ETS-Uによる伝搬実験の総合報告


通信,放送衛星計画推進本部

  はじめに
 昭和52年2月23日に打ち上げられ,我が国最初の静止 衛星となった技術試験衛星U型(ETS-U)「きく2号」によ るミリ波伝搬実験は,昭和53年5月8日一年間にわたる その定常運用実験を公式に終了した。この実験は衛星回 線によるミリ波の伝搬特性を調べるものとしては世界で はじめての本格的な長時間にわたる実験であった。その 特徴的な実験システムに加え,衛星,地上施設共好調で あったことが幸いし,担当者の日曜,祭日,正月休みも 返上した昼夜をわかたぬ献身的な努力により,期待以上 の成果をあげることができた。
 ETS-U実験とその成果についてはすでに内外に180 件近い発表を行っているが,実験が終了し,データの一 次処理がほぼ終ったのを機に実験全体をふりかえり,そ の概要と成果の要点について紹介したい。ETS-U実験 の計画及び中間報告として本ニュースNo.6及びNo.19でも 紹介している。
  実験の目的
 ETS-Uは実験用静止通信衛星(ECS)の予備実験と して,Nロケットで衛星を静止衛星軌道へ投入する技術 を習得すること等を目的として宇宙開発事業団(以下, NASDA)により計画された。これには郵政省の依頼で 1.7,11.5,34.5GHzの互いにコヒーレントな3波のビ ーコン発振装置が搭載された。電波研究所はこれを用い てミリ波を含む高仰角伝搬特性の実験を行った。
 近年電波の需要が急激に増大し,その混雑が問題とな っているが,特に我が国は高度に工業化した狭い国土に 多くの人口をかかえ. また数多くの離島を持っているこ とから,将来この問題は更に深刻となることが予想され る。このため電波の有効な利用や新しい周波数の開拓の ための研究が望まれている。
 ミリ波は伝搬の途中で雨や大気による影響を受けるほ か,技術的に未開発の部分も多く今までほとんど利用さ れていなかった。しかし衛星通信は地上通信と異なり, 電波が雨や大気の中を通る距離が非常に短かく,ミリ波 を使用するのに有利であると考えられている。またミリ 波による通信に深刻な影響を与えるような強い雨が降る のは割合せまい範囲であることがわかっているので地上 局の配置や運用の仕方を工夫することによってその影響 をさけることができる(サイトダイバーシティ効果)。
 昭和54年2月に打ち上げられる予定のECSは将来にお けるミリ波による衛星通信の開発のための資料を得るた めに計画され,世界ではじめてのミリ波の中継器を搭載 して実験が行われる。ETS-U/ECS実験はこの目的の ための一連の実験として計画され,ETS-U実験でミリ 波を含む幅広い周波数範囲の衛星回線電波伝搬特性を重 点的に調べ,この結果に基づきECSではミリ波の伝搬 特性の実験を更にすすめると共にミリ波衛星通信実用化 のキイポイントともいえるサイトダイバーシティ切替実 験を行うことにし,この他にCSと共同でマイクロ波に おける衛星間干渉実験を加えた三つの実験項目に重点を 置くことにしている。ECS実験ではいくつかの新しい 試みが計画されている。
  打上げまでの経緯
 昭和49年春ETS-Uの予備設計のレビューの結果,伝 搬実験用ビーコンの送信電力が予定より少なくなること になり,それまでの主局に直径 3.5mのアンテナ,その周辺にサイ トダイバーシティ効果測定のため に3〜4個の直径1.2mアンテナを 配置するという計画を根本的に再 検討することになった。その結果 主局アンテナは直径10mとし,サ イトダイバーシティ効果について はその存在と概要はかなり知られ ていることから他の小受信局はや め,多機能降雨レーダーを設置す ることにより,気象状態とミリ波 の伝搬特性との関係について詳し く解明することに重点を置くこと にした。実験用地上施設は昭和50, 51年度にわたって整備され昭和51 年度末のETS-U打上げに備えた。実験計画については 昭和50年9月,所内の関係研究者により概案のレビュー を行い昭和51年7月最終案が審議決定され,ETS-U によるミリ波伝搬実験計画として印刷,公表された。
  衛 星
 ETS-Uは直径約1.4mのスピン安定型衛星で,三つ のビーコン周波数のための3枚の反射鏡をもつデスパン アンテナをもち,これを含めて高さは約1.8m,軌道上重 量約130sである。太陽電池の発電量約100W,テレメー タ・コマンドはVHF,測距はSバンドのトランスポンダ が用いられる。
 伝搬実験用ビーコン送信機ではひとつの水晶発振器の 出力が1.7,11.5及び34.5GHzへとてい倍され,それぞ れのアンテナから送信される。従ってそれら3波のビー コンは互いにコヒーレントになっている。降雨マージン を増すため1.7と34.5GHzはコマンドにより300Hzの振 幅変調ができる。


