電波リモート・センサの現状と開発研究


衛 星 研 究 部

   はじめに
 電波リモート・センサとは,簡単にいうと,電波を用 いて,主として飛んでいる人工衛星から地球表面の状態 を調べる新しい観測器のことである。
 この電波リモート・センサについて次の三つの観点か ら述べてみたい。第1は,マイクロ波・ミリ波を含むい わゆる電波によるリモート・センシングはどのようにし て生まれてきたのかということ。第2は,電波によるリ モート・センシングは他の手段と比較してどのような特 徴,利点があるのか,逆に短所,欠点があるのかという こと。第3は,内外における実用,研究の現状と今後の 動向,そして電波研究所における開発研究についてであ る。なお,我が国の電波法で規定されている「電波」と は,波長が0.1o以上の電磁波であるが,本稿では電波 と電磁波を特別に定義することなく適宜用いていること をはじめにおことわりしておく。
   電波によるリモート・センシングの歴史的背景
 電波の存在は1888年へルツ(H. Hertz)により,火花 放電を用いて実験的に証明された。1895年にはマルコニ ー(G. Marconi)によって無線電信に応用された。1902 年にはケネリー(A.E.Kennelly)とへビーサイド(O. Heavside) が殆ど同時に地球上層には電離された領域が 存在して,そこでは電波が反射されることを説明した。 1925年にはアップルトン(E. V. Appleton)が電離層の存 在を実験によって直接証明した。これがいわゆるレーダ (RADAR;Radio Detection and Ranging)のはじまりで ある。その後電離層の観測では,ブライト(G. Breit)と チューブ(M. A. Tuve)によりパルス電波を用いる現在 の方式が確立されたことは周知の通りである。かくして 電波が通信,放送のみならず遠隔測定,遠隔探査等に使 われるようになった。
 さて,レーダとは“電波による目標探知と距離測定” ということであるが,送信と受信を同じ場所で行い,目 標が反射する電波を利用するレーダを1次レーダといい, 目標が再発射する電波を利用するレーダを2次レーダと いう。現在の1次パルス・レーダのもとになる形は英国 のワット(W. Watt)によって1935年に,はじめて実用 化された。
 レーダが最初に開発された目的は敵の飛行機を探知す るという軍事目的であったが,現在では標的のねらいを 定めるための測定装置,誘導装置,また船や飛行機の航 行用,気象観測用,飛行機の着陸誘導用,測量用にも広 く利用されている。レーダが気象観測にも利用されるの は雨,雪,雲,その他大気が不連続に変化している境の 面から電波が反射されるからで,台風の目をつかまえ,そ の移動を観察するとか,寒冷前線または不連続線などを 観測するのに気象レーダが重要な役割を果たしている。 レーダを測量に使う場合は2次レーダを使う場合が多い。 このほか2次レーダは味方識別の目的および電波航法用 の距離測定にも使われている。
 レーダは第二次大戦中に発達したものであるが,レー ダに使うパルス技術はその後いろいろな面に応用されて いる。例えば,ロランの電波航法装置,マイクロ波の多 重無線電話装置にもレーダで開発されたパルス技術が応 用されており,電子計算機においても同様である。
 これとは別に,自然界に存在する電波を受信して自然 現象,状態を探求する試みは古くから行われており,現 在でも続けられている。その例として,空電,太陽電波, 惑星電波,銀河雑音,宇宙電波雑音, VLF,ELF電波等の観測が挙げられる であろう。
 以上で述べたように,広範囲なスペク トラムの電磁波を用いて,自然界の状態, 現象を観測できるようになり,これによ り大いに人類の知見が広められた。また レーダ技術の発展により遠隔測定技術は いろいろな分野に使われており,今後ま すます精密になり,応用分野が拡がって いくことは確実であろう。
 さて話は変って,1957年に最初の人工 衛星が地球の回りを飛び,宇宙時代の幕 明けとなった。最初は宇宙の探究から始まり,引き続き 有人による宇宙空間の探索及び月への探検がなされた。 さらに深宇宙の科学観測もなされた。一方,これらの科 学観測と並んで,通信衛星,気象衛星,測地衛星,航行 衛星等の人間の実生活に密着した分野での技術も大いに 進展した。このような科学技術の進歩は人類に大きな変 革をもたらした。多くの分野において全地球的な考察を 可能にし,総合的に問題をとらえ,手段を講ずることが 可能になってきた。
 特に地球資源実験衛星(Earth Resources Technology Satellite;ERTS, 後にLANDSATと名称変更)が1972 年に成功裏に打ち上げられて以来,人工衛星からの地球 のリモート・センシングは,世界的に重要な問題として 取り上げられ,従来の個々の技術を発展及び総合した新 しい技術,新しい学問分野として認識され,活発に研究 され始めた。この理由として(1)宇宙技術の発展,測定技 術,装置の開発により人工衛星によるリモート・センシ ングが可能になり,電子計算機による解析及び画像処理 能力の増大と相俟って,総合的リモート・センシングが 可能となったこと,(2)地球を取り巻く環境や資源の問題 が深刻な現状にあることが認識され,このため環境や資 源の調査及び管理を目的とした手段が早急に必要とされ ること等が挙げられる。
 このようにして人類は,古くは地上からの観測により, 新しくは人工衛星を用いてさらに精密に観測することに より,自然界についての知識を飛躍的に増大させてきた が,今後は,今までに蓄積した技術を結集し,或いは発 展させて,人工衛星から逆に我が地球を観測することに よって,引き続いて人類が進歩・発展していくためのよ りよい環境,知識,原動力等を追及していく必要があろ う。
   電波によるリモート・センシングの特徴
 リモート・センシング(Remote Sensing)は Remote Measurementとは明瞭に区別される概念である(豊田弘 道,計測と制御,Vol.15,No.7,p.563)。即ち,測定は基 準量と比較して,数値または符号を用いて量を表わすこ とであるが,定量的判定のみならず定性的判定をも含む センシングの方がより広い認識行為を意味している。つ まり,リモート・センシングとは非接触式センサを用い る自然科学的認識行為(測定,観測,計測,評価,識別, 同定などの操作を含む)の一種である。そしてセンシン グを行う場所は大気圏及び宇宙空間に限定するのが一般 的であり,センサを搭載するプラットフォームは航空機 と人工衛星が主である。センシングの対象は地球表面に 限定する場合が多い。センサへの情報の媒体は通常,紫 外,可視,赤外,ミリ波,マイクロ波等の電磁波に限定 され,対象物が反射する,あるいは対象物が直接放射す る電磁波を検出する。電磁波源として太陽光あるいは地 球の輻射を利用するものを受動型といい,マイクロ波, ミリ波,レーザ光などの人工電磁波源を使用するものを 能動型という。電磁波以外に重力,磁力,超音波などが 利用されることもある。センシングの目的は資源及び環 境の評価,調査に限定する場合もあるが,応用分野及び 新しい目的は拡大される可能性も秘めている。
 以上のように,リモート・センシングは本質的に総合 的,有機的な科学技術システムを内包しており,得られ る結果の多様性,応用性,有効性,広域性は今までに なく大きい。さて,リモート・センシングのシステムを 構成する主な要素は第1図のように示される。このシス テムは大きく三つに分けられる。第1は広範囲の地表対 象と地上大気を通して結びつくセンシング・システム及 びその物理的情報であり,第2は,プラットフォーム・ システム(人工衛星,航空機),そこに搭載する測定器シ ステム,及び取得したデータを地上に送る情報伝送シス テムであり,第3は,グランド・トルース或いはシー・ トルースを含むデータ処理,解析システムである。リモ ート・センシングの関連する範囲は非常に広く,総合的 科学技術システムを形成している。


