昭和53年度電波研究所研究計画


 昭和53年度の電波研究所における研究計画を策定する に当たって,(1)社会的要請から,衛星計画のように成功 することが言わば義務づけられている課題については, 万全の措置を講ずること,(2)当所が現有するポテンシャ ルを効果的に活かせる課題,また,将来保有すべきポテ ンシャルを育成することに繋がる課題を積極的に取り入 れること,(3)電波技術の進展に伴って,特に行政面で必 要となる課題にも可能な限り取り組むこと,等に重点を 置いた。本年度における研究計画の全体は下表の通りで あるが,以下に幾つかの特徴を述べる。
 当所が果たす役割に多少の差はあるが,昭和53年度に は,技術試験衛星U型(ETS-U,「きく2号」,52年2 月23日打上げ),実験用中容量静止通信衛星(CS,「さく ら」,52年12月15日打上げ),電離層観測衛星(ISS-b, 「うめ2号」,53年2月16日打上げ),実験用中型放送衛星 (BS,「ゆり」,53年4月8日打上げ),及び実験用静止通 信衛星(ECS,54年2月打上げ予定)の五つの衛星につ いて,管制,各々の衛星固有の実験,運用の課題を設定 している。これらは今年度特に留意した上述の(1)の課題 であり,国家的な大型プロジェクトとして当所に託され た使命を完遂するために総力を上げて取り組むものであ る。即ち,52年度までは「CS-BS計画による実験研 究」(衛星研究部),「CS-BSによる衛星通信の実験研 究」(鹿島支所),「CS-BS計画推進」(所内共同研究) として課題を実施してきたが,53年度にそれぞれ,「CS 計画による実験研究」(55170)及び「BS計画による実験 研究」(55171),「CSによる衛星通信の実験研究」(67201) 及び「BSによる衛星通信の実験研究」(67202),「CS実 験実施本部」(J-131)及び「BS実験実施本部」(J-132) としてCS関係とBS関係を独立させ,更に,鹿島支所 に「CS実験実施センタ」と「BS実験実施センタ」を 組織して,実施態勢を拡充した。また,この範疇に属す る課題として「衛星による小型船舶,航空機等との通信 の研究」(56622)を発足させたことも今年度の特徴の一 つである。
 特に当所の将来を考えて,今年度に力を注ぐ課題は, 「衛星搭載用マイクロ波・ミリ波レーダの研究」(55241), 「40 GHz以上の電波利用の研究」(52220),「陸上移動無 線系における周波数有効利用の研究」(56320)等である。  「不法放射源の調査法の研究」(56420),「微小電力TV 局低廉化の研究」(56421)は行政面からの要請を勘案して 新設した課題であり,他の幾つかの課題にもこの観点か ら必要な研究項目を細目として組み入れてある。

(企画部第一課)


