さらに電波天体の観測研究も行ってきた。
 広範囲な研究分野におけるデータ処理、シミュレーシ ョンなどに活用するための大型電子計算機の導入により、 音声・画像処理、パターン認識など情報処理や通信方式 部門の研究も飛躍的に発展させてきた。さらに、研究対 象を電波領域から光領域にまで拡張し、レーザ技術を利 用した大気環境研究や海中情報伝送の研究も行ってきた。 標準周波数の発振も発足当時の水晶方式から水素メーザ やセシウムなどの原子周波数標準に発展し、高精度、高安 定度化の研究が進み、周波数の標準は、時間の標準にも 定義され、今や当所、すなわち我が国の周波数標準は世 界的水準を保つに至っている。
 電波監理上の無線機器の型式検定についても、激増す る無線局の免許事務の簡素化、合理化を通じて、行政の 一翼を荷ない、検定制度の有効な運用に努力してきた。 最近、舶用レーダを検定項目に加えるなどますますこの この業務も充実してきた。
 現在行っている電波研究の規模の拡大と多様化を25年 前当時の研究事情と対比すると、その進歩発展はまこと に著しく、今昔の感に堪えない次第である。電波の日に あたり、改めて電波研究の重要性について認識を新たに するものである。




実験用制止通信衛星(ECS)計画


通信、放送衛星計画推進本部

1. はじめに
 技術試験衛星K型(ETS-U、きく2号)は、昭和 52年2月23日宇宙開発事業団(NASDA)によりNロ ケットで種子島宇宙センターから打上げられ、3月5日 東経130度の静止位置に達した。この打上げは、同じロケッ トで2年後の昭和54年2月に打上げが予定されている実 験用静止通信衛星(ECS)のために、静止衛星軌道への 投入技術の習得等を目的として行われた。ETS-Kに は郵政省の依頼により、1.7、11.5、34.5GHzの互いに コヒーレントな3波のビーコン送信機が搭載されており、 電波研究所では今後約半年間これによる伝搬実験を行う ことになる。所定の静止軌道に投入されて以来、伝搬実 験用の搭載機器、地上実験施設を含めて一連のテストが 順調に行われ、伝搬実験は5月9日より定常段階に入っ た。
 当所ではこれらの他、昭和52年11月と昭和53年2月に それぞれ米国航空宇宙局(NASA)のデルタ2914ロケ ットにより、ケープカナベラルから打上げられる実験用中 容量静止通信衛星(CS)および実験用中型放送衛星 (BS)による実験の計画もすすめられている。これらの 衛星計画は、大きく分けてCSおよびBS計画と ETS-K/ECSシリーズの計画よりなり、打上げロケット や衛星の規模の違いの他に実用化試験研究的性格の強い 前者と、将来のミリ波衛星通信の開発のための先行的研究 を行う後者とは計画自体の目的と性格に明確な差異を有 する。 いいかえれば、CS・BSが「明日のための衛星」 とするならETS-K/ECSは「明後日のための衛星」 であるといえる。
 ここでは電波研究所ニュース第6号「技術試験衛星K型 (ETS-K)によるミリ波伝搬実験計画」と一部重複 する点もあるが、ECS実験計画について紹介する。
2. ECS計画の歴史
 昭和42年度からECS計画として始まった我が国の通 信放送衛星計画は、その出発から今日まで、郵政省、日本 電信電話公社(NTT)、日本放送協会(NHK)、国際電 信電話株式会社(KDD)の4者が協力して行って来た。 このECS計画は、当初デシメートル波からミリ波まで にわたる多数の周波数により多様な実験を行うというも ので、そのまま実現すれば約1トンもの大型衛星になっ たに違いない壮大な計画であった。当所はその中でミリ 波関係のミッションを担当することになり、昭和44年度 からミリ波用搭載機器や搭載用アンテナの開発を行 う一方、予備実験としてのミリ波帯における天空雑音温 度と太陽電波の観測や高感度受信方式の検討を続けてき た。その後、世界各国の通信衛星計画の動向に対処し、 静止衛星軌道や周波数等の権益を確保することの緊急性 が認識され、昭和46〜47年頃よりCS・BS計画が具体 化し、昭和48年その開発が決定され、それらに相当する 部分がECS計画から独立した。
