海事・航空衛星をめぐる動き


通信機器部海洋通信研究室

   はじめに
 現在,大洋にある船舶,航空機との通信には大部分, 中短波,短波帯の電波が使用されている。しかし,これ らの周波数帯は,電波伝搬の状態により回線が不安定で あり,また,急激な通信量の増大に対処することが困難 であるところから,通信不通,混信,通信遅延等が大き な問題となってきている。これらに対しては、SSB化, チャンネル間隔の縮小,リンコンペックス,セレコール, エラー・コレクティング等の技術が導入されてきた。し かし,この周波数帯に依存している限り,根本的救済は 絶望的と見られている。
 近年,この情勢に対し,航空管制通信,船舶通信等に おいては,衛星通信により,安定かつ高品質な回線を確 保するシステム,即ち航空衛星,海事衛星システムが検 討され,一部利用され始めている。現在,実用化されて いるものには,米国が開発した海事衛星通信システム MARISATがあり,L-Band電波による公衆通信が全 世界的に利用され始めている。海事衛星には,この他に ESA(欧州宇宙機構)によるMAROTS(インド洋 方面),ソ連によるVOLNA(7個の静止衛星を使用), IMCO(政府問海事協議機関,国連専門機関の一つ)によ るINMARSAT等が計画されている。航空衛星(航 行衛星を含めて)としては,衛星からの電波のドップラ ー偏移を利用して測位を行うNNSSシステムが米国海 軍用として開発され,民間にも開放されている。航行衛 星NNSSの次世代のシステムとしては,衛星からの絶 対距離を測定することによって測位を行うNAVSTAR/GPS が現在米国において開発されており,民間への 開放が期待されている。航空管制通信及び測位等を行う 航空衛星の実験用システムとしては,米国,カナダ, ESAによる共同エアロサット評価計画があり, AEROSATとして要求仕様が出されている。
 我が国においては,昭和53年度の予算要求に郵政省 から,小型船舶等との通信を行う海上通信技術衛星 (ACTS-MAR),運輸省より航空管制通信等の実験の ための実験用航行衛星の計画が出されており,他方 NASDA(宇宙開発事業団)では,これらに利用し得る衛 星として静止スピン衛星ETS-Aの開発が計画されて いる。宇宙開発委員会は,上記三衛星の計画を受けて, これらを一本化した衛星として開発する可能性を検討す るように指示した。このため,上記三機関及び科学技術 庁は調整作業を進め,航空・海上技術衛星として技術的 検討等を行うに至っている。以下に,上記各衛星の概要 及び我が国の航空・海上技術衛星の開発計画について述 べる。