研究計画一覧1

研究計画一覧2

研究計画一覧3

研究計画一覧4




手 書 き 漢 字 の 自 動 認 識


情 報 処 理 部

  はじめに
 文字は音声とともに人間にとって最も基本的な情報の 伝達(通信)の手段であり,文字で表わされた情報の能 率の良い伝送と機械による自動処理は,情報化社会の進 展とともにますます重要な問題になってきている。
 電気通信技術を利用した文字情報の伝送には,古くは モールス電信,最近ではテレタイプやファクシミリが広 く用いられている。テレタイプの場合には送り手として 熟練した人間の介在が必要であり,とくに漢字情報の伝 送のためには,数千字の中から一字を選択して打鍵する という複雑な操作が必要であり,その能率化には一定の 限界がある。
 これに比べて,ファクシミリ方式は送・受信とも完全 に自動化が可能であり,事業所間の書類伝送などに広く 採用され始めている方式であるが,文字パターンの冗長 性のために回線効率が悪いという欠点を持っている。す なわち,漢字を含めた日本文字の情報量は高々12ビット 程度であるのに対して,ファクシミリは文字パターンを 白黒の点の集合と見なして,各点の情報を1ビットずつ 時分割で伝送する方式である。従って,複雑な文字の場 合には一文字当り数千ビットの信号伝送が必要となる。
 これらの現用方式に対して,理想的な文字情報の伝送 方式として考えられているものに自動認識伝送方式があ る。この方式は原稿に書かれている文字を機械によって 自動的に認識して文字コードに変換・伝送し,受信側で コードに対応する文字パターンを再現するもので,送・ 受信の自動化と最大回線効率が同時に確保される。
 上記は人間→人間の通信手段としての自動認識伝送方 式のメリットを述べたものであるが,近年の電子計算機 を始めとする情報処理機械の普及と利用形態の高度化に ともない,人間→機械の通信手段としての文字自動認識 システムの重要性がクローズアップされてきている。
 現在,これらの機械への文字情報の入力は,大部分が 人手によって行われているが,新聞や書籍の自動編集, 情報検索,自動ほん訳など機械による高度な言語情報処 理技術が進展するにつれて,文字データの機械入力の能 率化が重要な課題となってきてきた。
 すでに,数字やアルファベットなどについては,かな りの性能を持つシステムが実用化されており,印刷漢字 についても近い将来に実現の見通しが得られているが, 日本語の場合には欧米語と異なり,原始文字情報が手書 きで発生される場合が圧倒的に多いことを考慮すれば, 将来大量の日本語情報の自動処理を効果的に行うために は,高性能の手書き漢字認識システムの開発が必要であ る。
   手書き漢字の性質
 このように,手書き漢字認識システムの実現は各分野 で切望されながら,その見通しについては悲観的な意見 が多い。これは漢字が数字やアルファベットに比べて, @文字パターンの構造が複雑であること,A文字の種類 が多くかつ類似のパターンがあること,B個人による文 字パターンの変形が多様であることによって,これまで 印刷文字などに用いられた認識方式が適用できないため である。
 一般にパタ-ン認識機械(文字や音声などを認識する 機能は総称してパターン認識と呼ばれる)の性能の良否 は,認識対象パターンの属する集合の性質をどれだけ正 確に把握し,それをどのように効果的に機械の設計に組 み入れるかという点にかかっていると言うことができる。
 このような観点から,当所計算機応用研究室では,人 間が文字を書くときのペン先の運動を分析し,手書き漢 字が図1に示される5種類の基本ストローク(筆使い) から構成されていることを明らかにするとともに,認識 対象の手書き漢字パターンからアナリシス・バイ・シン セシス(Analysis by Synthesis)法と呼ばれる予測分析 法によって基本ストロークを抽出し,それらの文字平面 上での相対配置から字種を判定する認識システムを設計 した。


図1 手書き漢字を構成する基本ストローク

   認識システムの構成
 本認識システムは大別して,前処理部,ストローク抽 出部および文字判定部の3部から構成されている。前処 理部は図2(a)に示す例のように72×72のマトリックス (値0,1が文字パターンの白黒に対応する)で与えられ る認識対象の入力文字パターンのノイズの除去,大きさ の測定と位置決め,線幅の細線化などの準備処理を行う。
 ストローク抽出部は,入力文字パターンを図1の基本 ストローク群に分解する動作を行うもので,先ず前述の ペン先の運動の分析実験で得られた筆点運動方程式に従 って,認識対象の入力文字パターンを構成する各ストロ ークの模写を行う。言いかえる と,システムの中に設定された 人工の手によって,入力パター ンの真似書きを行う。次いで, 模写結果のストローク・パター ンと入力文字パターンの誤差を 測定し,方程式のパラメータを 変化させながら誤差が充分小さ くなるまで模写を繰り返す。最 後に書かれたストロークをもっ て入力文字パターンを構成する 基本ストロークとみなし,その 時使用したパラメータの値から 基本ストロークのタイプ,傾き の角度,ストロークの長さ,文 字平面上でのストロークの相対 位置を決定する。認識対象文字パターンのすべてのスト ロークが抽出されるまでこの動作が繰り返され,最終的 に入力文字パターンが基本ストロークの列に変換される。 図2(b)は(a)の入力パターンについて機械が模写を行った 結果の例で,入力パターンを11個の基本ストロークの組 合せとみなしている。
 文字判定部は認識対象文字パターンから抽出された基 本ストローク情報の列を入力として,文字の種類の判定 を行う文字判定オートマトンと,認識対象言語の言語構 造を利用して,判定結果のチェックまたは修正を行う自 動照合・訂正機構から構成され,認識結果が文字コード の形で出力される。