第1図 ETS-II用地上施設各装置の配置概略図

  地上施設とその運用
 ETS-U実験用地上施設は第1図に示すように直径10 mのアンテナを持つ受信局,多機能降雨レーダ,35.2G Hzの天空雑音温度測定装置,各種気象計,データ処理 用計算装置から成っており,雨量計は地上局の他に電波 伝搬通路の下に沿って3箇所に設けられている。
 直径10mの受信アンテナは,離れた三つの周波数の電 波を受信するための給電系の構成,ミリ波受信のための 高い鏡面精度等の他ECS実験への改造についても考慮 して設計,製作,測定された。アンテナ特性の測定には コリメーション塔,ヘリコプタ,ETS-Uが用いられた。
 受信装置は衛星から送信されるビーコン電波がコヒー レントである特徴を生かし,雨による減衰の少ない周波 数の電波で衛星の原周波数を再生し,これを基準にして ミリ波の検出を行うことにより雨に対するマージンが大 きくとれるよう工夫されている。また,このことにより 衛星の運動によるドップラ効果や,衛星の発振器の周波 数のふらつき等の影響を除去することができる。この実 験システムでミリ波の場合の降雨マージンはCWモード で31.5dB,AMモードで47.5dBが得られている。
 雨をはじめとする気象状態は特にミリ波の伝搬特性に 強い影響を与える。従って伝搬特性の測定と共にそのと きの電波の伝搬路上とその周辺の気象の状態を適確に知 ることが重要である。設置された気象レーダにより伝搬 路上250m間隔の雨量(Pm及びPsモード),任意の高 の降雨の水平パターン(CAPPIモード),任意の方位角 の降雨の垂直面パターン(RHIモ-ド)等を知ることが できる。
 受信信号は200ms毎にサンプリングされる。気象計, 降雨レーダ等の測定は1分毎に行われ,これらのデータ は1分毎にまとめて磁気テープに記録される。降雨レー ダによる降雨のパターンはラインプリンタ,カラーグラ フィック・ディスプレーに表示される。その他ペンレコ ーダ,アナログテープレコーダにも連続記録される。実 験は1日24時間連続無人で行えるよう考慮してシステム が計画された。
  打上げ後の経過
 ETS-Uは打上げ後3月5日に東経130度の静止位置 に到着し,NASDAにより衛星のチェックが行われた。 その間には当所とNASDAと共同で伝搬実験用ビーコン 送信機やデスパン・アンテナの特性を測定した。4月の 蝕明け後連続運用のテストが行われた。これらのチェッ クが順調に進んだので予定より早く5月9日定常運用に 入ることとなった。その後順調に実験は進行し,8月22 日には打上げ後半年が経過し,NASDAが予定したミッ ション期間は終了し,後期利用段階に入ることとなった。 9月1日から10月15日まで蝕に入り,日中8時間の運用 が行われた。この間姿勢センサに月と太陽が同時に入る 時期があり,デスパン・アンテナのポインティングが失 われる騒ぎがあった。理論的に予測された現象であっ ても経験が重要であることを示す好例であった。11月か ら12月にかけてはデスパン・モータのベアリングが冷え すぎるということで一時心配されたが大事に至らず順調 に実験が続けられた。春の蝕時には全影時の極くわずか の時間を除いて運用を続けることができた。これも経験 のおかげである。
 ETS-Uの実験の受信用10mアンテナは改造してECS に使用する。このためETS-Uによる伝搬実験は6カ 月と予定していたが,実験が順調であり,宇宙開発委員 会はじめ各方面から実験延長の希望が多いので,ECS 実験用地上施設の契約を終えた後,工程等をくわしく検 討した結果1年間へ実験期問を延長することが可能とな った。定常実験はちょう度1年後の昭和53年5月8日公 式に終了した。この間実験期問は約8,000時間となり衛 星回線ミリ波伝搬実験として例をみない密度の高い実験 となり,世界的にも貴重なデータが得られた。
 この間8月は異例の悪天候で約3週間雨天であっ た。従って8月のデータは通常のこの期間の標準的 なものと異なるが,雨と伝搬特性との関係について 多くのデータを得ることができた。9月19日には台 風が鹿島の東海上を通過した。これによって台風時 の伝搬特性,降雨の状態等のデータの他に地上局の 運用についても有益な経験を得た。11月の降雨は3 日間ほどであったが,かなり強い雨が連続的に降り 8月に次ぐ降雨量となった。昭和53年2月15日には 大きな磁気嵐に伴う大シンチレーションがミリ波を 除くすべての周波数で起った。このとき気象衛星 (GMS「ひまわり」)から雲写真を送っているSバンド の電波の受信が妨害を受けた。4月25日最も強い雨 が降り,168o/hの降雨強度が記録された。このと き150o/h以上の降雨が2分間続いた。

