新年のごあいさつ


所長 工博  精  谷    績

   はじめに
 昭和53年の新春を迎えるに当り,平素から当所のため, 御指導,御協力を賜っています関係各位に心から新年の ごあいさつを申し上げ,本年も相変りませずよろしくお 願い申し上げます。また職員各位に対しては益々健康で, 御多幸な年になりますように,そして当所の研究業務が 一層進展しますように格別の御尽力をお願いしたいと存 じます。
 さて,年頭にあたり,当所が昭和53年度に計画してい る諸研究について概説し,抱負を述べてみたいと存じま す。
   宇宙通信,人工衛星開発
 当所にとって,昨年と本年は我が国が開発した通信関 係の人工衛星による実験の年であると言えましょう。昨 年2月23日に打ち上げられた「ETS-U」(きく2号) は東経130度の静止衛星軌道上にあって,準ミリ波,ミリ 波帯のコヒーレントな三波を送信しており,衛星通信で 問題になる水蒸気,雨及び電離層による送信電力の減衰, 位相,偏波等の伝搬基礎データがとられています。また, 伝搬路上の雨,雲の分布測定用レーダや諸気象計を設置 して,空・地一体となった世界でも珍しい独自の実験シ ステムを運用しています。当初の計画にはなかったので すが,この衛星のVHF帯のテレメトリ信号を用いて電 離層の不規則性,あるいはシンチレーション,ファラデー 回転などの貴重なデータが得られたことで,この衛星に よる研究の価値が一層高められ,当初の計画を延長し本 年5月まで実験が行われることになりました。
 CS. BS計画も順調に進み,昨年暮の12月15日に打 ち上げられたCS「さくら」は既に東経135度の静止軌道 上にあり,宇宙開発事業団による初期管制実験の終了す る3月頃には,日本電信電話公社と共に愈々待望の衛 星通信実験を始めることになっています。また,BSは 3月に打ち上げられることになっていますが,既に鹿島 支所では地上局庁舎,実験用施設を完成し,実験を待っ ています。さらに,ETS-Kの延長として考えられて いる実験用静止通信衛星(ECS)も53年度末に種子島よ り打ち上げられ,ミリ波帯電波による衛星通信実験を世 界に先がけて行うもので,特に内外から注目されていま す。そのために必要な鹿島支所の地上局施設を改修し, またサイト・ダイバシティ実験のために平磯支所に副局 を建設することになっています。
 電離層観測衛星(ISS-b)は,2月11日に打ち上げ日 が設先されています。御承知のようにこの衛星の1号機 「うめ」は当所で最も早くから開発に着手したもので,一 昨年2月末に打ち上げられましたが,1か月の短命に終 わりました。ISS-bはその予備機を改修したもので, この衛星の打ち上げを成功させて本格的な電離層観測を 行い,電波予報・警報の適中率向上に役立てたいと念願 しています。
 本年に至って,これら4個の衛星に関する実験研究が 夫々の所定の計画に基づき同時に行われることになりま した。当所は,その準備に長年に亘り培ってきた最高の 技術と多くの優秀な研究者を投入し,これらのもつポテ ンシャルをこの時こそ発揮する覚悟であります。
 近年,人工衛星から地球を観測することにより広域且 つ同時に地球の資源,地表面及び大気の環境を監視する いわゆるリモート・センシング、技術を開発することが要 望されています。当所は,本年度から衛星搭載用能動型 ミリ波リモート・センサを研究開発し,特に雨滴による 散乱波を解析して,電波環境の研究を行うことになりま す。
 次に,衛星技術の開発の一つとしてレーザを用いた衛 星アンテナの高精度方向制御の研究が51年度から開始さ れ,57年まで続けられることになっています。これまで に基礎及び地上モデル実験が行われ,レーザ送・受信装 置やデータ処理装置の整備が行われており,53年度には システムの姿勢検出部を整備し,室内の動作実験,大気 による影響の測定などを行う予定であります。このシス テムを3軸制御型のETS-Vに適用することを指向し ていますので,本年は宇宙開発事業団との具体的な交渉 に入ることになりましょう。
 我が国は海洋国であり,特に小型船舶等の海上航行通 信業務が増大し,逼迫した状態にあります。このために, この分野においても衛星による通信が要望されてきてお り,航空・海上技術衛星のシステム開発が郵政省(電波 監理局,当所),運輸省及び科学技術庁で検討されていま す。これはいわゆるAMES (Aeronautical-Maritime Engineering Satellite)と呼ばれるもので,本年度から 一層検討を盛んにし,その実現に努力する所存です。
 種々の移動型の科学衛星,地球観測衛星,気象観測衛 星からのデータ取得を容易にするため,静止データ中継 衛星が要望されています。この衛星用に任意の方向にあ る移動衛星に向くような,展開型マルチスポット・ビー ム・アンテナの開発の構想を持って予算要求がなされま したが本年度は認められていないので更に検討を続けて 行くことになります。また,衛星利用のコンピュータ・ ネットワークの研究開発を考えていますが,これについ ても本年度は概念的な計画をまとめたいと思います。
   新周波数資源の開発