図2 (a)入力文字パターンの例
   (b)電子計算機が書いた手書き文字

   認識実験
 本認識システムの動作をテストするために,県名漢字 75字種を対象に計算機シミュレーション(機械の動作を 電子計算機の四則演算や論理演算の組合せで模擬するこ と)による認識実験を行った。県名を対象とした理由は @手書き漢字認識システムの実用化は,対象文字数が比 較的少数に限定でき,かつ実用価値の高い住所認識から 始まると予想されていること,A住所は明確な階層文法 構造を持ち(県名,市名,町名,丁目,番地,号など, 文の構成規則が上位から下位へとはっきり定まっている こと),自動照合・訂正機能の効果が大きいこと,A現在 の郵便物の自動区分システムを更に発展させるためには, 郵便番号の他に住所の自動認識機能が必要なことなどに よるものである。30人によって書かれた3030文字 (101字×30人)のうち,20人分の2020文字についてストロー ク抽出を行い,同時に機械に正しい認識結果を与えて判 定オートマトンを自動的に作成し,残りの1010文字につ いて認識実験を行った結果92%の正認識率が得られ,シ ステムの良好な動作が確認された。さらに県名の場合, 文字の組合せが限定されていることを利用して判定結果 の自動照合・訂正の実験を行い,最終的に98%の高い認 識率を得た。
   おわりに
 以上の実験結果により,これまできわめて困難とされ, 実験的検討が全くなされていなかった手書き漢字の自動 認識システムの開発の課題に,解決のための一つの糸口 を見出すことができたと考えている。とくに住所認識の ように認識対象字種が限定され,文法構造が明確な場合 にはかなり早い機会に実用化が可能と考えられる。
 今後,全当用漢字を対象とした認識システムの開発の ためには,ストロークの相対配置に加えて「牛」と「午」 の識別のようにストローク相互の微細な接続関係の検出 機構を付加する必要がある。また,効果的な自動照合・ 訂正機構の確立のためには,日本語の一般の文章におけ る文字の生起確率,結合確率などの言語統計や文法構造 の解析などの基礎調査が必要である。さらに,漢字カナ まじり文の認識における漢字の「口」とカナ文字の「ロ」 の識別の場合などセマンティクス(意味論)の領域に及 ぶ基礎的検討が必要な場合も予想される。
 最近,内外における手書き漢字の自動認識の研究は, ようやくその端緒についた感があり,当所の研究は一定 の先駆的役割を果すことができたと考えている。今後, 上に述べた諸課題に対する基礎的検討を積み重ね,将来 の飛躍的発展を期したいと考えている。

(計算機応用研究室長 吉田 実)