図 リモート・センシング・システム(豊田弘道氏による:本文参照)

 さて,ここでセンシング・システムについ て述べる。それには大きく分けて三つの源流 がある。第1は,写真ないし写真測量である。 それが広く用いられたのは航空写真への応用 においてであり,写真からの地形測量図の作 成あるいは三次元測量,さらにカラー写真の 発展により写真判読の技術が大いに進歩した。 また,写真判読は軍事目的以外に地形,地質, 農業,地質調査等にも応用された。特殊写真 として赤外カラー写真,紫外線写真等の技術 も発達し,さらにそれらを総合してマルチス ペクトラムの写真の技術が生れて大いに進展 した。第2は,非写真方式の観測,即ち,物 体から放射される電磁波スペクトラムの強度 を検出することである。この代表的な検出器 としてボロメータがあり,近年赤外線検出素 子の開発によって遠くの飛行機の検出,物体 の検出に威力を発揮した。現在では航空機の みではなく,人工衛星上から地表や海面の温 度測定が可能になっている。また対象とする 電磁波の波長領域は赤外ばかりではなく,マイクロ波の 領域にも拡げられ,マイクロ波帯の物体の輝度温度を測 ることにより,赤外領域に劣らないほど種々の情報が得 られることが最近の研究で明らかになっている。
 第3は,いわゆるレーダ技術である。この一大特徴は 能動的な方式を用いていることである。精度においても 応用範囲においても,種々の技術が利用できるので,そ の有効性は他に類を見ない。周波数20MHz〜10GHz においては大気は透明であり,種々のリモート・センシン グに使われている。例えば,レーダ高度計,レーダ散乱 計,映像レーダ等である。この領域の波長は,可視,赤 外と比較した場合に,同一地域を昼夜の区別なく,また 天候にあまり左右されることなく観測できるという特徴 がある。世界の大多数の地域は通常雲に覆われているの で,多少の雲をも透過して地表面を観測できる電波セン サは,航空機や人工衛星に搭載して地球環境のリモート ・センシングを行う時に他のセンサにみられない大きな 威力を発揮する。また,10〜400GHz帯では,大気は電 磁波と相互作用をする,即ちH2OとかO2による吸収が 現われてくる。これらの吸収線あるいは吸収特性を利用 して水蒸気量,大気温度の高度分布,さらに雨域による 散乱を測ってその分布状態を知ることが出来る。このよ うに大気組成,大気状態,気象さらに海面状態について も情報が得られる。しかし電波センサに使うこの領域の 電波の波長は可視,赤外より長いので分解能は必然的に それらを使う場合より悪い。しかし海洋の情報のように むしろその平均的な性質が知りたい場合には逆にこのこ とが利点となる場合もある。また映像レーダ,レーダ高 度計のように他のセンサと比較して分解能の点で優ると も劣らない性能を発揮する場合もある。第1表に受動型 及び能動型電波センサの有効な応用分野を示す。
 地球のリモート・センシングという面から考えると各 センサの特徴を生かして,総合的,相補的な使い方をす べきで,センサ・システムとして有機的に考える必要が ある。