 当所のもう一つの重要な研究課題に周波数資源の開発 が昨年から取り挙げられており,本年から本格化するこ とになります。これは,近年の通信需要の増大と通信形 態の多様化,或いは計測技術への応用,エネルギ利用と いった立場から新しい周波数帯の開発の重要性が増大す ることに対処するための未利用の新周波数帯の開発研究 であります。1971年の宇宙通信に関する世界無線通信主 管庁会議で周波数分配の上限が40GHzから275GHzに引 き上げられ,この増加分は主として衛星通信,電波天文, 宇宙研究用に分配されました。この周波数帯では小型,軽 量システムによる広帯域高密度多チャンネル通信の可能 性及びリモート・センシングヘの応用が考えられますが, この周波数帯の輻射は大気中の水蒸気,酸素分子による 吸収減衰を受けるので先ずこの影響をソフト的にもハー ド的にも研究する必要があります。具体的には昨年に引 続きミリ波帯の送・受信装置を開発して伝搬実験に着手 すると共に,これに必要な降雨強度測定装置などの気象 観測用の機器を整備する所存であります。
 また,周波数の有効利用のため,既利用の周波数帯に も着目し,VHF,UHF帯の狭帯域化通信方式の開発 を行います。特に陸上移動無線に対し,伝送帯域を必要 最小限に縮小して周波数の利用効率を大幅に増加させる ための研究が行われます。
   宇宙科学,大気科学の研究
 昭和51年から始められた国際磁気圏観測計画(IMS)は 本年で第3年次に入ります。本計画では国際的な規模で, 多種の科学衛星,ロケット,大気球を中心として,各地 の地上観測網を動員し,地球磁気圏とその関連現象の立 体的な総合観測研究を実施してきました。国内では各大 学,当所,気象庁地磁気観測所,海上保安庁水路部等が 参加しています。当所では国内はもとより南極地域にお いても行っている電離層,太陽電波の観測に加えて,V LF電波の観測,VLF電波放射,流星レーダ,オーロ ラ・レーダ等による観測,ISISによる電離層観測等を 通じて超高層大気の研究を行ってきており,本年度はそ のデータ収集を中心とする取りまとめの段階に入ること になります。
 電波予報あるいは短波伝搬研究の主なものとして昨年 以来,FM-CWサウンダ(チャープ・サウンダ)を 整備してきております。この整備が完了すれば電離層伝 搬波のモードが低電力で研究できるので,宇宙系のISS による研究と共に短波の短期予報業務に大きな威力を発 揮することになります。
 次に,下層大気の微細構造を研究し,大気汚染などを 調査する新しいシステムとして,環境庁の試験研究費に よって開発されるRASSレーダ(電波・音波レーダ)の 基本構成部分が52年度に完成することになっています。 また,炭酸ガスレーザを用いたレーダを航空機に搭載し て,オゾンのモニタを行い大気汚染の検出に役立てよう とする計画が,同じく環境庁の試験研究費によって53年 度から開始されます。このような装置により大気構造の プロファイルが鮮明になり,電波伝搬媒質の研究がより 充実し,さらに同じ空間に発生する大気汚染物質の分布 の測定が可能になります。このような一石三鳥にもなる ような研究形態は本所の研究の色々な方面にみられる一 つの特徴でありましょう。    通信方式,無線機器の研究
 電波監理上の大きな施策として放送電波の難視聴解消 促進の問題がありますが,これには都市における高層建 築物によるテレビ電波のビル陰問題,ゴースト問題など の難視と山間辺地における受信弱電界による難視問題が あり,これらの解決が焦眉の課題になっています。当所 でも,この問題については一部研究がなされてきていま す。本年度は,特に辺地対策として微小電力テレビジョ ン放送局(サテライト局)の増加,普及が必要であると の見地からサテ局の低廉化を計るための設計開発を行う ことになりました。
 音声処理の研究としてSPAC方式はここ数年,著し く進歩発展し,当所の誇る研究成果の一つでありますが 本年度は更にSN比の改善の実験,低ビット・レート伝 送の実験などを重ね,SPACの実用化モデル装置を試作 する所存であります。
 新周波数資源の開発の項で述べた陸上移動無線におけ る周波数有効利用の研究については,リンコンペックス 用信号発生器(150MHz帯)を用いて同一チャンネルと隣 接チャンネルの妨害度を測定した結果,周波数間隔を6 kHz程度までに狭められることが明らかとなりました。 また,狭帯域FM変調波の帯域幅についても実測してき ましたが,両方式を含む各種陸上移動無線系の性能を確 かめ,開発機器の仕様を決定し,実用化のための計画を 樹てたいと思います。
 無線設備の機器の型式検定は,電波法に基づいて無線 機器に必要な最小限の技術基準を維持するとともに,電 波監理業務の簡素・合理化を図る目的から行ってきまし た。また,無線設備の機器の較正は型式検定試験の実施 に必要な各種測定器や無線局検査に使用する測定器の信 頼性の維持を計るために行っているものです。しかし, これら業務の設備の近代化と,施設の拡大が必要となっ ており,特にUHF帯の無線機器較正用については特に 配慮を加えたいと思います。一方,無線設備機器の型式 検定業務に関して民間へ委託・移管することの検討を行 っておりますが,この件について,慎重に対処する必要 があります。