第2図 各種データの時間的変化の一例(降雨時)

  データの例
 強い雨はミリ波の伝搬に最も大きな障害となるが 第2図は昭和52年8月13〜14日の各種データの時間 的変化を示す。データは上から34.5GHzの減衰, 34.5GHzの交差偏波識別度,雨量計による降雨強 度,降雨レーダによる電波伝搬路上の雨量の積分値 でそれぞれブライトバンド(氷点のあたりのレーダ ・エコーが強い層で減衰はこれより下の部分で主に おこるとされている)より下,王および全体を,ま た一番下の図は降雨レーダによる伝搬路上のエコーの時 間変化を鳥瞰図の形に示したものである。雨のないとこ ろから降りはじめ,強く降るまでのミリ波の伝搬特性と 降雨の状態をダイナミックに見ることができる。ミリ波 の減衰は雨量計による降雨強度とはあまりよく合ってい ないが降雨レーダによる伝搬路上の雨量の積分値,特に ブライトバンドより下のデータと量的にもよく合うこと がわかる。ミリ波の交差偏波識別度は8月13日18時頃急 激に劣化しているがこの時降雨はみられない。しかしブ ライトバンドより上にはっきりしたエコーがある(×マ ークで示す)ことから雲中の氷晶によるものと考えられ る。


第3図 各月のミリ波減衰の累積分布

 第3図は1年間の各月のミリ波の減衰の累積分布を示 したもので9月が特に目立つのは台風によるものである。 ここには示されていないが11.5GHzの結果も含めて整 理すると,10月,12月,1月,2月,3月においては, 11.5GHzの減衰は2dB以下,34.5GHzは10dB以下 であった。5月,6月,7月,11月では11.5GHzの減衰 は5dB以下で,34.5GHzの最大の減衰は25〜30dBで あった。8月,9月と4月における最大減衰量 は,11.5GHzで5dB以上,34.5GHzで30dB 以上であった。


第4図 年間の減衰の累積分布(11.5,34.5GHz)

 第4図はこれを1年間の統計にしたもので, これから99%の回線の信頼度を得るためには, 11.5GHzで0.7dB,34.5GHzで4dB,99.9% では11.5GHzで2dB,34.5GHzで19.5dBの 降雨マージンが必要であることがわかる。ミリ 波帯の人口の周波数で降雨マージン20dBのシ ステムを持つことは現在の技術レベルでそれほ どむずかしくないことからミリ波による衛星通 信がかなり有望であると期待される。


第5図 磁気嵐時の電離層全電子数とシンチレーション(1978年2月15日)

