電波随想

CCIR第14回京都総会に際して


次長 加藤 一夫

  今総会の目玉
 6月7日から23日まで17日間にわたり,国立京都国際 会館において,CCIR第14回総会が開催されることとな った。我々電波関係の仕事に携わる者は,多年にわたり CCIRの会議が,わが国に招致されることを強く希望し てきたが,この度漸く実現する運びとなったことは,誠 に喜ばしいことである。今度の総会はアジア地域での開 催としては,インドについで2回目であるが,従来の総 会と比較して,特に重要な意義がある。それは明1979年 秋に,20年ぶりに業務別周波数分配表の全面見直しを中 心に電気通信条約附属無線通信規則の全般的改正をする 世界無線通信主管庁会議が開催されるが,今回のCCIR 第14回総会には,その技術的基礎を固めるという任務が あることである。その具体的な多くの問題の中で,特に 時代の要請で生まれた最先端の問題として,周波数資源 の開発を図るため,ミリ波以上の高い周波数の電波領域 の通信システム,更にはレーザ利用のシステム等に関する 研究が,報告や調査計画の形で多数出されている。そして 特にレーザ通信に関しては,現行の無線通信規則に規定 きれていろ電波の定義に係わる問題に発展して,討議さ れようとしている。御承知のように,一般にいわゆる電 波と言えば,電磁波のことで,レーザも可視光も電波で あるが,無線通信規則上は,3,000GHz以下の電磁波と 定義されている。
 レーザにからむこれらの問題を,前回の総会以来,中 間会議,最終会議と経て,今回の会議の中心的議題の一 つにまで持ってくるのに,主導的役割を果したのは,我 が国であり,ここまでくるには主管庁である郵政省は勿 論,電波技術審議会や関係機関の方々の多くの努力の積 み重ねがあった訳であるが,私もその担当者の一員と して関係したので,とりわけ感慨深いものがある。
  レーザと電波監理
 10年以上も前になるが,メーカーの電子機器の展示会 で,レーザ通信装置を見た時に,説明員にレーザ通信の 特徴について尋ねると,当時私は電波監理局の技術調査 課におり,技術的問題点を問いたのであるが,その説明 員は,私が電波監理局の関係者とも知らず,即座に,レ ーザ通信は電波監理の対象となっていないので,うるさ い規制がないと言う答えが返ってきたのを憶えている。 なるほど世間一般の人々は,電波が電波法と言うルール があるから,秩序正しく使われていることを忘れ,電波 監理は,うるさいもの,面倒くさいものと考えていると ころがあることを知らされた。
  CCIRヘレーザの研究をすべきことを提案
 その後レーザの進歩発展は著しく,一方従来の電波領 域は情報化社会の進展に伴う周波数需要の激増により, 混雑の度を深める一方であると言うことで,前回の第13 回総会の間近かな時であったが,その頃私は周波数課長を しており,CCIRもレーザを研究対象とするよう提案す ることとした。会議には当時の田中放送部技術課長(現 無線通信部長)が,日本代表団の団長として出席し, CCIRもレーザ通信の研究をすべきであるとの決議案の形 で提案した。会議では,一部反対もあったが,代表団の 努力により,多数の賛成を得ることができた。ただし決 議とするより,新研究問題を設ける方が適当で,別途提 案すべきであるということになった。そこで昭和50年の 秋になるが,新研究問題案を作成し,CCIRの回章とし て関係国に事務局を通じて配布し,書面審議の形をとり, 20か国以上の賛成を得て,正式に新研究問題として採択 された。この研究問題案の作成に当っては,電波監理局 内の周波数課及び技術調査課の課長補佐や係長などの若 手が中心となり・非常な意欲をもって取り組んでくれた。 そしてこの研究問題の中味をどうするか検討の末,レー ザの研究ということだけでなく広く40GHz以上の電波の 高い部分,赤外,更に可視光領域の電磁波を実用に供す る場合の問題点についての研究及び最近の技術の進歩を 考慮して電波の上限周波数につき再検討する必要がある という内容にした。
 この提案は誠に時宜を得たものであった。当時ジュネ ーブで,CCIR事務局員として活躍していた新井君(現 海上保安庁通信管理課長)から,CCIR事務局もKirby 委員長をはじめ,適切な提案として高く評価していると 間がされた。CCIR事務局も多くの技術問題の提案を受 けてはいるが,所掌の周波数スペクトル範囲の拡大とい う基本的な問題の提案に大賞成した訳である。
 この新提案はテキストNo.Q-53となり,その後これに 対応する多数の寄与文書や意見書等が,各国から提案さ れており,今総会で審議,承認されるはずで,CCIRの 研究もいよいよミリ波から更に3,000GHzの枠を越えて, 光領域にまで広がり,これと同時に電波を3,000GHz 以下とする現行無線通信規則の定義を再検討する問題が 起きてきた訳である。
  Q-53に対応する研究の発展を期待
 国際周波数分配の歴史を振り返ってみると,1906年 (明治39年)ベルリンで開催された第1回国際無線電信会 議の時に,初めて500kHzと1,000kHzの周波数が,船 舶通信の電信用として定められてから,1927年(昭和2 年)のワシントン会議で23MHzヘ,更に1938年(昭和 13年)のカイロ会議で,200MHzまで周波数分配の幅が 広げられた。そして第2次世界大戦後の1947年(昭和22 年)のアトランティック・シティ会議では,戦争中の技 術進歩を反映して10.5GHzまで一挙に伸び,1959年(昭 和34年)のジュネーブ会議においては,40GHzまで,各 種業務への周波数分配が行われた。これが現行規則のべ ースとなっている。その後1971年には,宇宙無線通信業 務に限定してではあるが,40〜275GHzの周波数帯につ いて部分的分配が行われ,周波数分配の上限は275GHz に達した。このような経過を考えると,現在は,1959年 の大会議から,既に約20年を経過しており,この間にお ける無線通信技術の著しい進歩を思えば,国際分配周波 数の再検討や上限周波数の拡大を図る時期にきていると 思われる。CCIRが国際電気通信連合の諮問機関として, これらの問題の研究に積極的に取り組むのは当然であり, 例えばレーザに関する問題を取り扱うと直ちに監理の強 化につながると考えるのは当らない。周波数スペクトル の有効利用を図るため,どのような技術基準が必要か, どのような監理が望ましいかなど,すべてがCCIRの調 査研究対象であると思う。
 現在,電波研究所においては,周波数資源の開発とい うことで,40GHz以上のミリ波領域の研究に力を入れ 始めており,またレーザについても応用研究が進められ ているが,私も今度は設定されたQ-53に対応して研究 を進める側にいる訳で,この仕事の発展を期待してい る。