「20-30GHz帯電波を利用した新しい衛星通信システム」
に関する会議に出席して


田 尾 一 彦

 イタリアのジェノバで1977年12月14日から16日まで 「20-30GHz帯電波を利用した新しい衛星通信システム」 に関する会議が開催され,宇宙開発事業団システム計画 部の宇田宏次長と共に出席し,その会議の前後にイタリ アのフチノ地球局とフランスのツールーズ宇宙センタ を訪問したのでそれらの印象について報告する。このシ ンポジウムはイタリアのIIC(Instituto Internazionale delle Comunicazioni) とESA(European Space Agency) の共催で,IICの所長であるCarassa教授が議長 となって行われた。ジェノバは地中海に面したイタリア 北部の港町であるが,会議場となったIICの建物はジェ ノバの港を一望可能な丘の上にあり,昔の城跡のような 所にあった。シンポジウムはシステム,アンテナ,通信 機器及び技術,伝搬の四つのセッションに分けられ,最 終日に各セッションの議長がそれぞれのセッションにお ける主要な講演の概要の総括を円卓形式で行った。イタ リアでのシンポジウムのため地元のイタリアを始めヨー ロッパ各地からの参加者が多かったが,遠方からは日本 の2名の他,米国から4名の参加者があり全体で120名 程度の出席者があった。
 シンポジウムはCarassa教授の「衛星通信システムに 対する20-30GHz帯の応用」という講演を皮切りに開 始された。11-14GHz及び20-30GHz帯が将来の衛 星通信に適切な周波数帯であるとして一般論が述べられ, 特にイタリアで開発されたSIRIOのSHF帯実験に言 及された。SIRIOは1977年8月17日にケープ・カナベラ ルからソー・デルタによりNASAによって打ち上げられた 衛星である。この衛星計画はCarassa教授により提案さ れ,プロジェクト・マネージャである同教授によって CNR(National Council of Research)の後援のもとに推 進されているものである。運用面にはイタリアの TELESPAZIOが参加している。この衛星計画ではイタリアの みならず西独,オランダ,フィンランド,英国,米国等 がその実験に参加しており,その主目的はSHF帯(12及 び18GHz)で伝搬実験並びに通信実験を行い,種々な 気象条件の下で信号の減衰及び変動を測定することであ る。未だまとまった実験結果は出ていないようであるが 近いうちに取りまとめて出版する計画があると聞いてい る。私は主として伝搬のセッションに重きを置き,また このセッションで「日本における10GHz以上の周波数 帯の衛星通信に関する伝搬研究の現状」と題して,当所 の小口知宏博士の理論に基づく20-30GHz帯での変形 雨滴による電波減衰量,偏波間の減衰差,位相回転差等 の数値計算例を説明し,またETS-Uで今迄に得られた 実験結果,特にミリ波の減衰と降雨レーダによる降雨強 度との相関,CSの伝搬実験計画等について説明を行っ た。伝搬関係では米国のベル研究所のMuller氏が,1976 年に打ち上げられた国内通信衛星COMSTARから放射 されている19及び28GHzビーコン電波について約半年 間の実測資料から回線設計に必要な電波減衰量の統計解 析を行った結果を報告した。Watson氏(University of Bradford, U. K. )のATS-6による20GHz帯電波の 減衰と交叉偏波に関する報告は興味深かった。即ち,大 きな交叉偏波がしばしば降雨のない時に観測されたが, そのような時にはレーダによる観測によって対流圏のか なり高い領域に氷晶が観測されたとのことであった。ま た交叉偏波の急激な変化が雷の放電に伴う電場の変化と よい相関のあることも報告された。アンテナ関係は殆ど が成形ビーム並びにマルチ・スポットビームに関する講 演であり,一般衛星技術関係では将来の衛星に有用な技 術として衛星内でのスイッチング技術の講演が目立った。 宇田氏はアンテナ・セッションの議長として活躍した。 円卓形式のセッションでは,ヨーロッパでもOTS (Orbiting Test Satellite)の開発を踏まえて1980年代にヨ ーロッパ通信衛星ECS(European Communication Satellite) の計画があるため,わが国のECSの開発に非常 に興味を持っており,いくつかの質問並びに討論が行わ れた。
 フチノ地球局はローマの郊外にあり,車で1時間半位 の距離に位置し周囲は低い山にかこまれており,衛星地 球局としては好都合な条件に恵まれているような気がし た。この地球局はTELESPAZIOによって運営されてい る。1971年に訪問した時には大西洋及び印度洋上空にあ るINTELSAT用の30mφ級のパラボラ・アンテナ2 基とテレメトリ用10mφのアンテナ1基があっただけで あったが,今回再度訪問して極めて多角的運用が行われ ているのを知って驚いた。従来の INTELSAT用の他,1977年1月からは MARISAT用のアンテナ,OTS用アン テナ,SIRIO用アンテナ等が建設され ており,1975年12月以来NASAの地球 観測衛星LANDSATからのテレメトリ 受信用アンテナもあり,現在では9基 のアンテナが存在し極めて幅広い運用 が行われていた。SIRIOに関しては 1977年3月からラリオ(Rario)とい う所に第二の地球局が建設され(アン テナはフチノ,ラリオ共17mφ),フチノ 地球局との間でSHF帯の通信実験及び 伝搬実験が実施されており,取得され たデータは最終的にはピサにある大型 電子計算機によって処理されるシステ ムになっている。


フチノ地球局施設の一部

 ツールーズの宇宙センタはフランスのCNES所属の大 規模な宇宙関連施設のセンタで,現在ではパリ近郊にあ った追跡管制を中心としたブレティニの機能を吸収し, その他に大規模な宇宙環境テスト施設があり,丁度,我 が国の宇宙開発事業団筑波宇宙センタに対応するような 感じであった。最初の20分程は,16o映画で施設の全般的 な説明があり,その後SYMPHONIE衛星の研究施設を 見学した。SYMPHONIEは現在二つ打ち上げられてお り,SYMPHONIE-1は1974年12月,SYMPHONIE-2 は1975年8月に夫々打ち上げられ,フランスと西独との 間で4及び6GHzで衛星通信に関する共同利用実験が 行われている。大型スペース・チェンバ,振動試験装置 を含む環境試験施設や磁気能率試験施設等を見学した。
 フチノ地球局では施設の大部分の機器がイタリア製で あり,またツールーズではフランス製の機器が使用され ており,自国製の機器で測定実験をしていることに誇り をもっていたことが印象的であった。