 第5図は昭和53年2月15日の磁気嵐のときの 電離層の全電子数(ETS-Uの1.7GHzと11.5 GHzの間の位相差の測定値より算出したもの) の急変と,1.7GHz,11.5GHzのシンチレー ションの様子を示したもので全電子数が急増又 は急減するとき即ち電離層の状況が急変し均一 でなくなるときシンチレーションが発生している ことがよくわかる。このときシンチレーションの最大の 振幅はVHF帯で20dB程度,1.7GHzで約14dB,4GHzで 6dB以上,11.5GHzで約0.8dBであった。
  実験の成果
 8,000時間にのぼるETS-U実験のデータは上に一部 を示したように特別なイベントから1年間の統計的結果 に至るまで,またミリ波伝搬特性と雨の関係からVHF 帯を含む各種電波の電離層との相互作用まで,更にはミ リ波用大口径アンテナの開発から衛星運用の方法まで,  いうように多種多様にわたり,磁気テープに納められ ただけで数百本を越える膨大なものである。その中には GHz帯電波における異なる周波数間の位相差による電 離層全電子数の精密測定をはじめ世界でもはじめての実 験や成果もいくつか含まれている。これらの成果はデー タの性質により今までその都度あるいはある程度まとま ったところで発表して来た。5月8日の実験終了半月後 の5月23日ETS-Uの実験総合報告会が当所により行わ れ所外からも多くの来聴を得た。実験施設については電 波研季報第24巻第126号に特集号として発表された。デ ータの解析は各方面の好意的な協力を得て降雨レーダパ ターンの整理を除き順調に進み,一次処理はほぼ終了し た。実験期間中の日報(主要データの時間変化),月報(各 種データの累積確率分布,継続時間,相関等で雲のタイ プにより三つに分類)等を含む膨大なデータブックと各 種資料を収めた報告書を近く発表する予定である。また 今後更にデータの詳細で多様な利用により質の高い成果 をあげてゆくことが期待される。
  将来計画
 ETS-U実験は残念ながら諸般の事情から一旦終了す ることとなったが,その装置は今後更に高い周波数帯域 の開拓研究の一部として継続して利用される。一方, 当所において行われるCS,BS,ECSにおいて伝搬実 験にはかなりの重きを置き,幅広い周波数帯にわたり多 様なデータを取得してゆく。更にこれら伝搬実験のデー タが一連の実験データとして使用できるようそれら実験 の進め方,データの取得や処理の仕方をETS-Uで行っ たものと同じ考え方と方式で統一して行う予定である。 これら実験により得られた成果はその周波数帯の幅広さ, データの種類の豊富さ,データの規模の大きさ等どれか らみても世界的に他の追随を許さぬものとなるであろ う。
 最後に,当然このETS-U実験は所内はもとより電波 監理局,NASDAをはじめとする各関係機関,関係会社 の方々の御協力があってはじめてこのような成功を収め ることができた。終了の報告をするに当たって改めて感 謝の意を表します。また特に実験を直接担当し尽力され たNASDAの関係の方々と当所の担当者の努力に心から 敬意を表します。

(衛星研究部通信衛星研究室 主任研究官 畚野 信義)