  周波数標準に関する研究
周波数の短期安定度を測定するための基準信号として, また,超高安定度のマイクロ波信号源としての応用を目 的として,昭和51年以来超伝導空胴による超安定発振器 を開発し,種々の改良,改善を計ってきました。53年度 には既設装置の周波数安定度の改善を計り,比較検討す るために改良型の本装置一式を別に試作することになります。
 国際時刻を高精度で比較する方法には,従来から行っ てきたロランCやVLFを仲介とする常時比較と,移動 時計で直接比較する方法がありますが,航法技術衛星 (NTS:Navigational Technology Satellite)に搭載した 原子標準時を基準にすれば,世界的な規模で高精度に時 刻の比較ができます。このために当所も,NASAによっ て開発された受信機の供給を受け,本年春から秋にかけ、 て行われる世界協同測定に参加する予定であります。
   その他
 庁舎等の整備に関しては,昨年当初に沖縄電波観測所 庁舎の新営を見ましたが,借用していた用地をも本年は買 収することが可能となり,ここに沖縄の本土復帰以来,沖 縄電波観測所整備の懸案は総て解決することになります。 また,53年の初めには犬吠電波観測所の新庁舎も落成し ます。昨年末,周波数標準部の施設もすべて本所へ移転 を完了していますので,茲に本所,支所,観測所関係の 集結,新営工事等がほぼ全体的に完成することになります。
  おわりに
 当所が行っている研究業務の全てについてまでは述べ る余裕がありませんでしたが,本年はその成果を発表す る機会が多く,例えば,CCIRのBブロック最終会議, CCIR京都総会,URSIヘルシンキ総会を始め数多くの 大きな関係深い国際学会・会議が計画されています。
 昨年暮に昭和53年度の政府予算案が決定し,これから の国会で審議されることになっていますが,当所が要望 していたものがほぼ認められており,総額60億円の大台 に乗せることが出来ましたことは,当所の研究計画が今 日如何に重要であるかを物語るものと自負すると共に, その期待に反しないよう万全の対策を講じなければなら ないのであります。
 本年は何といっても,関係国産衛星の実験が輻輳し, これを中心に,所全体の研究体制を見直す必要があり ます。ともあれ,研究所は曽てない多忙多岐な年となり, 我々はこの真只中に突入したのであります。どうか重 ねて大方の御理解と職員各位の御健闘を祈って止みませ ん。