 そこで昭和49年度にETS-Kの実験方針及びECS の実験の目的とミッションについて改めて根本的な見直 し作業を行った。従来のECS計画からミリ波の部分が 残ったこと、電波の需給状態から将来ミリ波による通信 実現の必要性が予見されること等により、 ETS-K/ECSシリーズは将来のミリ波衛星通信実用化を目的と する実験に重点をおいて行うこととした。ここに、装い を新たにした今日のECS計画の出発点がある。40GHz から275GHzの周波数帯の電波の配分が昭和46年の「宇宙 通信に関する世界無線通信主管庁会議」において行われ た。そこで、ECSの次の段階で、衛星通信に割り当て られた周波数のミリ波での実験を実現させることを目標 として、ECSではその打上げ時期、技術水準とその進 歩を考慮して宇宙研究用の周波数である上り35GHz帯、 下り32GHz帯をミリ波通信回線として選択した。これと あわせて基準回線として上り6GHz帯、下り4GHz帯の マイクロ波を使用する。マイクロ液の周波数はCSのマ イクロ波回線と一致させ、CSとの干渉実験が可能なよ うにした。ミリ波回線とマイクロ波回線は衛星上で相互 切換接続でき、上りと下りをミリ波とマイクロ波のさま ざまな組合せで実験ができる。この構成により昭和49年 度末ECS搭載用通信機器の基本設計を発注し、昭和50 年度末に完成し、以後の作業をNASDAに引継いだ。現 在プロトフライトモデルおよびフライトモデルの製作と その試験が行われている。
 一方、実験の方針としては、ECS衛星の規模、公称 寿命(1年間)等を考慮して、目的を明確にし数少ない 主要実験項目を定めて重点的に行うことを基本線とした。 そのためミリ波衛星通信実用化のカギともいうべきサイ トダイバーシティ技術の確立のための実験と、近い将来 国際的問題となることが予想されるマイクロ波による衛 星通信回線間干渉についてのCSとの共同実験を主要項 目として行うことにした。
 これに基づき主局およびこれとはぼ同等の機能を持つ 副局、これらを結ぶマイクロ波リンク等を含むECS実験 用施設の構想を定め、昭和50年5月にはETS-U実験 用施設整備からスタートし、ECS打上げの昭和53年度 に至る年次計画としてまとめた。以後計画は順調に進展 し、昭和52年度予算においては昭和53年度国庫債務負担 行為分を含みECS実験遂行に必要な一切の施設および ソフトウエア等の整備が計画通り認められた。現在、こ れらの整備作業が進行中であり、昭和53年8月頃までに 据付調査を完了し、同年末までに総合調整、要員訓練を 終え、昭和54年2月の打上げにそなえる予定である。
3. ミリ波衛星通信
 ミリ波帯の電波(30〜300GHz)は膨大な信号量を送る ことができるにもかかわらず、その性質に未知の部分や 技術的に未解決の部分があり従来ほとんど利用されてい なかった。ミリ波は大気中の酸素や水蒸気の吸収を受け る。また通信に用いるには雨による劣化が最も大きな障 害となる。衛星通信は地上通信にくらべて大気中を伝搬 する距離が短いため大気や雨から受ける影響が少なく、 ミリ波通信に有望であると考えられている。また普通広 い地域に降る雨は比較的弱く、ミリ波に与える影響もそ れほど大きくないことが多い。ミリ波伝搬に重大な障害 を与えるのは主に地域的な豪雨である。この種の雨の降 る範囲は大体数キロメートル位であるのが普通で、10〜15 キロメートル程度以上離れた二つの地点で同時に降るこ とは稀れである。衛星通信のように電波の伝搬経路が高 仰角であるとき、十分離れた二つの地点に地上局を設け ると、どちらか雨の影響の少ない方の通信回線を使用す ることができる。この二つの局を連絡回線で結び実際上 一つの局として働くような機能を持たせることができる と、雨の影響を受けないミリ波衛星通信回線を得たこと になる。これをサイトダイバーシティ効果等という。ミ リ波の伝搬には、この他シンチレーションと呼ばれる周 期の早い減衰を受けることがある。これは降雨に無関係 に起こることが多い。200Hz程度にも及ぶ速い成分を含 む3dB程度以上の周期的な減衰が起こる。VHFからマイ クロ波程度までの波長の電波のシンチレーションはその 原因が電離層にあると考えられるが、ミリ波のシンチレ ーションは大気の乱れや雲によるものと見られている。 これらミリ波の自然現象に対するさまざまな特性を明ら かにすると共に、それを克服する対策を見つけることが ミリ波衛星通信実現のために必要である。
4. 衛星の概要
 ECSは第1図に示すようなスピン安定型の衛星で、 静止軌道上重量約130s、直径約1.4m、高さはミリ波用 およびマイクロ波用の2つのデスパンアンテナを含み約 1.9mである。太陽電池の発生電力は打上げ1年後で約100W、 衛星の公称寿命は1年以上、打上げ時期は昭和54年 2月、衛星の静止位置は東経145度である。
 搭載用中継器はマイクロ波系(受信6.305GHz、送信4.08 GHz)とミリ波系(受信34.83GHz、送信31.65GHz)であ り、コマンドによりマイクロ波とミリ波の送受信が任意 の組合せで使用できる。中継器の特性は、送信EIRP が4.08GHzで54dBm、31.65GHzで62.7dlBm、受信G/T は6.305GHzで-12.2dB、34.83GHzで-6.1dBである。 中間周波増幅回路において10MHz、40MHz、120MHzの3 種の帯域幅をコマンドにより選択できる。測距は主にマ イクロ波中継器を通して行われる。テレメータには136 MHz帯、コマンドには148MHz帯が使用される。