第14回CCIR京都総会の総合報告


羽 倉 幸 雄

  はじめに
 去る6月7日から23日まで,CCIR(国際無線通信諮 問委員会)第14回総会が京都・宝ガ池の国立京都国際会 館で開催された。CCIRはITU(国際電気通信連合) の常設機関として1927年に創設されて以来半世紀の歴史 をもつ。京都総会はCCIR創立50周年という歴史的意義 のみならず,来年の秋開催されるWARC-Gを前にして, 無線通信技術情報の総まとめを行うという極めて重要な 会議であった。
 梅雨時であったのに,最後の2日間を除いて好天に恵 まれ,能率的な会議の運営,各国代表の熱心な審議によ り総会は大成功裏に終了した。
  総会の構成及び運営
 京都総会への参加者は,61か国,企業団体22,国際機 関14などの代表383名であった。我が国の代表は平野主 席代表以下65名で,電波研究所からは糟谷所長,加藤次 長,羽倉調査部長,若井電波部長,佐分利周波数標準部 長,福島第二特研室長の6名が参加した。一方外国勢は 欧米先進国の他,中国,ナイジェリア等の無線通信の新 興勢力が目についた。
 総会開会式は6月7日午後2時から国際会館大ホール で挙行された。まずCCIR議長カービー氏から,平野第 14回総会議長が紹介され,議長の歓迎の辞,服部郵政大 臣挨拶,外国代表(スイスのF. ロッヒエル氏)挨拶,M. ミリITU事務総長,C. W. ソートンIFRB議長,L. バーツ CCITT議長,CCIR議長の挨拶がつづいた。
 引き続き行われた第1回本会議でG. L. ハフカット(米), F. ロッヒエル(スイス),A. バダロフ(ソ連), S. A. オロランショラ(ナイジェリア)の4氏が副議長に選出さ れ,また特別委員会の編成と議長の指名が行われた。即 ち組織委員会議長にW. H. ベルチェンバース(英),技術 協力委員会議長にP. R. H. バルデュイノ(ブラジル), 予算統制委員会議長にT. V. スリランカン(インド),編 集委員会議長にM. チュエ(フランス),SPM特別委員会 議長にJ. A. サクストン(英),各SG等議長選考委員会 議長に平野正雄(日),CCIR所掌事項(日本提案)検討 グループ議長に田所康(日)の各氏が選ばれた。
 第1回本会議に引続き,CCIR50周年記念式典が挙行 され,CCIR議長の開会宣言,来賓紹介,広瀬事務次官, ミリ事務総長挨拶のあと,KDDの宮常務が「CCIR, 電波科学,電気通信」という記念講演を行い,続いて50 年間にCCIRに貢献した著名人56名の表彰が行われた。 わが国からは松本,森本,難波,新川,田所,故有竹氏が, また外国人の中にはD. K. ベイレー(米),J. ハープスト レイト(米),J. A. サクストン(英),R. L. スミス・ロー ズ(英)など当所になじみ深い人が表彰された。物故者に はJ. H. デリンジャー, B. ファン・デル・ポールなど科 学史を飾る学者の名もありCCIR50年の活動の幅の広 さを思わせた。6月8日以降,別表の日程で各研究委員 会,特別委員会関係の審議が行われた。
  各所先委員会提出文書の審議