CCIR研究委員会最終会議
-Aブロックの審議概要−


調 査 部

  はじめに
 CCIH研究委員会最終会議(Aブロック,SG:2, 4,5,9,10,11及びCMTT)は,昭和52年9月12 日から10月20日まで,ジュネーブにおいて開催された。 この会議には当研究所の職員が出席しなかったので,本 稿は,11月22日郵政省で開催された「最終会議報告会」 における代表の報告をもとにして,概要をまとめたもの である。
 今回の最終会議は,1979年9月に開催が予定されてい るWARC-Gとその準備のため1978年10月に開かれる ことになっているCCIR-SPM(Special Preparatory Meeting) ヘ向けての活動として重要な意義を持つもの であった。各研究委員会の開催期日,寄与文書件数及び 新テキストの採択件数は表1の総括表に示すとおりであ る。

表1 CCIR研究委員会最終会議(Aブロック)総括表

 以下,各研究委員会毎に新しい問題や前述のSPMに 関連する事項,審議の中心となった点について,審議概 要を紹介する。
   SG2(宇宙研究及び電波天文)
 赤外及び可視光領域の利用に関しては,レーザ利用に よる通信技術の一般問題,レーザを用いた通信システム に対する技術標準についての新しいリポートと技術標準 の必要性に関する新勧告案がまとめられた。この問題は 我が国の提案により設定された研究問題(Q53/1)に 応えたものであり,特に関心が持たれた。しかし,研究 問題がSG1の所掌であることから,我が国は,SG1 へ関連の寄与文書を提出した。このため,審議はSG1 で行うべきことを主張したが,議長は一応の見解をまと めたいとして審議が行われた。原提案では,レーザ利用 は混信の可能性がないことと人工雑光が大きいことを理 由に“管理は不要である”となっていた。我が国は管理 について論ずることは時期尚早との考えで会議に臨み, 結局“Regulation”という語は“Technical standard” に,“管理の必要性はない”という表現は“技術標準の 必要性は生じていない”に改められた。また「SG1で も議論されるべきである」という脚注が付された。
 この他,「地球探査衛星業務」と「地球探査業務」とを 分離し,それぞれに対してアクティブ及びパッシブ・セ ンサの概念を導入した新しい定義を設ける問題について は結論が得られず,SPMで再び審議されることとなっ た。しかし,「アクティブ及びパッシブ・センサ用周波 数の他業務との共用問題」についての勧告案が作成され た。新しい問題として,電波天文関係で「地球外生命の 探査」に関する新レポートがまとめられたことが注目さ れる。今会期中に作成された新テキストのほとんどがア メリカの寄与によるものであり,SG2を通して宇宙研 究の周波数使用計画を世界に認めさせようという意図が みられた。宇宙研究業務と地上業務との周波数共用に関 する議論は,SPM及びWARC-Gに向けて益々活発 になることが予想され,我が国も十分な検討を行い,対 処する必要がある。
   SG4(固定衛星業務)
 システム全般に関する問題としては,従来二つのレポ ートに分散記述されていた変調方式とマルチプル・アク セス等が,利用の便を図って,最新の情報を追加して総合 的な単一の新レポートにまとめられた。
 固定衛星システム間の許容雑音量についての勧告は, 中間会議で静止軌道の有効利用の観点から,これを増加 することが提案されたが結論を得るにいたらず最終会議 に持越されていた。今回の会議では,周波数再利用シス テムに対しては現在値を維持すべきであるという意見と 増加させるべきであるという意見が対立した。最終的に は両者の中間値で妥協し,改訂案が作成された。また, 他衛星システムからの最大許容干渉レベルを規定し,軌 道の有効利用を促進するという観点から「地球局アンテ ナからのオフ・アクシス方向への最大許容放射レベル」 についての新勧告案が作成された。
 固定衛星業務と地上局との周波数共 用に関しては,FM系の勧告にならっ て「8ビットPCM衛星方式への地上 方式からの干渉許容値」の新勧告案と, これを補足するための新レポートが作 成された。固定衛星業務と他衛星業務 との周波数共用については「2GHz帯 放送衛星業務のアップ・リンク」につ いてのレポートが改訂されたが,アッ プ・リンクに関する問題はSPMに向 けて各主管庁がさらに研究するよう要 請された。
 その他,デジタル衛星方式に関して,勧告案「固定衛 星業務における瞬断」,調査計画案「データ伝送系にお ける衛星システムの構成」及びアナログ系にならった勧 告案「デジタル伝送系に対する標準擬似回線」と新報告 案「衛星と地上系間のデジタル・インタフェイス特性」 が作成された。
   SG5(非電離媒質内伝搬)  Working Groupの再編が行われ,
 5/1:地上波伝搬に及ぼす大地の影響
 5/2:電波気象とその伝搬に与える影響
 5/3:地上業務に関する伝搬
 5/4:宇宙通信のための伝搬
 5/5:干渉の伝搬要因