第1図 ECSの概観図

5. 地上施設の概要
 ECSの実験は第2図に示すような実験施設の構成に よって行われ、主局は当所鹿島支所内、副局は平磯支所 内に置かれる。主局は、10mφアンテナ、ミリ波送受信施 設等から成る。これら二局と、サイトダイバーシティ実 験のため衛星回線信号をそのまま伝送する主、副局間広 帯域マイクロ波リンクとで主要なシステムが構成 される。主、副局間連絡回線については、将来ミリ波衛 星通信が実用化される時点でのサイトダイバーシティシ ステムにグラスファイバーが使用されるであろうと考 えられるため、これに ついて各方面と連絡を とり検討を行ったが、 ECS実験の段階では 時期尚早という結論に なった。主局にはその 他にマイクロ波受信に 26mφアンテナ、マイク ロ波送信及び測距用に 10mφアンテナ(CSマ イクロ波用アンテナ)、 テレメータ受信用に八 木アンテナおよび ISS用18mφアンテナ、コ マンド送信用にISS 用の設備を使用する。 これらの他、主局およ び副局には降雨強度分 布測定装置、天空雑音 温度測定装置、気象観 測装置等が設置される。 雨量計は主・副局およ びその周辺の衛星電波 伝搬路下の数か所に配 置される。主局の各ア ンテナおよび庁舎の概 略を第3図に示す。主局および副局のミリ波送受信装置 はそれぞれの10mφアンテナ下の建物内に置かれ、これら を除く主局の主要実験設備は26mφアンテナ横の庁舎内に、 テレメータ受信、コマンド送信、測距を含む衛星運用管 制関係設備は18mφアンテナ横の管制センター内に置かれ る。また副局用実験設備は平磯支所本庁舎西側に接続し て建設される副局実験庁舎に納められる。
 主局用降雨強度分布測定装置は衛星、地上局間電波伝 搬路上250m毎の雨量と任意の2つの高度の降雨の水平パ ターン、任意の方位角の垂直パターンが得られる機能の 他、ドップラー測定機能が付加される。副局用降雨レー ダは伝搬路上の雨量の測定機能のみを持つ。通信実験用 端局装置は可能なかぎりCS用端局装置を共用する他、 通信実験および伝搬実験に関してユニークな実験を行う ための設備が新設される。運用管制施設も既設のISS 用およびCS用施設を十分利用するという方針で計画さ れている。また、運用管制ソフトウエアについても性格 の類似したCS用を必要な範囲で改修して用いる予定で ある。これら実験施設等は公称寿命わずか1年間のECS 実験終了後ポストECS計画の有効利用を配慮して計画 するよう心掛けている。