表 第14回総会日程

 1974年の第13回総会で採択されたテキストはグリーン ブックと呼ばれる緑色表紙の13冊にまとめられているが, 1974〜78年の研究期間にその後の技術情報を盛り込む改 訂作業が各研究委員会で行われ,最終会議の採択文書が 総会に提出,審議され,新しいグリーンブックが生れるこ とになる。
 総会で審議される文書は最初の1枚がピンク色をして いるのでピンク・ドキュメントと呼ばれているが,今回 は総数938件であった。
 各SGとも冒頭のSG議長報告に始まり,文書ごとの審 議に入ったが,計算してみると1文書あたりの平均審議 時間は2.2分で,SG1などは85件が約1時間で終わって しまったほどのスピード審議であった。とはいっても, すべてが盲判というのではなく,最終会議で問題を残し たまま採択された文書は,徹底して審議され,SG1: 1,SG2:1,SG7:2,SG11:1,CMV:1の6文書 が不採択となった他,かなりの修正がなされた。これら 欠陥文書の検討は本会議の席上でよりも,事前のロビー 協議で行われるもので,例えばSG7の短波標準電波へ の周波数オフセット方式の導入案は佐分利代表の米国, スイス,カナダ,インドへの働きかけが成功して,議長, 副議長の抵抗を押し切って不採択となった。
 さて本総会で採択された新テキストは昨今の無線通信 技術の長足の進歩を反映したものであり,その内容の豊 富さはとてもこの小文で紹介できるものではない。6月 26日の日刊電波タイムスによれば,今次会議において新 しい通信方式として注目されているスペクトラム拡散方 式,宇宙通信システムにおける降雨量の影響,協定世界 時UTCのITUにおける公式使用,熱帯地域における放 送,新しいテレビジョン方式,無線技術による太陽エネ ルギーの伝送,地球外生命の研究のための無線通信シス テム,衛星システム間の調整及び静止衛星軌道の有効利 用,デジタル・セレコール方式,デジタル無線中継方式, 赤外及び可視光による通信システムについての文書が採 択されたとある。これも一つの簡潔な内容紹介である。 各SG毎の研究成果(最終会議)の概要は電波研究所ニ ュース第22,26号に紹介してある。さらに詳しくはピン ク文書あるいは近く出版されるグリーンブックを読んで 頂きたい。各国の研究成果が,それぞれのCCIR対策委 員会(日本の場合,電波技術審議会第1部会)で審議さ れ,CCIR中間会議,最終会議,総会を経て生れるもの がグリーンブックである。研究所の諸賢が熟読され,世 界の無線通信研究の趨勢をくみとり今後の研究の糧とし, また自分の研究成果を次のグリーンブックに盛り込み無 線通信コミュニティに貢献されるよう切に希望するもの である。
  各特別委員会の審議
 さて総会本来の問題を審議するため7つの特別委員会 が編成されたが,総会への各国,各議長,CCIR事務局 からの提出文書24,処理文書56件,ピンク文書9件,合 計89件の総会文書(Doc. PLEN)が各特別委員会及び 本会議で審議され,11の決議(うち修正4,新設5),3 つの新意見などが採択された。このうち特に注目される のは,日本提案により,CCIRの所掌事項に3,000GHz を超える周波数を使用する無線通信の問題すべてを含む こととする国際電気通信条約の改正意見,及び無線通信 規則における電波の定義をWARC-Gで再検討すべしと いう意見が取りまとめられたことである。また,電波利 用分野の進展に対応して今後の各SGの構成及び付託事 項の改正を検討するための中間作業班(IWP PLEN. /1)の設立が決定し,従って今回はSG2,6,7,8, 11がその付託事項に最小限の修正を加えただけに止めた。
 開発途上国に対する技術情報の浸透の問題も活発に討 論され,また第12回総会で設立された放送衛星システム に関するIWP PLEN. /2については膨大な報告書を 作成して終了し,その現行化を任務とするIWP PLEN. /3 が新設された。今秋,WARC-Gの準備のために 開催されるCCIR-SPMではA〜Fのトピックスを細分 し,19のサブWGを設けること,議長をサクストン(英) とし,副議長をアフリカ地域から選ぶことなどが決定し た。
  おわりに
 6月23日第17回本会議で本総会を最後に引退したラン ヂ(SG2),クライン(SG4),ベイレー(SG6),ビ ルヌーヴ(CMV)の4氏に代る新議長,及び新副議長 (SG8は2名,CMVは3名の副議長制となった)の任命, 第15回総会の期日(1982年2月15日〜3月2日)の決定 のあと閉会式が挙行された。
 平野議長の閉会の辞,ミリ総長の挨拶,西ドイツ代表 の挨拶と槌(平野議長が使用した)の贈呈,カービー議 長の挨拶と記念品贈呈などが続いた。平野氏の名議長ぶ り,日本事務局員の親切と有能さ,通訳の見事さなどが 繰り返し賞賛され,大変に感動的な閉会式となった。日 本代表団の積極的な活動,京都の美しさ,日本人の親切 さなどが参加60か国の代表, ITU職員に感銘を与えた ようであった。筆者も過去にいくつかの国際会議に出席 したが,これ程豪華な会議は初めてであった。
 さて日本代表団は対処方針のすべてを全うしたが,電 波研究所からの代表もSG1,CMV(加藤),SG5(福島) SG6(若井),SG7(佐分利)等においての主任として活 躍した。この他,電波研究所から27名がオブザーバーと して参加し,また森川技官が事務局員として会議の運営 に尽力した。
 総会の前後にG. ベッカー(西ドイツ,SG7議長) D. K. ベイレー(米,SG6前議長),E. R. クレイグ(オー ストラリア,SG4新議長),庄奇祥,潘振中(中国), J. T. ディクソン(米,SG1議長),J. McA スチール(英, SG7副議長)の諸氏が来所した。ベイレー氏は戦後, 日本の電離層観測の継続に尽力した,電波研究所の恩人 として6月23日郵政大臣から感謝状を贈られた。(本ニュ ース第29号参照)。CCIR京都総会は電波研究所にとっ ても大変に有意義なものであった。かくして,第15回総 会を目指して新研究期間が始まったが,電波研究所が新 しい分野での成果も加えて,ますますCCIRに積極的な 貢献を行うことを祈るものである。