14GHz帯における降雨散乱実験


通信,放送衛星計画推進本部

  降雨散乱実験の意義
 当所では将来の衛星通信における準ミリ波及びミリ波 利用のため,各種の実験を進めてきている。特に電波伝 搬上解決すべき問題として,これまで降雨による減衰及 び交差偏波識別度劣化に対して重点的に取り組んできた。
 しかし,これらの問題は主として自己の回線を,より 有効に利用するための研究である。これに対し,ここで 取り上げる降雨散乱は,降雨がある場合,雨滴に当った 電波が四方八方に散乱される現象であって,他の通信回 線に干渉を与えるおそれがあるということに問題の発端 がある。
 通信回線の需要が少ない場合には,それぞれの回線を 十分に離しておけば何等問題はないが,周波数の需要増 大に応じて貴重な資源である周波数を,より有効に利用 するためには積極的に降雨散乱の実態を把握し,定量的 評価の方法を確立しておく必要がある。これにより互い に干渉しないで通信が可能な,より合理的な置局間隔を 導くことができる。
 今回の実験は実験用中型放送衛星(BS)実験実施計画 の一環として,日本放送協会(NHK)の協力を得て実施 されたものである。短期間の予備実験であり,複雑なパ ラメータに影響される降雨散乱現象の全ぼうを知るには 程遠いが,今後の実験の進め方及び従来からの 理論的考え方の適否を判断することができた。 また,技術試験衛星(ETS-U)に始まる一連 の衛星通信のデータ解析に,基礎的な降雨域の 情報源として活躍している降雨レーダから得ら れた記録が,降雨散乱現象を究明するためにも 大いに役立つことが分かった。