という新構成で審議が行われた。
 干渉の伝搬要因は,前回中間会議では,地上固定業務 と共に一つのWGを構成していたが,その内容が無線通 信規則と密接な関係にあり,WARC-Gにとって重要 な問題であるとして,単独のWGとしたことが注目され る。
 地上波伝搬の関係では「大地導電率の世界図表」とい うレポートが作成された。これは,地形学と地質学的な 考察をもとに計算されたもので,今後測定値と対比して 検討する必要がある。
 電波気象関係では,従来,目的別に構成されていた二 つのレポートを解体し,一般無線技術者がより使い易い ものとするため,伝搬現象別に整理した「降雨などによ る減衰と散乱」,「交差偏波特性」,「屈折」,「雑音温度」, 「大気ガス吸収」の五つのレポートと「最悪月の統計」 と題する新レポートが作成された。
 地上通信系関係では,最近各種の業務にデジタル方式 が採用されつつあるため,アナログ方式とは異なる新し い伝搬統計量が必要となってきた。その結果,多中継回 線の熱雑音や瞬断などについての最近の研究成果が関連 のレポートに追加された。
 衛星回線地球局と地上回線の中継局とが同じ周波数を 共用する場合の調整距離計算法に関しては,降雨散乱に よる干渉レベルの算出方法について,SG4と9からの コメントを考慮して関係レポートが改訂された。
 今回,中華人民共和国から初めて寄与文書が提出され た。同じアジアの一員として、大陸における各種のデー タは海に囲まれた我が国にとって関心が持たれるので, 今後データ交換を積極的に推進する必要があると思われ る。
   SG9(無線中継システムを利用する固定業務)
 無線中継方式の稼動率,国際接続用TV回線の伝送規 格,デジタル衛星回線への地上方式からの許容干渉量に ついて新勧告が作成された。WARC-Gに関連して, 見通し外方式の周波数帯域,スプリアス放射の制限,周 波数許容偏差,40GHz以上を用いた無線中継方式,可搬 型装置の周波数,隣接周波数業務からの干渉量,デジタ ル方式に必要な共用基準及び6〜8及び15GHz付近での 宇宙研究業務との共用の可能性などについて,SPMに 向けて,各国の寄与が要請された。
   SG10(放送業務-音声)
 AM放送では混信保護比についての最近の研究成果が レポートに追加され,FM放送では音声デジタル技術に 関する新レポートが作成された。
 熱帯地域に分配された放送用周波数を廃止する可能性 についての議論が行われ,音声放送用周波数をめぐる南 北問題はWARC-Gで議論されることが予想される。
 中波放送のチャンネル間隔を8kHzとした場合に最大 通信可能範囲が得られるという記述のあるレポートは, 中間会議で勧告案とすることが承認されていたが,今回 ソ連の提案で勧告化が見送られ,レポートのままとなっ た。しかし,ヨーロッパ諸国はあくまで勧告化したい考 えを持っており,今後さらに議論を呼ぶものと思われる。
   SG11(放送業務−TV)
 静止画放送のレポートが静止画や文字放送だけでなく 手書き図形放送,ファクシミリ放送,番組コードなどま で拡大され,表題も「TVチャンネルを利用する付加放送 サービス」と改められた。さらにこれらの新しいサービ スに関する新調査計画案が2件作成された。
 デジタルTVに関するレポートが大幅改訂されたほか, 「デジタル化された信号の品質」,カラーTV信号のサ ンプリング」に関する調査計画案が新設された。
 このように,今回の会議では多重放送とデジタルTVに 関する寄与文書が多数提出され各国の関心が高かったが, いずれも研究段階のためレポ-トにとどまった。
 SG10と11に共通な事項として,録音,録画関係で, ヘリカル・スキャン方式のVTRの問題が論議された。 VTRは規格統一が決まる前に放送素材として各種方式 のものが盛んに使われている。このため取り敢えず放送 側として必要最小限の条件,録画形式等を早急に検討す る必要があるという見解が示されたものの,現状では各 機種の普及度が速く,既に出廻っている機械の実績も無 視できず規格の統一は難事であろう。
 衛星放送の関係では,1982年に開催が予定されている 第2地域の主管庁会議 に対処するための情報 の最新化が図られた。 特に,アップ・リンク の問題については, SPMでの審議を容易に するための検討のガイ ド・ラインが明らかに された。
   CMTT(音声放 送とTV信号の遠距離 伝送)
 国際接続用TV回線 の伝送規格については, 中間会議の結論に更に多くの情報を追加し,充実した新 勧告案が作成され,CMTTとしては歴史的な成果とし て高く評価された。
 TV信号の垂直消去期間へ試験信号以外に挿入する特 殊信号については,今後,信号の挿入と利用の範囲が増 える傾向にあり注目される。
 TVの標準擬似チェーン,音声プログラムのデジタル 伝送標準については勧告化の気運が高まりつつある。
 今回,技術の進歩に応え,今後の作業方向を明確にす るため,Ad-Hoc作業班を設け研究問題及び調査計画 の見直しを行い,新しい体系化を図ったことは注目され る。