マリサット衛星

    MARISAT
 これは,写真に示した海部車屋で,1976年2月に太平 洋上に,6月に大西洋上に,10月にインド洋上にそれぞ ぞれ静止し,大西洋上,太平洋上の衛星は公衆通信サー ビスを開始している。衛星本体は,高さ3.65m,直径 2.13m,重量320sでスピン安定方式を用いており,太陽 電池の出力は最終時300Wである。使用周波数帯は,地 上・衛星間は4,6GHz,衛星・船舶局間は1.5,1.6 GHzを用いている。現在,電話1回線,テレックス44回 線が公衆通信用として開放されている。
 この衛星のL-Band回線は,軍用回線の電力使用量に 応じて,出力が三段階に切り替えられ,等価等方放射電 力(E. I. R. P. )はそれぞれ20,26,29.5dBWであ る。また,C-Bandは18.8dBWである。変換中継器の 帯域幅は 4MHz(1dB) となってい る。
 衛星上の アンテナは, L-Band用 には4素子 ヘリカル・ アレイを使 用し,G/Tは-17dB/Kである。 また,C-Band用には ホーン・ア ンテナを使 用し,その G/Tは-25.4dB/Kとなっている。
 船舶局の主要性能は,E.I.R.P.が37±1dBW,G/T は-4dB/Kである。受信用低雑音アンプの雑音温度を 250Kとすると,フィーダ・ロス等を考えて,-4dB/K を実現するためには,23dBの利得のアンテナが必要と なり,直径1.2mのパラボラ・アンテナ(ビーム幅11度) が使用されている。このため衛星の追尾が要求され,装 置が大掛かりとなり,大型船以外には現在のところ使用 実績がない。日本船では「KDD丸」,「鞍馬丸」,「ふじ」 及び「日精丸」の4隻に設置されている。
 地球局には,直径約13mのパラボラ・アンテナを用い ており,そのE.I.R.P.は87.5dBW(C-Band),G/T は31.3dB/K,利得は52.3dBである。なお,我が国にお いても,KDDが山口に地球局を設置する予定である。 通信システム中の音声回線は,狭帯域周波数変調を用い たSCPC方式(各音声信号ごとに別々のキャリアを使 う方式)による回線で,最大局波数偏移は12kHz,RF帯 域幅は27kHzである。船舶局では,仰角5度の場合に, 50.4dB-HzのC/Noとなり,28dBのS/Nで音声信号 が得られる。また,陸側では,C/Noは53.8dB-Hzとなるか ら30dBのS/Nで音声信号が得られる。
 テレックス回線は2相位相変調を用いた時分割多重接 続方式(TDM)による50baudの回線で,陸から船へは 1200bit/secで伝送される。船から陸へは4800bit/sec の時分割多元接続方式(TDMA)を用いている。回線 割当及び要求用の回線は,172bitのバーストで構成され, 4800bit/secで伝送される。音声回線のほかに,コンパ ンダを使用しないDATA/FAX回線が用意されてい るが,日本では現在許可されていない。MARISAT の通信リンク・パラメータを表1に示す。


表1 MARISAT SYSTEM回路のパラメータ

    MAROTS
 この衛星は,ESAが開発中の予備運用,実験用の海 事衛星で,3軸安定型静止衛星OTSの一部を改造して, 1979年に米国のソーデルタ3914によって打ち上げが予定 されているものである。本体の軌道重量は462s,直径 は2.18m,高さは1.95mであり,太陽電池の出力は430 Wである。使用される周波数帯は,陸・衛星相互間は11, 14GHz,衛星・船相互間はL-Bandである。また, L-Band回線のE.I.R.P.は,37.6dBW,X-Band回線では29dBW である。なお,L-Bandトランスポンダにはトラン ジスタ・アンプが使用されている。さらに,各種の通信 実験ができるように(周波数分割多重(FDM),周波 数分割多元接続(FDMA),TDM,TDMAなど), 陸から船は2.5MHz,船から陸へは3MHzの帯域が確保 されている。
 衛星上のアンテナには,直径2mのパラボラ・アンテ ナを使用しており,利得は17.6dB,重量は15.2sである。 また,X-Band用のアンテナの利得は16dBである。
 MAROTSでは,小型船舶から大型船までの各種船 舶局をその対象としており,G/Tが-10dB/K (18dB,600K),-7dB/K,-4dB/Kなどの局で実験す る予定になっている。送信出力は10〜100Wであり, E.I.R.P.は34〜37dBWである。これを実現するためのアン テナとして,パラボラ・アンテナ(直径0.7〜1.4m, 利得18〜24dB),フェーズド・アレイなどが検討されて いる。この他,テレックス専用の局として,G/Tが -22dB/Kの局も考えられている。また,地球局のE.I.R.P. は,64dBW(X-Band,音声)であり,G/Tは35dB/K である。
 この衛星の通信システム(船舶局のG/Tは-10dB/ K,音声についてのE.I.R.P.は30dBW,テレックスについ ては20dBW)で想定されている音声データ回線の C/Noは52dB-Hz,S/Nは30〜35dB,帯域幅は40kHz以下, 符号誤り率は10^-5(2400bit/sec)以下である。なお, この回線を用いて測距信号の伝送実験を行う予定がある。 また,テレックス回線のC/Noは32dB-Hz,帯域幅は 400Hz以下であり,アクセス回線のC/Noは44dB-Hz で,これはビーコン信号と兼用である。
   NNSS及びNAVSTAR/GPS
 この二つの衛星は測位用の電波の発射のみを行い,通 信機能を有していないので,以下にその概略のみを記す。
 NNSSは高度1000q,極円軌道を回る衛星で,軌道 上から2分毎に時間信号と軌道要素を送信している。受 信側(測位を必要とする局)では,2分毎の受信信号の 波数を計算して,衛星が時間信号を出した位置を2定点 とする距離一定の双曲面を得る。この面と地球との交線 を数本求めると,その交点が自局の位置となる。送信電 波の諸元は399.98MHzで1.25W,149.988MHzで0.8Wで、 あり,△fは5×10^-12/分である。
 NAVSTAR/GPSは軌道傾斜角63度,半径約2 万qの円軌道衛星である。その重量は430s,電力は 450Wで,衛星にはルビジウム原子時計(安定度10^-13/ 日)を搭載している。最終時には,24個の衛星が地球を 取り巻く予定である。この時刻信号により,1227MHz及 び1575MHzの2波を2相又は4相の位相偏移変調(PSK) し,10.23Mbit/secの擬似雑音符号を使ってスペクトル 拡散し,時刻及び軌道要素等を送信する。受信側では,2 個以上の衛星からの同期された時刻信号を受信して、衛 星からの絶対距離を測定する。このために,ドップラー 偏移を利用するNNSSとは異なって,瞬時に測定が可 能となり,その正確さ等もあって,軍事的に多くの利点 を有している。しかしながら,民間に開放される形態及 び時期は不明である。
    AEROSAT
 この衛星は,急激に増加する航空管制通信が,現在の 短波帯ではすぐ近い将来に収容できなくなる倶れから, 管制通信及び静止衛星による航空機の測位等の実験を目 的として、米国,カナダ,ESAによって1979年に打ち 上げられる予定である。これの打ち上げに用いるロケッ トはソーデルタ3914であり,三軸安定衛星を予定してい る。使用している周波数帯は,地上・衛星間が5GHz帯, 衛星・航空機間が1.5GHz帯と130MHz帯である。 AEROSATの要求仕様についてのリンク・パラメータの 例を表2に示す。