図1 降雨散乱実験システム

  実験方法
 図1は今回行われた降雨散乱実験システムを 示すもので,NHK可搬B局から,ある一定の仰 角で14GHz(A2チャンネル:14.2875GHz) の電波を送信し,鹿島支所に設置されたBS主 局の13mφパラボラアンテナで,降雨散乱波を 測定する。そして散乱波受信電力と散乱点直下 に設置した即応型雨量計による降雨強度及び降 雨レーダにより測定される等価降雨強度との関 係を比較検討しようとするものである。
 実験期間は1977年8月22日から9月3日まで の2週間であったが,実験準備及び測定機器の 調整期間を除いて実質的に測定が行われたのは 5日間に過ぎなかった。
 送信点は茨城県鹿島郡大洋村汲上(緯度36.116° 経度140.587°),受信点は鹿島支所(緯度35.953° 経度140.666°)で,送受信点間距離を19.4qに,また, 降雨レーダ記録との対応の都合上,目標散乱点の高度を 3qに選び,送受信アンテナの仰角をそれぞれ25.87°及 び12.44°に設定することとした。使用した送受信アンテ ナビームの半値幅は,それぞれ0.73°及び0.10°であって, 共通散乱容積はおよそ直径23.6m,長さ140mの細長 い円柱と考えられる。したがってアンテナの方向合わせ 等には,この程度の精度を考慮する必要がある。
 降雨現象がある場合,どのような降雨域ができている かということは,降雨レーダの記録を見ると気象の専門 外の者でも,かなりの判断をつけることができる。例え ば夏季における典型的な層状性降雨の場合,上空の氷晶 核が雪片に成長し,約5qの高さの0℃層附近で融解し て雨滴となり地上に落ちてくることがよく分かる。0℃ 層附近では氷が水膜に覆われ,電波に対する減衰は小さ い割合に散乱の効果は大きいので,レーダでは輝いた層 が観測される。これをブライトバンドという。したがっ て一般的に降雨散乱が問題となるのは0℃層以下の降雨 域である。
 アンテナの方向合わせは,地図上の計算値では不十分 と判断されたので,地上波を使うことにした。すなわち 送受信アンテナの仰角を0°として,両者を対向させた 状態で電波を放射し,地上波が最大感度となるように両 アンテナの方位角及び仰角を調整した。
 電波の干渉を考慮するうえで,地上波の評価を正確に できるようにすることも,必要な課題の一つであるが, 本実験で地上波モードは,参照信号として大いに役立っ た。
 送受信アンテナの仰角をそれぞれ25.87°及び12.44°に 上げた場合,アンテナの指向性により地上波は全く受信 できない状態になる。実験に使用した受信機は,アンテ ナ指向特性測定用のもので,ノイズレベルは約-100dBm である。降雨散乱波測定状態における地上波レベルは, 送受信アンテナの指向性から-145dBm以下と推定される。
 8月24日11時30分から測定を開始したが,信号らしき ものは何も見出せなかった。時々受信アンテナの仰角を 下げて,地上波モードで送受の状態を確認しながら監視 を続けていると,14時55分に突然散乱波が入感した。8 月は異常に雨が多かったが,皮肉なことに実験が開始さ れると雨がほとんど降らなくなってしまった。この日も 大して雨模様にもならず,半ばあきらめながら測定を続 けていたのであったが,初めて散乱波が受信できたと きの感激は,研究者ならでは味わえないものであっ た。
 今回の実験で降雨散乱波は,総合して5時間程度受 信できた。その受信電力は降雨レーダの指数と非常に 良い相関があった。しかしながら降雨の形式は対流性 の一種ともいうべきものであり,地上の降雨量は極め て少なく,即応型雨量計の指示との対応は良くなかっ た。
  解析結果
 降雨によって電波が散乱される現象の理論的取り扱 いは,空が青く見えることを証明した理論として有名 な,レーレー理論によって第一次近似的に考えられる。 この場合,雨の一粒,一粒が入射する電波によって励 振され,微小電気タイポールとして振舞い電波を再放射 するものである。
 散乱波の強度は,電波の波長に比べて雨滴の直径が小 さい場合,雨滴の直径の6乗に比例するという関係があ る。降雨強度が与えられると,これに対して雨滴の粒度 分布(Laws及びParsonsの分布が広く用いられる)と 雨滴の終端速度(Gunn及びKinzerの測定結果)を参考 として,降雨散乱受信電力が計算できる。実用性を考慮 しながら,送受信アンテナの主ビームが交差する場合に ついて,降雨散乱受信電力の計算式を導いた。
 この結果から注目すべきことは,指向性の鋭い方のア ンテナの利得及びこのアンテナから散乱源までの距離が, 散乱受信電力に影響しないことである。このような効果 は,利得の大きいアンテナの場合,ビームが鋭く共通散 乱容積を減ずることによって生ずるものである。また受 信電力を評価する式が示すように,距離の項は単に指向 性の鋭くない方のアンテナから散乱源までの距離に逆比 例するに過ぎないから降雨散乱による干渉はかなり遠距 離まで波及するおそれがある。