表2 1976年CCIR研究委員会最終会議への電波研究所作成提出文書一覧表

   おわりに
 以上各SG毎に主要な項目についての審議結果の概要 を紹介したが紙面の都合で説明不足となってしまったこ とをおわびする。
 今回最終会議では,各SGともWARC-Gを控え, レポートの勧告化に努力し,活発な議論が展開された。 しかし,SPMの審議にゆだねられた問題もかなりあり, 我が国としても充分な検討を行い,対処する必要がある。 末尾に,当研究所の成果を盛り込んだ提出文書(表2参 照)は,いずれも有用な情報として関係テキストの改訂 に寄与したことを付して筆をおく。

(国際技術研究室長 石川 三郎)




電波観測所めぐり  その4    山川電波観測所


   はじめに
 山川電波観測所は九州の南端北緯31度にあり,稚内, 秋田及び沖縄電波観測所とともに,電波研究所本所を中 心に緯度5度おきに設けられた電離層観測網の重要な一 端を担っている。発足は,戦後我が国の電離層観測が再 開された1946年(昭和21年)にさかのぼり,旧指宿海軍 航空隊山川送信所の施設を利用して,7月20日に設立さ れた。業務としては発足以来30有余年,日夜休むことな く続けている電離層定常観測を柱に,その時々の要請に 応じて,当所の特長を生かした電離層の諸現象や電波の 伝わり方の研究観測を行っている。以下に現在の研究観 測業務と山川の風土を簡単に紹介する。
   電離層定常観測の概要
 山川は,本土最南端の観測所であり,電離層の特性も 他の観測所に見られない南方的な特徴がある。特に沖縄 が復帰するまで、南方向け短波回線の電波予報には不可 欠な観測資料を提供してきた。また内之浦で打ち上げら れる東京大学のロケット実験には,定常的な電離層の把 握のため当所の観測は重要な役割を果たしてきている。
 観測に用いられている装置,資料解析等については, すでに電波観測所めぐり(電波研究所ニュースNo.16,No.18) に紹介されているものと同じであるので,ここでは省略す る。
   研究観測業務の概要
 超短波帯赤道横断伝搬実験:1974年にアマチュア無線 雑誌(Q.S.T.)に発表されて一躍話題になった超短波の 磁気赤道を越える異常長距離伝搬現象は,その後各国で 盛んに実験されて,赤道横断伝搬(Trans-Equatorial Propagation:TEP) と名づけられた。我が国でもオー ストラリアの申し入れで,1964年にIQSY観測計画の一 環として始められた。ダーウィンから送信される32.80, 48.45及び72.65MHzの無変調連続波の受信点として,磁 気赤道をはさんでほぼ対称の位置にある山川が選ばれた。 太陽活動の極大期にはいって,1969年には伝搬可能な上 限周波数を探るため,88.23と102.70MHzの2波が追加 され,春秋季の夜間には100MHz帯でも受信されること がわかった。これらの実験によって,TEPの特殊な伝 搬モードを解明するための有力な手がかりが得られたし, その日変化及び季節変化の特性,太陽活動との相関など が明らかになりつつある。これらの実験結果は,太平洋地 域における貴重なTEPのデータとして,多くの研究論 文に引用されている。
 一方1970年に,当所とセントキルタ(アデレード郊外) 及びタウンズビルに,ステップ状周波数可変方式パス・サ ウンダ(4〜64MHz)が設置され,パルス波による斜入 射実験も始まった。この実験では伝搬時間,斜入射イオ ノグラムなど,複雑な伝搬モードの,より深い解明のた めの資料が得られている。
 電離層シンチレーションの観測:電離層シンチレーシ ョンとは,電波が電離層を通過する際に,電子密度の不 均一性によって変動を受ける現象を言う。これには振幅 位相,偏波及び伝搬方向の変動があるが,振幅の測定が 最も簡単なので,観測データは振幅変動の測定が多い。 1946年,電波星の観測中に発見されて以来,多くの電波 天文学者によって観測されてきたが,近年人工衛星の実 用化が進む中で,電離層の不均一性を調べる目的の他に, 衛星通信への影響を調べるという工学的見地からも関心 が寄せられている。当所でも,1974年から第一特別研究 室と協力して静止衛星の137MHz帯の電波を受信し,振 幅シンチレーションの観測を始めた。インテルサット衛 星のビーコン電波を手始めに,現在は技術試験衛星U型 (ETS-U,きく2号)のテレメトリー信号を受信してい る。これまで低緯度あるいは高緯度での観測研究はかな り行われてきたが,中緯度のデータはそれ程多くない。山 川の観測結果では低,高緯度とは違った特性が得られて おり,また同じ中緯度でも地域によってかなり異なること がわかってきた。当所の観測データが電離層不均一性の 解明のため,またこれから始まるわが国の衛星通信の実 用化のための基礎資料として役立つことを期待している。
   山川の風土
 鹿児島市から南へ50q,薩摩半島の最南端にある山川 は,今から約5万年前,多くの火山が噴出してできた美 しい景観と温泉に恵まれた,田園と漁港の街である。
 山川の年間平均気温は18°以上もあるが,さわやかな 海風が夏を涼しくして,台風さえ来なければ暮らし易い 気候である。蘇鉄をはじめ椰子,海紅豆などの亜熱帯植 物が街路を飾り,垣根にはハイビスカス,ブーゲンビリ アなどの南国の花が四季を通じて咲き乱れ,道行く人の 目を楽しませてくれる。
 庁舎の屋上から見た周囲の景観を述べてみよう。まず, 西方にひときわ高く目につくのが,その秀麗な姿で“さ つま富士”とも呼ばれる標高922mの開聞岳。朝な夕なに 陽光で色合を変え,ときには帽子をかふせたように雲が まつわりついた姿はおもしろい。その山すそより少し左 手には,“南国情話”にも歌われた長崎鼻がある。東に佐 多岬,南の洋上に浮がふ屋久,竹島,硫黄などの島々, 西の開聞岳など,岬の燈台からの眺望はすばらしい。こ こは開聞山ろく公園と並んで,ハネムーン・スポットと なっており,シーズンともなれば仲睦きカップルの群に 占領される。南には開聞岳とは対照的に,奇妙な形をし た竹山が見える。200mの断崖に生えた蘇鉄は自生の北限 として知られている。その下に広がる砂浜は観光客の足 跡も無く,美しい景観と打寄せる波音にしばし世事を忘 れてしまう。北側に目を転じると,小高い山の連なりの 中に,鏡のように静かな火口湖鰻池がある。湖畔には, 硫黄泉が噴出し,沸々とたぎる蒸気を利用した“すめ” というかまどは先人の知恵をしのばせる。北西の方向に は,大うなぎに嘆声をもらす九州最大の池田湖がある。
 山川は海,山の幸に恵まれた,特産物の多い街である。 漁港一帯では“かつお節”の製造が盛んで全国生産量の 1/3を占め,素朴な風味で愛好される“山川潰”の大根と “さつまいも”は火山灰土壌の産物である。さつまいもで 忘れられないのが“いも焼酎”。キラキラと輝く“きびな ご”の刺身に,“黒ヂョカ”で飲む味は格別である。


山川電波観測所庁舎

   おわりに
 一言にして言えば,山川電波観測所は電離層観測を主 要な柱として成長,発展してきた。創設期から今日に至 るまでのたゆみない観測技術の改善,向上とそれに基づ く30有余年の観測資料の蓄積は,先人達の営々とした努 力と関係者各位のなみなみならぬご尽力によるものであ る。
 “Yamagawa”の電離層観測データが,短波通信の運用 や電波予報・警報の基礎資料として,また電波伝搬や超 高層物理の貴重な研究資料として内外で高く評価されて いることは,観測所にとってこの上ない誇りである。
 今日の国際的傾向として,電離層観測には,これまで の短波通信への利用という目的だけではなく,地球環境 のモニタとしての使命が強調されつつある。このような 意味で,従来の観測業務のあり方を考え直すべき時期に きていることも素直に認めなければならない。
 山川電波観測所も,国民周知の実験用中容量静止通信 衛星(CS),実験用中型放送衛星(BS)実験計画に,そ の一翼を担って参画している。先日,BS実験用のかわ いらしいパラボラ・アンテナが到着した。このもの珍し い新機器が,観測所の明日への展望を開くstepping stone になることを祈りつつ,拙文を終える。

(山川電波観測所長 皆越 尚紀)




1971年CISPR Meetingに出席して


宮 島 貞 光(通信機器部)