表2 AEROSATのリンク・パラメータの例

   我が国の航空衛星・海事衛星計画
 我が国の航空衛星及び海事衛星については,電波技術 審議会等に於いて,技術的,経済的評価など多方面にわ たって,長らく審議されてきた。この間,航空衛星につ いては,共同AEROSAT評価計画にオブザーバとし て参加し,各種の意見交換を行ってきた。この国際的プ ロジェクトに対して我が国の技術的実績を示すために, 我が国自身の手で実験用航行衛星を昭和58年度に打ち上 げるという計画が,53年度の予算要求 に運輸省から提出された。他方,海事 衛星については,IMCOに於いて各 種の検討が行われ,1976年9月に国際 的海事衛星(INMARSAT)打ち 上げのための条約及び運用協定が採択 された。この条約については日本政府 も署名,批准を行なったので,出資金 が集まり,衛星が打ち上げられれば( 1982年頃より運用予定)我が国もその 組織に加わり,INMARSATシス テムでの公衆通信網に入ることになる。 しかし当面は,このシステムでの小型 船舶に対するサービスは,設備価格, 設備規模,通話コスト等の面で不可能 と考えられている。一方、世界最高の 船舶保有国であり,且つ小型漁船を多 数保有する我が国には,その特殊条件 から,我が国の固有条件に合致した海 事通信衛星を所有することが,特に水 産資源等の確保及び人命確保の点から も求められている。この実現を図り、且つ INMARSATに対して我が国の特殊な条件を 反映させて行くためにも、海上通信技術の開 発が必要であるので,郵政省は53年度の予算 要求として海上通信技術衛星(ACTS-MAR) の59年度打ち上げ計画を提示した。この 間,NASDAに於いてはNU型ロケットによ る中規模静止スピン衛星の技術を確立し、各 種ミッションに対して標準バスを提供するた め、技術試験衛星ETS-Aを打ち上げる計 画が検討され,53年度の予算要求として提示 された。これら三つの衛星は全てNU型ロケ ットを利用した静止衛星であり,又航空・海事面ミッシ ョンともマルチスポット・ビーム・アンテナとL-Band トランスポンダによる移動体への通信技術の開発を目標 としているところから,宇宙開発委員会はこの三つの衛 星の一本化について,その可能性を検討するように指示 した。これを受けて,上記三機関及び科学技術庁は1977 年8月5日に航空・海上技術衛星 (Aeronautical-Maritime Engineering Satellite;AMES(仮称))連絡会 議を,また,この技術的検討のため,9月7日に, AMES技術検討会を発足させた。現在までに両会議に於い て合意された事項は,AMESでは,衛星による航空管 制技術実験,航空公衆通信実験,小型船舶通信技術実験 等を行なうとともに,静止スピン型衛星の設計、製作技 術の確立を図るという事である。また,昭和58年度に NU型ロケットを用いて種子島宇宙センタから打ち上げる 予定になっている。表3にAMESの大略のバス仕様を示 す。三機関の間の調整はかなり進んでおり,衛星通信リ ンク・パラメータ,衛星搭載アンテナ,衛星搭載トラン スポンダ、使用周波数帯などの検討,アポジ・モータの 開発計画.衛星開発手順及び今後の検討項目のリスト・ アップが行なわれている。郵政省電波監理局及び電波研 究所は,これらに対処するために電波研究所に於ける技 術的なバックアップ体制及びミッション検討体制を作っ て進めている。