表 実験緒元


図2 本実験の場合の降雨散乱受信電力Pr(dBm)と 降雨強度R(mm/h)との関係(計算値と測定値)

 表は本実験の諸元であり,これを基に本実験の場合の 降雨散乱受信電力と降雨強度との関係を計算した曲線を 図2に示す。この図上で例えば10o/hの降雨があると 散乱波受信電力は-56dBmになる。途中の降雨域が広く, かなりの降雨減衰を受けても-68dBm程度と評価される。 同図に併記した枠は,測定された散乱受信電力を,また, 降雨レーダ指数をも参考に示したものである。例えば指 数3は等価降雨強度として1o/hないし3.4o/hであ り,測定値は-60dBmないし-72dBmにあることを示す。
 今回の実験結果だけでは,データ不足のためこの図表 の信頼性を云々できないが,理論的な考え方に大過ない ことを実験的に確かめ得たといえる。そして特に強調し たいことは,上空の雨域の情報を知るために,降雨レー ダが非常に有効であったということである。
 降雨レーダは雨雲及びブライトバンド等を含めて後方 散乱波を受信し,Z因子として表示しているものであ る。したがって本実験の目標としている降雨散乱波とは, 同一現象を取り扱っており,良い相関があるのは当然と いう見方もある。しかしながら少なくとも周波数,散乱 方向性及び分解能の相違を超えて,降雨レーダを上空の 雨量計として信頼できることは,かなりの進展ではなか ろうか。
 しかして回線設計は究極のところ,豊富な地上雨量の データを用いて行われることになるが,この場合,降雨 レーダの測定するZ因子と地上雨量の相関について,一 層統計的なデータを確立しておく必要がある。
 降雨散乱による干渉として今後研究を進めるべき対象 としては,地上固定局のほぼ水平の主ビームと地球局の サイドローブが共通散乱域を構成する場合及び地球局の 主ビームと地上固定局のサイドローブが共通散乱領域を 構成する場合との二通りがある。特に前者の場合地球局 は,かなり弱い衛星からの電波を受信しているので,そ の影響は大きい。
 このような問題を解決するために,測定機器を整備し て一層活発に降雨散乱の研究を進める必要がある。また, 研究の進展とともに,周波数のより有効な利用のため, 交差偏波の場合についての研究も必要となってくるであ ろう。

(電波部電波気象研究部室 室長 小林 常人,研究官 北村 勝巳)