   はじめに
 1911年の国際無線障害特別委員会 (Comite International Special des Perturbations Radioelectriques)は 10月25日から11月4日までの11日間にわたり,ユーゴス ラビア国のドブロブニク(Dubrovnik)市で開かれた。筆 者はこの会議に出席を命ぜられ,他の7名の日本代表, すなわち,蓑妻二三雄(東京農工大学),遠藤幸男 (NHK技研),沢田嘉嗣(電力中央研),石橋昌彦(東京電力), 岡村万春夫(機械電子検査検定協会),山中克彦(電機工業 会)及び崎村雅彦(自動車工業会パリ駐在)の諸氏と共 にこの会議に出席したので,その概要について報告する。
   CISPRについて
 CISPRは無線妨害に関する諸問題の国際的な合意 を促進することによって,国際貿易を助長することを目 的とし,IEC,UIR及び関係国際機関の連合委員会 として1933年に設立された。そして1950年には,パリで 開かれた総会において,IECを含む国際機関の連合委 員会から,IECの後援のもとに特別委員会となったが, その地位はIECの他の専門委員会(TC)とは異なり, その構成員は各国の国内委員会のみならず,無線妨害の 抑圧に関心を持つ他の国際機関をも含んでいる。その後, 1973年,米国のWest Long Branchにおいて開かれた総 会において機構の改正を行い,それまでのWorking Group の殆どがSub-Committee(A〜F)に格上げされ,その下 に更にいくつかのWGを持つという組織に成長した。そ れまで公式にWCに加わっていなかった我が国も,次回 のロンドン会議(1974年)からWGに加わり,活発な活 動を開始した。このCISPRの各技術小委員会(SC) 及びWGへの参加状況は表に示すとおりである。


表 CISPRの各技術小委員会の分担事項

   会議の概要
 今回の会議が開かれたユーゴスラビアはバルカン半島 の西側に位置し,アドリア海に面して長い海岸線を持つ 国で,その海を隔ててはイタリアと向い合っており,社 会主義国として東欧諸国の一角を形成している。ドブロ ブニク市はこ の海岸にあり, 首都ベオグラ ードから空路 で約50分の所 にある。この 町の旧市街は 12世紀から14 世紀にかけて 造られた城砦 都市で,町全 体が厚い城壁 に囲まれ,内 部の家並みや 石畳は今なお 中世の歴史を 秘めている美 しい町である。


ドブロブニク城のミンチェタの塔

 会議はこの町の新市街のホテル・プレジデントで開か れ,21ヵ国から144名が出席し,この他CCIR,ICAO 等の関係国際機関からも6名が参加した。今回の会議の 審議に関連する事務局及び各国からの文書は総数で258あ り,この中,日本からの寄与文書は12であるが,CISPR の中核となっているドイツ,オランダ,スエーデン等の 寄与文書は数が多く,これに次いで目立って来ているの がソ連,米国であった。
 CISPRの会議の規模は人数的には小さいが,その 審議事項はかなり幅が広く,かつ,その内容が工業生産 において規制に直結するものが多くあるため,議論はし ばしば白熱化することが多い。これらの内容についてま で報告することは紙面の都合上できないが,この会議中 に討議された,各小委員会と相互にかかわり合いを持っ た項目は次のとおりである。なお,各項目の後に示すA, B,C…等は関連の深い小委員会を示すものである。
(1)Publication16の発行:すでに発行されている10 kHzから1000MHzまでの妨害波測定器の規格,勧告及び Reportを統合編集したもので,これに新たに使用が承 認された広帯域アンテナ,短縮ダイポールの改訂を含む (A,B,C,D,E,F)。
(2)1〜18GHzにおける測定:1〜18GHz帯における 測定器としては現在スペクトラム・アナライザ方式の測 定器が審議されているが,特にマイクロ波帯で動作する 機器(電子レンジ等)からの放射電力の測定法の開発と 検討(A,B)。
(3)測定場の伝搬特性のチェックの方法:放射測定に 対する周囲地物による妨害を定量的に与え,測定場とし ての性能を確認する方法の規定(A,B,D,E,F)。
(4)無線航行業務に対する妨害の低減:これは今回新 たにICAOから要請されたもので,航空無線,特に ILS(Instrument Landing System),NDB(Non-Directional Beacon) 等に対する妨害の低減要請で,ISM (Industrial Scientific and Medical Apparatus)機器,FM 受信機等が主な対象として挙げられている。これらにつ いては各国共,国内の実状について調査することになろ う(A,B,C,E)。
(5)雑音特性の測定,妨害との相関:この問題はこの 2〜3年の間に新たに取りあげられて来たもので,雑音 を今までの準尖頭値形計器によるだけではなく,その統計 的特性の測定をも行い,通信等への妨害低減対策を進め ようとするものである。現在審議にとりかかろうとして いるのはA及びDの2小委員会であるが,将来この他 の小委員会においても審議することになると考えられる (A,B,C,D,E,F)。
 この他,今までの許容値についての見直しの機運が高 まりつつあると共に,適用周波数範囲の拡大や,それに 伴う測定器,測定法の開発の必要性が議題として取りあ げられて来ている。
   おわりに
 今回の会議に出席して感じたことは,“日本”と名指し で質の悪い製品の例を挙げられた過去の会議におけるよ うな雰囲気はなくなり,CISPRが好感をもって日本 を迎えてくれつつあることであった。これは日本からの 技術的寄与文書が多数提出されるようになった結果であ るが,今回のように審議において議長から名指しで日本 の意見や国内の研究状況を聞かれたり,技術データの提 出を要請されたりすると,世界の工業生産国の一つとし てその責任の重さをも感じる。CISPRの目的は雑 音の規制に関する国際的規準を作ることであり,このた めには規制する側と規制をうける側との調和を計りつつ 前進しなければならない。従って国際学会におけるよう な最新の高度の技術成果の発表よりも,雑音規制のため の技術の底辺をしっかりと支え,工業的にも実現が困難 でなく,機器の性能を向上させるような技術の寄与がよ り多く求められる。このように考えるとCISPRの仕 事は非常に泥臭いと思われるけれども,初めは主として ラジオ放送の受信保護を第1に考えていたCISPRが, 最近は放送のみならず,無線通信の保護をも考え,今ま での規制の適用範囲の拡大を検討するとともに,新しい 時代に対処するための許容値の見直しや,新しい測定法, 測定技術の開発の検討を始めていることは大きな前進で あるとともに深い意味がある。CISPRが国際的にこ のような活動の方向をとるようになった要因の一つは, IEC,CCIR,ICAO,EBU等の国際機関がそ の会議に出席し,多くの要請を行っていることである。 従ってこのCISPRに対処してゆくためには我が国に おいても他の国内委員会や関連機関との関係を今まで以 上に緊密にし,審議を進めてゆく必要があろう。
 今回の会議では寄与文書が多かったため,その説明や 反論についての対応にそれなりの苦労はあったが,11日 間のドブロブニクでの毎日は非常に快適で,諸外国の代 表との親交を深めることができたのは幸せであった。次 回の会議には提出を要請されているデータ等もあり,国 内委員会,関連国内機関及び工業会等の協力によってこ れらの期待に応えられるよう努力したいと思う。