(企画部長)


短   信


技術試験衛星U型(ETS-U)「きく2号」
ミリ波伝搬実験総合報告会
−昭和53年5月23日当所講堂において開催−

1. 実験の概要      (衛星研究部)畚野 信義
2. アンテナ装置とその特性 ( 同上 )手代木 扶ほか
3. 受信装置とその特性   ( 同上 )木村  繁ほか
4. 降雨強度分布測定装置とその特性
               (鹿島支所)阿波加 純ほか
5. 実験経過        ( 同上 )林 理三雄ほか
6. データ収集処理と特徴的な現象
              (鹿島支所)篠塚  隆ほか
7. データ統計処理    (情報処理部)犬木 久夫ほか
8. 対流圏伝搬特性     ( 同上 )井原 俊夫ほか
9. 降雨レーダ・データの利用(鹿島支所)中村 健治ほか
10. 電離圏伝搬特性     ( 同上 )藤田 正晴ほか
11. 結果のまとめと今後の計画 (調査部)古浜 洋治



第54回研究発表会プログラム −昭和53年5月24日当所講堂において開催−

1. 10進・2進変換を利用した乱数発生法
            (情報処理部)柴田  久
2. 人工電波雑音の確率分布の測定
            (通信機器部)杉浦  行ほか
3. CO2レーザによる対流圏オゾンの遠隔測定法
            (通信機器部)浅井 和弘ほか
4. 40GHz以上の電波利用について
              (調査部)古浜 洋治ほか
5. 14GHz帯における降雨散乱実験
              (電波部)小林 常人ほか
6. 静止衛星軌道決定プログラムの簡易化
             (鹿島支所)田中 高史ほか
7. 実験用静止通信衛星(ECS)実験計画
 (1)計画の概要    (衛星研究部)石田  亨
 (2)実験システムの概要( 同上  )畚野 信義
 (3)実験項目の概要  ( 同上  )吉村 和幸



BS打ち上げられる

 実験用中型放送衛星(BS)は,日本時間昭和53年4 月8日07時01分00秒,米国フロリダ州ケープ・カナベラ ル東部打上げ射場(昨年12月15日打上げられたCS「さ くら」と同一発射台)から米国航空宇宙局(NASA) のデルタ2914型ロケットによって打ち上げられた。NA SAによって所定の楕円軌道(遷移軌道)に投入された 同衛星は,宇宙開発事業団(NASDA)によって4月 8日09時34分10秒アポジ点火が行われ,ドリフト軌道に 投入された。
 BSは,三軸安定方式の静止衛星であるため,以後, デスピン,地球捕捉,三軸安定確立,太陽電池板の展開 等が行われ,4月11日現在作業は順調に進ちょくし,最 終静止位置(東経110°の赤道上空)への投入は4月26 日頃の予定である。打上げ後約90日間にわたりNASDA が衛星諸性能の初期チェックを行い,その後,定常段階 において電波研究所が中心となり,日本放送協会, NASDA等の協力を得て,衛星設計寿命3年間にわたって 各種衛星放送実験,運用管制実験を行う。なお,衛星は 「ゆり」と命名され,国際標識番号は1978-039Aであ る。この実験計画の詳細については,電波研究所ニュー スNo.13(1977年4月号)を参照されたい。



犬吠電波観測所新庁舎完成

 旧木造庁舎は終戦時の昭和20年9月に当時の軍の施設 を引継いたものであり,30余年の歳月を経て,建物が老 朽化し,その都度補修を行ってきた。また,庁舎用地が 私有地であったため,その明け渡しを迫られていた。こ のため,隣接の国有地に昨年9月から鉄筋コンクリート 2階建て,延べ面積836.5uの新庁舎の建設が進められ てきた。この程建物が完成し3月9日に新庁舎への移転 を完了した。
 当庁舎は太平洋を望む海抜73mの愛宕山の高台にあり, 展望はすばらしく,恵まれた良好な環境にある。新庁舎 完成に伴いVLF電波観測態勢が一段と拡充整備され, 今後の当所の果たす役割が関係各方面から期待されてい る。
 4月12日に関係者をはじめ,地元官公署代表を招き落 成式を挙行した。


犬吠電波観測所新庁舎