アメリカ・カナダの国内衛星通信見聞記


内門 修一

  はじめに
 昭和53年4月1日から4月17日にかけて,アメリカ及 びカナダの国内衛星通信システム,その活動状況,通信 衛星の製作と打上げ等について調査を行ってきたので, その概要を紹介する。
  日  程
 調査対象とその訪問日程は次のとおりである。
   ニューヨーク
4月3日 RCAアメリコム社
4月4日 ウェスタン・ユニオン社
  ワシントン
4月5日 アメリカ航空宇宙局本局
4月6日 アメリカ航空宇宙局ゴダード宇宙飛行センタ
4月10日 連邦通信委員会
  トロント
4月11日 テレサット・カナダ社のアランパーク地球局
  オタワ
4月12日 カナダ通信省
4月13日 テレサット・カナダ社本社
4月14日 カナダ通信省のシャーリィベイ研究所
     (正式名Communications Research Centre)
  ニューヨーク
 4月1日の朝10時に羽田空港を飛び立った飛行機は, 同じ日の朝10時にケネディ空港に着いた。アラスカ付近 で1晩過したはずなのにと思うと1日得をした気になる。 ニューヨーク市の経済は赤字なので,空港から市内のホ テルヘ行く道はゴミだらけ穴ぼこだらけであった。後で 訪れたワシントン市の美しさと比べたら雲泥の差がある。 それでも,空港の広大さ,エンパイア・ステート・ビル が埋もれてしまいそうな超高層ビル群,飛行機から眺め た夜景のスケールの大きさには驚かされる。
 東京を出る時,ニューヨークの強盗に気を付けよ,と 言われたが,ニューヨークには大勢の市民が住んで生活 している所であり危険で住みにくい所とは思わなかった。 ニューヨークの人は気さくで親しめる人々である。しか し,見たところ職を持たない黒人が大勢町をうろついて いるのを見るのは良い気持はしない。後で訪問したオタ ワの黒人が教育を受け,ちゃんとした仕事を持って市内 を意気揚々と歩いているのと比べると大きな差がある。
 RCAアメリコム社とウェスタン・ユニオン社の訪問 には,日本電信電話公社ニューヨーク海外事務所の池内 調査役に同行して戴いた。両社ともSATCOM,WESTAR という衛星を2個づつ打ち上げて国内衛星通信サービス を提供している公衆通信事業者である。所有している送 信可能な地球局の数は5〜6局であり,地上通信回線に 干渉を与えも,受けもしない置局候補地を捜すのに苦労 している。RCAはテレビ受信専門局を270局持ってお り,CATV網と結合しているのが特色である。目下,テ レビ受信専門局を1日1局の割合で建設しているとい う盛況振りである。ウェスタン・ユニオンの方は国内長 距離マイクロ回線網(電信専用)を持っており,それと 衛星通信系をリングさせているのが特色である。その他 に,放送事業者の番組中継も行っている。
 アメリカ及びカナダの国内衛星通信系では,同一のシ ステム・パラメータを採用し,地球局の規模を揃えてい る。例えば,
●4/6GHz帯の送受信可能な地球局のアンテナ直径を 9〜10mとする,
●4GHz帯テレビ受信専門局のアンテナ直径を4.5mと する,
●4GHz帯ラジオ受信専門局のアンテナ直径を1mとする,
●トランスポンダの伝送帯域幅を34MHzとする,
●テレビの無線周波数帯の占有周波数帯幅を17.5MHz とする,
等である。
 ニューヨークから日本へ電話を掛けたり,手紙を出し たりしたが,その料金が電話が1分間3ドル,手紙が25 セント(カナダでは35セント)と非常に安かった。日本 からだと倍以上の料金になるし,日本の国内料金と比べ ても安いと思う。アメリカの国内衛星通信の料金も1分 間3ドルであり,ここらが衛星通信の相場のように思わ れる。また,電話についてはアメリカ側のエコーサプレ ッサの性能が悪く,話頭音は切れるし雑音が多くて使い にくかった。日本でCS(実験用中容量静止通信衛星)折 り返しで試験した際の電話では話頭音は切れず,遅延も 気にならなかったが,それは日本製のエコー・サプレッ サの性能が良いからだと聞かされた。