表3 AMESの大略バス仕様

 この衛星を技術試験衛星として位置づけ,各種ミッシ ョンの技術開発を第一義的に考えるならば,限られたペ イロードと電力量のなかでも各種の実験が十分に可能で あるから,一本化の可能性は非常に高いと考えられる。 小局を対象とする衛星通信は,衛星の規模を考えると必 然的に,固定局との通信に比べて極端に回線数の少いも のとなり,各種通信方式(FM,△M,PCM,SSRA等), 回線制御方式,アンテナ方式などの技術開発が 最も望まれている分野の一つである。小局,大局を問わ ず,良好な通信回線を確保することは郵政省の責務であ り,AMESを移動体との通信技術開発の第一歩として して位置づけるならば,その利点は非常に大きなものと なろう。
 所内外各位の格段の御協力によりこの衛星の実現と技 術開発の進展を願って本小文を締め括りたい。

(海洋通信研究室長 三浦秀一)




第28回IAF会議に出席して


石田 享(衛星研究部)

   はじめに
 IAF(International Astronautical Federation:国 際宇宙航空連合)会議は,年1回各国持廻りで開かれ, 今年は第28回に当り,9月25日から1週間チェコスロバ ギアの首都プラハで開催された。この会議は1950年に発 足し,現在37カ国の5非政府機関(主に宇宙航空学会等) で構成運営されており,その扱う範囲は宇宙工学は勿論, 宇宙生理学,宇宙法迄も含む宇宙科学技術全般にわたり, 宇宙開発に関する国際的な情報交換の場となっている。
 電波研究所では,第26回から毎年この会議に参加して, 我が国の通信衛星分野の活動を紹介し,またこの分野に おける諸外国の動向把握に努めてきた。今回は本年3月 に打上げられた「きく2号」の概要,ならびにそのミリ 波伝搬実験の概要を,宇宙開発事業団と共同して紹介す ることとなり,電波研究所からは筆者が出席した。
 以下に,この全議の模様ならびにチェッコスロバキア のインタースプートニク地球局見学について報告する。 なお会議終了後,ロンドン近郊のアップルトン研究所を 訪問する機会を得たので,併せて報告する。
   第28国IAF会議
 今回の参加者総数は約900名で,主な国別参加者概数 は,チェッコスロバキア・200,アメリカ・140,ソ連・ 130,フラ ンス・80, 西独・70, 東独・40, その他の国 は10名前後 で,東西ほ ぼ半々程度 であった。 論文件数で もソ連およびESA(欧州宇宙連合)関係がアメリカを 上廻っており,少くとも北半球上では,宇宙科学技術の 分野でも平均化が進んでいると感じられた。