第2図 ECS実験用地上局の構成


第3図 鹿島支所アンテナ及び地上施設の配置図

6. 実験計画
 ECSの実験計画としては、先に述べたように各種条件 を勘案し、主要な実験項目に「マト」をしぼって行うこ とを基本的な考え方とし、サイトダイバーシティ実験と CSとの干渉実験に重点を置くこととして、実験施設の 計画を行ってきた。この考え方にしたがって具体的な実 験項目の所内での検討を、昭和51年秋より始めた。その 結果、ミリ波通信のためには常にその伝搬特性が最大 の難点となることから、すべて伝搬特性から出発し常に 伝搬特性に立ちもどって検討する必要があること、当所 はこの分野の経験やポテンシャルが高くECS実験から も多くの成果が期待されること等の理由からミリ波伝搬 特性の実験を前記2つに加えた。これら3項目をECS 実験の「目玉」とすることにし、実験項目の第一案を作 成した。この方針について宇宙通信連絡会議の開発実験 部会に設けられているECS分科会の承認を得、電波監 理局、当所、NTT、KDDからのメンバーにより構成 されるECSワーキング、グループで具体的検討が始めら れた。昭和52年夏に実験計画、同年度末に実験実施計画 をまとめる予定で作業がすすめられている。
 実験計画の所内での検討をはじめるにあたって、でき るだけ幅広く数多い研究者の実験への提案と参加を実現 することを目標とした。このような努力は、単にECS を有効に利用するばかりでなく、さまざまな形で計画に 参加することによりECS実験への理解を深めるために もその結果の如何にかかわらず、必要なものである。こ のため、実験計画の提案と実験への参加を各研究者に直 接呼びかけるエキスペリメンター方式を採用した。この やり方はETS-K実験で行い好結果を得ている。実験 の目的と内容の説明,実験計画と実験装置の仕様の作成、 実験の実行と取得データの解析および検討は提案者の責 任で行い、通信・放送衛星計画推進本部及び鹿島・平磯 支所のECS実験グループはその支援を行う。実験の成 果等について提案者のプライオリティーを尊重するとい うやり方もETS-K実験と同様とした。更に、取得さ れたデータは一定の条件のもとに誰でも利用できるよ うにするべきであると考えている。データの利用のみな らず、CS・BSをはじめ通信放送衛星実験へ大学等外 部機関からの参加がさまざまな形で(積極的な衛星の利 用から単なる放送の受信テストに至るまで)提案されて いる。ECSについても同様の提案が予想される。衛星 計画に費やされる膨大な国費を有効に利用するためにも、 この貴重な機会を十分に活用し、我が国の科学技術レベ ルを向上させるため、これらの参加が時機を失すること なく実現し、有益な成果の得られることが望ましい。そ のためのルールの作成が急がれる。
7. おわりに
 ECS計画が発案された昭和42年頃は我が国における 静止通信衛星の実現の可能性も定かでなく、またミリ波 用機器や素子の開発も緒についたばかりであった。その 後のECS計画の歴史は、技術の飛躍的進歩による情勢 の変化、外国の衛星計画の推移、我が国の宇宙開発計画 の進展情況等に常に注意を払い見直しながら進んで来た 我が国の宇宙開発の歴史でもあった。そして、 ETS-K/ECS計画は将来のミリ波衛星通信開発のための実 験を行うという明確な見解のもとに進められている。し たがって、実用衛星通信に割当てられたミリ波電波によ る実験を行い、その使用についての資料を得ることに より、この目的が達せられ、計画が完結されると言える。 ETS-K/ECSシリーズの当面の目標は、その割り 当てられたミリ波のうち最も低い周波数帯である50/40 GHz帯での実験を次の段階で行うことであり、昭和51年 5月その内容をECS-K構想として明らかにした。
 現在、当所では数多くの衛星計画が並行して行われ、 しかもそれらが同時に実行段階に突入しようとしている。 これは当所の規模からしても異常な事態であり大きな無 理と歪みをもたらしている。しかし一方、複数の計画が 並行して行われるために始めて可能となる実験も少くな い。現在までに世界で実行あるいは計画されたミリ波準 ミリ波実験のための衛星計画とその実験周波数は第4図 に示す通りである。これからもETS-U/ECS計画 はミリ波の実験衛星として世界でも稀れな計画であるこ とがわかる。これら計画が完遂された暁には世界的にも ぬきんでた成果と実績を得ることになろう。