表 米国、RCA国内衛星通信系対Bell社地上通信回線 の使用料金の差(12チャンネルを1年間使用した場合の衛 星通信系料金の低廉さ

  ワシントン
 ワシントンではアメリカの政府機関を訪問した。まず 航空宇宙局本局では日本大使館の舘野一等書記官と一緒 に,スペース・シャトルの打上げシステム,打上げ申込 み手順,打上げ料金,デルタ・ロケットからシャトルヘ の移行計画等について説明を受けた。シャトルの料金は シャトル1台を専有する場合は3,100万ドル(インフレ を見込んだ1980年ドル建て)である。デルタ・ロケット 級の衛星打上げに対しては,この金額の16.4%相当を負 担(510万ドル)すればよい。この他に,シャトル打上げ の場合,SSUS(Spinning Solid Upper Stages)をマ クダネルダグラス社から購入する必要がある。航空宇宙 局ではデルタ・ロケットの打上げを1979年3月で打ち切 り,それ以降はデルタ3910ロケット(シャトルの代替ロ ケット)又はスペース・シャトルを使うことになる。
 ゴダード宇宙飛行センタでは,ここに留学中の当所の 有賀 規研究官が構内を案内してくれた。ここを訪れた 日の夕方,BS(実験用中型放送衛星)の打上げがあり, その様子をここの打上げ管制室でモニタすることができ た。デルタ・ロケットによる打上げはアメリカでは珍し い出来事ではなく,担当者達は打上げ仕事をルーチン的 にこなしていた。ゴダードの施設は打上げロケットがデ ルタからシャトルへ移行しても大した改造なしで使用可 能とのことである。
 連邦通信委員会は,国内衛星通信について“Open Sky Policy” を採用し公衆通信事業者に自由競争をさせてい るが,衛星通信システムの建設により生ずる電波干渉の 調整については1934年の通信法に基づき厳しい規制を行 っている。例えば,6/4GHz帯の衛星通信系に関して は,送信可能な地球局のアンテナの直径は9m以上,テ レビ受信専門局のアンテナの直径は4.5m以上,衛星の 軌道間隔は3度(これまでは5度であり,ANIK衛星に 対しては依然として5度である)以上と規制している。 又,干渉調整を盾にして広大なアメリカ国内に,送信可 能な地球局の数を20数局に制限している。日本と異なり アメリカの公衆通信事業者は複数あり,自由競争によっ て,安くて良い通信サービスを普及させようとしている ので,それだけ公衆通信事業者にとっては厳しい環境で ある。
 ワシントンは世界一強い国の首都だけに,町は広々と し,りっぱな建物が整然と立ち並び,その威厳に充ちた 豪華さは,アフリカからローマ帝国の首都ローマへ上っ てきた往時の下っ端役人のように錯覚させた程である。


図1 テレサット・カナダ社のANIK-B衛星

  トロント
 ワシントンからオタワヘ行く途中,飛行機をトロント 空港で乗り換えることになっていたので,その間を利用 してテレサット・カナダ社のアランパーク地球局を見学 することにした。カナダでの私の案内役は郵政省から CRC(カナダ通信研究センタ)へ留学している小嶋 弘 研究官である。空港から地球局までは日本製のレンタカ ーで約3時間の道程であり,沿道には4月というのに雪 が残り,おまけにどしゃ降りであったので雪まじりの水 が道に溢れんばかりであった。行けども行けども真直ぐ な道が北へ向かって続いており,二人とも心細い思いで, 地球局に着くまではと休まず走り続けた。
 アランパーグ地球局はなだらかな牧場の多い平野にあ った。同局は40人の職員で3個のANIK-A衛星の運用 管制を行っている。局全体としてはこじんまりとしてお り,当所鹿島支所のCS-BS庁舎の半分ぐらいの規模で ある。ここで今年11月に打ち上げられるANIK-Bの運 用管制も行うとのことである。
  オタワ
 オタワの4月はニューョークやワシントンに比べると 寒く,東京の冬と同じである。家々の北側や空地には掻 き寄せられた雪が堆く積もり,オタワ川は約1q程の川 幅の端から端まで凍っていた。
 カナダの通信省ではANIK‐B,ANIK‐C,ANIK‐D, MUSAT等の将来計画,1969年のテレサット・カナダ法等 について説明を受けた。MUSAT(Multi-purpose UHF Satellite) は,カナダが1982年の打上げを目指して計画 している海事通信衛星兼陸上移動衛星である。これにつ いては,科学技術庁の招聘で本年6月7日から半年間, 電波研究所に滞在されるロスコー(Roscoe)課長から説 明を受けた。
 テレサット・カナダ本社ではANIK‐A,ANIK-C の話を聞いた。これについては,今年2月にISS打上 げ見学のために訪日されたチニック(Chinnick)副社長 から詳しく話を伺った。テレサット・カナダもRCAや ウェスタン・ユニオンも国内衛星通信は将来性のあるベ ンチャ・ビジネスとして真剣にその推進に取り組んでお り,地上通信回線に負けない,しかも地上通信回線が提 供できない通信サービスの開発普及に努力している。
 CRCではCTS(Communications Technology Satellite) 実験実施システムの話を伺った。CTSは1976年 1月に打上げられ,設計寿命の2年間にわたって各種の応 用実験や基礎実験が行われた。現在,寿命が1年延びた ので応用実験の続き,各種のデモンストレーション等を 来年3月まで実施することにして,この応用実験の中の 有益な項目についてはパイロット・プロジェクトとし, ANIK-Bの20Wの14/12GHz帯トランスポンダ4本を 用いて実用化試験を行うとのことである。
 CRCでは既にCTSの熱真空試験,組立て等の経験 を持っており,現在はスペース・シャトルの搭載組立て用 腕(SRMS:Shuttle Remote Manipulation System)を開 発中である。このカナダのアメリカ依存をやめて独立独 歩しようという精神は学ぶべきである。
  おわりに
 最後に,この調査の機会を与えて下さった本省宇宙通 信開発課の金田課長,当所衛星研究部石田部長及び塚本 主任研究官に篤く感謝致します。