会場風景

 日本からは,IAFの副会長である斎藤成文東大教授 を団長に,大学関係4,NASDA3,日電2,航技研・ 国際電々・電波研各1の計13名が参加した。
 今会議のキャッチ・フレーズは「USINGSPACE- TODAY AND TOMORROW」ということで,従来の通 信衛星に加え,宇宙工場に関するシンポジウム(各5セ ッション)が開かれ,後者に関連して宇宙生理学・薬学 などが抬頭し,いよいよ現実味を帯びてきた。全体のセ ッション総数は約50で,興味ある題名のものが多かった が,並行して開かれているため筆者は通信衛星および地 球観測関係に焦点を紋って聴講した。
 通信衛星関係で特に興味深かったことは,大部の講演 者が将来の衛星通信技術として,マルチスポット・ビー ム切換の導入によって,電力,周波数の有効利用ならび に通信路のフレキシビリティーを考えている点であった。 特にAFC社のCussia氏,GE社のSheeman氏等の講演 はCSならびにBSのビーム成形の実績を踏まえ,説得 力があった。これに関連してKDDの村谷氏の衛星上で の切換え伝送方式に関する講演も高く評価された。
 なおこの他に印象に残ったことは,ESAのGibson長 官がAEROSATは資金不足で断念したこと,これに符 節を合せるかの様にCOMSATのPrichard元研究所長が, 航空と海上を一緒にサービスする衛星は,それぞれ別個 のシステムよりも1/3程度低廉になること,チェッコ スロバキアのBusak氏がインテルサットとインタースプ ートニクの協同を呼びかけていたこと等であった。
 地球観測関係では,三つのセッションが開かれたが, 時間の都合でマイクロ波と応用の二つについて聴講した。 全体としては未だ定性的な話が多く,定量化即ち較正法 若しくはデータ処理法について議論が集中していたよう に思う。このために衛星の結果を航空機で検証するとか, 前段階として航空機の実験を行うという手法がとられ, 特にソ連ではデータ解析の基礎的研究が盛んな印象を受 けた。しかしソ連の発表は原稿棒読みが多かったが,ソ 連およびトルコの美しい女性が流ちょうに発表した時に は眠気が覚めた。
 以上,この会議の極めて狭い部分の,しかも主観的な 印象のみを報告したが,論文別刷りはできるだけ網羅し て,当座衛星研究部に保管してあるので御利用頂きたい。
   チェッコスロバキア・インタースプートニク地球層
 IAF会議の会期中に,予定外のインタースプートニク 地球局見学希望者募集の貼紙が出されたので,9月27 日午後のセッションを割愛して参加した。インタースプ ートニク機構は,西側のインテルサット機構に対する東 側の国際衛星通信網で,12時間同期の移動衛星モルニア を使用しており,技術的にも興味深く,2台の大型バス が満員になる程希望者が集まった。
 地球局はプラハ市から南に約70qの所にあり,なだら かな丘陵(スカイライン2°以下)に囲まれた円型2階建 の屋上には12mφのアンテナが据えられており,説明者が 強調するように,地上マイクロ回線との干渉を避ける上 で絶好の地形を占めていた。
 ソ連の技術援助によって1974年完成し,現在1衛星当 り平均6時間の割合で,TV1チャンネル・電話200× 2チャンネル(6/4GHz,全帯域幅350MHz)をサー ビスしている。ハンドオーバは5分以内で,アンテナ制 御用の軌道6要素は月に1回程度ソ連の親局から送られ て来る由である。局の総人員は40数人で運用は6人4交 替で、行れている。機器の全体的な印象は,頑丈で数年前 の鹿島30mφ局に似ているような感じを受けた。
 カラー・モニタにはソニー製が使われ,測定器はHP製 のものもあった。
 所長はじめ説明者は極めて好意的で,良く質問に答え てくれたが,局のパンフレットや説明用パネルなどはな く,また見物客(チェッコスロバキア人であったように 思う)から,この局を公開するのは我々が初めてか,と いう質問が出るなどなんとなく御国柄を感じさせられた。
   アップルトン研究所
 ロンドン郊外のアップルトン研究所は,数年前迄は RSRS(Radio and Space Research Station)と称し, 電波研究所にとっては,電波物理研究所時代からの馴染 深い研究所である。現所長のHorner氏は,最初に衛星 (UK-3)による空電観測を計画した短波帯空電雑音研究 の権威で,その結果は余り成功したとは言えないが,現 在でもURSI・E分科においては大きな影響力を持っ ている。
 従って,予め送って置いた「うめ1号」の空電観測 (RAN)の論文と持参の詳しい資料を基にして,彼のU K-3の結果との比較を行った。結論としては,やはり 長期的な観測で統計する以外にないということであった。 なお,彼自身としては,後継者や予算難のため所長業の かたわら,自分で論文をまとめているとのことであった。 しかし人工雑音や混信,リモート・センシング等の話に 移り,彼自身の興味の重心がCCIR・SG1および 2関係に移っていることも察しられた。何れにせよ,言葉 の障壁がもどかしかった2時間であった。
 その後,彼の案内で所内を見学した。計算機室の拡張 が終り,来年にはUK-5のデータ処理機能を拡充する 予定とのことであった。UK-5は天文観測用低傾斜角 移動衛星で,GSFC経由でデータを取得し,上記の計 算機で前処理して関連大学の計算機に配布しているとの ことで,運用は2名2交替で行っている。また,ロケッ ト観測も行っており、搭載ミッション機器は殆ど手作 りであった。OTSとSIRIOからの準ミリ波伝搬実 験は,OTSの打ち上げ失敗によって現在一寸開店休業の ようであったが,降雨レーダも具え,地上の基礎実験は 相当以前から行われて来たようである。
 職員総数は350人程度とかで,研究所の周辺は林や畑 に囲まれ,全体の雰囲気は昔の電波物理研究所を思い出 させるような感じであった。
   あとがき
 筆者にとっては,初めてのヨーロッパ旅行であったが ヨーロッパの心臓と呼ばれる古都プラハをべっ見できた ことは幸せであった。また会議の合間に観た,映画とも 芝居ともつかぬ奇妙な,しかもエスプリに富んだ劇や, スメタナ劇場でのモルダ河のコンサートは,本場のヨー ロッパ文化を垣間見る思いであった。
 この機会を与えて下さった関係の方々に深く感謝する。