(衛星研究部・通信衛星研究室主任研究官 畚野 信義)


第4図 ミリ波・準ミリ波を用いた実験衛星の使用周波数一覧 (↑:上がり回線、↓下り回線)




創立25周年記念公開の御案内


 電波研究所は昭和27年8月1日に郵政省の付属機関と して発足してから、今年でちょうど25年を迎え、これを 記念して施設を一般に公開しますので、多数御来場下さ るよう御案内申し上げます。
とき:8月2日(火) 10時〜16時
公開場所と主な内容:電波研究所本所(国鉄中央線武蔵 小金井駅下車、京王バス小平団地行き乗車、電波研 究所前下車)(1)電波研先所25年の歩み(2)電離層世界資 料C2センター(3)ウルシグラム放送と通信センター(3) 電波警報(4)調査部とは(5)CCIRとは(6)将来の電波利 用システム(7)周波数の有効利用(8)衛星間通信を目ざし て(9)衛星利用コンピュータネットワーク(10)電離層観測 衛星(11)文字と画像の計算機処理(12)計算機の運用と TSS端末処理(13)VHF波の赤道横断伝搬(14)人工衛星によ る大気雑音の測定(15)短波回線予報(16)電離層観測(17)宇宙 への窓・南極(18)宇宙空間の電波環境(19)ラジオメータに よるミリ波降雨減衰の測定(20)人工衛星電波の電離層効 果(21)対流圏を探る音波レーダ(22)衛星打上げ間近な CS-BS計画(23)ETS-K/ECSによるミリ波伝搬 実験計画(24)衛星・ロケットによる地球環境の観測(25)マ イクロ波放射計によるリモートセンシング(26)電波雑音 と妨害(27)UHF帯電界強度標準(28)声を変えよう! (SPACによる音声情報の変換)(29)陸上移動無線におけ る周波数有効利用(30)テレビをきれいに見よう(テレビ ゴースト障害の研究)(31)レーザで大気汚染を探る(32)水 の中をレーザでテレビを送る(33)無線機の性能はこうし て守られる−無線機器の型式検定−(34)測定器は正しく 使おう!−無線測定器の校正−(35)占有周波数帯幅測定 (36)原子時計(37)超伝導空胴発振器(38)原子時計の国際比較 (39)日本の時刻標準と標準電波(40)映画上映「静止衛星に 挑む」(30分)
鹿島支所(国鉄鹿島神宮駅下車関東鉄道バス、バスター ミナル乗換え電波研究所前下車)地球局施設の公開
稚内電波観測所(国鉄宗谷本線南稚内駅下車又は宗谷バ ス緑町線南中下車)施設の公開。
秋田電波観測所(国鉄秋田駅下車徒歩15分、市営バス大 廻り線電波研究所前下車)施設の公開。
山川電波観潮所(国鉄指宿枕崎線山川駅下車国鉄バス又 は鹿児島交通バス上井出方又は大成小前下車)施設の 公開と映画「静止衛星に挑む」(30分)上映。
沖縄電波観測所(普天間⇔中城々跡公園行き東陽バス終 点中城々跡下車徒歩3分、那覇空港から約24q)施設 の公開。
(なお,平磯支所及び犬吠電波観測所の公開は,建設工事のため 中止いたします)