第1表 電波リモート・センサの有効な応用分野

  電波リモート・センサの現状と当所における開発研究
 人工衛星からのリモート・センシングにおいて最初に 有効な観測対象と考えられたのは気象現象であろう。1960 年からのTIROS(Television and Infra-Red Observation Satellite) シリーズ,1966年からのESSA(Environmental Survey Satellite) シリーズ,1970年からのITOS/NOAA(Improved TIROS Operational Satellite /National Oceanic and Atmospheric Admininistration's Satellite) シリーズが例として挙げられるであろう。これら は主として雲の写真をとることを目的としたものである。
 また,マイクロ波放射計を人工衛星に搭載して観測し た例には,ソ連のCOSMOS-243,384;METEOR及び 米国のSKYLAB,NIMBUS-5,6などがある。COSMOS-243の 観測では,3.5GHz及び8.8GHzにおいて海 面と陸地の放射率が大きく異なることが明瞭に示された。 また,海面温度の測定も行われた。さらに22.5GHzを 用いて水蒸気量の測定,37.5GHzを用いて水滴量の評 価が行われた。SKYLABでは1.4GHzの放射計を搭載 し,陸及び海の輝度温度が測定された。NIMBUS-5で は22GHzと31GHzの輝度温度の測定から, 水蒸気及び雲中の水滴量が測定された。また酸 素の吸収帯における3周波(53.7,54.9,58.8 GHz)を用いて地表から25qまでの気温の高 度分布を測定している。さらに19.4GHzを用 いて南極及び北極海の海氷分布を観測している。 そしてこれらの実験段階を終えてSEASAT-A のSMMR(Scanning Multichannel Microwave Radiometer) で一応の実用段階に入る。その 他の計画として,静止気象衛星STORMSATW は118GHz及び183GHzで大気中の雲,降雨 量を観測しようとしており,欧州においては PAMIRASAT(Passive Microwave Radiometer Satellite)計画がある。
 一方,能動型電波センサについては,米国が 20年程前から開発に取り組んでおり,1972年に打ち上げ たAPOLO-17ではVHF帯の映像レーダを用いて月面の 映像を得ている。1973,74年のSKYLABの実験では,マ イクロ波散乱計及びマイクロ波高度計が使われ,地球表 面のリモート・センシングが行われた。1975年にはマイ クロ波高度計を搭載したGEOS-3(Geodetic Earth Orbiting Slatellite,測地衛星) が打ち上げられている。 1978年5月にはマイクロ波高度計,マイクロ波散乱計及 び映像レーダを搭載したSEASAT-Aが打ち上げられる。 これは実験用の海洋観測衛星であり,1982年にはSEASAT-B が予定されている。また1980年に打上げ予定の SPACE SHUTTLEには,降雨の三次元分布を得るた めに初めて気象レーダ及び2周波合成開口レーダが搭載 される。ESA(欧州宇宙機関)でも,10GHz帯の合成開 口レーダを搭載したSARSAT(Synthetic Aperture Radar Satellite) が計画されており,これはヨーロッパ の地形の全天候観測を行うことを目的としている。
 さて国内の開発動向としては,海洋観測衛星(MOS: Maritime Observation Satellite)シリーズが計画され ている。MOS-1では23GHz帯及び31GHz帯のラジ オメータによって大気中の水蒸気量,水滴量,それに海 氷とか雪の分布の観測,MOS-2ではマイクロ波放射計 により海面温度や海面状況の観測を行う。このほかにマ イクロ波散乱計,マイクロ波高度計を搭載する予定であ り,さらにMOS-3では映像レーダの搭載が考えられて いる。
 ここで,電波研究所における計画について述べる。昭 和53年度から衛星搭載用の能動型電波リモート・センサの 基礎的開発研究に着手する。この電波センサには二つの 主目的がある。第1は,ミリ波通信に影響を与える降雨 等の伝搬媒質の人工衛星による観測であり,第2は,そ れらの媒質中における電波の散乱特性の研究・調査であ る。使用する周波数は気象衛星業務に割り当てられてい る10GHz帯と35GHz帯である。また,参照基準用の データ及び実験的に相補的データを取得するために多周 波ラジオメータ及びFM-CWレーダを用いることを考慮 している。さらに,地上における降雨実験及び航空機に よる衛星のシミュレーション実験,さらに擬似散乱壁面 による種々の実験を行って試作機器の性能及び降雨によ る散乱の物理的機構の基礎を調べていく。大略の諸元は 第2表の通りである。


第2表 電波リモート・センサの緒元

   おわりに
 以上電波リモート・センサについて内外の様子と開発 研究について述べたが,この分野は今後ますますその重 要性が増すことは言を俟たない。さらに詳細な事柄及び 文献等については,電波研究所季報(Vol.22,No.121, 1976年12月号)の“地球環境の新しいリモート・センシ ング”特集号を参照していただきたい。

(電離層衛星研究室長 宮崎茂,同研究官 岡本謙一)




CCIR研究委員会最終会議BブロックおよびINAG会議に出席して


羽 倉 幸 雄

  はじめに
 CCIR(国際無線通信諮問委員会)は国際連合傘下 のITU(国際電気通信連合)の常設機関の1つであり, 最近では4年毎に総会を,その間に中間会議と最終会議 を開催することになっている。1974−78年 期間中の最終会議は二つのブロックに分け られ,Aブロック(SG2,4,5,9,10, 11及びCMTT(音声放送とTV信号の遠 距離伝送))は昨年9月12日から10月20日 の間開催された。その審議内容は電波研究 所ニュースNo.22に紹介されている。一方 Bブロック(SG1,3,6,7,8,CMV (共通用語))は今年1月9日から2月3 日の間ジュネーブで開催され,当所から日 本代表団(団長:森島電波監理局周波数課 長)に筆者と角川通信系研究室長が参加した。
 今回の最終会議は1976年の中間会議の審議結果にその 後の新しい技術情報を加え,本年6月に京都で開催され るCCIR第14回総会に提出されるテキスト案の総仕上げ を行うものである。これは更に,1979年9月のWARC-G とその準備のため,今年10月に開かれることになって いるCCIR-SPM(特別準備会議)へ向けての活動と して重要な意義を持つものであった。Bブロックの各SG (研究委員会)の開催期日,寄与文書件数及び新テキ ストの採択件数を表に示す。