通信技術計測に関する国際シンポジウムに出席して


前田 力雄(電波部)

 昭和52年10月3日から7日までの5日間にわたり,フ ランスのラニョンで通信技術計測に関して国際シンポジ ウムが開催された。この国際研究集会は国際電波科学連 合(URSI COMMISSION-A,-C,-E),フラン ス国内電波科学委員会(CNFRS),フランス電気電子電 波学会(SEE)及びフランス国立通信研究センタ (CNET)の共催によるものであった。会合の目的は一般的な 通信システムの設計や運用に必要な各種の計測器や計測 法に関する研究発表や情報交換を行なうことにあった。
 会場は公道一つを隔ててトリガステル海岸に面し広さ 数100平方米の簡素なCentre des Congres et des Loisires にあった。大会議室には同時通訳設備が,小会議 室にはテレビ・モニタ設備があった。会議はCNET,C CIR,CCITTの代表者による歓迎の挨拶に始まった。シ ンポジウム参加国は30ヵ国に及び,参加者は400名に達 した。わが国からの参加者は3名(電波研究所,東京大 学,芝浦工業大学)であった。地理的条件から予想され たことではあるが,フランス国内からの参加者が大多数 を占めていた。当然この集会は国際シンポジウムといっ ても,フランス国内の学会的色彩をかなり強く示してい た。発表者の大半は30〜40代であったが,質疑討論者が 50代に多かったことはわが国の学会にはあまり見られな い著しい特徴であった。
 この種のシンポジウムとして今回が最初のものであっ たせいか,発表論文の研究対象はかなり広範囲にわたっ ていた。プログラムではデータ伝送,デジタル通信,光 通信,音声信号,画像信号,周波数標準,電離層電磁環 境等に関連してレギュラー・セッション14部門(82件), ワーク・ショップ7部門(29件)が予定されていた。レ ギュラー・セッションでの発表は講演時間15分程度のやや 形式的なものが多かった。ヨーロッパ諸国の通信への今 日的関心は電信,電話システムに対する国内需要へどう 対処するかという点に集中しているようであった。国際 的な衛星通信システムやコンピュータ・ネットワークは 明日の課題としてしか採り上げられなかった。ワーク・ ショップでは概して討論時間に余裕があって,議論は比 較的こまかい点にまで及ぶ場合が多かった。電離層関連 のワーク・ショップには半日があてられていた。電離層 研究の有力な手段方法であった電離層定常観測網は今も 広く世界中に分布しており,我が国内でも電波研究所が 5観測所を運用維持してきた。
 しかし, 通信システ ムの近年に おける目ざ ましい発展 の中で,短 波による電 離層通信に は新しい観 点からの見直しが要請されている。
 筆者はこのワーク・ショップでわが国における電離層 定常観測網の整合化に関する実験報告を行なった。デジ タル・イオノゾンデによる電離層計測が話題の中心であ った。我が国における特殊な電磁環境ではイオノゾンデ の改良及びそのネットワークの有効利用は情報資源開発 上の重要な問題である。そのシステムの運用保守には日 進月歩のデジタル計測技術をじゅう分に生かして,シス テムの安定化や省力化をはかって行かなくてはならない。 Lowell大学大気研究センターのDr. K. Biblは電離層多重 伝搬に由来する入射角スペクトルの実時間計測法を, MITRE COrp. のDr. P. K. CarlstonはVLF/LFの長距離伝 搬におけるフェイディング、の実時間監視法を発表した。い ずれもマイクロコンピュータを用いたデジタル計測が今 後の電離層精密観測に不可欠であることを強調するもの であった。
 今回のシンポジウムは幾分試行的なきらいがあったも のの,通信システムの保守運用に計測工学や信頼工学の 導入を推進するものであった。来年の6月パリで開かれ る第2回目の国際シンポジウムの予定が早々に発表され たことはこの分野における研究者が国際交流を強く望ん でいる現れであろう。