(前調査部長,現宇宙開発事業団 地球観測システム室長)


短   信


宇宙開発計画見直し要望の審議結果

 郵政省が本年6月27日付で宇宙開発委員会に提出した 宇宙開発計画の見直し要望(本ニュース,1978年7月第 28号参照)はその後,衛星系分科会,その上部組織であ る第一部会及び宇宙開発委員会で審議され,8月30日, 最終報告書“昭和54年度における宇宙開発関係経費の見 積りについて”の決定をみて見直し審議の一連の作業が 全て終了した。それによると,@実用通信衛星について は昭和57年度に通信衛星2号-a(CS-2a)を,昭和58 年度に通信衛星2号-b(CS-2b)をそれぞれ打ち上げ ることを目標に開発を行う,A元空・海上技術衛星 (AMES)については開発研究を行う,と基本方針に盛ら れ,具体的な事業内容としてそれら衛星の他に,B電磁 環境観測用の搭載機器の研究を行う,Cレーザを用いた 衛星アンテナの高精度方向制御システム,衛星搭載用能 動型リモートセンサ及び衛星搭載用展開型マルチスポッ トビームアンテナの研究を行う,とされ,要望した電磁 環境観測衛星(EMEOS)及び通信技術衛星(ACTS-G) に関しては基本となる搭載機器の研究の推進が認め られることになった。
 なお,実用放送衛星については第一部会報告書の中で 最も効果的な実用衛星となるよう,また,設計・製作に 必要となる基本事項についても早期に検討する必要があ るとされた。



日米宇宙合同調査計画への当所の提案について

 7月17日の宇宙開発委員会及び科学技術庁と米航空宇 宙局(NASA)副長官Dr. Lovelaceとの会談において 米国側から日米専門家会議を設立し,宇宙分野における 日米の共同研究の可能性を検討しようとの提案があった。 それに対し,宇宙開発委員会はその会議の日本側メンバ ーとして科学分野と応用分野でおのおの4名程度を選出 し,必要に応じ,その下部組織として作業グループを設 置して対応することとし,宇宙関連の省庁から共同研究 テーマを募ることを決定した。
 それに応えて当所は,各部から提案されたテーマを基 に本省宇宙通信開発課とで検討し,次の研究項目を共同 研究のテーマに選び,宇宙開発委員会事務局に提出した。
1)衛星による時刻同期に関する実験
2)超長基線電波干渉計(VLBI)を用いた太平洋プレー 運動測定実験(Pacific Plate Motion Experiment) への参加
3)スペースラブ搭載マイクロ波リモートセンサの実験
4)スペースラブのACPL(Atmospheric Cloud Physics Laboratory) を用いた電波散乱特性測定実験 5)静止衛星によるプラズマポーズ観測(Plasmapause Sounding)
6)ISEE(International Sun-Earth Explorer)衛星のテ レメトリ受信による太陽・地球間擾乱の研究
7)衛星太陽発電所(Satellite Solar Power Station) の調査研究
8)追跡及びデータ中継衛星システム(TDRSS)及び国 内通信衛星に関する情報交換
9)衛星を用いた捜索救助計画(SAR)への参加



電波研究所・宇宙開発事業団との共同研究委員会

 電波研究所・宇宙開発事業団との共同研究委員会(事 業団は鈴木副理事長以下16名,当所は田尾所長以下21名 が参加)が去る8月11日(金)当所において開催され, 昭和53年度の共同研究課題についての審議が行われた。
 共同研究としては,52年度から継続されている“衛星 による電波雑音測定に関する研究”及び53年度新規項目 の、TDRS方式に関する研究”,“通信衛星用中継器に関 する研究”の新規二項目が承認された。また,事業団か ら“マイクロ波放射計の試験法及びデータ解析法に関す る研究”及び“アクティブ・センサに関する研究”の二 項目について技術援助の申し入れがあり,当所としても 可能な範囲で技術援助を約すと共に当所からも“衛星搭 載用マイクロ波レーダの高出力,高信頼管に関する研究” 及び“レーザを用いた衛星姿勢検出法に関する研究”の 二項目について技術協力を要請し,事業団もこれを了承 した。