表 CCIR最終会議Bブロック総括表()内は日本提案件数

 筆者は,1月5日に開催されたINAG(電離層観測網 諮問グループ)会議,1月6日のIWP6/1に出席した あと,CCIR最終会議Bブロックの全SGに登録した。 以下CCIRのSG3,6,7,関連IWP(中間作業班),及 びINAG会議の審議の概要と会議の印象について述べる。
   SG3(約30MHz以下の固定業務)
 有竹氏(日本)が逝去され,de Haas(米)が議長に 昇格したあと,空席になっていた副議長に鍛治氏(日) が選ばれた。三つの作業班(WG3A:電信,電話システ ム,WG3B:アンテナ,シミュレータ,遠隔受信所, WG3C:用語,SPM,WARC-G)に分れ,全テキスト の見直しとこれらのSPMの結びつきを審議した。
   SG6(電離層伝搬)
 1976年2月の中間会議SG6で従来九つあったWGを 六つ(6J:電離層特性と伝搬,6K:運用上の諸問題, 6L:通信系の設計要因,6M:人工及び自然電波雑音, 6N:1.6MHz以上の空間波電界強度,6P:1.6MHz 以下の空間彼電界強度)に統合した経緯は電波研ニュー スNo.2に詳しく紹介されている。今回の最終会議の使命 はWG再編成の総仕上げであった。
 先ずad hoc委員会(議長Barclay,英国)が結成され, SG6および各WGの付託事項(terms of reference), 各WGへのテキスト及び寄与文書の配分が決められたが, 既存の15の研究問題を廃止し,七つの新研究問題が設定 されたのは注目に値する。そのあとは,新研究問題に対 するテキストの新設,既存テキストの統合,廃合と誠に 忙しいドラフティング作業の連続であった。
 今会議の冒頭,Bailey議長がSG6は,ややもすると URSI的になり勝ちであるが,CCIRの使命に鑑み,通 信の運用,システム設計指向に心掛けてほしいこと, WARC-Gを前にして出来るだけ多くの勧告を立案して欲 しいことを述べたが,2週間の会議で十分所期の目的は 乗せたと思う。例えば,(1)スポラディックE信号強度の 計算法,(2)2〜30MHz空間波電界強度及び伝送損失の コンピュータ計算法,(3)宇宙飛しょう体を含む無線中継 システムに影響する電離層要因,(4)大電力による電離層 変調の四つの新勧告案が作られ,また既存勧告の内容充 実が図られた。各WGで通信の運用,システム設計指向 のSP(調査計画)が数多く新設されたが,一方新SP (太陽および地球圏外電離媒質中の電波伝搬)も設定さ れ,SG6は地球圏外プラズマを通過する通信系の諸問 題も取扱うこととなった。
 当所関連の日本提案,(1)ホイッスラー・モード伝搬の 諸研究,(2)ホイッスラー波吸収,(3)中波帯放送波の遠距 離伝搬特性,(4)ETS-UのGHz帯電波による全電子数 測定法,(5)VHFファラデー回転の異常変動とシンチレ レーションの五つは何れも貴重な情報としてテキストに 盛り込まれた。
 SG6会議には筆者のほか,KDD(国際電信電話株 式会社)の宮氏,清水氏,NHK(日本放送協会)の伊 藤氏が参加し活躍された。SG6の会期中にIWP6/1 (1.6MHz以上の空間波電界強度),6/3(基礎的長期 電離層予測),6/4(150〜1600kHzの空間波伝搬), 6/7(短期予報),6/8(EsによるVHF伝搬),6/9 (宇宙通信・航行システムに影響する電離層要因)の会 合を持ち,SG6会議の進行を援助した。特に,宮氏は IWP6/8の議長としてEsに関する新勧告案を取りまと め,若井,犬木の両氏はf0E予測法と実測の比較に関す る膨大な資料を提供してIWP6/3の審議に貢献した。
 なお,宮氏は新勧告案が出来たのを機会に,IWP6/8 の議長をGiraldez(アルゼンチン)に譲り,日本の新 メンバとして新野氏が加わった。またBaileyは永年務め たSG6の議長を,京都総会修了後に引退する旨を正式 に表明した。今回の最終会議は50年のSG6の歴史の1 ページを飾る重要な会議だったと思う。
   SG7(標準周波数と報時信号)
 第1回SG会合で三つのWG(WG7A:時間尺度, WG7B:周波数および時刻供給,WG7C:規約関係) の議長の指名,テキスト・寄与文書の配分が行われ,続 いて各WGの審議が始まった。CCIR会議は1日を四 つの時間帯に分けてWG,IWPを配分するが,SG7 は毎日WG7A,7B,7C,をシリーズにやり,余っ た一つの時間帯をIWP7/1(UTCシステム),7/2 (用語の定義),7/3(第6,7周波数帯のF/T信号間相 互干渉の低減)の何れか一つに割り当て,議長のBecker 以下全員が参加するので大変審議の効率はよかった。 しかし,毎朝7時から佐分利,安田両氏と電話連絡しリ モコンされている素人の筆者にとってこれはハードスケ ジュールであった。
 日本の寄与文書8件はすべて貴重な情報としてテキス トに採択された。当所関係のものとしては,(1)アラン分 散の推定精度,(2)ATS-1による日米時刻比較の結果と その際,見出された相対論効果,(3)BSを用いた高精度 時刻供給法,(4)ロランCによる日米UTCスケール比較, (5)ノッチ・フィルタのロランC受信への影響,(6)受信 信号位相写真測定法,(7)名崎への移転によるRep. 267 (標準周波数と報時信号)の修正案である。これに東京 天文台のWWVH,WWV信号の伝搬時間の季節変化, 太陽周期変化,と京都大学のHF標準周波数のドップラ 効果と誠に多彩な提案で,WG7B議長のLeschiutta (伊)は2度にわたって日本のSG7への貢献の大きいこ とを賞賛してくれた。なおSG7には筆者のほか,伊藤 (NHK),山村(KDD),細田(NTT:日本電信電話 公社)の3氏も参加し大変ご協力いただいた。
 今会期中に採択された新勧告案は,(1)周波数及び位相 安定度の尺度,(2)ITU活動におけるUTC(協定世界 時)使用の徹底,(3)第10,11周波数帯における報時業務 と他業務との周波数共用,(4)第6,7周波数帯に割り当 てられたF/T業務用信号間の相互干渉の低減である。 (2)は無線通信規則ほかITU公式文書でUTCの使用を 徹底し,GMTはすべてUTCに書き換えることを勧告 している。あとの二つの勧告はWARC-Gのための CCIR-SPMに提出が予定されているが,(4)はソ連 で行っているスタガ周波数運用を全世界に適用すること, 及びそのためのバンド幅の拡大の勧告であり,京都総会 で議論を呼ぶことになろう。日本はこれまでBPV(中 国の標準電波)の混信に悩まされて,種々方策を練って きたが,今回のスタガ方式も含めて,WARC-Gへの 態度決定の時がきたものと思われる。