シンポジウム会場

 おわりに,今回の国際研究集会参加にあたって色々お 世話になった科学技術庁振興局及び電波研究所関係職員 の方々に謝意を表する。


短   信


南極越冬隊員出発

 昭和52年11月25日,第19次南極地域観測隊は観測船“ふ じ”で出港した。当所より観測副隊長に大瀬正美(電波部 主任研),電離層定常観測部門に五十嵐喜良,超高層観 測部門に黒葛原栄彦(何れも電波予報研究室)の3名が 参加した。今回はIMS観測期間内の特別項目として,マ リサットによる信号伝送試験をはじめとする新しい観測 が予定されている。



日本標準時の調整(うるう秒のそう入)

 標準電波の通報する日本標準時は,国際間の申合せに より,昨年に続き,昭和53年1月1日午前9時00分00秒 の直前に,協定世界時に合わせて1秒の調整を行うこと になった。したがって,その前後の日本標準時は午前8 時59分59秒の次に8時59分60秒が入り,9時00分00秒と なる。今回のステップ調整は昭和47年1月1日の新標準 時採用以来7回目である。



400MHz帯狭帯域化FM方式の伝搬実験

 当所通信系研究室では電波技術審議会第2部会第4小 委員会の活動の一環として,伝搬実験班の一つを担当し, 11月9日から10日まで主に青梅,甲州の両街道を測定車 (他委員6名同乗)で走行し,FM方式について周波数 間隔が25kHz(現行)と12.5kHz(狭帯域化)の比較実験 を行ない,両者の5段階評価値と受信入力電圧の関係を 調査した。



「躍進する宇宙通信展」かわいいお客機で一杯!!

 CS,ISS-b,BSの打上げもいよいよ間近くな ったので,この機会をとらえ,特に小・中学生を対象と して,去る11月2〜13日,逓信総合博物館において,郵 政省,NTT,KDD,NHK,NASDA共催のもと に,「躍進する宇宙通信展」が開催された。
 当所からも,ミリ波降雨減衰実験のデモンストレーシ ョン等盛りだくさんの出展をしたが,母親といっしょに 熱心にメモを取っている小学生,カメラ片手の中学生グ ループなど,会期中延べ約3万5千人の入場者があった。