微小電カTV局の低廉化−委員会仕様の決定−

 NHKと民放との置局格差数が増加し,最近では約 5,000局あり,これが原因でNHKは受信できるが民放 は良く受信できないという難視世帯の数は約100万世帯 にも達している。この格差の解消にはTV局の低廉化が 必要であり,そのための研究がここ数年来一部の機関で 行われている。
 郵政省は昭和53年度のプロジェクトにこの研究を取り 上げると共に,関係者の協力を得て,「微小電力局低廉 化研究委員会」(郵政省5,NHK4,民放5,工業会7 の計21名で構成)を発足させ,その7月6日の第1回会 合で試作装置の仕様を検討するための作業部会を設けた。 ?回にわたる作業部会での審議を通して,置局格差数が 最も大きい次末端局用及び末端局用の装置を取り上げ, この度,低廉な規格品の採用と互換性に重点を置いた, 「53FG形微小電力テレビジョン中継放送装置試作仕様 書」(案),及び,時分割制御によるシンセサイザの多周 波共用化を図った「多波共用周波数安定化装置試作仕様 書」(案)をまとめた。両者は8月24日の本委員会で承認 された。前者の装置は54年2月末に,後者は同年3月末 にその試作を完了し,室内試験等の結果を検討した上で 実用化のための本仕様を作成する予定である。



国鉄新幹線の電波雑音測定

 国鉄新幹線等の電気鉄道においては,列車の走行時に パンタグラフの離縁によって,電波雑音が発生し,テレ ビジョン等の放送の受信に障害が生ずる。この電波雑音 の強度については,準尖頭値検波の妨害波測定器による 測定調査がすでに関係機関によってなされている。しか し,この雑音の振幅分布等の統計的性質については,ま だほとんど知られていない。
 通信方式研究室では,今回,先に試作した振幅分布測 定器を用い,新幹線の列車が発生する電波雑音の振幅確 率分布(APD)と雑音振幅分布(NAD)の測定を8月31 日と9月1日の両日に,東北新幹線試験線小山−久喜間 の軌道近くの野外にて行った。本実験は鉄道通信協会の 「高速列車運転に伴う電波雑音防止に関する研究委員会」 における調査活動の一環として,鉄道技術研究所とNHK が実施した測定実験に協力して行ったものである。



第55回 研究発表会プログラム
−昭和53年10月25日当所講堂において開催−

1. 1965〜1976年期間の電波警報の評価と将来の展望
               (平磯支所)丸橋 克英
2. 電離層観測衛星(ISS-b)による観測報告
 (1) 電離層観測       (電波部)松浦 延夫
 (2) 電波雑音観測      (電波部)上滝  実
 (3) プラズマ直接測定  (衛星研究部)巌本  巖
3. 乱流媒質内のパルス波伝搬理論
            (第三特別研究室)古津 宏一
4. レーザによる海中情報伝送
              (通信機器部)松井 敏明
5. 1978年2月15日の電離層じょう乱に伴う衛星電波シ ンチレーションについて
 (1) 太陽・地磁気・電離層の概況
            (第一特別研究室)新野 賢爾
 (2) 衛星電波(VHF〜SHF帯)伝搬特性
               (鹿島支所)藤田 正晴
6. 衛星利用のコンピュータ・ネットワーク(ランダム アクセスパケット交換網の解析)
              (情報処理部)高橋 寛子
7. 実験用中容量静止通信衛星(さくら)及び実験用中型 放送衛星(ゆり)の実験速報
 (1) 実験用中容量静止通信衛星(さくら)
              (衛星研究部)塚本 賢一
 (2) 実験用中型放送衛星(ゆり)
              (衛星研究部)今井 信男