(衛星研究部通信衛星研究室 研究官)


短   信


ETS-U「きく2号」による伝搬実験成功裏に終了

 昨年2月23日に打ち上げられ,我が国最初の静止衛星 となったETS-Uに搭載された1.7,11.5,34.5GHz のビーコンによる伝搬実験は本年5月8日に,その1年 間にわたる実験を終了した。
 衛星及び実験システムの好調及び関係者の献身的な努 力により,1日24時間べースで行われた実験から貴重な データが取得された。昨年8月は例年にない大雨で雨と ミリ波伝搬特性の関係について豊富なデータを得た。衛 星から送信される3波のビーコンがコヒーレントである ことを利用して,電離層の全電子数のギガヘルツ帯を 用いた精密測定が世界で始めて行われた。電離層全電子 数についてはテレメータ用VHF電波のファラデー回 転からも測定され,それぞれ垂直打上げによる電離層観 測の結果とよく一致した。新しく設置された降雨レーダ を用いて,伝搬路上の雨量の総和とミリ波の減衰がよく 一致すること,電波の周波数再利用の障害となる交差偏 波成分が雨だけでなく高い高度の雲の氷晶により強く発 生すること等多くのことがわかった。その他台風接近時 や大磁気嵐時(このときには日本の気象衛星「ひまわり」 のSバンド電波による画像の受信に障害があった)等に おける貴重なデータと経験を得た。これらによりすでに 内外に77件の成果発表を行い,大きな反響を得た。衛星 回線でのミリ波・準ミリ波の伝搬特性データが本格的に とられたのは米国の国内通信衛星コムスターの19,29GHz ビーコンによるものとETS-Uのみであり,特にETS-U の巧妙な実験システムによる多様で質の高いデー タは国際的に注目されており,又将来のミリ波衛星通信 実現に明るい展望を与える資料となった。今後CS, BS,ECSと続く衛星による通信・放送実験にこのデ ータを有効に利用すると共に,これら衛星の伝搬実験の 結果がETS-Uのデータと一連のものとして使用でき るよう留意して実験する。
 なおETS-U実験については既報(本ニュースNo26) のように郵政大臣表彰を受け,また別掲のように電子通 信学会業績賞を受賞した。これらを記念して5月23日に 総合報告会を行い,その後当所中庭で祝賀ビア・パーテ ィを開催し,外部からの多数の関係者も交えて祝った。