 さて三つのIWPは1974−78年期間の活動で成果を挙 げたとして,いずれも廃止が決定した。1978−82年期間 にはIWP7/4(衛星による全世界的時刻供給)及び IWP7/5(時間・周波数標準及び基準時計の不正確さ と信頼度)が設立された。F/T供給および国際比較に おける衛星利用は現在考えうる最善の方法であり, F/T信号の相互干渉の低減,国際比較における欧米からの 孤立状態解消のためその実施が急務であるとして,我が 国はIWP7/4に積極的に参加することを表明した。 IWP7/5はCCITT・SGX[のデジタル回線網 に関する文書を審議した結果設立が決定したもので,今 後SG7関係者の達成した超精密技術を各種通信,情報 処理システムに利用するためCCITTと連携した研究 が必要となろう。
 一方,レーザ技術のこの分野への進出も注目される。 Q53/1(40GHz以上光領域のスペクトル利用)に応 えて,サブミリ波領域の周波数合成,CWレーザの安定 化と光周波数の絶対値測定に関する新Rep. が作成され, またレーザ・ビームによる遠隔原子時計周期法が提案さ れたことなどが例として挙げられる。
 今回の最終会議に米国が将来を見越した数々の提案を 行ったが,一方我が国の寄与も誠に多彩であり,かつ内 容も充実しており,参加国代表から賞賛を受け,自分の 仕事でもないのにいい気持にさせてもらった。中国から は上海天文台の蔡,庄両氏と通訳が常時出席していた。 日本の研究に大変興味を持っており,電波研究所季報, ジャーナルも読んでおり,当所所員の名前もよく知って いるので,今後交流の機会はあるとの印象を受けた。
   INAG会議
 INAGはURSIのG研究委員会(Ionospheric Radio and Propagation) 傘下の電離層観測ネットワー ク諮問グループであり,現在Piggott(英)を議長に, Lincoln(米)を幹事とし,糟谷(日),King(英), Medinikova(ソ連),Pillet(仏),Cole(豪),Stanley(米) がそのメンバである。
 今回のINAG会議には糟谷所長の代理として出席し た筆者も含めて5人のメンバ, 3人のオブザーバ,およ びCCIR事務局の大滝氏が出席した。議題は, (1)RishbethがまとめたIAGA/URSI報告「1980年代にお ける電離層観測の二ーズ」についてのINAGの見解, (2)各国の電離層観測の現状,(3)イオノグラム・ハンドブ ックとその問題点,(4)読取り専門家の教育問題,(5)電離 層パラメータ,(6)今後のINAG会議などであった。
 (1)についてはCCIR関連の問題点について討論した あと,今年8月のURSI総会までに,COSPARそ の他の意見をきいた上でINAGの見解をまとめること にした。(2)では豪,日,英,米,フィンランドによる現 況報告のあとDodeney(英)が計算機利用デ-タ解析法 の紹介を行った。また日本からISS-bの打上げ予定 日,観測パラメータ,ISS本部長に若井氏が指名され たことなどの情報提供を行った。(3)イオノグラム・ハン ドブック及びその高緯度編については英語の原本の他, 日本語,スペイン語,ロシア語版が完成したとあって, Piggott議長はごきげんで,INAGの謝意を日本の翻 訳者一同に伝えて欲しいとのことであった。
 ただ,現在のハンドブックがやや難解なので,初心者 向けのTraining manualを出版することの可否について 討論した。この問題は読取り専門家の養成との関連で大 変重要であるとして各国の関係者に意見が求められてい る。次に(5)国際資料交換のため読み取るべき電離層パラ メータについては,IMSの終了までは混乱をさけるた め一切変更しないとの合意の下に,fxT,Esタイプ,fo Es,スプレッドFのタイプなどについての問題点の討 論が活発に行われた。
 今後のINAG開催の予定としては今年5月のATHAY (オーストリア,アルプバッハ),8月のURSI(フ ィンランド,ヘルシンキ),1979年12月のIAGA(オー ストラリア,キャンベラ)などが挙げられた。特に, URSI総会までに以上の問題点についてのINAGの見 解をまとめるためアンケート調査が行われている。
 さて堅苦しい話ばかり続いたので, ここらでフィンラ ンドのDr. Turunenのエピソードを紹介しておこう。 INAG会議が終った1月6日夜,参加者全員がMiss Lincoln のホテルに集合してパーティを開いたあと,近 所のフォンジュ専門レストランへ繰り込んだ処,Turunen が居ない。考えてみると,トイレに入っていた彼に 気づかずに皆が部屋を出て,Lincolnが外からダブルロ クしたので彼は室内に閉じ込められている。 Turunen a la toilette !!と大騒ぎとなった。結局McCue(豪)が救 出に行き,ドアを開けてみると,このフィンランドの若 者は机に向って英文詩を綴っていたとか。「電離層がそ こにある。それは美しく,不可思議である……」とみご とな詩で,セッチン詰めにあってもなお電離層を想う心 に一同涙したものである。INAG会議中も,彼は, Dodeney(英)などと熱心にイオノグラムの議論をして いた。やはり研究者は仕事に情熱を燃やすべきだと改め て思った。
   おわりに
 約1カ月間ゲネーヴェ(Geneve)に滞在して, CCIR活動に直接参加する機会を与えられ大変に得るとこ ろがあった。3〜4か国語堪能な通訳嬢のみごとさ,英 ・仏・スペイン語のドキュメントが一晩の中に刷り上り, 各人のピジョン・ボックスに届くなど,ITUの支援業 務が完備していること,各国代表のお国ぶりなど書きた いことは多々あるが,これらはフレッシュな感覚で見聞 してきた角川氏の筆にゆだねたい。最後に現地からの請 訓に対して適切な指示と激励を下さった関係各位,並び に多大の御支援をいただいたジュネーヴ在勤の諸氏に対 し厚く御礼申し上げる。