短   信


CS打ち上げられる

 実験用中容量静止通信衛星(CS)は,日本時間昭和 52年12月15日09時47分03秒,米国東部打ち上げ射場ケー プカナベラルから米国航空宇宙局(NASA)のデルタ 2914型ロケットによって打ち上げられた。NASAによ って所定の楕円軌道(遷移軌道)に投入された同衛星は, 宇宙開発事業団(NASDA)によって12月16日12時25 分32秒アポジモータ点火が行われ,ドリフト軌道に投入 された。以後,NASDAが静止軌道投入から,最終静 止位置(東経135°の赤道上空)到達までの追跡管制と, 静止軌道上での衛星諸性能の初期チェック(約90日間) を行う。その後,定常段階において電波研究所が中心と なり,日本電信電話公社,NASDA等の協力を得て, 衛星設計寿命3年間にわたっての通信実験とこれに必要 な運用管制が実施される。なお,名称は「さくら」,国際 登録番号は1977-118Aである。この実験計画の詳細につ いては,電波研究所ニュース3月号(No.12)を参照され たい。



音波レーダによる逆転層観測実験

 UHF伝搬に及ぼす逆転層などの影響を調査するため, 当所第二特別研究室では,11月17日から12月1日までの 15日間,銚子市松岸浄水場構内において音波レーダ観測 を実施すると同時に,本所においてNHK銚子テレビ局 UHF-TV音声電波(49チャンネル691.750MHz)の電 界強度連続測定を実施した。



特許登録

 特許:第884543号
 発明者:五十風 隆
 発明の名称:レ-ザ・レーダ装置
 登録年月日:52.9.30
 特許請求の範囲:測定しようとするガスの吸収スペク トルの中の一組の吸収最大と吸収最小の波長を含むレー ザ光を大気中に発射し,大気中の浮遊粒子を光の反射体 として利用し,これから反射された該レーザ光を受信し 上記吸収スペクトルの一組の吸収最大と吸収最小の波長 に対応する受信レーザ光の強度比からレーザ光の伝搬路 上にあるガスの濃度を測定することを特徴とするレーザ ・レーダ装置。



ジョルダン王国への通信技術援助

 現在ジョルダン国では,工業化及び社会開発のための 諸計画が強力に進められている。この一環として,1970 年にジョルダン王立科学院が設立され,その一部門とし て電子工学サービス・センタ設立が計画された。この計 画の推進にあたって,1975年12月,日本に対して正式に 技術協力を要請してきた。我が国では国際協力事業団が 関係官庁の協力を得て52年2月に郵政省電波監理局速水 氏を団長とする事前調査団を派遣し,通信用機材の供与, 要員の訓練,専門家の派遣等について全面的に協力する 方針を固めた。今回,この計画を具体化するため,52年 11月30日から約3週間にわたって実施協議チーム(速水 団長を含め郵政省2名,電電公社2名,NHK1名,事業団 1名)が派遣され,当所から通信機器部機器課渡辺主任 研究官が参加した。この実施協議チームによって,供与 する機材の選定並びに長期及び短期の専門家の派遣方法 等で合意に達し,ジョルダン王立科学院院長(代理)と 速水団長との間で昭和52年12月17日に討議議事録の署名が 行われた。これにより今後3年間にわたって同国に対し 技術援助が行われることになった。


ジョルダンの砂漠と駱駝