電子通信学会業績賞を受ける

 当所の糟谷 績,石田 亨,塚本 賢一の三氏は,昭 和53月5月13日に開催された昭和52年度電子通信学会総 会に於て「きく2号(ETS-U)によるミリ波帯電波伝搬 の研究」に関する業績によって,電子通信学会長・大島 信太郎氏から業績賞を受けた。この研究は,衛星搭載用 ミッション機器の開発並びに大口径ミリ波受信アンテナ, 特殊気象レーダなどの地上施設を総合的に整備し,斬新 かつ大規模な実験システムを開発し,これにより「きく 2号」衛星からの実回線による伝搬実験を行ったもので あり,その成果が将来のミリ波衛星通信実現を始めとす る周波数資源の開拓に多大の貢献を成すものとして表彰 された。



第54回研先発表会及び技術試験衛星U型ミリ波
伝搬実験総合報告会
 5月24日,当所講堂において第54回研究発表会が開催 され,外部から約60名の来聴者を迎え,午前3件,午後 4件の発表(プログラムは本ニュースNo.25に掲載)が行わ れた。特に午後の部の40GHz以上の電波利用について 及び実験用静止通信衛星(ECS)実験計画の発表等に大 きな関心が寄せられ活発な討論が行われた。
 また5月23日には,技術試験衛星U型(ETS-U)「き く2号」によるミリ波伝搬実験の総合報告会が開催された。



CS,定常段階へ移行

 昨年12月15日に打ち上げられたCSは宇宙開発事業団 (NASDA)の初期チェックが終り,NASDAとの間の 協定等の手続きを完了し,5月15日に初期段階から定常 段階に移行した。そして同日よりユーザ(電波研究所及 び横須賀電気通信研究所)による実験が開始された。 30/20GHz中継器6系統,6/4GHz 2系統のうち,30/20GHz の方の2系統に不具合が生じ,3か月を予定し ていた初期段階はその原因究明と実験計画の対応策の検 討などのため約2か月間延長された。実験としては,各 種変調方式の伝送特性,TDMA(時分割多元接続)特性, 伝搬特性,測距などの実験が鹿島支所と横須賀電気通信 研究所で始められている。さらに当所としては秋頃には 直径2mのアンテナを持つ電測装置及びSCPC通信装 置がそれぞれ稚内電波観測所及び山川電波観測所に設置 され,実験に参画することになっている。



ロスコー氏の滞在

 カナダ通信省(Department of Communications,Government of Canada) のMr. O. S. Roscoe(Chief,Mobile Systems Division,Communications Satellite Programs) (45歳)が,6月5日から11月末までの約6か月間,科学 技術庁の招きで来日し,電波研究所に滞在する。氏は, Multi-Purpose UHF Satellite:MUSATの計画管理者 であり,我が国での研究テーマは「宇宙通信に関する通 信・放送衛星のシステム計画」である。日本のCS,BS, ECS,ISS,AMES計画等,カナダのCTS, ANIK-B,MUSAT,SARSAT計画等について詳 細な意見交換が行われるが,氏の滞在の主目的は電波研 究所を中心として日本全体の宇宙開発の進捗状況及び将 来計画を調査,研究し,今後カナダと日本との間で協力 し合える分野を見出すことである。



「電波の日」を記念して

 6月1日は「電波の日」で,本年は第28回目を迎える が,昭和25年6月1日に電波法及び放送法が制定,施行 され電波が資源として国民共有の財産となったことを記 念して設けられた日である。記念式典は帝国ホテルにお いて開催され,当所からは所長はじめ職員20名が参加し て行われた。



田中館賞受賞

 日本地球電磁気学会・第63回大会(5月18日)において, 当所平磯支所の丸橋克英 超高層研究室長は田中館賞を 受け表彰された。受賞論文は「高緯度における上部電離 圏の構造と運動の研究」である。



施設一般公開の御案内

 創立記念日にちなみ,電波研究所の施設を一般に公開 いたしますから,御多忙中のことと存じますが,多数御 来所くださるよう御案内申し上げます。
 公開日は,本所,並びに稚内・秋田・犬吠・山川 ・沖縄各電波観測所は8月1日(火),平磯支所は8月2日(水), それぞれ,午前10時から午後4時までの予定で す。
 なお,本所では,目下,宇宙開発事業団で製作中の「通 信衛星“さくら”」(仮題)を上映いたします。