(調査部長)




CCIR研究委員会最終会議Bブロックに出席して


角 川 靖 夫

  はじめに
 CCIR最終会議Bブロックに,羽倉調査部長と共に 日本代表団に参加し,主としてSG-1を担当した。
 今回の会議の目的は羽倉調査部長の報告と同様である ので省略し,以下,SG-1,8,IWP(中間作業班) 1/2の審議の概要と会議の印象を述べる。
   SG-1(周波数有効利用と監視)
 このSGは1970年に旧SG-T(送信),SG-U(受 信),SG-[(電波監視)を統合して出来た比較的新し いもので,電波行政と特に強い関係をもち,議長はDixon (米),副議長はStruzak(ポーランド)である。
 関連寄与文書により中間会議と同様,5つの作業部会 (WGIA:スペクトラム有効利用と監視,WBIB: 発射の種別と表示,WGIC:発射の特性と測定, WG1D:電波監視,WG1E:電波雑音)と九つの作業班 (1A1:用語,1A2:スペクトラム拡散と周波数共 用,1A3:40〜3000GHz関係,1A4:レーザ関係, 1A5:スペクトラム利用効率,1A6:他のSG関連, 1C1:発射のスペクトラムとバンド幅,スプリアス関 係,1C2:F3受信機の感度測定法,1C3:放射の 安全性関係)の計14の審議グループに別れ,活発な審議 が行われた。
 日本は寄与文書が8件と米国に次いで多く,その活躍 ぶりを反映してKDD(国際電信電話株式会社)研究所 の鍛治氏は1C2と1A4の両議長に指名されたが,審 議日程の関係でやりくりがつかず,1A4の議長に他の 人を推薦して断わる程であった。
 用語関係では,中間会議勧告案に「有害な混信」 (harmful interference)に無線航行業務の字句を復活させよ うとする米国提案はRR(無線通信規則)93号の趣旨に 沿うとして認められ,SPM(特別準備会議)と WARC-Gに送られることになった。さらに,英語,フラン ス語とスペイン語の述語関係が不明確との理由で unwanted radiationがunwanted emssionに変更されること になった。これらの結果が主なものである。
 スペクトラム拡散関係は,CCIR Director Kirby氏 が重要な研究として言及しただけのことはあり,今回の SG-Tのトピックとみられる。かなり広い帯域(既存 システムの10〜100倍)に擬似雑音的にスペクトラムを拡 散させることにより,その分だけ入力のSN比が悪くと も(例えば-30dB)通信が可能であり,この特長を生か して周波数共用を図ろうとする新通信方式であり,すべ ての提案は将来性を念頭に置いて積極的に取り組んでい る米国からのものである。これは周波数利用の観点から みると,従来の狭帯域化による“economy”一本槍とは 異なり,広帯域化による“efficiency”の向上に着目した 新概念である。技術力の著しい発展の度合からみて,こ の新技術の進展が見込まれるとし,まず研究の必要性を 訴えた新Question案が,次いで一般的解説を重点とした ものと計算機シミュレーションの結果を述べた2件の新 報告案が作成された。これに関連してさらに発射のスペ クトラムとバンド幅の勧告にbaseband bandwidth, bandwidth expansion ratioが導入され,全体的にスペクトラム 拡散関係のテキストが整備された。
 約40〜3,000GHzの通信システムはWARC-Gに対 し,CCIRとして注意を喚起する意図をもって米国か ら提案された新勧告案であり,ソ連,英の反論が強く, 関連SP(AJ/1)の題名と内容をその向きに修正して SPMへ送ることになった。
 レーザ関係は当所提出関連のものであり,“3000GHz 以上の通信システム”という新題名にして,日・米両国 の最新内容を全面的に取り入れて充実させ,大いに貢献 することが出来た。両国の高い周波数帯の開拓の意欲は 他国に比べて一歩も二歩も先行している感じであった。
 可視光領域での干渉は局地的な注意で十分であるとす る米国の新勧告案に対して,日本は情報不足を理由に時 期尚早であるとして反対したが,ソ連,オーストラリア が賛同して新SP案に採択された。なお,この問題は, Aブロック会議で審議されたSG-2(宇宙,電波天文) では新勧告案として採択されているが,SG-1ではそ のことは考慮されなかった。いずれ京都総会かSPMで radio wavesの定義問題に関連して検討されると思わ れる。
 スペクトラム利用効率のより一般性のある定義を目指 した日本提案は全面的に認められ,ソ連の新提案と共に 充実した報告修正案にまとめることが出来た。
 短波無線電話スペクトラムの圧縮の日本提案は,帯域 節減の良さを評価されてほぼ原案通り採択された。
 当所の陸上移動無線の混信予測法は,米国の積極的な 援助を受けて題名と内容の重点を周波数有効利用面から 書き直した結果,その有効性が認められて新報告案とな った。
 発射の種別と表示の近代化は新通信方式が出現しても 広く対応できることを主眼に,その明確化を図ろうとす るものであり,開会のあいさつの中で成果を期待してい る旨のCCIRのDirector Kirby氏の発言にもみられる ように,WARC-Gの最大課題の一つと考えられる。
 12の主管庁の試行結果にもとづき中問会議案を若干変 更したIWP1/1案の勧告案を中心に,ソ連の修正提案 を含めて活発な議論が展開された。中間会議の前後から 十分な審議と試行実績を重ねたIWP案の骨格はくずす べきではないとする意見が多数を占め,結局この案の必 要周波数帯幅と字句の不明瞭な数個所などを手直しした 日本の方針に沿った修正案が通り,議長のDixon氏が WARC-Gに提案して認めてもらう努力をすることに なった。
 スペクトラム拡散は変調技術の多様性を含んだ新技術 であるので,より適切な発射の表示の取扱いについては 将来の問題として再検討することになった。
 発射のスペクトラムとバンド幅は,送信設備に関する 電波の質を表わす場合にはradiationを使わずemissionに 統一することが合意され,スプリアス関係の関連テキス トでもそのように修正され明確になった。SPMに対す る寄与として,necessary bandwidth,spurious emission, out-of-band spectrum,Out-of-band emission, unwanted emissionの定義をRRに導入するようSG-1として要 請することが了承された。
 作業班1C2のF3受信機の感度測定法については, 鍛治議長の努力と各国の協力により,日本の実測結果を 取り入れて受信機の特性による欧・米両測定法の差異を, 明確にした修正案をつくることが出来た。
 電波監視関係では日本の貢献が大きく,監理局の自動 監視総合測定の重要性を強調した新Question案は,内容 を十分取り入れた旧Question案の修正で目的を十分に達 し,総合監視装置は西独のものを含めて新報告案となった。
 また,当所のIC制御電測記録器は新素子で構成した ことによる広い動作範囲と直線性の良さを認められて目 的通りテキストに追加された。
 その他には,ソ連の監視局でのバンド幅測定関係の2 件がそれぞれ簡潔な形で関連テキストに取り入れられた。
 電波雑音関係ではスペクトラム有効利用に役立つ雑音 データとして0.1Hz〜100GHzの地上外来雑音レベルをま とめて図示した米国報告案が,無線システム設計と複合 雑音の研究の重要性を強調した今会議の唯一の新勧告案 に取り入れられた以外,特に目新しいものはなかった。
   IWP1/2(計算機利用による周波数管理)
 このSGの始まる直前の1978年1月18〜20日の3日間, 同じ会場で開催された。今度が第1回目であり,8か国 の主管庁が参加し,議長はMayher(米),CCIR, IFRBから各1名の総数12名である。
 このIWPは周波数の最適な利用法の確立を計算機デ ータベースで実行するにはどのようにすればよいか研究 することが主眼である。電波型式,入力項目の選定と表 記法,システムモデルの関係を検討する手始めとして, 参加各国の現況の紹介(日本も簡単な資料提供)が行わ れた。周波数管理のために計算機ハンドブックのような マニュアルを将来作成することを目標に,各国の情報を 収集することが予定され,今後の活動が期待される。
   SG-8(移動業務)
 直接審議に参加することは出来なかったので,報告会 などから得た動向を述べることにする。
 陸上移動関係では,25〜1,000MHzの機器特性と周波 数割当原則の勧告案は450MHz帯で12.5kHz間隔の周 波数安定度が日本の提案通り3ppmとなり,受信機のス プリアス安定度が若干厳しい値になったほか,当所のリ ンコンペックス方式の隣接妨害の実験結果が希望通りテ キストに追加された。
 海上移動業務関係ではデジタル・セルコールの運用要 件と技術特性については,KDDの小林議長の努力によ り大幅な見直しが行われ,充実した勧告案となり,実用 化に向けて一歩踏み出したとのことである。また,1990 年代を目指した全世界的な海上救難システムの新報告案 には抽象的な部分もあるが,HF帯の伝搬特性を生かし た将来の長距離遭難救助システムの一応の方向付けが出 来たことは注目される。
 海上移動衛星関係では,電話の総合伝送特性をはじめ 7件の新勧告案がまとめられたが,インマルサット (INMARSAT)へのはね返りを配慮して各国とも勧告案 の取扱いについては特に慎重であったとのことである。
 航行移動関係の周波数共用問題では,バンド9(1,215 〜1,240GHz)におけるNAVSTAR/GPSと地上系(固 定,アマチュア,航行援助)の干渉について,地上の一 部大口径レーダは前者の影響を受けるが,逆にアマチュ ア局と固定局は前者に大きな影響を与えること。米国報 告案が関心を引いた。また,13GHz帯の宇宙業務と航空 無線の共用については,SG-2(宇宙,電波天文)と共 同で検討されることになり,14GHz帯の固定業務用衛星と 航行衛星との共用暫定規準値は継続審議となった。
 従来の海上移動衛星,航空移動衛星の技術特性とは多 分異なるであろうとする一般移動衛星の新Question案と, これに関連した米国政府衛星(USGCSS,PHASE U, 7/8GHz帯4波,全バンド幅410MHz,東,西大平洋, 大西洋,インド洋に各1個,船舶は全世界,航空機は米 国のみ,主に天災,人命救助,科学研究,探索用)につ いては,船,陸,空の移動体システムがアンテナ等を除 きすべて同じであることをねらった点で異色であり,こ の関係の周波数共用の考案として2件が新報告案となっ た。審議の際,このような衛星は他のSGとの関連もあ り,RRに未規定ゆえ,その修正が必要となり得るので 慎重に扱うべきである旨の意見が欧州を中心に強く出さ れたが,米国代表団の強力な意見表明が一応功を奏した 結果になったとのことであり,今後の動向に十分注意す る必要があるとみられる。
 また,北欧4か国の公衆電話回線の陸・海共用システ ムの新Question案は,従来の陸上移動業務,海上移動業 務のような区別をしないで一本化したい意図が感ぜられ, 今後の進展具合に関心をもつべきことの一つであろう。
   あとがき
 初めて参加して,見ると聞くとはかなり異なり大変良 い勉強になった。これはグリーンブックだけをいくら読 んでいてもわからないことであろうと思う。今後,寄与 文書を提出して各国からこれまで以上に高い評価を受け るには,前回までの関連テキストの審議の流れとやりと りを十分に把握して焦点の合った出し方をすることが肝 要であると実感された。
 目的とする審議成果を得るには,審議に参加する前に 必要となる,会場でのいろいろな手続き,建物の配置書 のノウハウは意外と大事であり,さらに各国代表団と親 交を深めて提案文書等についてあらかじめ感触を得てお くことは,このような会議では特に重要である。
 ドキュメント・コントロールの処理文書作成の迅速さ に象徴される事務局の会議運営に対する協力体制を始め, 米,英,西独,オランダ等のドラフティング作業に分を 惜しまず,SG-1での成果を挙げようとする気力には 目を見張るものがあった。
 また,提案文書1〜2件を専属に担当する専門家から なる大代表団を構成して,どんな質問にでも答えられる ようにしていた米国はさすがであり,オーストラリア, 西独,スウェーデン等と同様に若手とベテランを起用し てCCIR向きの専門家を長期間で育成しようとしてい る感じを強く受けた。
 日本の寄与文書はいずれもテキストの近代化と充実化 を目指したものばかりであり,担当代表団員の活躍,適 切な請訓,ジュネーブ在勤諸氏の強力な支援により所期 の目的を達し,大いに貢献することができた。
 最後に,このような機会を与えられた糟谷所長,加藤 次長,田尾,羽倉,宮島の各部長はじめ関係者の方々に 心から感謝します。

(通信機器部通信系研究室長)


短   信


逓信記念日の表彰について

 4月20日の第45回逓信記念日に際し,当所関係では, 特に電波研究業務に功績のあった1団体と個人1名に対 し,事業優績者として表彰状と記念品が贈られた。また 永年勤続功労者としては,41名の職員がそれぞれ表彰さ れた。
  大臣表彰
「電波研究所ETS-U実験グループ(22人)」
 我が国初の静止型の技術試験衛星(ETS-U,きく2号) にコヒーレントなセンチ波,準ミリ波,ミリ波の3種の 発振器を搭載し,電波技術の先端を行く地上通信システ ムを開発整備し,世界で始めて衛星,地上間ミリ波伝搬 に関する総合的な実験を行った。この実験結果は,広く 内外に発表され,初めてミリ波帯電波を衛星通信に利用 する端緒を開いたものとして高く評価され,またCS(準 ミリ波帯),ECS(ミリ波帯)計画に対する世界の期待 を更に高めることになった。このようにETS-U実験 の成果は,衛星通信における新周波数スペクトラム開発 の先駆者としての我が国の地位を確立したものであり, あらゆる困難を克服し,この実験を成功に導いた功績が 顕著であった。
  所長表彰
「電波部電波気象研究室長 技官 小林 常人」
 多年にわたり電波の伝搬特性の研究に従事し,旺盛な 研究心とたゆまぬ努力によりミリ波,準ミリ波帯電波の 降雨による交差偏波識別度の劣化及び散乱に関する実験 研究を行い幾多の成果を挙げるとともに電波技術審議会 専門委員として準ミリ波帯以上の電波伝搬特性の統一的 理解に寄与する等,超高周波帯電波伝搬の研究分野にお いて多大の貢献をした。
  永年(30年)動続功労者
本所 加藤一夫 村主行康 石田 享 宮島貞光
   佐分利義和 野元七夫 山岡 誠 村上 昭
   原田喜久男 渡辺昭二 合歓垣礼子 井上良助
   北条尚志 竹之下裕五郎 山田勝啓 入間山津
   上田輝雄 赤塚耕輔 小林三郎 近藤幸衛
   田上隆二 松本良雄 守屋淑子 小此木つね子
   矢沢栄子 野田 進 田島雪男 石沢 薫
   鈴木峯子 鈴本一雄(退職者)
鹿島支所    池上吉太郎 澤路和明
平磯支所    松田日升雄 木所常一 礒崎光枝
稚内電波観測所 大山治男 小田 忠
秋田電波観測所 森 哲造 越前谷喜松
山川電波観測所 上敷領昭五
沖縄電波観測所 吹留重春



ISS-bの定常段階への移行

 電離層観測衛星「うめ2号」は本年2月16日,宇宙開 発事業団(NASDA)種子島宇宙センタからほぼ予定の 軌道に打ち上げられ,以後,NASDAを中心に当所が支 援して初期段階のミッション機器の動作チェックを含む 各種の点検及び確認が実施されてきた。その結果,一部 機器を除き利用実験等の運用業務に供することが可能と 判断され,本年4月24日に郵政省が行う定常段階の運用 業務に移行した。なお,本衛星の軌道,ミッション機器 等については本ニュース,1976. 5. No.2「電離層観測衛 星ISS」及び,1978. 3. No24短信「ISS-bの打上げ」 を参照されたい。



第19次南極観測夏隊報告

 第19次夏隊(第19次観測副隊長(夏隊長)として当所か ら大瀬正美主任研究官が参加)は,第20次から開始する 気水圏,地学観測計画の予備調査として地質測地の沿岸 調査を主テーマに活動した。今夏は天候が異常に不良で 日射量が少なく浮氷群の消化が少ないため「ふじ」は氷 海進入に難航した。しかし悪天候のために気温が低下せ ず,定着氷の厚さが薄かったことが幸いして8年ぶりに 容易に接岸することができた。電離層部門は,第18次に 建設した新電離層棟に移転のためアース工事とアンテナ の移動整備を行った。アース工事では新棟周辺の砂岩を 取りのぞいて岩盤にアースを取り最終的に接地抵抗約39 オームの値を得,ほぼ目的を達成した。アンテナ移動と ケーブル取替えは順調で,棟内配線,機器設置等も余り トラブルなく行われた。新棟での観測開始まで旧棟で観 測を続行していたが,4月15日に機器調整も終りすべて 新電離層棟に切替えた。これによって4年計画による電 離層棟新築工事は終了した。


昭和基地

  海事衛星船舶地球局の実験について
 今回初めて,マリサット衛星通信施設を「ふじ」船上 の電離層観測室に設置して各海域における実験を行った。 これは将来,南極通信を衛星で行うためのテストである。 暴風圏では片舷最高45°まで動揺したがアンテナ追尾は 良好であった。氷海や基地周辺では大西洋上の衛星を利 用したのでアンテナ仰角が3°前後となり,航行中は氷 山によるブロッキングが多く見られた。また,フェージン グは氷海内よりむしろ静穏な海水上で多く,砕氷航行時 の衝撃は殆ど問題なかった。今回は,印度洋上の衛星が 商用化していなかったために,太平洋と大西洋上の衛星 を使用し,印度洋上の衛星からはビーコン電波のみを受 信した。2月接岸中のEXOS-Aの打上げに際しては この施設で軌道データ及び基地での受信データの通話を 行い速報することが出来た。今夏,印度洋上の衛星用地 球局がKDD山口受信所に開設されれば基地との直接通 話やデータ伝送が可能になるので,昭和基地ではこの施 設の設置を強く望んでいる。